静かに瞳を付した元就からは、何の言葉も返って来ない。
だがそれに構うことなく、元親はジッと元就の横顔を凝視した。
だがそれに構うことなく、元親はジッと元就の横顔を凝視した。
これまで散々待たされたんだ、もう少し待ったって今更どうって事はねぇ。
ただ毛利の答え次第じゃ、こうして二人きりで会う機会なんか…もう一生望めねぇよな。
ただ毛利の答え次第じゃ、こうして二人きりで会う機会なんか…もう一生望めねぇよな。
ゆえに元親はその沈黙の時間を使い…。
愁いを帯びた元就の横顔を隻眼に、脳裏に、胸に、そして心に焼き付けた。
愁いを帯びた元就の横顔を隻眼に、脳裏に、胸に、そして心に焼き付けた。
「…様々な…可能性を模索した」
「好き」とも「嫌い」とも違う言葉の塊を、元就がポツリと呟く。
その声音すら鼓膜に脳裏に胸に、そして心に焼き付けようと…元親はありったけ耳を澄ませた。
元親にとって幸いな事に、元就の言葉はまだ続く-
その声音すら鼓膜に脳裏に胸に、そして心に焼き付けようと…元親はありったけ耳を澄ませた。
元親にとって幸いな事に、元就の言葉はまだ続く-
「だが所詮は我も貴様も一国の主ぞ。
陸続きの領地であればいざ知らず、どう考えても我等が同じ場所に拠点を置きながら、
瀬戸海でへだてられた中国・四国を今同様の水準で治める事は不可能であろう」
陸続きの領地であればいざ知らず、どう考えても我等が同じ場所に拠点を置きながら、
瀬戸海でへだてられた中国・四国を今同様の水準で治める事は不可能であろう」
「…………」
「この先いかに親交を深めようとも、結局添い遂げる事が叶わぬのであれば…
互いに深く傷つく前に距離を置くのが最善の策ぞ」
互いに深く傷つく前に距離を置くのが最善の策ぞ」
…だからお互い未練の欠片も残らねぇように、俺をこっ酷く振ろうとしたって訳か。
毛利はこんな時でさえ、ちゃんと国の事を考えて…。
毛利はこんな時でさえ、ちゃんと国の事を考えて…。
「………そうか。
…アンタやっぱり偉いな」
…アンタやっぱり偉いな」
元就が吐露した真意は、元親にとって非常に辛い物である筈だ。
にも関わらず、意外にも穏やかなその返事を聞いて…元就は心底不快そうに元親の顔を見つめる。
にも関わらず、意外にも穏やかなその返事を聞いて…元就は心底不快そうに元親の顔を見つめる。
「貴様、我を愚弄するつもりか」
「そんなんじゃねぇよ…俺今本当、純粋にアンタの事凄ぇと思ってるさ」
「…………」
「ただ俺たちが距離を置いたとして、その先はどうする」
「互いに適切な伴侶を得て、領地の安寧と子孫繁栄の為に尽力すれば良かろう」
「子孫繁栄の為に尽力って、随分簡単に言うけどよ…
アンタはその…俺以外の奴とでもああいう事出来そうなのか?」
アンタはその…俺以外の奴とでもああいう事出来そうなのか?」
一瞬びくりと身をすくませた元就を見て、元親はすぐに辛いことを聞いたと後悔した。
だがやがて元就は、何かを悟ったかのように苦々しく笑う。
だがやがて元就は、何かを悟ったかのように苦々しく笑う。
「…所詮は我も駒の一つ。
なればあれしきの事…子孫繁栄の為にと感情を殺せば造作無い」
なればあれしきの事…子孫繁栄の為にと感情を殺せば造作無い」
「っ、なぁ毛利…そう言うの、もう止めようぜ。
アンタが感情殺して別の男に抱かれるなんて、想像しただけで俺の方が気ぃ狂いそうだ」
アンタが感情殺して別の男に抱かれるなんて、想像しただけで俺の方が気ぃ狂いそうだ」
「……………」
「それに確かにアンタの言う通り、二人だけじゃ今の領土を治めるのは難しいかもしれねぇ。
だが俺には野郎共がいるし、アンタの所にだって忠実な奴等が山ほどいるだろ。
いざとなれば、みんなの力を借りれば…」
だが俺には野郎共がいるし、アンタの所にだって忠実な奴等が山ほどいるだろ。
いざとなれば、みんなの力を借りれば…」
「っ…!!」
元就が急に元親へと向き直る。
間髪入れずに、ピシャリと乾いた音が室内に響いた。
間髪入れずに、ピシャリと乾いた音が室内に響いた。
「これ以上、我の決断に逐一水を差すでない!!!
そして用が済んだのなら即刻我の目前から消えうせよ!!
我に害を成すしか能の無い悪鬼めが!!」
そして用が済んだのなら即刻我の目前から消えうせよ!!
我に害を成すしか能の無い悪鬼めが!!」
叩かれるがままに顔を横に背けた姿で、元親はしばらく固まっていた。
だがやがて頬をさすりながら、元親は肩で息をするほど気が高ぶっている元就に再び向き直る。
…もう、とうの昔に怒りの感情をあらわにしても良い筈だ。
にも関わらず元親の眼差しが部屋に入ってきた当初から少しも変わっていないのを見て、
元就の背筋に戦慄が走る。
だがやがて頬をさすりながら、元親は肩で息をするほど気が高ぶっている元就に再び向き直る。
…もう、とうの昔に怒りの感情をあらわにしても良い筈だ。
にも関わらず元親の眼差しが部屋に入ってきた当初から少しも変わっていないのを見て、
元就の背筋に戦慄が走る。