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ーー某日 09:30 池田屋ーー
徒紀和「(菫色の座布団に爪先を揃え、およそこの場には相応しくない俗な絵柄の少女漫画雑誌を左団扇にはんなりと座す黒髪に和装の少女が一人、甘香を錯覚させる妖艶な微笑みを浮かべ目を細め)ーーーー昨夜はえらいやかましゅうかったなぁ……皆はん、大事なかったん?私は床に伏して今月の『はなとゆめ』にうつつぬかしとったんやけどなぁ……ここにおらん坊ちゃんが心配で眠れんかったからよぉ?ほんまよ?(とろけるような猫撫で声を眠たげに発した)
【大和老中 徒紀和姫】
伊蒼「(徒紀和姫の左隣。人二人が座れる程の間を開け、枯葉を思わせる茶の頭髪に黒縁の眼鏡、端正な顔立ちの男が同じ座布団に座す。直角に背筋を伸ばしお手本のような礼節の伴う佇まいながらも自然体にある微笑を浮かべていた)ーーー麻統君は不在……否、行方不明知れず。あれもこの国の大切な臣民の一人。将軍様も大層気を揉んでおられる。我々としても捜索に総力を尽くしましょう」
【大和老中 伊蒼 義隆】
宗方「(徒紀和姫とは向かって対局、伊蒼同様に正しく礼節に習った佇まいだが、膝に添えられた手は無行にありながらも、岩がそこにあるかのような圧を以ってしてその初老の男は存在した。発する言の葉は一言一句全てが濁りながらも聞く者を見下すような手応えがある)ーーーー聞けば逆賊による奇襲に有ったのだとか。某の兵を置けばあのような失態は起こらなんだろうに……。時に、その逆賊はアヤセ君の報告によれば巷を賑わす『公安部・出店』によるものなのだとか。某としてもそのような存在の有無が眉唾な組織、信ずるには値せぬと考えてはいるが」
【大和老中 宗方 忠成】
アヤセ「(伊蒼の対局、空の座布団より一歩引いた座敷に正座し、捉えどころのない狐目の微笑みを浮かべる女性が一人)ーーーーいえいえ、あれは麻統様がそのように仰せになったという事実をそのままにお伝えになっただでしてね。私としては真意はどこにあるのやらといったところにございます」
【麻統家当主補佐官 アヤセ】
伊蒼「捜査の上では麻統君の身辺操作は欠かせない。ついては当局が私の指揮の下麻統亭を捜査させていただくこととなるが構わないかね、アヤセ(身分としては下にある彼女に、分け隔てなく向ける親しみを同様に向け微笑みかけを問いとした)」
アヤセ「長官殿より直にお力添えをいただけるなど恐悦至極、これ以上の助け船はございません。異論など滅相もありませぬ(狐目を一層緩ませ、心底安堵したように眉を八の字に、笑みを一層弾ませる)」
宗方「ーーーー我々軍部は術からず、『謀反』とも取れるこの事実が臣民へ公とされない以上は不動にあらねばならぬ。この件は、麻統を拉致した逆賊の討伐を覗き伊蒼殿に一任する(全く微動だにせず、目を伏して首を縦に振る仕草の代替えとして肯定の意を示した)」
徒紀和「ウチもかまへんよぉ。(開き、視線を落としていた花とゆめを閉じ、頰に手を添え顔を上げる)なんせ荒事は異なる田畑ですからぁ……あー、できることと言えば麻統の坊ちゃんがお帰りになりはった暁にはとびっきりの海の幸でおもてなしさせていただくぐらいやねぇ。ただぁ……」
徒紀和「ーーーーーーーーーー(柔らかく細まっていた目が一瞬、相対する全てに切り込むような鋭さを得た)次は『誰』んとこに来はるん?いくら『お国の為』とはいえ、ほんま堪忍よ『どこから来たかもわからん玩具の相手するん』……。まさかうちのとこじゃあらへんよなぁ……?でぇた取れるような優秀な子おらへんよぉ?」
宗方「ーーーーー。はて、貴殿の言の葉は時に雲を摑むよう。なにゆえ、”我等”へそのような問いを向けられるか、何か謀が我等に有りとでも(依然として動かず、しかし膝に置かれた手は僅かに筋張り彼の心中で穏やかではない何かが明る様に徒紀和へ向けられていることが伺える)」
徒紀和「いややわぁ宗方はん。そないおっかない顔せんといてな?ただ、強面の殿方をお国の至るとこ走らせとるあんたはん方なら何か事情通じゃなかかぁと、藁にもすがる思いで訪ねただけよ。ほんまおっかないもん。お二方様とちごうて、うちの手勢はみんないんてりやさかい。『魔剣』なんかに入り込まれたらあきまへんて、これから毎晩枕を乙女の涙に濡らすこととになってまうわほんまもう怖ーてなぁ……」
伊蒼「宗方さん、そのように疑ってかかるものではない。(表情を崩さず手を上げて彼を制し、眼鏡を指先で整える)徒紀和姫が危惧されるのはご最もな話。現状国内の武闘派機関は麻統君亡き……ゴホッゴホッ、麻統君不在の今、我等がその全てを担っている。此処は一つ、この問題を麻統くんの誘拐に限らず『将軍様御身』にも危害が及ぶ可能性を考慮し協力すべきでは」
宗方「異論はなし。しかし元より『月虹』は”我等の内誰か”が将軍様御身を思い運用に至った物。であれば”その切れ味”は、”そこに価値を見出した当事者”がよく心得得ていよう。この騒動も『将軍様御身』を狙ったものの一端である可能性も考慮すべきではあろう(明確に徒紀和に疑いを向ける言の葉を平然と口にしてのけ、岩のように不動であった上体を捻り、明る様に徒紀和を見やる)」
徒紀和「そならまずは、仮に逆賊がおるとしてそれを敵と仮定し、その敵が『何者か』はさておいて『どのようなものか』目星を立てとくのが現段階での最善と思いますわ。商いにしても然り、まずは相手はんの持つ札の絵を把握せんと迷子になってまう(自身に疑心を向けられてもこれは当然でしかるべきことと言わんばかりに微笑みをたたえたまま淡々と)」
伊蒼「ーーーーーその件に関して、私の方で昨夜部下と物議を図った。まずは私の考えをお聞き頂きたい(両者の”化かし合い”に冷水を差すように一言)」
宗方「……(徒紀和に追撃するかのように出かかっていた言葉を飲み込み伊蒼へ視線をずらす)うむ、申してみよ」
伊蒼「現状将軍様は我が国において一般的には『神格化』されている。その威光はあまりに輝かしく、凡人には眼に余る。すなわち『実態があるか』も解せない筈なのだ。ともすれば、我らのように将軍様は神に等しいながらも、浮世におられる存在と認識し初めて『暗殺』を企てるに至ることになる」
宗方「ふむ……その心は」
伊蒼「ーーーーー宗方さんの仰る通り、民草より上……すなわち公務に務める何者かがこの計画を案じたのではないか」
徒紀和「なんやぁ……やっぱ伊蒼はんも身内疑っとるんやないのぉ……うちだけ?みなはん仲良しこよし、将軍様の下に心は一つ、同じ盃交わし合ったと思うとるんは(口元に手を添え置いて眉を顰める、心持ち穏やかではない状況というのを今更認識したと言いたげに)」
伊蒼「『魔剣』が振るわれたのは麻統君の屋敷だったそうですね。老中の屋敷は任意に開け放している徒紀和姫のそれを除き、厳密にその所在地を隠されている。情報を知り得るのは将軍様と各老中直下の家臣……すなわち」
宗方「ーーーー麻統の身から出た錆であった。あの家は辛うじて『空軍開設』という偉業のみに支えられ形を保つ砂上の城のようなもの。これに不満を持った家臣の謀反とすれば『それだけの話』に終わるのではないか」
伊蒼「ええ、それだけの話です(黒縁に指を添え整えたレンズは陽光を写し、その目の色はうかがい知れない)魔剣襲来と老中の拉致は『その存在の重要性』を餌に、我々の関心を向ける釣具に過ぎないのではないでしょうか。この件にばかり焦点を当てては、そも我らが何を守るべくこの場に集ったのかを見失うというもの『老中一人』の為に『将軍様』の守りを疎かにするというのは如何なものかと」
アヤセ「なるほど!(掌の上で拳を弾ませる)『バーサーカーの拘束術式が解除』され、暴走したのも市中で騒ぎを起こし悪戯に民衆の不安を煽る将軍暗殺の前準備であった!と! ああ失敬、私めなどが……切腹も辞さぬ所存故(ジャパニーズ土下座)」
伊蒼「構わないよ、大方君の予測と合致している。そも、あのような獣が、はずみで麻統君を殺害したならまだしも『拉致』に至ったというのが解せない。麻統君は出世欲こそあったがそれを叶える軍備のない、彼の武器は自身が『老中』であるということ。即ちこの一連の事件は……」
徒紀和「ああそゆこと!全て坊ちゃんの狂言回しゆうことね。ほなら安心やわぁ……『ここにいない誰かやもうて面と向かった隣人が謀反を企てていた』なんてシャレにならへんもんなぁ!(華やぐ笑顔を咲かせ、両手を合わせ頰につけ猫なで声を弾ませた)そないことなら『まだここにいる皆はん』とはまだまだ仲ようやってけそうやねぇ……あんじょよろしゅぅ」
宗方「ーーーーあくまで、推測の域を出てはいないが(茶を啜り)ーーーーーーー某も異論はあるまい。とはいえ確証のない以上は下手は打てぬ。此処は麻統招二を重要参考人物として御身の確保に勤めて頂こう」
伊蒼「ご理解頂き感謝致します。(お手本のように辞儀を交わす)彼が謀反の主犯などとは、口が裂けても言えませんが『関連性』は十分に疑って然るべき。捜査は我々が根回しし宗方殿も存分にそのお力を振るわれるよう手配いたします」
宗方「ーーーーー(昂りを抑えられなくなったのか、腰に差しら刀に無意識に手を添え置いてしまう。それを自覚すると)ふふ……青二才が、気回しの上手くなったものよ。年老いればこそ、刀は振るわねば錆び付くというもの(それはそれは、酷悪な獣を内包した笑みを覗かせた)」
徒紀和「あらややわ……男の子ってばすぐそればかりなんやからぁ……やっぱ怖いわぁ。うちは厳重に戸締りしますさかい、荒事には巻き込まんといてな?」
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ーーーーーーーーー父は大和でも有数の国立大学に籍を置く教師であった。忘れもしない、夏のある日のこと。父は私の通う寺小屋へ特別講師として訪れ歴史の教養を広めようと講義を開いた。無論童向けの、基礎。大和における常識を解くようなものに過ぎなかったが
「ーーーー『白鬼』は、建国からおよそ100年より我々大和臣民の領地に現れ悪さをするようになりました。作物を荒らし、手当たり次第暴力によってみんなのご先祖様からあらゆるものを奪ったのです。 これを説得したのは、今の将軍様のご先祖様。一代目将軍様に当たります」
誰もがそのような成り立ちに興味はなかった。将軍様は偉い、鬼はすべからず悪い。その程度の認識さえあれば何不自由はなかった。今思えば、父がこの当たり前のことを改めて当たり障りもなく解いたのは、祈りにも等しい無言の訴えに等しかったのかもしれない
「ーーーーお父さん」
「おお義隆。どうだった?父さんの授業。少しはお前もゲームなんかより歴史に興味が湧いたんじゃないか?」
「うん、それもそうなんだけど……今はわからないことがあって、気持ち悪くて……」
「珍しいな、なんだって知ったかぶりしてたお前がなぁ?父さんに言ってみろ」
「ーーーーーーー白鬼が『いつからそこにいたのか』、そもその将軍様が『いつ地位を引き継いだのか』……どこにもはっきりと書かれてないんだ。どの教科書にも……ただ、将軍様はこれだけすごいことをしたっていうだけで……」
ーーーーー父は、ずっとその問いを待っていたかのように微笑んでうなずいていた。だがそれと同時に、目の前の息子が、私がそこにない幻であるかのように……確かにそこにいるというのに、存在を確かめるように抱きしめるのであった
「ーーーーー義隆、その答えはお前が見つけるんだ。だが誰に尋ねてもいけない、尋ねればお前も父さんと同じになる」
「父……さん……?それってどういう……」
「ーーーーいいかい義隆。これは父さんの、お前を自慢の息子と見込んでの一生のお願いだ。どうか、その問いを持ち続けるという決意を忘れないでくれ。もし、忘れそうになったら父さんの書斎にある注射を使いなさい。そうすれば忘れない、いいや……『鬼が忘れさせてくれない』」」
ーーー 池田屋老中会合より二時間後
大和国見廻組(警察庁) ーーー
見廻組隊士「(通路を行く一人の男を認識するや否や、胸に付けた勲章の数、その有無を問わず全員が足を止め背筋をその身が鉛であるかのように但し敬礼で見送った)」
伊蒼「ーーーーご苦労。(一人一人、すれ違う隊士達へ一人余すことなくすこりと親しみ深く微笑みかけると敬礼で返し自室へ向かう)ーーーーーゴトンツ(自身以外に何者も存在しない彼だけの執務室。その作りは簡素なもので、何一つ無駄がなかったが『将軍にまつわる品』の最たる『鳳凰の置物』が書き物机の上に鎮座していた)」
伊蒼「ーーーーーーー ┣¨ グ ン (照明を入れていない執務室にも関わらず眩く輝くそれを視界に入れるや否や、今にも胃の内包物を吐き出しそうな程の動悸が彼を襲い、咄嗟にドア枠に手をついて意識が飛び倒れるのを防ぐ)グく……… 『将軍様』『将軍様万ざ……』 ハァ”……!! 違う……違う………ッ 私は、私は……」
伊蒼「(自身に何かを言い聞かせるかのように、暗示であるかのように、何かの呪詛のように言の葉を唱え続けながら、壁伝いに書き物付へ片足を引きずり近付いていく)は”ァ”……はーーーーー(ようやく倒れこむようにして書き物机に辿り着くと、ペン立て横の『注射器』を鷲掴みにし、おもむろに自身の首筋に突き立て押し殺した吐息を吐き出す)く”ァ”……はァ”ァ”……」
伊蒼「 ガァァンッッッ!!!! (ようやく呼吸が正常に戻るや否や、鳳凰の置物に拳を振り下ろしその首をへし折った)『鬼の血清』が持続しなくなってきている、最早猶予もなしか……『夜叉姫』……彼女に、一刻も早く合流しなくては……」
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ーー 徒紀和姫邸 ーー
ーーーーーーそれは古き良き日本家屋。あなたの思い浮かべる田舎の屋敷とさほど相違のない家屋だった。庭にはそれなりの身なりをしそれなりに健康な童達が、男児は木の枝でチャンバラ、女児は蹴鞠といった具合に児戯に勤しみ、庭の中心では小さな焚き火が煙っていた」
徒紀和姫「ーーーーおやおや、ダメやないの芋焦げとるよー。きちんとやることやらんとめっ!やからなぁ……(先の老中を前にしたそれとは打って変わって、装飾一つない赤いだけの質素な着物を羽織り、下駄を鳴らしてその庭に訪れる。別人のように、子等を見守る祖母のような眼差しで微笑んで)」
「ばぁやーーーっ!」「お帰りなさい!」「お土産ある?お土産!」「ばあや!」「ばぁーやぁー!」(童達がその一斉を耳ざとく聞きつけると大手を振って満面の笑みを浮かべ、それぞれが歓喜の悲鳴を上げて群がってくる。一人は足にしがみつき、一人は彼女の腕に抱きついて引っ張りあっていた)」
徒紀和姫「はぁいはぁい……今日は新鮮な鮭をドーッサリぎょうさん漁師はんからいただいたよぉ。あとでごっついお兄さんが持ってきてくれるからなぁ、皆でお行儀よーくまつんよ?(指で数えられない程の子供に囲まれ、中腰になって目線を合わせ頭を撫でたりなどして一人一人に温かな眼差しを送っては微笑んで見せた)」
徒紀和姫「ーーーーーああ、ところで『新しいお友達の子。』はいはるん?変わったことはあらんかった?(バァと呼ばれるにはうら若すぎる、アメジストのような瞳をきょとんとさせ子等に問いかける)」
「んー?」「どうだった?」「縁側でぼーっとしてたよ」「お腹もあんまり好かないみたいねー」「ばぁや、あの子どこからきたの?」
ーーーーー「あの子も捨て子?」ーーーーー
徒紀和姫「(その問いに対し、子等の頭を『大丈夫』と言い聞かせるように軽く撫で)そっ、たぶんやけどね。でも怪我もしとったし、弱っとったし、何より……”きっと会いたい人がおるんやろなぁ……”どこのどなかは存じませんけど、みんなも会わせてあげたいやろ?(子供達の輪から離れ、振り向きぎわにそう笑いかけると、戸を開け屋敷へ)」
徒紀和姫「ーーーーーただいまぁ……。ーーーー!おやおや、赤子みたい思うとったんやけどちゃんと火の面倒は見れるんやねぇ、えらいえらい(仕切りを超えて屋敷内。古風な日本家屋的作りの室内では炬釜が当然のように鎮座し湯気を上げていた。それを目にするとこれ幸いと両手を合わせ口元を楽しげに綻ばせる)」
???「!ーーーヒメ、さま(徒紀和姫が声をかけた先の暗がりには、節々に包帯を巻き、中華服を『着せられた』といった具合に崩して羽織る人物が一人。顔は影に覆われ恐らくは退治している徒紀和にしか見えない)」
徒紀和姫「んー?うちのことは『ばぁ』でええっていうといた筈やけど……まぁ年甲斐もなく『役職』抜きにお姫様言われるんも悪い気はせぇへんな。ーーーーーもう動けるようになったん?」
???「おかゆおいしかった」
徒紀和姫「ーーーーーあらややわぁ、ほんまにええ火加減やわぁ……ほーんまおいしそ。えらいえらい、ええ子やねぇあんた……『■■■■』はんの『刀』なんかやめてうちんとこ来はったらええのにぃ」
???「それはできない、私が私であるために必要なこと。申し訳ない……助けてもらったのに」
徒紀和姫「ええんよぉ……あんさんが好きになさったらええの。うちは拾えるもん拾っただけやからね、お互い好きにしとるだけよぉ。さぁさ……たーんとおあがりな。えーっと……」
月虹「ーーーーー 月虹<ゲッコウ>。余人にはそう呼ばれていた」
徒紀和姫「ーーーーーーーーーーーへぇ? 将軍はんからはけったいな名前もらったんやねぇ、気立てがいい子なのにもったいないわぁ…… ああそや、月虹ちゃん。今日はお客はんが来はるからそこでおとなしゅうおかゆたべててな?今日は出かけたらめっ、やよぉ?」
月虹「御意。今はまだ傷が癒えていない、お言葉に甘えさせていただく」
徒紀和姫「ふふっ……ええこええこ……。 ん……あらやだ、もう来はったわぁ、早いんやねぇ…… .
ーーー 同刻 市街地 裏酒屋 ーーー
アヤセ「ーーーーーーっという流れです。早い話があの会合で行われたのは各々方がどこまで坊ちゃんの責任になさって、自身から疑いを逸らすかという沼案件でしたね。椅子取りゲームなんてそんなもんですけどね、とりあえず坊ちゃんが帰る椅子を確保するのは難しいので今はここで適当に遊んでてください」
バーサーカー?「おら野郎共!次だ次!酒たりねぇぞ樽で持ってこい樽で!(薄暗い酒場、その奥で両腕に小動物よろしく震える女性を抱え、一字一句全てがその声の圧だけで窓が小刻みに震え、卓上に並べたグラスが倒れるほどの怒号を飛ばす)おら!!!主人殿も祝い酒だ!!!どうせ俺が全員かたつけちまうんだから順序が変わっても問題ねぇだろ!!!!」
麻統「ふぇぇ……こんな優しくないハーレムやだよぉ……SMクラブじゃないんだぜ……?(すっかり三頭新マスコット化しクラクラと頭をメトロノームよろしく揺らしている)」
アヤセ「帰ろうにも帰れませんよぉ~……坊ちゃんあなた今『お尋ね者』ですもの。うまいこと公安は巻きましたから当面は安全を保障されるのではないかと」
麻統「いや現にこうしてお前に見つかってるからね!?ていうかなにのほほんとしてるんだよ!助けろよ!」
アヤセ「たすけるぅぅぅ~~~~??何をおっしゃるんです坊っちゃま、『これ』を行使したのはあなたでしょう。つまりそれは戦争をふっかけると同義です。私は全力で、体を張って止めようと奮闘しましたが坊ちゃんの凶弾に倒れ……気付けば後の祭り。こうして再開はしたもののなんとお労しい姿に……よよよ」
麻統「そのわざとらしい泣きやめろよ!!だいたいお前なんなんだ……?僕がこの座につく手はずをハニから何まで整えたからこそ信用してきたけどさぁ……こーんなふてぶてしい右腕をそも側に置くもんじゃなかったよなどう考えても!」
アヤセ「言ったでしょう坊ちゃん。私は『大和全体の調和』を考えて行動している。つまるとこ、あの四老中というパワーバランスの均衡を保たねば崩壊する柱の内、一本が欠陥の過ぎる出来だったのです。これには呆れました、せめて知恵を持ってこれを正さねば事態は収拾がつかなくなるということです」
麻統「あーそゆこと………じゃあつまりお前も『誰かの息がかかってる』ってわけだな。まあ利害からして僕が老中である限りは敵じゃないんだろうってことだろ……。は”ぁ”……じゃあれか?今ここにこうしているのは老中ではなくなった僕を始末に……」
アヤセ「生憎それはありません。この状況下で老中の席取り合戦まで始まれば事態はよりややこしくなります。何せ将軍の『予言』を知る人物がまた増える訳ですから。あなたはお尋ね者でありながら老中の椅子を埋めていただく必要があるし、それはかの老中とて同じことです。まあ、将軍様にとっても愛玩動物ですし」
麻統「僕ペットかよぉ!!?いやっ……いや将軍様のお気に召すのは嬉しいんだけどなんかこう……違うんだけど!?そういうのじゃないんだけど僕がなりたいの!」
アヤセ「仕方ないでしょう。老中で唯一女性の枠を取れたのはあのいけ好かない女狐一人。他二人は青二才にしわがれた爺さん。親しみが持てるの孫くらいなものじゃないですか。将軍様、直々に面合わせが相成るのは老中のみともあらば心に潤いは欲しくなるというもの……ーーーーとはいえ、『死してしまえばいかに将軍様といえど救うことはありません』 ですから、坊ちゃんは先に述べた三名と『うっかり事故に』合わぬよう潜伏していただく必要があったわけです」
麻統「そうなった元凶と行動を共にしてるってどういうことだよ僕の私兵を畑の刈り入れみたいに殺しやがって!」
バーサーカー?「それはまぁ弾みっつうか……しゃーねえよな。まあ女子供は巻き込んでねぇんだし良しとしてくれや。それになぁ主人殿。なんか迷惑かけちまったみてぇだが俺は『勝者』には従順だぜ。そう心配すんなや、いざとなりゃ俺様が好みに変えても守ってや……」
麻統「んでなんでてめぇはいきなり飼い犬ムーヴ出してるんだよ気色悪いわ!!そも誰のせいでこんな状況のお陰で僕がこんなさもしいとこでカップ麺食う羽目になってると思うんだよ!?アアン!?」
バーサーカー?「お前」
アヤセ「お前」
麻統「お前言うなや!」
アヤセ「まぁまぁ……冷静に冷静に、決意を抱き続けるんだぼっちゃま(覇気のないガッツポ)そうやってヒスって二の轍踏んだらほんとただの海のゴミですよあなた。とりあえず状況を整理致しました上で身の振り方を考えましょうや。新顔もいますからね」
アヤセ「現状、我々は全員共通認識として水面下で行われる『次期将軍』の座を巡った争いに身を投じています。とはいえ、これは将軍様がこぼした『儂は永くない』と言う言の葉が起爆剤。明確に将軍様が『次の将軍の座を明け渡す』などとは一言も申しておりません」
アヤセ「では、なぜ我々大和政府の上層部がこのような内部抗争に発展したのか。それは将軍様に対する『忠の差異』が最も大きく影響しているでしょう。『将軍様御身を案じる者』『将軍様亡き後の椅子を狙う者』『将軍様健在なうちにお褒めに預かり地位を得たい者』、現時点でこの3つの派閥に分けられます。坊ちゃんは最後です。犬ですね」
麻統「真面目に話してる節々で僕をdisるのやめない……?」
アヤセ「失礼。 まあこれは水面下の表面上という裏の面での認識です。実際には将軍様の首を狙う輩がいるのかもしれません。まあどうあれ、将軍様に末長く仕えるにせよ、将軍様を継ぐにせよ、将軍様に褒められるにせよ……老中のパワーバランスは崩れつつあります。内政の崩壊により混乱が生じるやもわかりません。そんな大和で高い地位を維持し続けるには何が必要なのかお分かりです?」
麻統「ーーーーーー金、はないな。金銀財宝は腐るほどあるがそれは運用し増やせる資産じゃないから小遣い程度のもんだ。永続的に利益を出せる見込みがあって、尚且つ時代の転換期にあって混乱する国民を統率できるもの。それも、この『大和』での話。武勇は期待できないな、大和は統一されている以上よそに戦争を吹っかけるしかない。となれば……」
麻統「ーーーーーー『黒船』以来の、最も圧倒的に、ただ見ただけで理解できる恐怖。それを味方に付けるという安心感。万が一、この機に異国が攻め入っても我が国が無敵であり民草が安寧を享受できる象徴的な何か……ってことになるか」
アヤセ「ご明察。よくできました!パチパチ ーーーーーまあそんなところです、宗方殿は『より象徴的な人材的戦力と武勇』伊蒼殿は『より誠実な規律を重んじる組織による安心感』『徒紀和姫はより民草に寄り添った商業によるアプローチ』各々、将軍様の下で多方面から民草の信頼を集め、それが将軍様に還元されることで大和は一枚岩なわけです。この中で先に述べた『圧倒的力の象徴』を保持し、それを将軍様に献上なさった老中はおりません」
麻統「おいおいおいおい無茶言うなよ。僕の親父の最高資産といえばB2スピリット。先の時代の最先端爆撃機で、
政府軍のシスなんとかが提供してる航空兵器に百歩も劣る骨董品ぐらいだぜ?」
アヤセ「ですから見つけましょうや。バカ……バーサーカーも坊ちゃんも、男子たるものお好きでしょう?ーーーーー『 戦 艦 』は」
最終更新:2021年03月22日 01:06