佐助が謙信と極秘裏に連絡を取ってかすがの生存を伝えたのは最近の事だ。
命はあっても忍として役に立たない事実を告げねばならないのは
大変辛いものだった。
晩酌中それを聞いた謙信ははらはらと涙を流したが、
いつかこういう日が来ると覚悟していた、と言った。
「お前はさぞ私が憎いでしょうね。剣を奪い、道具として扱った挙句折ってしまった」
涙を拭きもせず珍しく自嘲気味に謙信が言った。
「あんたはあいつを誰かの閨に送らなかった。それには感謝してるさ」
謙信は微かに笑う。
「世話を掛けましたね、武田の忍。私の言えた義理ではないが――剣を頼みます」
表面上かすがが死んだと口裏を合わせる事を固く取り決め、
最後に彼女の身の回りの物を持って行くように言い謙信は晩酌を再開したが、
幾ら飲んでも酔う事は出来ない。
(いつもこの一時、お前は私を守る為心を砕いてくれた)
供も付けず独り気侭に縁側で晩酌を楽しめたのは、かすがのきめ細かで
行き届いた配慮があったからに他ならない。
ほんの短い間でも主に寛げる時間を、と警護を目立たせぬ様に
細心の注意を払っていた。
常に自分の懐刀として側近くに仕え、一心に慕ってくれた剣。
戦場で「斬れ」と言えば綺羅星の如き華麗な技で敵を薙払ったあの姿は、
もう二度と戻らない。
「……あなや、私の美しき剣が今は夢幻か……」
彼は独りごち、杯に映る月を一息に飲み干した。
命はあっても忍として役に立たない事実を告げねばならないのは
大変辛いものだった。
晩酌中それを聞いた謙信ははらはらと涙を流したが、
いつかこういう日が来ると覚悟していた、と言った。
「お前はさぞ私が憎いでしょうね。剣を奪い、道具として扱った挙句折ってしまった」
涙を拭きもせず珍しく自嘲気味に謙信が言った。
「あんたはあいつを誰かの閨に送らなかった。それには感謝してるさ」
謙信は微かに笑う。
「世話を掛けましたね、武田の忍。私の言えた義理ではないが――剣を頼みます」
表面上かすがが死んだと口裏を合わせる事を固く取り決め、
最後に彼女の身の回りの物を持って行くように言い謙信は晩酌を再開したが、
幾ら飲んでも酔う事は出来ない。
(いつもこの一時、お前は私を守る為心を砕いてくれた)
供も付けず独り気侭に縁側で晩酌を楽しめたのは、かすがのきめ細かで
行き届いた配慮があったからに他ならない。
ほんの短い間でも主に寛げる時間を、と警護を目立たせぬ様に
細心の注意を払っていた。
常に自分の懐刀として側近くに仕え、一心に慕ってくれた剣。
戦場で「斬れ」と言えば綺羅星の如き華麗な技で敵を薙払ったあの姿は、
もう二度と戻らない。
「……あなや、私の美しき剣が今は夢幻か……」
彼は独りごち、杯に映る月を一息に飲み干した。