そこは夏草の匂いが濃い草原だった。
青々とした中に小川が流れ、そこここに動物の気配が満ちる。
吹きすぎる風がざわざわと草葉を揺らし、汗ばんだ肌に心地よかった。
「いいとこだな、ここは」
「そうだろう!儂はここを拠点にのし上がってみせる!」
夏草の中、彼は金色の果実のように見えた。同い年の癖に政宗より小柄で、まだ幼さの漂う頬いっぱいに笑った。
「オレの前で言うたぁCoolじゃねえか、家康」
握り拳を差し出すと、家康の拳もまた伸ばされる。
こつん、と当たった感触。同盟の調印は済んだ。もう奥州に戻るべきだというのに、家康と遠駆けなんかに出ている。
「儂が天下を取ったら、政宗はうちに来い」
くりくりした目が覗き込んでくる。
「ok,うちが天下を取っても、オレについて来いよ」
「ははは!儂は我慢強いのが取り柄だ、そうなっても時を待つ!」
このやろ、と笑いながら肩を抱いて揺さぶる。家康も笑って、もがくように腕を伸ばす。
首筋に絡んで、取っ組み合うように草原を転げて、そして戯れのように唇が落とされた。
反射的に突き飛ばすと、手の甲で唇を押さえた。
家康がころんと転げ、そのまま草原にあぐらをかく。
「鈍い、鈍いぞ政宗ぇ!うちに来いと言ったらこういう事に決まっているだろう!」
悪びれない笑顔。
「あーのなぁ……武将にうちに来いッつったら、配下に下れッて事だろうが!
どさくさに紛れて人のFirst kissとるんじゃねえっ」
ぼやくとぴかぴかした笑顔が消えた。
「ふぁ、ふぁー、き?」
「ばぁかkissってのは……」
やり返そうとして止めた。近づいたままの顔、草原の風、つなぎ止めた馬のいななき。
「……なんだ、せんのか」
あからさまにがっかりした顔に額をぶつける。
「したことねぇんだよ、つったんだ。出来るか!」
がっかりした顔が輝いて、もう一度顔が寄る。
「甘いぜ!」
横に転がるように避けて立ち上がって、後ろ手に手を振った。
「家康、今日の景色は忘れないぜ」
「儂もだ」
とことこと言う擬音が似合いそうな風に歩き、家康が政宗の傍らを通り過ぎる。
真夏の太陽の強い光、濃い影、逆光の中の小さい背中。
「天下を、狙おうな」
「おうよ!」
青々とした中に小川が流れ、そこここに動物の気配が満ちる。
吹きすぎる風がざわざわと草葉を揺らし、汗ばんだ肌に心地よかった。
「いいとこだな、ここは」
「そうだろう!儂はここを拠点にのし上がってみせる!」
夏草の中、彼は金色の果実のように見えた。同い年の癖に政宗より小柄で、まだ幼さの漂う頬いっぱいに笑った。
「オレの前で言うたぁCoolじゃねえか、家康」
握り拳を差し出すと、家康の拳もまた伸ばされる。
こつん、と当たった感触。同盟の調印は済んだ。もう奥州に戻るべきだというのに、家康と遠駆けなんかに出ている。
「儂が天下を取ったら、政宗はうちに来い」
くりくりした目が覗き込んでくる。
「ok,うちが天下を取っても、オレについて来いよ」
「ははは!儂は我慢強いのが取り柄だ、そうなっても時を待つ!」
このやろ、と笑いながら肩を抱いて揺さぶる。家康も笑って、もがくように腕を伸ばす。
首筋に絡んで、取っ組み合うように草原を転げて、そして戯れのように唇が落とされた。
反射的に突き飛ばすと、手の甲で唇を押さえた。
家康がころんと転げ、そのまま草原にあぐらをかく。
「鈍い、鈍いぞ政宗ぇ!うちに来いと言ったらこういう事に決まっているだろう!」
悪びれない笑顔。
「あーのなぁ……武将にうちに来いッつったら、配下に下れッて事だろうが!
どさくさに紛れて人のFirst kissとるんじゃねえっ」
ぼやくとぴかぴかした笑顔が消えた。
「ふぁ、ふぁー、き?」
「ばぁかkissってのは……」
やり返そうとして止めた。近づいたままの顔、草原の風、つなぎ止めた馬のいななき。
「……なんだ、せんのか」
あからさまにがっかりした顔に額をぶつける。
「したことねぇんだよ、つったんだ。出来るか!」
がっかりした顔が輝いて、もう一度顔が寄る。
「甘いぜ!」
横に転がるように避けて立ち上がって、後ろ手に手を振った。
「家康、今日の景色は忘れないぜ」
「儂もだ」
とことこと言う擬音が似合いそうな風に歩き、家康が政宗の傍らを通り過ぎる。
真夏の太陽の強い光、濃い影、逆光の中の小さい背中。
「天下を、狙おうな」
「おうよ!」
別に恋ではなかった。子犬のじゃれあいのような、掠めただけの口づけだった。
政宗も家康も十六の子供だった。
西海の海賊に、海に出ようと誘われたことがある。
あの威勢の良さは気に入っていた。気が合う友人だった。だが奥州を離れる気はなく、
代わりに伊達の者を外国に派遣しようかと言ったら、そう言う意味じゃねぇって、とぼやかれた。
いい恋をしよう、と嘯く風来坊が訪れて、一緒に城下をぶらついたことがある。
恋のことばかり口にするのに辟易すると、せっかく美人なのにそれじゃ駄目駄目と笑われた。
なんなら俺とどう、と誘われて、遠慮しとくぜとあっさり断った。
気が向いたら連絡くれよ、とまたどこかへ旅だった、あの気負いのない背中。
政宗も家康も十六の子供だった。
西海の海賊に、海に出ようと誘われたことがある。
あの威勢の良さは気に入っていた。気が合う友人だった。だが奥州を離れる気はなく、
代わりに伊達の者を外国に派遣しようかと言ったら、そう言う意味じゃねぇって、とぼやかれた。
いい恋をしよう、と嘯く風来坊が訪れて、一緒に城下をぶらついたことがある。
恋のことばかり口にするのに辟易すると、せっかく美人なのにそれじゃ駄目駄目と笑われた。
なんなら俺とどう、と誘われて、遠慮しとくぜとあっさり断った。
気が向いたら連絡くれよ、とまたどこかへ旅だった、あの気負いのない背中。