戦国BASARA/エロパロ保管庫

月に群雲6

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nozomi

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酷く、具合が悪かった。
寝不足のせいもある。
そんな足取りでふらふらと、どこへ行って何をしようとしてるのか、自分でも分からなかった。
普段、滅多に自室を離れて出歩く事などなかった。
誰かに会うのが嫌だったと言うのもある。
だがそれも杞憂に過ぎず、この邸宅は森に囲まれた小さな保養地の様で、久秀の他には数人の使用人が住んでいるだけだった。
一国の城主が、こんな所で女と二人引き籠もっていて良いものなのかと思うが、部下とのやり取りも全て文と書状だけで済ませているらしく、訪れる客も稀であった。
裏庭に面した廊下の中程まで来て、俺はへたり、とその縁側に座り込んだ。
鬱蒼とした気分とは裏腹に、空はどこまでも晴れ渡っていた。
以前なら、こんな天気の日は庭に出て、素振りなり組み手なりをしていたものだ。
毎日欠かすことなく行っていた鍛練も、久しくやってない。
組み手をする相手もいない。
お館様がお相手をして下さる時は、嬉しくて何度も何度も胸をお借りした。
佐助が真似る俺の太刀筋は見事なものだったな。
いつも、俺の側に居て見ていたからなのだろう。
二人共、もう二度と会う事が出来ない。
膝を抱えて突っ伏すと、不意にあの日のお館様の言葉が耳に甦った。
——その者を失ったとき、お前に何が残る
あぁ、哀し過ぎて忘れて居た。
お館様は、俺がこうなる事を予見して、わざわざ助言下さっていたと言うのに。
ここで奮い立たねば、お館様に仇なす事になる。
向かうべき道はまだ分からない。
それでも俺は、立ち上がった。
——しゃん
不意に鈴の様な音が聞こえて、俺は後ろを振り返った。
いつの間にそこに居たのか、全く同じ身形をした、三人の武将が立っていた。
確か三好の——名前は知らない。
久秀の手足となって動いている三人衆だ。
「あはれなり」
「松永様の、操り人形」
三人は唐突に、その抑揚の無い声で喋り出した。
何を言っているのか分からないまま、呆然と立ち尽くす俺を横目に、三人は言葉を続けた。
「松永様は、またあの香を焚くのだろうか」
「それはないだろう。あれは敵味方なく斬り掛かる、只の殺人兵器を生む諸刃の剣だ」
「だがしかし、香なくして此奴が使い物になるか否か」
口々に、意味の分からない単語を捲くし立て、俺は軽く眩暈を覚えた。
「一体……何の話をしているのだ」
香が、何だって?
聞いては、いけない気がする。
耳の奥で鼓動が、警鐘の如くけたたましく鳴り響いていた。
「覚えてはいないか」
「その方が幸せであろう」
「己で己の身内を斬ったなどと」
耳鳴りが、どくどくとこめかみを痛め、俺は眼を瞑った。
思い出す、あの日の惨状を。
覚えている、その香の匂いを。
松永軍は、特殊な香を焚き染めて、痛みも疲労も感じない、生屍の様な兵を作り出していた。
久秀と対峙した時だ。それとは違う、もっと濃厚な香りに包まれたのは。
俺はそれを嗅いで、意識をなくして……そして……
「俺が殺したのか」
足元に横たわっていた老兵も、若い兵も、佐助も、お館様も……!
蘇る。肉に沈み込む刃の感覚。舞い飛び散る、血の鮮やかさ。
不意に目が眩み、俺はその場にしゃがみ込んだ。
脂汗が滲み出で、吸っても吸っても肺にまで呼吸が行き届かなかった。
苦しくて、気持ち悪くて、嘔吐した。
「あはれなり」
「せめてもの慈悲を」
無感情な声と共に、カラランと乾いた音が聞こえ、俺はぐらぐらと定まらぬ視点を足下に向けた。
「死ね」
余りにも単調に謡われて、俺は一瞬意味を解し損ねた。
視界に、転がる懐刀を捉えてようやく、それが自害を求められた言葉だったのだと知る。
手に取った時には既に、滝の様に流れていた汗は、微塵も陰をなくしていた。
己の鼓動が遠のいて行き……
記憶が続いていたのはそこまでだった。


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