「―…犬千代さま?」
「…ん」
床に寝転んでいた利家の顔を、まつが箒を片手に覗き込んだ。
「掃除中にござります、どうぞ、縁側に」
「ああ…すまん」
「…ん」
床に寝転んでいた利家の顔を、まつが箒を片手に覗き込んだ。
「掃除中にござります、どうぞ、縁側に」
「ああ…すまん」
手際よく掃除を始めたまつの後姿を、ぼんやりと見ていた。
すらりと伸びた手足に、艶やかな黒髪。柔らかな腰は、背中からしなやかに曲線を描く。
美しく成長した妻は、本当に、あの日それがしに「よばい」をかけた童だろうか?
思い出した過去はすべて夢のようで、自分の思い過ごしのような気さえしてくる。
背中に当たる畳のちくちくとした感触だけが、確かであった。
すらりと伸びた手足に、艶やかな黒髪。柔らかな腰は、背中からしなやかに曲線を描く。
美しく成長した妻は、本当に、あの日それがしに「よばい」をかけた童だろうか?
思い出した過去はすべて夢のようで、自分の思い過ごしのような気さえしてくる。
背中に当たる畳のちくちくとした感触だけが、確かであった。
「犬千代さま、お元気がございませぬようで」
まつが再び、横たわったまま動かない利家の顔を覗き込む。
「―…いや、その」
「どう、なさりました?まつめにお話くださりませ」
夫の手を取り、隣へと腰を下ろす。
「どう、なさりました?まつめにお話くださりませ」
夫の手を取り、隣へと腰を下ろす。
「わたくしたちは、夫婦ではござりませぬか。さぁ、遠慮なさらず、何なりと」
大きな瞳は、変わらぬ宵闇の如き深さ。
「まつは―…変わらないな」
「え?」
「それでいて、変わった」
「あの、お話が見えませぬ」
「いいのだ、それで」
「え?」
「それでいて、変わった」
「あの、お話が見えませぬ」
「いいのだ、それで」
その瞳に映し出された己の姿は、あの日とは違う迷いのない目をしていた。
「分からなくっていいんだ!それがし、まつが好きだ!」
まつが優しい笑顔で言う。
「もちろん、まつも―…愛しておりまする」
「それがし、今夜は大好きなまつに、夜這いをかけるぞぉ!」
まつが優しい笑顔で言う。
「もちろん、まつも―…愛しておりまする」
「それがし、今夜は大好きなまつに、夜這いをかけるぞぉ!」
犬千代さま、夜這いなどとは、昼間からはしたのうございます!
と叱りつけるまつの声が、“夜這い”の言葉に
過去を蒸し返されたような、気恥ずかしさを帯びていたような気がした。
と叱りつけるまつの声が、“夜這い”の言葉に
過去を蒸し返されたような、気恥ずかしさを帯びていたような気がした。
まつが好きだ。
あの日と変わらない思いでただ真っ直ぐに思い、
かけがえのないひとを強く抱きしめた。
かけがえのないひとを強く抱きしめた。
それがしは、
まつが、
「好きだ」
―了―




