「…案じずとも、我は笑わぬよ」
砂浜の終わりに植えた、砂防用の大樹が風にざわめく声が聞こえる。
元就は言葉とは裏腹、微笑みを絶やしてはいなかった。
足元に群れる海鳥も徐々に数が減り、それが少し残念だと寂しげに呟く。
丸まった元親の背で、彼の愛鳥は愉快気に飛び回っている。
「降りろ!バカ!」元親が背を揺すり、振り払われた鳥は元就が差し伸べた腕に留まった。
可哀想に、邪険にされてと元就が穏やかな声で鳥に語りかける。
「悪い主だの、こんなに可愛ゆいのに。我と共に安芸においで」
元就の言葉に元親がそれは駄目だと反応した。慌てる彼に一瞥をくれて元就は鳥に顔を寄せる。
「人の事を馬鹿だ何だと散々ぬかしておいて。のう?ちー、強欲な男はこれだから」
からかわれて更に息を詰まらせる元親を愛らしく思い、元就が更に笑う。
……何でもくれると言うたくせに。腹の中でだけそっと意地悪を湧き上がらせて、すぐさま潰した。
彼の想いに応えるのが絶対条件なのだから、出来ない元就にはそうと続ける権利は無い。
「嘘だ。ちーも此方の方が居心地が良かろう?」
元親が愛鳥を払う。離れた鳥を目で追いかけた隙に、元就は彼に右肩と左手を取られた。
薬指をつまみ、太さを確かめて元親は「細いな」と呟いた。神妙な気配に元就も息をひそめる。
波音に混じる鼓動がやかましい。何故、触れている僅かな面積がこんなにも過敏になるのだろう。
聞きたくなかった。
彼の言葉も、自分の心の声も聞きたくない。
この高鳴る心の臓が恋情の証だというなら、今すぐもぎ取ってしまっても構わないとさえ思うのに、それと同じくらい、
いや、より強固な想いとして抱き合って溶けてしまいたくなる。
それでもまだ、ここが屋外で、二人の他に鳥たちの目がたくさんあって、更に太陽がまぶしい時間帯だという状況が元就の理性を支えていた。
ぽつり、言うべき事を言う。
「道具にされた方が、都合がよいのだ」
元親のしかめ顔が、より剣呑なものになる。
「ちー」
再び彼の愛鳥を呼ぶと素直に寄ってくる。大丈夫だ。このまま聞かなければいい。
彼が呼びとめる声も、自分の流されて溺れてしまえと引きずり込もうとする声も、ここで振り切ってしまえばあとは時が解決してくれる。
多分、幼い自分がなりたかった『強い大人』とはそういう行動の取れる人物だろう。感情などは不要なのだ。
ちーと呼ばれた鳥は、器用に元就の腕や肩に乗っては飛び跳ねる。
「痛いぞ、こら」
鳥に頬を啄ばまれ、元就が笑って言う。対照的に、元親は口づけまがいの様子に怒り声をあげた。
騒ぐでないわ、と彼をたしなめる。
「仕方のない事よ。ちーのくちばしが硬くて見事な」
証拠、と続けようとして、元就は口ごもった。
砂浜の終わりに植えた、砂防用の大樹が風にざわめく声が聞こえる。
元就は言葉とは裏腹、微笑みを絶やしてはいなかった。
足元に群れる海鳥も徐々に数が減り、それが少し残念だと寂しげに呟く。
丸まった元親の背で、彼の愛鳥は愉快気に飛び回っている。
「降りろ!バカ!」元親が背を揺すり、振り払われた鳥は元就が差し伸べた腕に留まった。
可哀想に、邪険にされてと元就が穏やかな声で鳥に語りかける。
「悪い主だの、こんなに可愛ゆいのに。我と共に安芸においで」
元就の言葉に元親がそれは駄目だと反応した。慌てる彼に一瞥をくれて元就は鳥に顔を寄せる。
「人の事を馬鹿だ何だと散々ぬかしておいて。のう?ちー、強欲な男はこれだから」
からかわれて更に息を詰まらせる元親を愛らしく思い、元就が更に笑う。
……何でもくれると言うたくせに。腹の中でだけそっと意地悪を湧き上がらせて、すぐさま潰した。
彼の想いに応えるのが絶対条件なのだから、出来ない元就にはそうと続ける権利は無い。
「嘘だ。ちーも此方の方が居心地が良かろう?」
元親が愛鳥を払う。離れた鳥を目で追いかけた隙に、元就は彼に右肩と左手を取られた。
薬指をつまみ、太さを確かめて元親は「細いな」と呟いた。神妙な気配に元就も息をひそめる。
波音に混じる鼓動がやかましい。何故、触れている僅かな面積がこんなにも過敏になるのだろう。
聞きたくなかった。
彼の言葉も、自分の心の声も聞きたくない。
この高鳴る心の臓が恋情の証だというなら、今すぐもぎ取ってしまっても構わないとさえ思うのに、それと同じくらい、
いや、より強固な想いとして抱き合って溶けてしまいたくなる。
それでもまだ、ここが屋外で、二人の他に鳥たちの目がたくさんあって、更に太陽がまぶしい時間帯だという状況が元就の理性を支えていた。
ぽつり、言うべき事を言う。
「道具にされた方が、都合がよいのだ」
元親のしかめ顔が、より剣呑なものになる。
「ちー」
再び彼の愛鳥を呼ぶと素直に寄ってくる。大丈夫だ。このまま聞かなければいい。
彼が呼びとめる声も、自分の流されて溺れてしまえと引きずり込もうとする声も、ここで振り切ってしまえばあとは時が解決してくれる。
多分、幼い自分がなりたかった『強い大人』とはそういう行動の取れる人物だろう。感情などは不要なのだ。
ちーと呼ばれた鳥は、器用に元就の腕や肩に乗っては飛び跳ねる。
「痛いぞ、こら」
鳥に頬を啄ばまれ、元就が笑って言う。対照的に、元親は口づけまがいの様子に怒り声をあげた。
騒ぐでないわ、と彼をたしなめる。
「仕方のない事よ。ちーのくちばしが硬くて見事な」
証拠、と続けようとして、元就は口ごもった。




