「立って歩けるかな?」
「はい……」
佳主馬はふらふらと立ち上がると、先生が差し出した手を握った。湿り気を帯びた温もりが、不思議なくらい心地よく感じられた。
「取り敢えず、保健室に行こうか。下が丸出しだから、パンツとズボン穿いて」
佳主馬は先生に言われるままに、膝の上までずり下ろされているブリーフとハーフパンツを穿き直した。
「え……?」
先生は佳主馬が身に着けているものを見て思わず目を見開いた。先生が学校指定のハーフパンツだと思っていたものは、この学校の児童が持っている筈のないものだった。
「それはうちの学校のものじゃない。何処からそんなものを持ち出して来たんだ?」
「これはボクのものじゃない!……無理矢理、穿かされたんです」
「そうか……」
無理矢理穿かされたと聞いて、佳主馬が余程酷い目に遭った事は容易に想像できた。だから先生はそれ以上、彼を追及しなかった。
「ところで、君の体操ズボンは何処に?」
「体育倉庫の中、です」
佳主馬の返答を受けて、先生は体育倉庫の中に入った。既に中は薄暗かったので蛍光灯のスイッチを入れた。倉庫内の備品が青白く照らされる中、横倒しになっているウレタンマットの上に佳主馬のハーフパンツは打ち捨てられていた。
(ウレタンマットは普段、立てて保管してある筈だが……この中で一体何が?)
体育倉庫内の異変に気付いたものの、今は外で傷付き倒れていた児童を保護するのが先決で、あれこれ訝っている場合ではない。先生はそう思い直すとハーフパンツを手に取って体育倉庫から外に出た。
「確かにあったよ、君のハーフパンツ。それじゃあ、保健室に行こう」
「うん」
先生はもう一度佳主馬の手を握って、先導するように歩き始めた。佳主馬は大人しくそれに従い、先生の後を付いて行った。
「ところで……」
保健室に向かう途中、先生が尋ねた。
「君はどこのクラスの誰かな?」
「五年二組、池沢佳主馬です」
佳主馬は気のない声で答えた。
「じゃあ、谷岡先生のクラスだね。後で呼んで来てあげる。それより、どこか身体、痛む所は無い?」
「あ、あの……」
佳主馬は「お尻が痛い」と言おうとしたが、止めた。体育倉庫の中での出来事を悟られるのが怖くなったのだ。敢えて追求しないことに決めた先生の優しさなど知らずに。
「いえ……何でもないです」
「はい……」
佳主馬はふらふらと立ち上がると、先生が差し出した手を握った。湿り気を帯びた温もりが、不思議なくらい心地よく感じられた。
「取り敢えず、保健室に行こうか。下が丸出しだから、パンツとズボン穿いて」
佳主馬は先生に言われるままに、膝の上までずり下ろされているブリーフとハーフパンツを穿き直した。
「え……?」
先生は佳主馬が身に着けているものを見て思わず目を見開いた。先生が学校指定のハーフパンツだと思っていたものは、この学校の児童が持っている筈のないものだった。
「それはうちの学校のものじゃない。何処からそんなものを持ち出して来たんだ?」
「これはボクのものじゃない!……無理矢理、穿かされたんです」
「そうか……」
無理矢理穿かされたと聞いて、佳主馬が余程酷い目に遭った事は容易に想像できた。だから先生はそれ以上、彼を追及しなかった。
「ところで、君の体操ズボンは何処に?」
「体育倉庫の中、です」
佳主馬の返答を受けて、先生は体育倉庫の中に入った。既に中は薄暗かったので蛍光灯のスイッチを入れた。倉庫内の備品が青白く照らされる中、横倒しになっているウレタンマットの上に佳主馬のハーフパンツは打ち捨てられていた。
(ウレタンマットは普段、立てて保管してある筈だが……この中で一体何が?)
体育倉庫内の異変に気付いたものの、今は外で傷付き倒れていた児童を保護するのが先決で、あれこれ訝っている場合ではない。先生はそう思い直すとハーフパンツを手に取って体育倉庫から外に出た。
「確かにあったよ、君のハーフパンツ。それじゃあ、保健室に行こう」
「うん」
先生はもう一度佳主馬の手を握って、先導するように歩き始めた。佳主馬は大人しくそれに従い、先生の後を付いて行った。
「ところで……」
保健室に向かう途中、先生が尋ねた。
「君はどこのクラスの誰かな?」
「五年二組、池沢佳主馬です」
佳主馬は気のない声で答えた。
「じゃあ、谷岡先生のクラスだね。後で呼んで来てあげる。それより、どこか身体、痛む所は無い?」
「あ、あの……」
佳主馬は「お尻が痛い」と言おうとしたが、止めた。体育倉庫の中での出来事を悟られるのが怖くなったのだ。敢えて追求しないことに決めた先生の優しさなど知らずに。
「いえ……何でもないです」
この時間になれば当たり前なのだが、当直の保険医はその日の業務を終えて所属の病院に戻っており、保健室には誰も居なかった。先生が蛍光灯のスイッチを入れると、宵の闇に包まれようとしていた保健室が柔らかい光で満たされた。佳主馬は先生に促されて備え付けのベッドの上に腰掛けた。
ガスコンロの上では沸騰したヤカンが勢いよく蒸気を上げている。先生は水道から水を清潔な洗面器に半分ほど入れると、ヤカンの中の熱湯を少しずつ足してぬるま湯を作った。程よい温度になったのを確認すると、真っ白な手拭いを洗面器の中に浸した。温かい水分をたっぷり含んだ手拭いを洗面器から引き上げると、固めに絞って佳主馬に渡した。
「ひとまず、それで体を拭いて。予備の体操着を出すから、遠慮なく使ってね。……ベッドのカーテン、閉めようか?」
「いえ……別に構いません。有り難うございます」
「今から担任の先生呼んでくるから……体操着、ここに置いておくね」
先生は佳主馬の側に予備の体操着を置いた。そして保健室を出て谷岡先生に事のあらましを伝えようと職員室へ向かった。
「……」
佳主馬のほかに誰も居ない保健室はとても静かだ。否、佳主馬を除く児童全員が下校した今となっては学校全体が静寂に包まれているのだ。職員室に教諭がひしめき合っている以外に校舎に人の気配は全く無い。エアコンから送られてくる風の音が、やけに耳につく。
佳主馬は自分のおしっこで汚れてしまった体操着を脱ぎ捨て、先生に渡された手拭いで身体を拭きはじめた。
「痛ッ……」
体育倉庫を脱出する時に肌が剥き出しになっていた部分を砂利等で擦り剥いたらしく、そこに濡れたタオルを宛がうと水分が沁みてくる。先生に発見された時は素肌がヒリヒリするのも収まってきたというのに。
ぶり返してきた痛覚は佳主馬を多少苛立たせたが、何より腹立たしいのはあのいじめっ子達である。今日の彼らは明らかに度を越していた。あんな事をされるなんて夢にも思わなかった。
身体を傷付けられるだけならまだいい。大した怪我じゃなければ放っておいても傷は癒える。だけど、よりによってクラスメートの手でお尻に悪戯されるなんて――しかも椅子にブーブークッションを仕掛けるような他愛のないものとは違った次元の――耐え難い屈辱だった。今日の出来事を誰かに知られたら、末代までの恥だ。
「絶対に許さない……」
佳主馬は怒りに肩を震わせ、手拭いをギュッと固く握り締めて喉の奥から絞り出すような声で呟いた。
廊下から足音が聴こえてきた。それがだんだん大きくなって急に止まったかと思うと、ガラガラと引き戸が開く音が部屋中に響いた。入口からがっしりとした体格の大人の男性が姿を現した。
「池沢、身体の具合はどうだ?」
佳主馬のクラスの担任・谷岡先生が感情を表に出さないように声を掛けてきた。声の調子があからさまに心配そうだと、却って佳主馬に気を遣わせてしまいそうに思えたからだ。
「あ……!」
先生が入室した時、佳主馬は上半身裸のままだった。憤怒に駆られるあまり、この部屋に誰かが近付いている時に何をするべきなのかすっかり失念していた。先生に自分の半裸を晒す恰好となった佳主馬は手元に置いてあった予備の体操着を引っ掴むと、水をかぶるような勢いで袖を通した。
「そんなに慌てんでもいいって」
男同士なんだし気にする事でもないだろうと、先生は苦笑を漏らしながら佳主馬の側に歩み寄る。人心地着いたのを見計らうと、佳主馬の目線の高さに合わせるように腰を屈めた。
「見回り担当の先生から大体の話は聞いた……かなり酷い事、やられたんだってな」
先生は佳主馬に誤解を与えないように、言葉を選びながら静かに話し掛けた。
「誰に悪戯されたのか、良かったら教えてくれないかな?」
先生は事前に聞いた話からこれは部外者による強制わいせつ事件だと思っていた。地域の子供達の安全を預かるべき立場にある者にとって由々しき事態であり、更なる被害者が現れる前に迅速に対処しなければならないと考えた。その為には少しでも早く犯人像を特定する必要があった。
先生は佳主馬にプレッシャーを与えないように穏やかな口調で質問した。
「犯人の特徴とか、憶えてないかな?太っているとか痩せているとか、服の色とか」
然し、佳主馬はどうしても先生の質問に応えられなかった。かくも恥辱的なことをクラスメートにやられたなんて話しても信じて貰えるかどうか疑わしいし、絶対に誰にも知られたくなかった。喩えそれがクラスの担任でも。
「……」
佳主馬は押し黙ったまま、下を向いて俯いてしまった。
(話すのを躊躇うほど、嫌な出来事だったのか……)
先生は佳主馬が深刻な表情を浮かべているのを見て取り、これ以上彼を追及するのを諦めた。
「そうか、今は話したくないのか。気が変わったら先生に相談してくれ。秘密は絶対に守るからさ」
先生は窓の外を見た。とっぷりと日は暮れ掛かり、夜の帳が降りようとしていた。
「子供が一人で出歩くには危険な時間だ。先生の車で送っていくよ」
佳主馬は首を縦に振らなかった。先生に自宅まで送って貰ったら、学校で何かあったのではと親に感付かれるかもしれないと思った。
「いいです、ボク一人で帰れます!」
佳主馬はやおら立ち上がった。その瞬間、肛門のあたりに痛みが走った。
「痛ててっ……」
思わずその場に蹲ってしまった。
「どうしたんだ池沢、どこか痛いのか?」
「お尻が痛い」
「何だって!?」
ガスコンロの上では沸騰したヤカンが勢いよく蒸気を上げている。先生は水道から水を清潔な洗面器に半分ほど入れると、ヤカンの中の熱湯を少しずつ足してぬるま湯を作った。程よい温度になったのを確認すると、真っ白な手拭いを洗面器の中に浸した。温かい水分をたっぷり含んだ手拭いを洗面器から引き上げると、固めに絞って佳主馬に渡した。
「ひとまず、それで体を拭いて。予備の体操着を出すから、遠慮なく使ってね。……ベッドのカーテン、閉めようか?」
「いえ……別に構いません。有り難うございます」
「今から担任の先生呼んでくるから……体操着、ここに置いておくね」
先生は佳主馬の側に予備の体操着を置いた。そして保健室を出て谷岡先生に事のあらましを伝えようと職員室へ向かった。
「……」
佳主馬のほかに誰も居ない保健室はとても静かだ。否、佳主馬を除く児童全員が下校した今となっては学校全体が静寂に包まれているのだ。職員室に教諭がひしめき合っている以外に校舎に人の気配は全く無い。エアコンから送られてくる風の音が、やけに耳につく。
佳主馬は自分のおしっこで汚れてしまった体操着を脱ぎ捨て、先生に渡された手拭いで身体を拭きはじめた。
「痛ッ……」
体育倉庫を脱出する時に肌が剥き出しになっていた部分を砂利等で擦り剥いたらしく、そこに濡れたタオルを宛がうと水分が沁みてくる。先生に発見された時は素肌がヒリヒリするのも収まってきたというのに。
ぶり返してきた痛覚は佳主馬を多少苛立たせたが、何より腹立たしいのはあのいじめっ子達である。今日の彼らは明らかに度を越していた。あんな事をされるなんて夢にも思わなかった。
身体を傷付けられるだけならまだいい。大した怪我じゃなければ放っておいても傷は癒える。だけど、よりによってクラスメートの手でお尻に悪戯されるなんて――しかも椅子にブーブークッションを仕掛けるような他愛のないものとは違った次元の――耐え難い屈辱だった。今日の出来事を誰かに知られたら、末代までの恥だ。
「絶対に許さない……」
佳主馬は怒りに肩を震わせ、手拭いをギュッと固く握り締めて喉の奥から絞り出すような声で呟いた。
廊下から足音が聴こえてきた。それがだんだん大きくなって急に止まったかと思うと、ガラガラと引き戸が開く音が部屋中に響いた。入口からがっしりとした体格の大人の男性が姿を現した。
「池沢、身体の具合はどうだ?」
佳主馬のクラスの担任・谷岡先生が感情を表に出さないように声を掛けてきた。声の調子があからさまに心配そうだと、却って佳主馬に気を遣わせてしまいそうに思えたからだ。
「あ……!」
先生が入室した時、佳主馬は上半身裸のままだった。憤怒に駆られるあまり、この部屋に誰かが近付いている時に何をするべきなのかすっかり失念していた。先生に自分の半裸を晒す恰好となった佳主馬は手元に置いてあった予備の体操着を引っ掴むと、水をかぶるような勢いで袖を通した。
「そんなに慌てんでもいいって」
男同士なんだし気にする事でもないだろうと、先生は苦笑を漏らしながら佳主馬の側に歩み寄る。人心地着いたのを見計らうと、佳主馬の目線の高さに合わせるように腰を屈めた。
「見回り担当の先生から大体の話は聞いた……かなり酷い事、やられたんだってな」
先生は佳主馬に誤解を与えないように、言葉を選びながら静かに話し掛けた。
「誰に悪戯されたのか、良かったら教えてくれないかな?」
先生は事前に聞いた話からこれは部外者による強制わいせつ事件だと思っていた。地域の子供達の安全を預かるべき立場にある者にとって由々しき事態であり、更なる被害者が現れる前に迅速に対処しなければならないと考えた。その為には少しでも早く犯人像を特定する必要があった。
先生は佳主馬にプレッシャーを与えないように穏やかな口調で質問した。
「犯人の特徴とか、憶えてないかな?太っているとか痩せているとか、服の色とか」
然し、佳主馬はどうしても先生の質問に応えられなかった。かくも恥辱的なことをクラスメートにやられたなんて話しても信じて貰えるかどうか疑わしいし、絶対に誰にも知られたくなかった。喩えそれがクラスの担任でも。
「……」
佳主馬は押し黙ったまま、下を向いて俯いてしまった。
(話すのを躊躇うほど、嫌な出来事だったのか……)
先生は佳主馬が深刻な表情を浮かべているのを見て取り、これ以上彼を追及するのを諦めた。
「そうか、今は話したくないのか。気が変わったら先生に相談してくれ。秘密は絶対に守るからさ」
先生は窓の外を見た。とっぷりと日は暮れ掛かり、夜の帳が降りようとしていた。
「子供が一人で出歩くには危険な時間だ。先生の車で送っていくよ」
佳主馬は首を縦に振らなかった。先生に自宅まで送って貰ったら、学校で何かあったのではと親に感付かれるかもしれないと思った。
「いいです、ボク一人で帰れます!」
佳主馬はやおら立ち上がった。その瞬間、肛門のあたりに痛みが走った。
「痛ててっ……」
思わずその場に蹲ってしまった。
「どうしたんだ池沢、どこか痛いのか?」
「お尻が痛い」
「何だって!?」
「先生、こんな恰好恥ずかしい……」
「いいから、黙って見せてごらん」
佳主馬はベッドの上で四つん這いになって、日に焼けていない臀部を先生の眼前に曝け出していた。他人に肛門をまじまじと見詰められるなんて、これほど恥ずかしいことは無い。だけど「このまま放置して膿んだりしたら大変だから」と先生に言われて、患部を見せるのを渋々承諾していた。
少しでも心理的抵抗が和らぐようにと、先生はベッドのカーテンを閉めた。そして腰を屈めて佳主馬の尻の穴を覗き込んだ。
「うーん……肛門のあたり、赤く腫れてるね」
碌に滅菌処理もしていない縄跳びの持ち手を乾燥した肛門に無理矢理捻じ込んだ結果、肛門は傷付き雑菌が侵入していた。赤く腫れているのは免疫が働いている証拠だ。
池沢が何者かに悪戯されたらしい。着衣も乱れていたから、性的な暴行もあったのかもしれない――そう聞かされていたが、実態は話に聞いた以上のものだと先生は思った。
(小学生相手に何て事を!やっぱり何としてでも池沢から犯人像を訊き出すべきなのか?いやいや、それよりも今は池沢を何とかしないと……)
先生は未だ姿の見えぬ犯人に慄く我が身を制すると、素早く頭を切り替えた。
「応急処置が必要だな。何か丁度良い薬あるかな?」
そのまま暫く待つように佳主馬に言い残して、先生はカーテンを跳ね除けて薬棚を探しに行った。やがてカーテンの外から足音やら引き出しを開け閉めする音やら、様々な雑音が聴こえてきた。佳主馬は股を大きく広げたままベッドの上で正座した。患部の状態を聞かされて、臀部を閉じるのが何となく怖くなったのだ。
(ここはやっぱり塗り薬だろうな……これはどうかな?)
先生は引き出しの中からこげ茶色の蓋が付いた円柱状の小瓶を取り出した。それはTVCMですっかりお馴染みの軟膏だった。側面には山吹色のラベルが貼られており、レトロな書体で商標名が印刷されている。
よく目を凝らして見ると、ラベルの右下には有効成分と配合量が記されている。先生は在学中に薬学に関する科目を副科としてカリキュラムに取り入れていたので、成分名だけで効能を把握することが出来る。手にした軟膏には、局所麻酔成分が含まれているのを確認した。
(よし、これだ!)
先生は白い小瓶を片手にベッドへ戻った。
「池沢、このお薬を塗るからもう一度お尻をこっちに突き出して」
「はい……」
(これは別に恥ずかしい事じゃないんだ。あくまで治療行為なんだ)
佳主馬はそう自分に言い聞かせて他人に肛門を見せる羞恥心を抑え込み、もう一度四つん這いになって先生に臀部を差し出した。先生はスリッパを脱いでベッドに上がり、佳主馬の股の間に割って入った。小瓶の蓋を開けると右手の人差し指に軟膏を適量取った。
「沁みるかもしれないが、我慢するんだぞ」
先生の指先が、佳主馬の肛門に触れた。軟膏の冷たい感覚と薬効成分の刺激が同時に佳主馬に襲い掛かった。
「あ……はあッ!」
佳主馬は叫びそうなのを片手で口を塞いで堪えた。あんまり痛がると、せっかく担任の先生が親切に接してくれているのを裏切ることになりそうな気がした。
患部に軟膏が塗られていく。ヒヤヒヤした感触に佳主馬の全身が緊張して強張る。一通り塗り終えると、先生の指が離れた。もう一度軟膏を指に取ると、今度は佳主馬の肛門の中に指を突っ込んだ。
「うぐ、かはぁ……ッ!」
突然、結腸に異物を挿入されて、佳主馬は兎のように飛び跳ねそうになった。全身の毛穴が開いたかと思った。太腿の筋肉がヒクヒクと震えた。
「あは、先生、指ぃ!」
「吃驚させちゃったかな?ごめん、あと少しで終わるからさ。もう暫くの辛抱だ」
本当はここまでする必要は無いのかもしれない。だけど、お尻の中がどの程度ダメージを負っているのかよく判らないから、先生は表面だけに留まらず内部にまで薬を行き渡らせようとした。結腸の中で指をこねくり回して腸壁に薬を塗りたくっていく。
体育倉庫での悪夢を経験しているにも係らず、佳主馬は逃げようとしなかった。それはこれが治療行為だからと納得している所為なのか、それとも指先の温もりのお蔭なのか。
麻酔成分が効いてきたのか、肛門の違和感が次第に和らいできた。その代わりに甘い感覚が頭をもたげてきた。これは丁度、便の通りが良い時に快感を覚えるのと似ている。
「あ……はあん……ッ」
無意識のうちに声が漏れてしまう。頭の中が逃れ難い感覚に蝕まれ、呑み込まれていく。体の緊張が解れ、自然と腰が浮いてしまう。
先生の視点に移し変えると、何と淫靡な光景だろう。今目の前で、まだあどけない少年がアヌスに指を入れられて感じているのだ。これは据え膳なのだろうか――先生は期待にも似た疑念を抱かずにいられなかった。
佳主馬の嬌声を聴くにつれて、封印されていた記憶が目を醒ます。学生時代に家庭教師のアルバイトをしていた頃、一人の少年と関係を持ったことがある。その頃の甘く切ない記憶を求めて、先生の中心がにわかに疼き始めた。
「池沢、痛くないか?」
もうとっくに痛みは引いている筈だ――先生は確信を持っていながら、敢えて佳主馬に訊いてみた。
「ううん……痛くない」
「じゃあ、今はどんな感じかな?」
先生は佳主馬を先導するかのように、アヌスの中で指をピストンする速度を上げていく。
「あ……あっ、あっ、ああんっ!」
刺激が急激に強くなり、佳主馬は身悶える。
「何だかお尻、気持ちいい……」
気持ちいい――それを聞いて、先生の中心はいよいよ張り詰めた。ジャージの一部がテントを張っているのがはっきりと判る。聖職者の尊厳と、かつて経験した快楽を今一度求めて止まない獣――両者を秤に掛けた天秤は、海綿体に流入した血液の重みで傾いだ。天秤の皿がコトリと乾いた音を立てると共に、聖職者の尊厳は脆くも崩れ去った。
先生は指を引き抜いた。ジャージに手を掛けると、下着ごと股の下までずらした。天井を仰ぐ怒張が露わになった。軟膏をさっきよりも多めに手に取ると、自分のペニスに塗り付けた。
「もっと奥まで、薬を塗ろうな」
わざとらしく、そんなことを言う。その言葉に秘められた本当の意味を、佳主馬は知る由も無かった。
「いいから、黙って見せてごらん」
佳主馬はベッドの上で四つん這いになって、日に焼けていない臀部を先生の眼前に曝け出していた。他人に肛門をまじまじと見詰められるなんて、これほど恥ずかしいことは無い。だけど「このまま放置して膿んだりしたら大変だから」と先生に言われて、患部を見せるのを渋々承諾していた。
少しでも心理的抵抗が和らぐようにと、先生はベッドのカーテンを閉めた。そして腰を屈めて佳主馬の尻の穴を覗き込んだ。
「うーん……肛門のあたり、赤く腫れてるね」
碌に滅菌処理もしていない縄跳びの持ち手を乾燥した肛門に無理矢理捻じ込んだ結果、肛門は傷付き雑菌が侵入していた。赤く腫れているのは免疫が働いている証拠だ。
池沢が何者かに悪戯されたらしい。着衣も乱れていたから、性的な暴行もあったのかもしれない――そう聞かされていたが、実態は話に聞いた以上のものだと先生は思った。
(小学生相手に何て事を!やっぱり何としてでも池沢から犯人像を訊き出すべきなのか?いやいや、それよりも今は池沢を何とかしないと……)
先生は未だ姿の見えぬ犯人に慄く我が身を制すると、素早く頭を切り替えた。
「応急処置が必要だな。何か丁度良い薬あるかな?」
そのまま暫く待つように佳主馬に言い残して、先生はカーテンを跳ね除けて薬棚を探しに行った。やがてカーテンの外から足音やら引き出しを開け閉めする音やら、様々な雑音が聴こえてきた。佳主馬は股を大きく広げたままベッドの上で正座した。患部の状態を聞かされて、臀部を閉じるのが何となく怖くなったのだ。
(ここはやっぱり塗り薬だろうな……これはどうかな?)
先生は引き出しの中からこげ茶色の蓋が付いた円柱状の小瓶を取り出した。それはTVCMですっかりお馴染みの軟膏だった。側面には山吹色のラベルが貼られており、レトロな書体で商標名が印刷されている。
よく目を凝らして見ると、ラベルの右下には有効成分と配合量が記されている。先生は在学中に薬学に関する科目を副科としてカリキュラムに取り入れていたので、成分名だけで効能を把握することが出来る。手にした軟膏には、局所麻酔成分が含まれているのを確認した。
(よし、これだ!)
先生は白い小瓶を片手にベッドへ戻った。
「池沢、このお薬を塗るからもう一度お尻をこっちに突き出して」
「はい……」
(これは別に恥ずかしい事じゃないんだ。あくまで治療行為なんだ)
佳主馬はそう自分に言い聞かせて他人に肛門を見せる羞恥心を抑え込み、もう一度四つん這いになって先生に臀部を差し出した。先生はスリッパを脱いでベッドに上がり、佳主馬の股の間に割って入った。小瓶の蓋を開けると右手の人差し指に軟膏を適量取った。
「沁みるかもしれないが、我慢するんだぞ」
先生の指先が、佳主馬の肛門に触れた。軟膏の冷たい感覚と薬効成分の刺激が同時に佳主馬に襲い掛かった。
「あ……はあッ!」
佳主馬は叫びそうなのを片手で口を塞いで堪えた。あんまり痛がると、せっかく担任の先生が親切に接してくれているのを裏切ることになりそうな気がした。
患部に軟膏が塗られていく。ヒヤヒヤした感触に佳主馬の全身が緊張して強張る。一通り塗り終えると、先生の指が離れた。もう一度軟膏を指に取ると、今度は佳主馬の肛門の中に指を突っ込んだ。
「うぐ、かはぁ……ッ!」
突然、結腸に異物を挿入されて、佳主馬は兎のように飛び跳ねそうになった。全身の毛穴が開いたかと思った。太腿の筋肉がヒクヒクと震えた。
「あは、先生、指ぃ!」
「吃驚させちゃったかな?ごめん、あと少しで終わるからさ。もう暫くの辛抱だ」
本当はここまでする必要は無いのかもしれない。だけど、お尻の中がどの程度ダメージを負っているのかよく判らないから、先生は表面だけに留まらず内部にまで薬を行き渡らせようとした。結腸の中で指をこねくり回して腸壁に薬を塗りたくっていく。
体育倉庫での悪夢を経験しているにも係らず、佳主馬は逃げようとしなかった。それはこれが治療行為だからと納得している所為なのか、それとも指先の温もりのお蔭なのか。
麻酔成分が効いてきたのか、肛門の違和感が次第に和らいできた。その代わりに甘い感覚が頭をもたげてきた。これは丁度、便の通りが良い時に快感を覚えるのと似ている。
「あ……はあん……ッ」
無意識のうちに声が漏れてしまう。頭の中が逃れ難い感覚に蝕まれ、呑み込まれていく。体の緊張が解れ、自然と腰が浮いてしまう。
先生の視点に移し変えると、何と淫靡な光景だろう。今目の前で、まだあどけない少年がアヌスに指を入れられて感じているのだ。これは据え膳なのだろうか――先生は期待にも似た疑念を抱かずにいられなかった。
佳主馬の嬌声を聴くにつれて、封印されていた記憶が目を醒ます。学生時代に家庭教師のアルバイトをしていた頃、一人の少年と関係を持ったことがある。その頃の甘く切ない記憶を求めて、先生の中心がにわかに疼き始めた。
「池沢、痛くないか?」
もうとっくに痛みは引いている筈だ――先生は確信を持っていながら、敢えて佳主馬に訊いてみた。
「ううん……痛くない」
「じゃあ、今はどんな感じかな?」
先生は佳主馬を先導するかのように、アヌスの中で指をピストンする速度を上げていく。
「あ……あっ、あっ、ああんっ!」
刺激が急激に強くなり、佳主馬は身悶える。
「何だかお尻、気持ちいい……」
気持ちいい――それを聞いて、先生の中心はいよいよ張り詰めた。ジャージの一部がテントを張っているのがはっきりと判る。聖職者の尊厳と、かつて経験した快楽を今一度求めて止まない獣――両者を秤に掛けた天秤は、海綿体に流入した血液の重みで傾いだ。天秤の皿がコトリと乾いた音を立てると共に、聖職者の尊厳は脆くも崩れ去った。
先生は指を引き抜いた。ジャージに手を掛けると、下着ごと股の下までずらした。天井を仰ぐ怒張が露わになった。軟膏をさっきよりも多めに手に取ると、自分のペニスに塗り付けた。
「もっと奥まで、薬を塗ろうな」
わざとらしく、そんなことを言う。その言葉に秘められた本当の意味を、佳主馬は知る由も無かった。