そのまましばらく、二人は降ろせ降ろさないと押し問答をした。
元就が無理に降りようと上体を大きく振った瞬間、均衡が崩れる。
元親は、彼女を落とさぬように抱えた両の脚により力を込め、結果それでますます体勢を崩し、
二人は砂浜に倒れこんだ。
「馬鹿者!だから言ったであろうが!」
冷静さを失った元就は怒鳴るが、それに反応する前に、元親は気づいてしまった。
元就の小さな左の肘に、血が垂れている。
有無を言わさず彼女の腕をとり、その血を舐めとろうと舌を伸ばす。
が、「やめよ!」と一層狼狽した元就に逃げられる。
逃げるといっても、尻餅をついたままの後ずさりなのですぐ追い詰める事が出来る。
あと僅かで波に届く距離である。
砂を被った上に海水に浸るのは回避したい元就は、とっさに逃れる体を止めてしまう。
地についた右手の指先から視線を前に戻すと、元親の顔が至近距離にあった。
「おとなくしくしろって」
骨は痛まないか、と腕をつかみ、元親は続けてゆっくりと曲げて異常がないか確かめる。
再び肘に口を近づけたが、元就が過剰に跳ね上がった様が、瞬間可哀そうに思え、止めた。
まるで怯える子猫だ。
「あー……、わかった」
溜息をついて、元親が言う。
「いいから、まずソレ拭けって……ん」
落とした視線の先には元就の脚。
離れに備えておいた元親の着替えを折りたたんで無理やり着せた袴は、裾に裂け目が出来ていた。
覗く、白い脚。顔を上げれば困惑した惚れた女の顔。それと、血の赤が眩しい華奢な肘。
昨夜から朝を経て、努めて忘れようとした衝動が、元親の心に湧きあがってくる。
抱きたい。
食らいたいのだ。この女の涙も肌も、すべて味わい尽くしたい。
それでも子供のように泣く彼女を見て、傷つけたくはないのだと、慈しみたいのだという心から何とか荒らぶる衝動を抑え込んだが、
今、こんなにも簡単なきっかけで決壊しそうになってしまう。
元親の目の色が変わったのを、元就も認めた。
「ま、て」
空いた右手で元親の顔面を押さえる。ぐ、と元親は呻いたが、気にかけてはいられないとばかりぐいぐいと押した。
「ここでは……このような場所では、ならぬ」
確かに、道具にすればいいと自ら宣言したばかりだ。しかし屋外では嫌だ。周囲に身を隠すものも何もない、開けた砂浜なら尚更恐ろしいというもの。
無理な体勢で、それでも必死に男を拒否すると、「もとなり、いてぇ」と呻き声がやっと耳に届く。
頬に食い込む爪と、押し上げられた首が痛いと訴える元親。が、元就は手を離さず、更に睨みつけた。
「知らぬ。そなたの方が、酷い」
体が痛むのも、息苦しいのも、熱に苛まれるのも涙が出るのもすべて彼のせいだ。
元親が反撃に出る。一行に離れる気配のない掌をべろりと舐めた。
予想外の感触に驚き、とっさに手を引く元就だったが、その反動で均衡を崩す。
「あ、」と小さな悲鳴が尾を引いて、二人は倒れこんでしまった。元就の髪の先に白い波がかかる。
元就が無理に降りようと上体を大きく振った瞬間、均衡が崩れる。
元親は、彼女を落とさぬように抱えた両の脚により力を込め、結果それでますます体勢を崩し、
二人は砂浜に倒れこんだ。
「馬鹿者!だから言ったであろうが!」
冷静さを失った元就は怒鳴るが、それに反応する前に、元親は気づいてしまった。
元就の小さな左の肘に、血が垂れている。
有無を言わさず彼女の腕をとり、その血を舐めとろうと舌を伸ばす。
が、「やめよ!」と一層狼狽した元就に逃げられる。
逃げるといっても、尻餅をついたままの後ずさりなのですぐ追い詰める事が出来る。
あと僅かで波に届く距離である。
砂を被った上に海水に浸るのは回避したい元就は、とっさに逃れる体を止めてしまう。
地についた右手の指先から視線を前に戻すと、元親の顔が至近距離にあった。
「おとなくしくしろって」
骨は痛まないか、と腕をつかみ、元親は続けてゆっくりと曲げて異常がないか確かめる。
再び肘に口を近づけたが、元就が過剰に跳ね上がった様が、瞬間可哀そうに思え、止めた。
まるで怯える子猫だ。
「あー……、わかった」
溜息をついて、元親が言う。
「いいから、まずソレ拭けって……ん」
落とした視線の先には元就の脚。
離れに備えておいた元親の着替えを折りたたんで無理やり着せた袴は、裾に裂け目が出来ていた。
覗く、白い脚。顔を上げれば困惑した惚れた女の顔。それと、血の赤が眩しい華奢な肘。
昨夜から朝を経て、努めて忘れようとした衝動が、元親の心に湧きあがってくる。
抱きたい。
食らいたいのだ。この女の涙も肌も、すべて味わい尽くしたい。
それでも子供のように泣く彼女を見て、傷つけたくはないのだと、慈しみたいのだという心から何とか荒らぶる衝動を抑え込んだが、
今、こんなにも簡単なきっかけで決壊しそうになってしまう。
元親の目の色が変わったのを、元就も認めた。
「ま、て」
空いた右手で元親の顔面を押さえる。ぐ、と元親は呻いたが、気にかけてはいられないとばかりぐいぐいと押した。
「ここでは……このような場所では、ならぬ」
確かに、道具にすればいいと自ら宣言したばかりだ。しかし屋外では嫌だ。周囲に身を隠すものも何もない、開けた砂浜なら尚更恐ろしいというもの。
無理な体勢で、それでも必死に男を拒否すると、「もとなり、いてぇ」と呻き声がやっと耳に届く。
頬に食い込む爪と、押し上げられた首が痛いと訴える元親。が、元就は手を離さず、更に睨みつけた。
「知らぬ。そなたの方が、酷い」
体が痛むのも、息苦しいのも、熱に苛まれるのも涙が出るのもすべて彼のせいだ。
元親が反撃に出る。一行に離れる気配のない掌をべろりと舐めた。
予想外の感触に驚き、とっさに手を引く元就だったが、その反動で均衡を崩す。
「あ、」と小さな悲鳴が尾を引いて、二人は倒れこんでしまった。元就の髪の先に白い波がかかる。




