行李を抱えて帰って来た家主は彼女を見ると「ただいま」と声を掛けた。
「うん……」
かすがは戸惑う。
居候の自分がどう振る舞って良いのか分からず、いつも歯切れの悪い返事をした。
家主が帰ってきたのはこれで六度目だが、未だに何と答えて良いのか掴めない。
彼は気にせず戸を閉めて上がり框に腰を掛け、行李を脇に置いて足の小具足を外す。
その間に湯を沸かした。
上田に戻るなり仕事に復帰した彼と異なりかすがの傷は未だ癒えない。
手持ち不沙汰と居た堪れなさからつい慣れない家事に手を出した。
お陰で料理は人並みの域まで上達したが、それはどんな物を出されても
顔色一つ変えず食べ続けた家主の忍耐の賜物だった。
食事中、普段口数の多い彼は俯いて沈黙する。
美味いと言えば嘘になり、だが不味いとも言えない膳を前に編み出した秘策だ。
朝餉を済ませると一週間振りに帰宅した家主は、着替えるなり自分で床を設え
布団に潜った。
真田忍隊は上がりの前日に寝ずの番をするらしく、彼の休みは専ら睡眠に充られる。
早々と寝息を立て始めた家主を尻目に、水仕事を片付けてしまおうと
盥を取りに三和土に下りようとした時、框に置いたままだった行李を引っ掛けて
中を床にぶちまけてしまった。
(――え?)
中身を拾い集めようとした手が止まる。
それはここに有るはずの無い物だった。
「うん……」
かすがは戸惑う。
居候の自分がどう振る舞って良いのか分からず、いつも歯切れの悪い返事をした。
家主が帰ってきたのはこれで六度目だが、未だに何と答えて良いのか掴めない。
彼は気にせず戸を閉めて上がり框に腰を掛け、行李を脇に置いて足の小具足を外す。
その間に湯を沸かした。
上田に戻るなり仕事に復帰した彼と異なりかすがの傷は未だ癒えない。
手持ち不沙汰と居た堪れなさからつい慣れない家事に手を出した。
お陰で料理は人並みの域まで上達したが、それはどんな物を出されても
顔色一つ変えず食べ続けた家主の忍耐の賜物だった。
食事中、普段口数の多い彼は俯いて沈黙する。
美味いと言えば嘘になり、だが不味いとも言えない膳を前に編み出した秘策だ。
朝餉を済ませると一週間振りに帰宅した家主は、着替えるなり自分で床を設え
布団に潜った。
真田忍隊は上がりの前日に寝ずの番をするらしく、彼の休みは専ら睡眠に充られる。
早々と寝息を立て始めた家主を尻目に、水仕事を片付けてしまおうと
盥を取りに三和土に下りようとした時、框に置いたままだった行李を引っ掛けて
中を床にぶちまけてしまった。
(――え?)
中身を拾い集めようとした手が止まる。
それはここに有るはずの無い物だった。




