池田屋城下町
雛菊「はっ はっ はっ …!(港より、海東を追って数分… 気が付けばどこかの街道へ出ていた)はぁ……はぁ……完全に見失ってしまった…(道の真ん中で走りを止め、両膝に手をついて呼吸を整える) 」
―――――――――――― ュン ヒュン ヒュ ン ト ン ッ ・・・ (――――人通りの多い街道、気付けば陽光は鉛に遮られ石畳の床は鈍色に翳っていた。 雛菊が呼吸を整えていると、そんな雨雲の轟きに混じり風切り音が上空から児玉してくる。
正体は明白、中空より豆のような小さな影が飛来していた。それは地上に近づくに比例して大きくなりやがて縦軸に回転する一振りの刀としての輪郭を得て、雛菊の侵攻方向に突き刺さった) 」
「……?」「なんだぁ……うわ、刀?」「あんなの刺さってたっけ」「わしの視力は1.5じゃが狂いがなければ『空』から落ちてきたべ」「やだ怖いわ……ただでさえ『辻斬り』が横行しているのに……」(道ゆく人々は足を止め、その刀と一定の距離を置いて輪を描くようにして人だかりができていた) 」
雛菊「………(…「蕨」…――――)(疲弊した表情に映ろげになる瞳の中に過るかつての面影。親愛なる師より受け継いだ「意志」の刃。それが傍らにないことで生じる寂寥。)―――――!(目の前に突き刺さった刀に、その面影に浮かぶ刃と重なり双眸の焦点が蘇る。そして認識する。目の間にあるものは、自分が今求めているものではない、と。しかし…)……?(天より降りかかったその刀に目を細め、空を見上げては再び刀に視線を落とす) 」
アーロン「………。(人だかりの中にひっそりと紛れて佇んでいた) 」
┣¨ ク" ン (鼓動。一生命のそれは決して『地を介して共鳴する程の圧を持たない』だが、明確にその刀は鼓動を刻み、それは聴覚を持つ周囲の生命体すべてに届いた) ポツ ポ ツ ポツポツポツポツサァァァァァ――――(それに呼応したのか、地に降り立ったそれを追うかのようにして視界を薄く白染にする程の雨が勢いを増して降り注ぐ――――) 」
――――― ドグン 『力を…』 ドグン 『……さぃ』 ドグン 『力を……』 ドグン 『ごめんなさい』 ドグン 『力を……!』 (激しさを増す鼓動の音に乗せて反芻するようにして、愛憎の交錯する嗚咽と渇望が交互に繰り返される。それは徐々に激しさを増し) 『―――――然もなくば『我』に在れず』 (渇望が全てを黒く塗り潰し、かつて雛菊が対峙した覚えのある『罪剣』の放つそれと酷似した邪気が黒い波紋となって広がった) 」
雛菊「この波動は…――――!(刀より迸る黒い波紋に、いつか対峙した罪剣の姿を重ねる)…いえ、これは…(しかしかつて感じた者とは似て非なるその邪気を前に、咄嗟的に腕を突き出し身構える) 」
―――突き立てられた黒煙が渦を巻く。石畳の床の面影は見る影もなく『黒染めの水』で染まり、気化した黒霧が刀と雛菊達を囲むようにして縁を描いて渦巻く。 炭が宙に浮いたかのような邪気は刀を取り込み、やがてそれは『人』の形を成した 」
魔剣月虹「――――――(赤い頭髪、人なのか疑う黒そのものの肌。顔は般若面で覆い、黒笠を目深に被った黒装束の『子供』が、先ほど突き立てられた刀を手に、首が明らかにおかしい角度に捻じ曲がった状態で雛菊の前に対峙した)―――――グキンッッ(角度を手で強引に直すと、手にした刀を斜めに一振りし、刃にこびりついた液体を払う)・・・・・。………。―――――。(黒い瘴気を纒い、小柄なその童はジィッと、殺気もなく身構えず雛菊を鬼の仮面の奥から見据えている) 」
雛菊「……尋常ならざる闘気は虎龍と成りて相対する者に牙を向き、爪を立てるという。…あれは…――――(邪気に顕現され少年へと果てたその姿に構え緩めず、されど表情は険しくなり対立を維持している) 」
魔剣月虹「か……かわせみ……翡翠。翡翠 雛菊 (ぎこちない動作、多重音声のような声でたどたどしく、しかし最後は流暢な日本語でそう呼び、眼前の彼女を指差す)――――もらう、もらう。そのわざ……技……貰うぞ……(明確な闘気を放ち『五行の』構えを取る。その所作、動きの節々には雛菊が忘れもしないあの日。『鑢』と手合わせした際の、彼のそれと重なっているように見えた) 」
BGM♪:東方 Touhou Dance/Techno - Till When?
――――VS 【 自律型変体刀 魔剣月虹 】―――― 」
雛菊「―――!?(何故自分の名を?そう口にしかけた時、全身が痙攣したかのように硬直する)……お師匠…様……?(対峙する影に流るる懐古の念が、自身の五臓六腑に走る気の流れを揺れさせる) 」
魔剣月虹「――――― (初動、雛菊の動きを待つことなくすり足で素早く互いの交差領域<クロスレンジ>に踏み込み)見せろ……魅せろ……―――(上段、火の構えを以って雛菊の『肩』を狙い、縦一文字に振り下ろそうと振りかぶる。その所作から『鑢』の面影は影も形もなく消える。だが)―――――『ヒトキリ』の性を!! ワタシに見せろッ!!!!!!(―――形容しがたい、奇妙な『既視感』だけが消えない) 」
雛菊「―――っ!(踏み込んできた月虹に後れ間一髪身体を右へ反って回避するが)……!?(拭えぬ違和感、抗えぬ既視感の狭間に囚われ、形容しがたい表情で対峙する魔剣を見つめる)…… ス ッ …―――――(荒ぶる鼓動を鎮めようと瞳を閉ざし、深呼吸、そしてゆっくりと流れるような挙動で腕を構え、手刀の態勢をつくる) 」
魔剣月虹「 キィッ ッ (既に黒水に浸され、周囲は黒霧に覆われているため面影はないが先まで石畳の床だったにもかかわらず『床板をこする』ような高音を立てて方向転換。空を切った刀を無駄なく下段の構えに切り替え、雛菊と対峙するが)…………。(構えを解き、右手に黒霧を収束させ『竹刀』を生成。それを雛菊に放り床に転がし――――) ゴンッ カランカラン (予備動作なく、自らの武装も竹刀に切り替わり、再び上段の構えを取る) 」
―――――――― リリリリ……(再び月虹が雛菊と正面から向き合うと、舞台は暗雲に包まれた街道から狐に化かされたかのように『道場』へ切り替わっていた。開け放された雨戸からは暁の陽光が差し込み、鈴虫が秋の根を奏でている) 」
雛菊「……!(突然転がり渡されたその竹刀に視線を落とす)……っ……(かつて師に恩を仇で返した幼き日の頃の描写が覆い被さる様に脳裏に襲い掛かる。しかし…)――――――(以前の刀剣武祭。全身全霊で己が刃を振るい、その罪を切り払った強さが今まさに、負の狭間に囚われた現状を払拭させるただ一つの希望だった―――)――― ス ン ッ (竹刀を手に、上段構え。その剣豪、瞳に揺らぎ無し。) 」
魔剣月虹「――――――(道場の門を潜り枯葉が乾いた音を立て床板に落ちる。それを合図に沈黙を破り、般若面の奥に伺える赤い瞳に火が灯り) ――――ギュ オッ(一歩、床板に亀裂を刻むほどの強い踏み込みで交差領域へ。流麗ながらも圧を持つ『剛』と『柔』を兼ね備えた動きで『上段からの袈裟斬り』『下段からの左切り上げ』『左薙ぎ』の順で刹那の間に蓮檄を叩き込もうとする) 」
雛菊「―――(手慣れた獲物、見慣れた景色への一切の動揺を捨て、ただ月虹と対峙することに集中力を極限に高め、待ち構える。)スン――――スン――スン――(迫る連撃を滑るような足運びだけで紙一重に避けきり、その刹那に間合いをつかみ取る)―――― フ ォ ン ッ (微塵も動かなかった上体が瞬間的に魔剣の懐に入り) ゴ ッ ! (竹刀を伸ばし鋭い突きをめり込ませる) 」
魔剣月虹「 ! (全ての斬撃が紙一重で回避され、突きが正確に胴を捉える。通常であれば足が床から浮き、背後へ吹っ飛ぶが……)グ ルン(衝撃を利用し両足を浮かし、瞬時にバク宙することで前へ突き出された雛菊の竹刀を蹴り上げ……) ダンッッッ (縦に1回転し『天井』へ足をつけ着地、空中にも関わらず、居合が竹刀であるにも関わらず『居合』の構えを取る。その動作は、彼女、雛菊の師よりかは寧ろ……) 」
雛菊「っ……!!(竹刀を蹴り上げられ思わず後退する最中、天井に"降り立った"魔剣、その居合の態勢に目を見張った) ス ッ … ――――(だが、剣に応えるように、自らも腰を落とし「居合」の構えを取る)一刀流居合――――― 」
魔剣月虹「―――――――(同様の構え、否、『自らが模倣』した構えで応える彼女の姿に双眸を見開く。その刹那は、水中に投げ込まれたかのように時が緩やかに感ぜられ―――――)――――――(それは、高らかに彼女の『技』を宣告した) 」
―――【 華 蝶 風 月 】―――
雛菊「――――――――(まるで本物の鋼の刃が衝突し合ったような反響が空間に響き渡った時、竹刀を振り抜いたまま音もなく静かに床へと降り立った) 」
コ ンッ コ ンッ ガランガランッ ッ …… (雛菊より遅れて『両断された』竹刀だった残骸が床板に転がる。剣無くして剣士は名乗れず、明確な敗北を意味した) 」
魔剣月虹「(子供――――当初の雛菊の身の丈を正確に模した姿の月虹が、本来の技の持ち主の放った一撃を受けた抉れた部位から絶えず黒い瘴気を零し音もなく雛菊と背合わせに降り立つ。)…………。(再び静けさが戻り、鈴の音が鳴り響く) 」
――――――全てにおいて"逆だった"。当初の雛菊を模した月虹。そして彼女の師と"重ねられた"雛菊自身。影法師によって織り成された過去の再現を成す舞台。だが、月虹の追体験は、雛菊を演じたそれが師に敗するという『真逆』の結果に終わっていた 」
魔剣月虹「――――――そうか(一人、技の交錯を得て実感したのか、邪気が糸を切ったかのように途絶えポツリと囁いた)―――――『人斬り』の刃ではなかったのだな。どうりで、届かないはずだ…… 」
雛菊「(手にした竹刀が消えていくのを見届けると、背後へと振り返り魔剣の背を見つめる)……夢か現か… 一度は戸惑いもしました。しかし、私の記憶は、師より仰いだ意志は、目には視えぬ「ここ」にあります。(胸中に手を添え)…私はその「心の刃」を信じて太刀を振っただけ。 」
魔剣月虹「――――――(依然として向けたままの背に解を受け、天井を仰ぎ小さな拳を握る。それこそ人のみであれば、血がにじみ出るほどに)『強い』のだな……その刃は。貴女なら、きっと彼女を―――――(一瞬、背越しに雛菊へかすかに濡れた瞳を向ける。心なしか、般若の面は笑みを讃えているように見えた)――――……いいや。それは私が成すべきこと。……(再び小さな背を向け、一歩前へ踏み出す) 」
雛菊「……あなたは…――――(そう問いかけようと踏み出すが) 」
ポ ツ ――――――……ザァァァアアアア(再び素敵がしたたり落ちる。魔剣の一歩を皮切りに道場は跡形もなく姿を消し、雨粒が絶えず降り注ぐ石畳の街道へ戻っていた) ポツ ポツ ポツ (魔剣は竹刀を生成した時のように、赤い番傘を生成し人だかりの渦へ消えていく) 」
―――――人集りは何事もなかったかのように各々、雨宿りの先を探して求め雛菊を残し何処かへ蜘蛛の子を散らすようにばらけていく。心身と降り注ぐ雨空の元、それが残した『地に突き立つ一振りの刀』と、雛菊だけが石畳の街道に残されていた 」
雛菊「…… …… ……!(束の間の幻想の後、頬に感じるしずくの冷たさに現世に還ったとはっと気づかされる)……―――――(その刹那の合間に出会った魔剣が消えていくのを、雨が降り切る中、最後まで見送り続けたのだった―――) 」
雛菊「…ピチャ……ピチャ……―――――― ス …(雨に濡れた石畳の道を歩み、その刀をそっと抜き出す)……(水滴によってより一層輝きを帯びる刀身をじっと見つめ、その刀に秘められた「意志」を汲み取ったのか、それを懐へとしまい、傘もささず街道を後にした) 」
——— 大和 某国某所 ——
———— 『料亭』と将軍は口にしたが、その言葉にはいささかの語弊と遊びが存在した。極道事務所での邂逅以降、柊木 ユキを乗せたリムジンは程なくして速度を落とし停車した。あれよあれよという間に頑強な鉄板で全身を覆う鎧の男達がリムジンを取り囲み、それを『神輿』のように担ぎ上げてしまった。
リムジンが担ぎ込まれた先は言うなれば『箱』だった。それらは連なり、外壁に吊るした瓢箪で夜道を照らし、空を切って広く開かれた一本道を行進する箱……『夜行列車』である。
寝台車、食堂車、果ては『浴槽車』なるものまで備えられいずれも絢爛華麗。目的地『池田屋』に次ぐ宿泊施設の名に恥じない作りだった。既に駅に停車したまま一泊、次の日の夜になって池田屋へ向け発車し二泊目に入ったが、唯一未だに違和覚えるのが—————
自律絡繰「おこツやス。どウぞごゆっくり(完璧な所作で一礼するどこかでペッパーくんの大和カスタムと揶揄された、動く等身大雛人形といえような造形の『自律絡繰』が乗務員であることだった.。現代にあるアンドロイドやヒューマノイドと異なり上下し開講するだけの口、目という簡素な作りではあるが————) 」
自律絡繰「カラカ ラ カラ カラ…… なんなりとお申し付けくだちい、柊木ユキ 様(大和に慣れ親しんでいない者からすれば、まるで生きた人間のそれを埋め込んでいるかのような挙動を見せる『肉眼』は奇怪そのものに感ぜられたという) 」
ユキ「―――はいは~い、どうぞお構いなく~♪(自律絡繰に向けて愛想よくひらりと手を振る) ――――…………まあ、風情はあるけれどねえ。(夜行列車に身を揺られながら、車窓から風景が流れていく様子をぼんやり眺めていた)(居心地は悪くないし、設備も修飾も文句なし。将軍様からはこれ以上ないくらい手厚く饗されていることは分かったけれど……この『自律絡繰』。これだけは気味が悪いわ……いっそ斬って中を確かめてみたいのは山々だけど、さすがにここで品のない行動はできないし……)……ふぅ。(長く垂れた横髪に指を軽く通してため息をつく) 」
自動絡繰「カタカタ……カタカタ…… (幾度となく車内を横行しゆく自動絡繰。用向きがなければ立ち止まることのないそれらだが)カタ………(内一体が、車窓から景観を眺めるユキの前に足を止めた)————柊木様(粗茶にございます、とでも続きそうな動作で両腕揃えてを前へ差し出す。楕円形、漆乗りの茶受けのみ。文字通り空だった)あちらのお客様からでございます。 」
ユキ「…! (自律絡繰の呼びかけに気が付き、用件は何かとそちらへ顔を向けると、)え……空じゃない、これ。もしかして壊れちゃったんじゃないの—(ジト~っと自律絡繰を見やり、末尾の言葉が気になり視線をそちらへ向ける)で、あちらのお客様って―――― 」
自動絡繰「ギ ギギ ギギギ…………(腕づくで錆びたネジを締めるそれと似た歪な音が響き渡った。首が、眼球が右向きに半回転し、ただ夜景が流るる向かい側の車窓を指した) あ" さ ら ノ お 客 様 で ス ————— 」
『カラン……カラン……………』 先まで列車の振動にも微動だにしなかった吊り下げ照明が震える小鼠のような乾いた音を上げ揺らめく。チリチリと、弱々しく呻いて点滅し始めた
ユキ「……えーっと。(自動絡繰が指し示した方向に眉をひそめ、怪訝そうな表情で自動絡繰を見やる)……はぁ、もういいわよ。あっちに行ってて。少し休んでるから……(と言って席を立とうとしたところ、列車内の異変に気がつく)……やだ、ちょっと勘弁してよ―――― 」
自動絡繰「あさラの の あち アチら の あち ああああああああアァアアアアアァァァァァァ ブツ ————気いつけぇや、あんさんに『蟲』が巣食うとるさかいな—————(明確に『何か』が介在したノイズ混じりの言の葉を発し—————) 」
—————— ギュ う”ォグ (自動絡繰の口から鮮血と共に『刃』が這い出る。うなじに該当する部位に『打刀』が突き刺さり、血袋が破裂したかのように鮮血の濁流が差し出されたトレーに注がれるというグロテスクな光景が刹那的にユキの眼前で繰り広げられ) 」
>> カ チ ッ <<
—————奇々怪界な絵が展開される景色が、幕を下ろしたかのように暗転した。 ゴトリ ゴトリ ボヅボヅ 重く、液体を含んだ何かが床に転がる音が暗がりのみとなった車内にただただ児玉する 」
ユキ「――――――。(眼前で繰り広げられた一幕に瞳が縮小し、ぞわっと悪寒が背筋を走った) バッ!! (暗転と同時に、その場に這うかのように姿勢を低くして腰に差した白刃―――垂氷丸の柄に手を触れる)(只事じゃないわね。何かに介入されてる―――) 」
照明が安定し色が戻る。車内の景色は暗転する以前と打って変わっていた。首が胴体と泣き別れし『血溜まり』を生成する自律絡繰の死骸が転がっており、右列側の窓は全て開け放され突風が吹き抜ける。何より特筆すべきは、ユキの眼前に唯一佇むその影が————
魔剣月虹「—————(明確な『邪気』……ゼロリアーと似て非なる黒い異風を渦巻かせていることだった。そいつは血塗られた黒装束を靡かせて背を向けている)………キ。ヒイ ラギ 柊木 ユキ……(最初は辿々しく不明瞭に、そして二言目には流暢に、男とも女とも取れる複合音声を発し)ス……(踵を返しボロ切れを何重にも巻かれた手で、彼女を指差し該当する人物であるかを問うかのように小首を傾げた。赤い目だけが唯一人の面影を形作る、黒い肌ののっぺらぼうを向けて) 」
【BGM】:Fate/Stay Night: Heaven's Feel OST - Lancer and Assassin (00:00~01:50)
ユキ「………こういう修飾も嫌いじゃないわね~(列車内の照明が光を取り戻し、赤く染まった床や壁を見て鼻を鳴らす)ええそうよ、あたしが柊木 ユキ。『人斬りの氷女(ひめ)』なんて呼ばれ方をしたこともあるわね(胸元に手を当て、これまた愛想よく自己紹介をする)――――で— あなたはどちら様なのかしら—(ユキの纏っていた温和な雰囲気は一気に冷え込み、薄く牙を剥くように嗤い魔剣月虹に対する敵意を剥き出しにする) 」
魔剣月虹「—————(鯉口を切り、線路と平行する高速上を走るトラクターのフロントライトに、抜き身の刃を晒した)————“抜け殻”……あなたという”頂”を越えようとした誰か。(凛とした『少女の声』で答え、堂に入った無業の位、隙だらけだが時点の行動を読まれにくい態勢に移り、一歩、靴底を鳴らして一歩ずつ距離を詰めてゆく)その技……頂こう……『最強の剣豪となる者』 」
VS【 完成形変体刀 魔剣月虹 】
【BGM】:Fate/Stay Night: Heaven's Feel OST - Lancer and Assassin (01:50~)
ユキ「ヒイラギの剣……簡単に盗めるなんて思わないことね。ああ……うふふ、どうしてかしら。(半歩引いて半身になって居合の姿勢を取り、自身を中心としたドームを意識する。そこが自身の刀が届く領域。)こうして新天地の剣技を”味見”できると思うと……ゾクゾクしちゃうわ――――!!(魔剣月虹が一歩ずつ歩み寄り、その領域を侵した刹那―――) ヴ ォ ン ッッ!!! (横一文字。バカ正直で力任せな一閃を見舞う) 」
魔剣月虹「(斬撃が眼前まで迫る。刹那が数秒に感ぜられる程に、時は速度を失い、胴体を両断せんと閃く閃光を視界に捉え)———————。(黒ののっぺらぼうに刻まれた眼と思しき赤い線がカッと見開かれる) キュッッ (摩擦音を鳴らし靴底で床を擦るようにして僅かに後退、僅かにヒットポイントをズラし腹部の表面を切っ先が抉るに留め。)クン ッ フ オッッ (刀を鞘内に収めたまま、後退した際の”溜め”で力を増した空手の”正拳突き” 『お手本のようなカウンター』を穿ち、時が通常の速度を取り戻す) 」
ユキ「(え――――) フ ッ ドンッ!!(まるでそのカウンターを予見していたかのように、はたまた何度も脳内で反芻し予め用意していたかのように素早く応手を取る。床に這うように姿勢を低くし、先程までユキの頭があった空間に魔剣月虹の拳が放たれる。そこから立ち上がる足のバネを最大限に伸ばして肩による当身を喰らわせる) 」
魔剣月虹「————!(拳が虚を突き抜け、消失した攻撃対象を探すも束の間) ゴッッ (鈍い、それでいてどぶ沼に埋もれた枝にぶつかったような感触がユキに返る。当身は肋骨を捉え月虹の身体を浮かせていた) クル ン (バク宙し態勢を整え着地し態勢を低く屈める)————キン(鞘内に収めた刀の頭に手を添え、今度は『ユキがそうして見せた』ように、居合の構えを取り) ┣¨ッッ (真っ向から突進、予備動作に忠実に『居合』を放とうとしてくる) 」
ユキ「どういうつもりなのかは知らないけどッ、一度見せてる技は通用しないわよッ!!(抜刀し、刃を立てて壁を作りながら魔剣月虹を迎え討ち、逆袈裟→袈裟斬りの二振りを繰り出す) 」
魔剣月虹「(居合が通らない、その結果を予見していたのか落ち着き払って床を蹴り間合いを開け逆袈裟を肩にかすめる。その際に腕の神経に狂いが生じたのか刀を手放してしまい、続く袈裟斬りへの対抗手段を失う)————憑依経験・限定臨界————(————が、動じる気配はない。自動絡繰の流血が糸状に吸い上げら顔面に収束、『悪魔』を彷彿とさせる山羊の角を生やした面を被り) 」
魔剣月虹「 ジ ッッッ (手元に周囲の流血を集め生成した『血の柱』を生成、微量な電流を流し赤く発光する『幻影剣』を顕現させそれを逆手持ちにし袈裟斬りを受け止めた) パ ァァァァァンッッ!!!!(両刃の衝突は円状の波を広げ周囲の照明、窓ガラスを砕いてしまう) 」
ユキ「(捉えた! これで断ち斬る――!)(逆袈裟の微かな手応え、次いで放つ袈裟斬りに一層力を込めて振り下ろすが、)なっ―――――(魔剣月虹が顕現させた血のように赤い『幻影剣』に驚愕する)くっ…! ガギンッ!! (そのまま刃を滑らせて鍔迫りから脱出し、バク転して距離を取り間合いを仕切り直す)―――あっははは!面白い曲芸ができるのね! いいわよ、今度はあたしも面白いモノ見せてあげるわ……!(愉しくてウズウズしたように歯を剥いて嗤い、ユキの周囲に比喩ではなく冷気が発生し、車内の温度が急激に下がっていく) 」
ユキ「――― 霜晶ノ夢【糾】 ――― 」
魔剣月虹「 パ キ ッ …………。(霜に侵食される窓ガラスを横目に一瞥し、”始めて”温度の急速な低下を視覚で認識する。)ヒュ―――ドドドドッッ(腕を真横へ一振り、それを合図に周囲に散乱していた自動絡繰の血溜まりが吸い上げられ、月虹の前方へ”血染めの幻影剣”が規則的に並び”壁”を成した。それからは微動だにせず無行の構えで放たれるであろう一閃を黙して待つ) 」
ユキ「 ヒ ュ ォ オ ォ ―――――(禍々しい呪印が体表に刻み込まれ、体内を循環する”エーテル”が氷元素の極性に変容する。その変化は両の腕に蒼白の筋が伝い手に握っている愛刀垂氷丸にまで影響を及ぼし、触れる万物を凍て付かせる氷獄の剣と化した)(まるで防壁、警戒されているのね。この調子のまま真正面から切り結ぶのもいいけれどそれは先にようなカウンターが怖い。だったら―――)―――こんなのはどう!? ドスッ! (床に刀を突き刺す。瞬間、) 」
パキパキパキッ――――(刀から伝わる冷気で床を凍りつかせる。しかしそれはその場に留まらず指向性を持ち、防壁を潜り月虹の方へと床を伝って奔ってゆく)―――― バ キ ン ッ !!(突如、凍りついた床から鋭い氷刃が突出し月虹を貫かんと襲いかかる)
魔剣月虹「――――(這い寄る冷気を感じ取るや、面の奥で赤い眼球に動揺の色が見える) ク ル ン ゾ ブッ(床を手で叩き反動で全身を浮かせ後方宙返り→身を捩るように上体を捻り当たり判定を少なくし、氷刃が腹部を "深く抉る" 程度に損傷を抑え致命傷を避ける) ガッ (先に突き刺しておいた幻影剣の柄頭に足を乗せ着地。刃をスケート靴のように扱い、地を這う冷気の上を滑走。ユキへ居合の構えを取ったまま間合いを詰めに行く) 」
ユキ「あっは…!♪(氷刃が月虹の腹部を捉えた様に、口元を歪めて嬌声を上げる) (―――刃をスケート靴に……!)なあにそれ、素敵!そんな事する人、今まで見たことないんだけど! ザギンッ(月虹の芸当に心の底からワクワクしているような様子で、車内の座席を切り取る)それっ!(切り取った座席を迫りくる月虹へ蹴り飛ばし、進行を阻もうとする) 」
魔剣月虹「 カ 【憑依経験】 チ ッ (顔面を覆っていた悪魔面が”一輪の花”へ変貌し左目を中心に顔半分を覆う。間合いの外から迫る投擲物へ、打刀のリーチでは本来届く筈のない距離から居合抜きを放つ) キュ オ ッ (椅子は両断され、打刀の尺からして届く筈のない間合いであるにも関わらず刃先がユキの頸へ向かって襲いかかる。両断された椅子の裂け目からは顔半分を『雛菊の花』で覆い、『異様な長さに伸縮する刀』を手にした魔剣月虹の姿が見えた) 【 能面演舞 】 」
ユキ「………?(ただの予感だった。歩んできた数多の修羅場で培われたユキの予感、知覚している理性の外側からカンカンと鳴り響く警鐘。『このまま呆けていては死ぬ』と、本能が激しくユキの理性に訴えかけていた。)――――ン゛ッ!!?(そしてその警鐘は結果としてユキを救うこととなる。ほんの数瞬前、自身の頸があった場所を捉えていた『伸縮する刀』を見て、頸を刎ねられた自身を想像してサーっと血の気が引くと同時に、やはりタガが外れてしまっている彼女は――――笑みを浮かべたのだった。) 」
ユキ「ねえ……本当になあに、それッ!!(得物が伸びた月虹に、好機到来と言わんばかりに素早く攻めに転じる。体をほぼ水平に飛ばすように、ほんの2回だけ床を蹴って距離を詰めきり連続で斬撃を浴びせる) ヒュガガガガガガッ !!! (この閉所で長物を取り回すのは至難の業…! ここで押し切るッ!) 」
魔剣月虹「(『奇策を以って急所を突けたつもりだった、相手の思惑の虚を突き撃てる筈だった』『だが目の前の女はこれを超えてくる、さも死地が極楽であるかのように悦を得て超えてくる』『理解し難い、まるで――――』)――――ッ(バックステップを踏み一撃目を回避→上体を反らし胸部の上を斬撃が掠める→バク転で再び距離を離し三撃目を避けるも壁際まで追い詰められる) トンッ トッ (軽く跳ね四撃目を回避、靴裏を壁に当て着地 → 壁キックでユキの頭上を移動しつつきりもみ回転し、小太刀ほ程まで収縮させた刀を頭部めがけ振るう) 」
ユキ「――――!!(また躱された! くそ、あと一歩…! あと一歩でも追い縋れれば―――) ッ!? あッ、と とッ……!!(最悪……!)(意図せぬ月虹の壁ジャンプ、収縮させた小太刀に意表を突かれ、頭部へ振るわれた一刀を無理に体をひねって躱そうとしたのが仇となり、足を縺れさせて決定的に体勢を崩してしまう) 」
魔剣月虹「 トッ ヒュ ガッッ (着地と同時に振り向き側の横薙ぎ一閃。これで仕留めようと打って出るが) ガ クッ ( !! )(先に氷刃で抉られた脇腹の傷から絶えず血が吹き出体勢を崩す。傷を追えば当然とも言える状況だが、月虹にとっては違った)……!?………ッ(『再生しない……ッ 損傷部位の『凍結』が阻害しているのか……』)ッ―――――(ユキの前に跪くようにして手を突く。決定的隙が生じるが、尚も構わず食らいつくようにして両腕を振り上げ『幹竹割』を繰り出そうとする) 」
ユキ「 ヒ ュ グッ……! (先に体勢を立て直していたユキは鞘に納めた垂氷丸の両端を握り掲げて、両腕を振り上げた月虹の腕にぴたりとくっつけて抑え込み、幹竹割りの出始めを挫く) そ ぉ れぇッッ!! (面と向かい合った状態で思い切り足を突き出す―――いわゆる渾身のヤクザキックで先程抉った脇腹を目掛け、さらなる追撃を狙う) 」
魔剣月虹「 ゴッッ (前蹴りがクリーンヒット、凍結した外皮が砕け内側に破片がめり込み内部をズタズタに引き裂く。痛覚こそないが損傷が激しくなる肉体では耐えきれず) ギギ ギギギ……ッッ(刃を床に突き立て抵抗するも突き飛ばされ、窓に背が密着し追い詰められる) ガ ァ ァ” ァ” ァ” ァ”!!!!!(人のものではない窮地に追い詰められた獣のような唸りを上げ、死に物狂いでユキへ反撃に打って出ようとするが――――) 」
ユキ「 ―――オ――――オ――ォ―オ―――オ――ォ―――オ―――― (居合の構えを取ると冷気の奔流がユキの周囲で荒び始める。それとは対照的に、波一つ立たぬ静謐な瞳で月虹を射抜く)(このユキが誇る瞬撃必倒の技をくれてやる、胡蝶の夢に沈みなさいッ―――――!!) 氷 翼 刃 ・ 雪 華 晶 閃 ッッ ! ! ! (――閃光。――暴風。――氷結。鞘から解き放たれた氷獄の剣は大気を切り裂いて横一文字を刻み込み、斬撃波が雪崩が如く打ち寄せた。一閃の延長線上にある一切合切、後部へ続いていた車両さえも断ち切られ、まるで時をその場に切り取るように氷漬けにしていく) 」
魔剣月虹「(血染めの幻影剣がものの一瞬で純白の氷柱へ変異、四散し容易く貫通した斬撃が肉薄する)―――――――(胴へ斬撃が入る刹那が数秒に感ぜられる錯覚の最中、”死地”を五感で感じた。視覚が、触覚が、聴覚が、肉体から得られる情報全てがホワイトアウトし―――――――)
凍結、暗転し『音』『熱』『色』を失い黒に染め上げられた世界へ
“ 一 閃 “ 斬光が駆け抜ける 。
鋼を、空を、一切を一ノ字に刻まれた境界が別つ。刹那の瞬きの内に世界が色を取り戻す頃には、月虹の胴体から上は至極当然な浮遊感の最中にあった。凍てつく鉄の塊と化した後続の車両、諸共竹やぶの如く両断されていたのである
――――――『 リン と鈴の音が児玉した気がした。この閃劇を知っている。何処かに忘れてきた熱は、この細雪が連れてきた事を知っている。』
後続車両を繋ぐ連結器が凍結し砕けた事で、車輪が断末魔の金切り声を上げユキの眼前から遠く、暗闇へ置き去りにされてゆく。ネオン街の色彩に彩られた氷像として、胴体と泣き別れた月虹の半身を連れて置き去りにされてゆく
――――――『 この閃劇を知っている。彼女か、或いは私が見た『頂』に立ったあの剣士が佇む細雪の景色を覚えている』 」
魔剣月虹「――――――――。――――――――― ピ キ ッ (凍結し白染にされた体表に亀裂が走る。 線路から車両の残骸と共に『池田屋近海』へ堕ちゆく最中) ピ キ ッ (月虹に変化が生じた。『冷気』が体表から吸収されている。月光を反射する海面へ衝突ししぶきが上がると、そこに月虹の姿は既になく不気味な沈黙だけが残された) 」
最終更新:2021年11月26日 01:39