目の前で震えながら頭を垂れている女児を見て千代女は鼻に皺を寄せた。
信玄から頭領に命じられて以来何千何百という娘を見て来たが、
こんな髪の子どもは初めて見る。
「……何とも気味の悪い色をした髪よの」
板間に袴の片膝を付き、手にした扇で女児の顎を掬い上げた。
年齢の割に女児は肝が据わっているらしく涙一つ浮べて居ない。
それがある種の傲慢さの様に千代女は感じた。
千代女はただの慈悲深い望月家の後家では無い。
望月家は嘗て信玄に逆らい、遠縁に当たる幸村の祖父の執り成しで武田の傘下に加わった。
失地回復のために甲賀の本家から千代女が嫁ぎ、集めた身寄りの無い娘達を生き餌に仕立てて
日ノ本一の情報網を作り上げ、今では信玄から深い信頼を寄せられている。
改めて女児を良く検分してみると髪は金で瞳は琥珀、そして肌が雪の様に白い。
「フン、南蛮混じりか。だが面構えは良し……」
扇から女児の顎を退かして暫し思案していたが、ピシャリと掌に扇を叩き付けた。
「お前は今日から『妙』じゃ。白妙の肌と奇妙な髪、両方掛ければ物好きの一匹や二匹釣れよう」
固く唇を引き結び、瞬きもせず大きな目で女児は千代女を見ている。
(――生意気な)
甲賀五十三家筆頭の出身であり、その上義理とは言え信玄の姪に当る身分の自分を
見据える者は居なかった。
しかしその強靱さが無ければ、この先女児は生き残れないのも確かだ。
「死にたくなければそれなりの働きをしやれ。精々その面を大事にする事よ。
良いな、妙」
女児が再び頭を下げるより早く、千代女は高価な打掛のつまを勢い良く翻した。
信玄から頭領に命じられて以来何千何百という娘を見て来たが、
こんな髪の子どもは初めて見る。
「……何とも気味の悪い色をした髪よの」
板間に袴の片膝を付き、手にした扇で女児の顎を掬い上げた。
年齢の割に女児は肝が据わっているらしく涙一つ浮べて居ない。
それがある種の傲慢さの様に千代女は感じた。
千代女はただの慈悲深い望月家の後家では無い。
望月家は嘗て信玄に逆らい、遠縁に当たる幸村の祖父の執り成しで武田の傘下に加わった。
失地回復のために甲賀の本家から千代女が嫁ぎ、集めた身寄りの無い娘達を生き餌に仕立てて
日ノ本一の情報網を作り上げ、今では信玄から深い信頼を寄せられている。
改めて女児を良く検分してみると髪は金で瞳は琥珀、そして肌が雪の様に白い。
「フン、南蛮混じりか。だが面構えは良し……」
扇から女児の顎を退かして暫し思案していたが、ピシャリと掌に扇を叩き付けた。
「お前は今日から『妙』じゃ。白妙の肌と奇妙な髪、両方掛ければ物好きの一匹や二匹釣れよう」
固く唇を引き結び、瞬きもせず大きな目で女児は千代女を見ている。
(――生意気な)
甲賀五十三家筆頭の出身であり、その上義理とは言え信玄の姪に当る身分の自分を
見据える者は居なかった。
しかしその強靱さが無ければ、この先女児は生き残れないのも確かだ。
「死にたくなければそれなりの働きをしやれ。精々その面を大事にする事よ。
良いな、妙」
女児が再び頭を下げるより早く、千代女は高価な打掛のつまを勢い良く翻した。