戦国BASARA/エロパロ保管庫

ハナシノブ6

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bsr_e

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かすがは花色と葡萄の二着の袷を仕立てている所だ。
薄い浅葱と一斤染の二着は単で、八月の山の中では少し肌寒い。
全て質素な無地だったが彼女は気に留めなかった。
わざわざ貴重な布を用意して貰えたのだから、色や柄に注文を付けるなどという
滅多な真似はしない。
最初箸すら持てなかった利き手は針仕事をこなすまでになっていたが、
とても忍として要求される精密さに程遠い。
深手を負った左足の事も考えるといつも陰鬱になった。
癒え切らないこの足は、普通に歩く事は出来ても以前の様な跳躍は全く出来ない。
最も基本的な能力だけに激しい焦燥に駆られたが、家主から焦らず治すよう
何度も言われ、癒えていないからだと思い込もうとした。
ここで家事の真似事をしたのは傷から目を背ける為だったのかもしれない。
今まで見て見ぬ振りをして誤魔化して来たが限界だ。
家主が持ち帰った行李の中身は無慈悲に現実を突きつける。
見慣れた青銅製の手鏡と木製の櫛。
丁度掌に収まる丸い漆塗の紅入れ。
諸々の手入に使う油が入った陶器。
そして深い翠色を湛えたあの翡翠の玉簪――。
長持の中に仕舞ってある筈の、決して多いとは言えない自分の持ち物だ。
越後の自室にあった私物が上田の板の間で散乱していた。
これが一体何を意味するのか。
認めたく無いものを認めざるを得ない瞬間が遂にやって来た。
本能的な怯えで身体が震え、幾ら呼吸しても息が出来ない。
極度に混乱した頭の中でかすがは一つの答えを出した。
剣としての自分は、既にあの夜天王山で死んでいたのだ。


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