「この…っ!」
その笑みに激しい怒りを覚え、敵兵の眉間を狙って銃弾を打ち込む。
パンパン、と乾いた音が空気に溶け込む頃には、敵兵はもう動かなくなっていた。
「はぁ…はぁ…っ」
血の止まらない脇腹を押さえ、濃姫は肩で息をする。
彼女の身体には、脇腹の傷以外にも複数の傷が刻み込まれている。
その傷から、既に大量の血が流れ出た。
これ以上血を失えば、確実に死に到るだろう。
まだ、倒れるわけにはいかないのに――
濃姫はギリッ、と強く奥歯を噛み締めると、ふらつく足を叱咤しなんとか前へ進もうとする。
しかし、血を失いすぎた身体は言うことを聞かず、数歩前に進んだところでその場に倒れてしまった。
ふわり、と柔らかな感触と香りが鼻先を擽る。
視線だけを動かせば、風に揺れる花と緑。
そういえば、戦場となったこの地は花が多かったな、とぼんやりと考える。
柔らかな風が頬と花を揺らす。
ゆらゆらと目の前で揺れる花は、淡い青紫。
その色は、昔信長から貰った桔梗の花に酷くよく似ていて。
彼は、自分のことを怒るだろうか。
「どこまでもついていく」という約束を破った挙句、こんな場所で散ってしてしまう自分を。
それとも、「良くやった」と少しでも褒めてくれるだろうか。
そのどちらにも、幸せを感じる自分がいて。
「ふふっ…」
濃姫は涙を浮かべながら小さく微笑った。(わらった)
ゆっくりと瞳が閉じられていく。
戦場に儚く散っていった蝶の頬を、涙が一筋零れ落ちていった。
その笑みに激しい怒りを覚え、敵兵の眉間を狙って銃弾を打ち込む。
パンパン、と乾いた音が空気に溶け込む頃には、敵兵はもう動かなくなっていた。
「はぁ…はぁ…っ」
血の止まらない脇腹を押さえ、濃姫は肩で息をする。
彼女の身体には、脇腹の傷以外にも複数の傷が刻み込まれている。
その傷から、既に大量の血が流れ出た。
これ以上血を失えば、確実に死に到るだろう。
まだ、倒れるわけにはいかないのに――
濃姫はギリッ、と強く奥歯を噛み締めると、ふらつく足を叱咤しなんとか前へ進もうとする。
しかし、血を失いすぎた身体は言うことを聞かず、数歩前に進んだところでその場に倒れてしまった。
ふわり、と柔らかな感触と香りが鼻先を擽る。
視線だけを動かせば、風に揺れる花と緑。
そういえば、戦場となったこの地は花が多かったな、とぼんやりと考える。
柔らかな風が頬と花を揺らす。
ゆらゆらと目の前で揺れる花は、淡い青紫。
その色は、昔信長から貰った桔梗の花に酷くよく似ていて。
彼は、自分のことを怒るだろうか。
「どこまでもついていく」という約束を破った挙句、こんな場所で散ってしてしまう自分を。
それとも、「良くやった」と少しでも褒めてくれるだろうか。
そのどちらにも、幸せを感じる自分がいて。
「ふふっ…」
濃姫は涙を浮かべながら小さく微笑った。(わらった)
ゆっくりと瞳が閉じられていく。
戦場に儚く散っていった蝶の頬を、涙が一筋零れ落ちていった。
―父上…帰蝶は、幸せに御座いました…
その日、織田本陣には悲しみに暮れる兵士達の声が響き渡った。
戦は結局痛み分けに終わり、両者は互いに深い傷を負った。
幾人もの兵士の血が、戦場に流れた。
回収された遺体。その中に、濃姫の亡骸もあった。
身体のあちこちに傷を負いながらも、その死に顔は眠るように安らかだった。
「濃姫様!濃姫様ぁ!」
彼女を囲むように集う兵士達の中、一際大きな声で泣くのは蘭丸だった。
亡骸に縋りつくように泣く彼に呼応するかのように、兵士達も濃姫の名を呼びながらその死を悼んだ。
戦は結局痛み分けに終わり、両者は互いに深い傷を負った。
幾人もの兵士の血が、戦場に流れた。
回収された遺体。その中に、濃姫の亡骸もあった。
身体のあちこちに傷を負いながらも、その死に顔は眠るように安らかだった。
「濃姫様!濃姫様ぁ!」
彼女を囲むように集う兵士達の中、一際大きな声で泣くのは蘭丸だった。
亡骸に縋りつくように泣く彼に呼応するかのように、兵士達も濃姫の名を呼びながらその死を悼んだ。




