かつて一度だけここを訪れた時に、毛利の私室を目にした事が有る。
-毛利に会いてぇなら、そこに行くしかねぇ-
-毛利に会いてぇなら、そこに行くしかねぇ-
「………っ!??」
ふいによろけ、廊下を駆けていた元親の足がもつれた。
…まだ体内に酒気が残っている所為か、いつものように身体が上手く動かないのだ。
…まだ体内に酒気が残っている所為か、いつものように身体が上手く動かないのだ。
「…ちっくしょう…っ!!」
元親は足の裏に力を込めてグッと廊下を踏みしめると、かろうじて転倒を免れる。
そして勢いに任せて、そのままひと気の無い暗い廊下を突っ走った。
そして勢いに任せて、そのままひと気の無い暗い廊下を突っ走った。
「ちっ…長曾我部殿…っ!??」
元就の私室に限りなく近づいたのだろう。
元親がしばらく走っていると、寝ずの番をしている二人の兵士に遭遇した。
兵士達は突如として目前に現れた意外な人物の姿を臨み、驚きに目を見開く。
元親がしばらく走っていると、寝ずの番をしている二人の兵士に遭遇した。
兵士達は突如として目前に現れた意外な人物の姿を臨み、驚きに目を見開く。
「こっ…これより先は元就様の寝室ゆえ、何とお退きくだされ!!」
「んなこたぁ、解ってんだよっ!!!」
まるで手負いの獣のように鬼気迫る元親の怒号に、兵士達は思わずひるんだ。
だがそれでも、一向に走る速度を緩める気配の無い元親を何とかして食い止めねばならない。
二人は顔を見合わせ…手にした槍を傍らへ放り、いっせいに元親の腰と足元に飛びつく。
だがそれでも、一向に走る速度を緩める気配の無い元親を何とかして食い止めねばならない。
二人は顔を見合わせ…手にした槍を傍らへ放り、いっせいに元親の腰と足元に飛びつく。
「アンタ等っ!…っ怪我したくねぇなら離しやがれ!!」
「なっ…なりませぬっ!! もっ…元就様はすでにご就寝中ゆえ…」
「どうか本日の所は、何とぞお引き取りくだされ…!!!」
「…っ!!おい、毛利っ!!アンタそこに居るんだろが!
聞こえてんなら、とっとと出てきやがれっ!!」
聞こえてんなら、とっとと出てきやがれっ!!」
たとえ己の命に代えても、これ以上聖域には近寄らせぬ…二人の兵士はそんな気概だけを頼りに、
無礼なやからが主の私室に近づくのを身を挺して阻止しようとする。
だがそんな彼らを引きずりながらも、元親は一歩づつ足を踏み出していった。
無礼なやからが主の私室に近づくのを身を挺して阻止しようとする。
だがそんな彼らを引きずりながらも、元親は一歩づつ足を踏み出していった。
「おい毛利っ!!!…毛利ぃ!!!!」
「…騒々しい…何事ぞ」
元親の目前…その突き当たりの部屋の襖の奥から、忌々しげな声音が響く。
主の言葉を浴び、二人の兵士は小さく悲鳴を上げて元親にしがみ付いたまま硬直した。
やがて襖の向こうの人影が濃くなり…襖が静かに開くと同時に、寝苦しい夜にも関わらず
若草色の夜着の上に濃緑の半纏をきちんと羽織った元就がその姿を現わす。
元就はまず、元親ではなく自室の警護の任にあたっていた二人の兵士を一瞥する。
主の言葉を浴び、二人の兵士は小さく悲鳴を上げて元親にしがみ付いたまま硬直した。
やがて襖の向こうの人影が濃くなり…襖が静かに開くと同時に、寝苦しい夜にも関わらず
若草色の夜着の上に濃緑の半纏をきちんと羽織った元就がその姿を現わす。
元就はまず、元親ではなく自室の警護の任にあたっていた二人の兵士を一瞥する。
「ひぃっ!!も…元就様……」
「何とぞ…何とぞお許しを……」
「…貴様等」
「「はっ…はいっっ!!!」」
「今宵はもう警護を終え、休むが良い」
「「………………………っ!??」」
当然打ち首…またはかろうじて一命を取り留めたとしても、
流刑の処罰を受けるとばかり思っていた兵士達は、元就の意外な言葉に目を白黒させた。
そして元就を睨みつけている元親と、冷ややかな眼差しで自分達を見つめている元就とを
おそるおそる交互に見比べる。
流刑の処罰を受けるとばかり思っていた兵士達は、元就の意外な言葉に目を白黒させた。
そして元就を睨みつけている元親と、冷ややかな眼差しで自分達を見つめている元就とを
おそるおそる交互に見比べる。
「…我の言葉が聞こえぬか?」
「めっ、めっそうもござりませぬっ!!!!」
「しっ…しからば我らはこれにて……」
先ほど投げ捨てた槍を拾い上げる余裕すら無く、兵士達は命からがら逃げ出すように、
我先にとその場を立ち去った。
我先にとその場を立ち去った。