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― カーディナルゾーン・第3区画 ―
ネモ「―――――……ハッ…ハッ……ハッ……!(親友の
メトロと共に迷宮を無事に抜け、何者もいない開けた通路へとついに身を乗り出す) 」
メトロ「はぁ…はぁ……!迷路…抜けられたみたいだね……! でも…他の人たちは…… (かけながら後ろへ振り返り、自分たちが辿ってきた道へ振り返る。しかし、そこから誰かと合流する気配はなかった) 」
ネモ「わからない…っ… ボクたちが早く着いたのか…それとも遅すぎたのか… どっちにしたってこのまま突っ切っていかないと、時間が…!(募る焦燥感に呼吸に微かな乱れが生じる。
エリノラを救う。その一心でここまで来た。今更なりふり構っている暇などない。そう、覚悟を決めていたが――――) 」
―――――――――――――――― コ ツ リ (暗雲の先、ブラックアウトした空間から革靴で床を鳴らすような音が響く。それは、こちらへと向かう二人の少女に待ったをかけるかのように。)
ロイエ「――――――――― (――――― 闇の先から、老紳士が一人、赴いたのだった) 」
ネモ「――――――――― ! ? (反響する靴音に急停止。胸の中でざわつく衝動の原因に、目の前に現れた見知った老人を重ねたのだった―――) 」
メトロ「……!……ロイエ…さん……っ…(見間違いなんかじゃない。信じられない。そう言いたそうに喉を震わせ、ネモの背後から対峙するように現れた老紳士を得難い表情で見つめていた) 」
ロイエ「………………(依然とした紳士たる佇まいを維持する老翁。そこには覇気も憎悪も感じられないが、「譲れぬものがある」という強かな矜持をその胸に秘めたような険しい目つきをしていた) 」
ネモ「……(案山子のように微動だにせず佇む老紳士の姿に、思わず伏せかけていた顔を上げた)……いつからボクたちを騙していたの……? 」
ロイエ「……当ゲームのNPCに任命されるよりもずっと前から、わたくしは『ワールドセイバー』に忠誠を誓っておりました。わたくしがこの役職に就いたのも、すべては閣下が根回しをいただいたが故。そうして身分を偽り、この幻影の巨塔に潜伏していたのです。 」
ネモ「……最初から…騙していたんだね… マスターのこと……すごく…信頼していたのに……(小さく歯ぎしりを鳴らす) 」
ロイエ「……お許しください。ですが、後悔はしておりません。我々「ワールドセイバー」は様々な場所で潜み、時が来るのを待っていました。何年、何十年と… そして、ついにその時が来たのです。我々が幻影の巨塔を制圧し、『ロギア』を手にした時、世界は新たな時代を迎えるでしょう。 」
ネモ「マスター…ッ…!そんなの、間違ってるよ…!どうして……どうしてマスターのような優しい人が…テロリストの人間なんて…っ…!それも…あんな恐ろしい化け物を解放しようとして……いったい何を考えてるの…ッ…!?全ッ然理解できないよ…ッ…!(今にも涙ぐみそうな感傷的悲痛の声で訴えかける) 」
ロイエ「……ご理解いただけぬのも無理はありません。ですがそれは、新たな時代の人々が決めてくれるでしょう。 」
ロイエ「……さて…(ここで、金色(こんじき)の懐中時計を手に取り、その時刻に視線を落とす)……間もなく我らが閣下…
セレディ様がすべてを手にする頃合いでしょう。わたくしはその悲願を達成させるために、ここで貴女がたを阻止しなくてはなりません。できることでしたら争いごとは避けたいものです。どうか、穏便にお引き取り願います。……お互いの為に。 」
メトロ「……ぁ、う……(争いごとは避けたい。それには同意である。しかし引くには引けない理由がある。戦いに身を投じたことのない自分にとって、この状況は躊躇いが生じるが…) 」
ネモ「………お互いの…ため……?ふざけないで…っ…… 」
メトロ「……ネモちゃん……? 」
ネモ「こんなの……――――― 誰のためにもならないじゃんッ!!(怒り任せに、身を震わせて叫ぶ) マスターの言うことも、運営の考えも…大人たちの言葉なんていつもそうだ…ッ!知ったようなことを言って何も知らない!!信じていた人に裏切られて確かにすごくショックだった…でも…今この状況で一番傷ついてるのは―――――― 友達《 エリノラ 》なんだよッ!!! 」
メトロ「……! 」
ネモ「大人たちにいいように振り回されて、それでもぐっと堪えて我慢して…ゲームを楽しんでる私たちに悟られないようにずっと笑顔のまま導いてくれて…!そんな自分の存在さえも否定されて、ついに壊れかけたりもした…ッ! 今はなんとか立ち直ってくれたけど…もうっ……あの子があんな目に遭うのは、見たくなんかないッ!! 」
ネモ「誰の為になれるかどうかなんて、そんなのは自分が決める…!!今……戦わずに後ろへ振り向いてしまったら…ボク自身が裏切ることになってしまう。そんな大人にはなりたくない…だから戦うッ!本当に信じられる友達のためにッ!! 」
メトロ「ネモちゃん……っ…(いつだって、彼女の心の強さをずっと傍で見守ってきた。時々お調子者でおっちょこちょいなところもあるけれど、「友達」を想った時に見せるその横顔は、名のある大剣豪にも比肩する気迫がある。もう、今のネモに迷いはない。彼女なら、きっとこの苦難の道さえも切り拓ってくれる。そう確信した――――) 」
ロイエ「…………(啖呵を切る赤毛の少女に、老紳士は懐疑も否定も露わにしない。ただ受け入れるように黙して佇み、その時がくれば動くように…)…………わかりました。それが貴女様の決意表明ということであれば致し方ありません。こちらも全力でその意に応えなければなりません。(取り出したのは、モンスターボール。紅白の球体を静かに前方へと投げ放った) 」
ヨノワール「 ボ ム ッ (ロイエの投げ放ったモンスターボールから現れ出でたのは、大きな両腕を持つ、足が存在しない亡霊。赤い単眼を妖しく輝かせると、主を守るかのようにネモと相対の構えを取った) 」
ネモ「――――!(ロイエが召喚したポケモンの出現に合わせるように、腰に携えた鞘から抜刀。固有霊装のホムラを纏った黒刀をその手に手繰り寄せると中段の構えを取った) 」
ロイエ「貴女様の覚悟は十分に伝わりました。であれば、こちらも慈悲を与える余裕はございません。ご容赦くださいませ。 行きなさい、ヨノワール。 」
ヨノワール「―――――― グ ゥ オ ォ ン ッ ! (剛腕を振り上げ、砲弾の如き勢いを以てネモへ殴りかかる) 」
ネモ「……!(――――― ボ ォ ォ ァ ァ ァ ア ア ア ア ッ ! !)(襲い来る亡霊に、身構えていた焔刀で薙ぎ払い迎え撃つ―――――) 」
最終更新:2025年07月28日 23:32