普段の休みならまだ寝ている昼前に佐助は起き出して来た。
「出来れば冬になる前に帰りたいんだけどさ」
次の仕事は長丁場で、二月は帰れないと庭で薪を割りながら言った。
彼の格好は戦場と全く違う。
野良着を着て、普段鉢金で引っ詰めてある橙色の髪を後ろで結い、
腰に手拭をぶら下げているその姿は農民にしか見えない。
郷士の息子である彼は身の回りの事は勿論田畑に至るまで器用にこなした。
「これだけあれば足りるか」
区切りを付け、縁側で葡萄色の袷の仕上げをしているかすがの隣に
どっかり腰を降ろして汗を拭う。
今日は良く晴れていて少し動けば汗ばむ程暖かい。
「一度にこんなに割らなくても良いだろうに」
丁度仕上げた小袖を畳み終えたので、一息つく彼に話し掛けた。
「ひょっとすると雪で年明けまで長引くかもしれないんだ。
その間に薪が切れたら大変だろ?」
彼の湯呑に白湯を淹れながらいつあの行李について問うか考えていると、
先に切り出された。
「なあ、このまま俺と一緒に暮らさないか」
唐突な言葉に驚いて湯をこぼしてしまった。
「……何?」
「ずっとここに居てくれよ」
いつもの軽薄さを装う表情の奥には拒絶を恐れる色が浮かんでいる。
かすがは「ふざけるな」と言わなかった。
呆れたり冷笑したり、佐助を張り倒したりする訳でも無い。
静かに目を伏せ、一呼吸すると小さいがはっきりとした声で言った。
「謙信様が、そう言われたか」
二人の間に気まずい空気が流れた。
「出来れば冬になる前に帰りたいんだけどさ」
次の仕事は長丁場で、二月は帰れないと庭で薪を割りながら言った。
彼の格好は戦場と全く違う。
野良着を着て、普段鉢金で引っ詰めてある橙色の髪を後ろで結い、
腰に手拭をぶら下げているその姿は農民にしか見えない。
郷士の息子である彼は身の回りの事は勿論田畑に至るまで器用にこなした。
「これだけあれば足りるか」
区切りを付け、縁側で葡萄色の袷の仕上げをしているかすがの隣に
どっかり腰を降ろして汗を拭う。
今日は良く晴れていて少し動けば汗ばむ程暖かい。
「一度にこんなに割らなくても良いだろうに」
丁度仕上げた小袖を畳み終えたので、一息つく彼に話し掛けた。
「ひょっとすると雪で年明けまで長引くかもしれないんだ。
その間に薪が切れたら大変だろ?」
彼の湯呑に白湯を淹れながらいつあの行李について問うか考えていると、
先に切り出された。
「なあ、このまま俺と一緒に暮らさないか」
唐突な言葉に驚いて湯をこぼしてしまった。
「……何?」
「ずっとここに居てくれよ」
いつもの軽薄さを装う表情の奥には拒絶を恐れる色が浮かんでいる。
かすがは「ふざけるな」と言わなかった。
呆れたり冷笑したり、佐助を張り倒したりする訳でも無い。
静かに目を伏せ、一呼吸すると小さいがはっきりとした声で言った。
「謙信様が、そう言われたか」
二人の間に気まずい空気が流れた。