携帯がヴィヴァルディの「冬」を奏でた。
着信名を見て溜め息を吐くと読み掛けの文庫本に栞を挟む。
最近遠距離恋愛を始めた古い友人からだった。
「またいつもの泣き言かい?」
週末恋人と連絡を取り合った後、決って彼女は電話を寄越す。
「…済まない。でも、あいつには言えないんだ」
蚊の鳴く様な声を聞いて眉間を指で摘む。
「毎回言ってるけど彼と何でも話せる関係じゃなきゃ長続きしないよ」
「ああ…」
「いい加減僕に甘えるのは止めるんだね。僕は彼じゃない。代りは無理だよ」
「………」
「聞いてるかい?」
「……でもっ、あいつに心配…掛けたく、ない…」
何度も鼻を啜る音がした。
強気で通している彼女だが実はとんでもなく泣き虫だ。
寂しがり屋の癖に強がって、在学中ゼミでまともに話せた異性は
自分と彼女の憧れの的だった教授しか居なかった。
あれから随分経つが未だに頼られるのは、恐らく性格が災いして
なかなか新しい友人が出来ないからだろう。
「天の邪鬼は早めに治す事だね。でないと君自身の首を締める結果になるよ」
一頻り愚痴を聞いてやった後に釘を刺す。
「うん……。また電話しても」
「電話なら彼にするんだ。君の恋人なんだろう?」
ピシャリと窘めた。
あれだけ引き摺った教授の事だって彼女自身で思い切れたのだから、
頼られても困る。
「……そうだな」
「僕らが友人だって言うのは変らない。何か進展があったら手紙を呉れないか。
それで充分だよ」
「分かった。色々済まない」
「どう致しまして。お休み」
電話を切ると文庫本のページを操って栞の部分を探し出し、紅茶を一口飲む。
「引越しました」と書いた葉書が彼女から届いたのは、五月の良く晴れた日だった。
着信名を見て溜め息を吐くと読み掛けの文庫本に栞を挟む。
最近遠距離恋愛を始めた古い友人からだった。
「またいつもの泣き言かい?」
週末恋人と連絡を取り合った後、決って彼女は電話を寄越す。
「…済まない。でも、あいつには言えないんだ」
蚊の鳴く様な声を聞いて眉間を指で摘む。
「毎回言ってるけど彼と何でも話せる関係じゃなきゃ長続きしないよ」
「ああ…」
「いい加減僕に甘えるのは止めるんだね。僕は彼じゃない。代りは無理だよ」
「………」
「聞いてるかい?」
「……でもっ、あいつに心配…掛けたく、ない…」
何度も鼻を啜る音がした。
強気で通している彼女だが実はとんでもなく泣き虫だ。
寂しがり屋の癖に強がって、在学中ゼミでまともに話せた異性は
自分と彼女の憧れの的だった教授しか居なかった。
あれから随分経つが未だに頼られるのは、恐らく性格が災いして
なかなか新しい友人が出来ないからだろう。
「天の邪鬼は早めに治す事だね。でないと君自身の首を締める結果になるよ」
一頻り愚痴を聞いてやった後に釘を刺す。
「うん……。また電話しても」
「電話なら彼にするんだ。君の恋人なんだろう?」
ピシャリと窘めた。
あれだけ引き摺った教授の事だって彼女自身で思い切れたのだから、
頼られても困る。
「……そうだな」
「僕らが友人だって言うのは変らない。何か進展があったら手紙を呉れないか。
それで充分だよ」
「分かった。色々済まない」
「どう致しまして。お休み」
電話を切ると文庫本のページを操って栞の部分を探し出し、紅茶を一口飲む。
「引越しました」と書いた葉書が彼女から届いたのは、五月の良く晴れた日だった。




