「…………………」
どこだ…ここ……。
…そうだ……俺、毛利の屋敷に来て、飯食って……それから…。
あー…痛ぇ…頭がガンガンしやがる。
…しかもすっかり記憶がぶっ飛んじまって、飯食った後の事は全く思い出せねぇしよ…。
あれって、そんなに強ぇ酒だったのか…?
あー…痛ぇ…頭がガンガンしやがる。
…しかもすっかり記憶がぶっ飛んじまって、飯食った後の事は全く思い出せねぇしよ…。
あれって、そんなに強ぇ酒だったのか…?
視界の先は霞でもかかっているかのようにぼんやり滲んでいたが、随分と室内の闇が濃い。
…もう夜も更けて久しいのだろう。
身体は鉛のように重く、意識も泥のように混濁している。
だがそれでも引き込まれるような眠気に屈する気にはなれず、
皐月の夜にしては随分と蒸し暑い中、元親は未だ良く働かぬ頭で思考をめぐらす。
…もう夜も更けて久しいのだろう。
身体は鉛のように重く、意識も泥のように混濁している。
だがそれでも引き込まれるような眠気に屈する気にはなれず、
皐月の夜にしては随分と蒸し暑い中、元親は未だ良く働かぬ頭で思考をめぐらす。
俺と毛利…。
自分で言うのも何だが、いつもに比べりゃ今日は…結構良い雰囲気だったんじゃねぇか?
…だが、あくまで土佐の国主が安芸の国主から手厚くもてなされた程度と言われれば、
そんな気もしなくもない。
自分で言うのも何だが、いつもに比べりゃ今日は…結構良い雰囲気だったんじゃねぇか?
…だが、あくまで土佐の国主が安芸の国主から手厚くもてなされた程度と言われれば、
そんな気もしなくもない。
…駄目だ。やっぱ告白の返事を貰わなけりゃ、らちが明かねぇ。
明日のあさげの後で毛利を散歩にでも誘って、とにかく一度毛利の従者達の居ない所で話を…。
明日のあさげの後で毛利を散歩にでも誘って、とにかく一度毛利の従者達の居ない所で話を…。
「…………………?」
ふと鼻先をほのかにくすぐる、季節はずれの梅の芳香。
それは日中、元親が数多の香の中から選んだ物に良く似ていた。
異変に気づき元親が襖に視線をやると、いつの間にか襖の向こうに人影がたたずんでいる。
そして僅かに開いていた襖の間から覗くのは…純白の打掛。
元親の胸の鼓動がどくりと跳ねる。
それは日中、元親が数多の香の中から選んだ物に良く似ていた。
異変に気づき元親が襖に視線をやると、いつの間にか襖の向こうに人影がたたずんでいる。
そして僅かに開いていた襖の間から覗くのは…純白の打掛。
元親の胸の鼓動がどくりと跳ねる。
こんな夜更けに俺好みに着飾って部屋を訪れるたぁ…
毛利の奴、なかなか粋な事してくれるじゃねぇか。
毛利の奴、なかなか粋な事してくれるじゃねぇか。
元親はやっとの思いで寝返りを打つと、襖に背を向けた。
それとほぼ同時に、静かに襖を開けてその影が室内に滑り込んでくる。
一目見て元親が熟睡していると思い、少し躊躇うような素振りを見せた後…
そっと布団の端に手をかけようとした元就を驚かせようと、元親は振り向いた。
それとほぼ同時に、静かに襖を開けてその影が室内に滑り込んでくる。
一目見て元親が熟睡していると思い、少し躊躇うような素振りを見せた後…
そっと布団の端に手をかけようとした元就を驚かせようと、元親は振り向いた。
「よぉ、遅かったじゃねぇか毛利…」
……………じゃ……ねぇ…?????
室内に入って来ていたのは元就ではなく…何故か全く見知らぬ女だ。
驚いた元親はいつの間にか着せられていた小豆色の夜着姿のまま、
思うように動かぬ身体を無理矢理引きずり慌てて布団から飛びのいた。
元親の動きに身をこわばらせた拍子に、女の懐から扇がこぼれ落ちる。
-それも日中、元親が選んだ物だった。
驚いた元親はいつの間にか着せられていた小豆色の夜着姿のまま、
思うように動かぬ身体を無理矢理引きずり慌てて布団から飛びのいた。
元親の動きに身をこわばらせた拍子に、女の懐から扇がこぼれ落ちる。
-それも日中、元親が選んだ物だった。
「だっ…!! 誰だアンタはっ!!??」
「長曾我部殿…どうか私めに、一夜のお情けを…」
布団の対岸で女がひれ伏すと同時に、元親が選んだ白い花房を模した髪飾りが揺れた。
元親は訝しげに暗闇の中で目を凝らしたが、長い髪に隠れた顔立ちはよく見えない。
だが紅に彩られたその口元が動き、吐露された言葉だけははっきりと耳に焼きついた。
元親は訝しげに暗闇の中で目を凝らしたが、長い髪に隠れた顔立ちはよく見えない。
だが紅に彩られたその口元が動き、吐露された言葉だけははっきりと耳に焼きついた。
「今宵は長曾我部殿に誠心誠意お尽くしするようにとの、元就様からのご命令ゆえ…」
ゆっくりと頭を上げた女は至極元親好みの愛らしく魅惑的な顔立ちで、
加えて着物越しに見ても分かるその豊満な身体。
一昔前の元親ならば、すぐにでもその身を布団に引きずり込んでいただろう。
加えて着物越しに見ても分かるその豊満な身体。
一昔前の元親ならば、すぐにでもその身を布団に引きずり込んでいただろう。
「……………」
だが元就を知った今…幸か不幸か元親には元就以外の全ての女性が色あせて見えた。
そして次第に元親の胸の奥から灼熱の溶岩のように湧き上がってくる、憤り。
そして次第に元親の胸の奥から灼熱の溶岩のように湧き上がってくる、憤り。
-あの…女……っ!!!!!
衝動的に襖を開け放つとまるで自ら望んで漆黒の闇に飲まれていくかのように、
元親は勢いよく部屋を飛び出した。
元親は勢いよく部屋を飛び出した。