テノリライオン

06-07-24

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匿名ユーザー

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力及ばず。


従順よりも奔放が好きだ。
剛健よりも柔軟が好きだ。
大柄よりも小柄が好きだ。
陽気よりも沈黙が好きだ。

という事で、犬よりも猫が好きだ。
近所の大きな公園で四六時中見かける多種多様な飼い犬達よりも、ごくたまに茂みからにょるんと出てくる野良猫達の姿の方が、より強力に私を骨抜きにするのである。
あらーこんにちはーと声を掛けても、十中八九知らんぷり。 そんなつれない彼らが大好きだ。
どうやらMっ気があるらしい。

今日は近所の公園で夏祭り。
旦那と出かけてたこ焼きやらモダン焼きやらを食べ回り、その足で寄った本屋にて のだめカンタービレを1巻から10巻まで大人買いするという暴挙を犯す。 実は現在我が家は財政的に結構苦しいのだが。
家に帰り、7時過ぎまで二人して読み漁る。 ジャンキーなお祭り食をたらふく食った日の夕飯に油分は要らないと宣言した私は、冷や麦を買い出しにコンビニに行った。

生き物の気配、というものはやはりあるのだと思う。
イヤホンで音楽を聴きながら、日も落ちて暗くなりはじめた駐輪場を通り過ぎようとした時、何故か私の目はふっと左下を見た。
するとそこに、一匹の白猫がつくねんと座っていたのである。
勿論即座に骨抜きだ。

こういう場合、大抵は逃げられると思っているので、立ち止まっても一応すぐに近寄る事はしない。 しかしその子は、私がふやけ顔でこんばんはー、と言っても立ち去らずにこっちを見ている。
いいのかしらいいのかしら、と思いながらそろそろとしゃがんで手を出すと、その白猫は怒りもせずに大人しく撫でられてくれるではないか。
嬉しくてここぞとばかりに撫でまくる。 野良にしては白い毛並みがほとんど汚れていないし、警戒していないこの様子は飼い猫かな、と思ったが、首輪の類はしていなかった。
目尻を下げてよしよしと愛でていると、するりと私の手を抜けた。 ああんもう終わりかと思ったら、しゃがんでいる私の腰にぴったりと添いながら回り込んでまたすり寄ってくる。
こんな好待遇を受ける事はめったにないので、もう私はメロメロだ。 両手で首回りをごろごろと掻いてやって――そこで、はっと気付いた。

首の右側。 人間ならリンパのあるあたりに、ピンポン玉より少し小さいぐらいの、かなり明らかにそれと判るサイズのできものがあったのだ。
首の下だったし、特に痩せたり弱っている風もなく、毛並みも全く普通のままだったので、見た目ですぐには判らなかった。 ぴたりと、私の手は止まった。

一瞬で色々な事が頭をよぎる。 野良だと仮定して、私に出来ることはいくつかあっても――最終的には獣医だ。 しかし、これは間違いなく、治療代は10万オーバーのコースになるだろう。
実に情けないが、今現在うちにその金額を出せる余裕は無い。 8年一緒に暮らして、この春にお星様になってしまったフェレットにも、最後の通院でそれ以上の金額が余裕で飛んだ後だった。

そのできものを避け、もうひとしきりその子の白い毛並みを撫でてから、私は立ち上がった。
特に何を期待する風でもなく、私が手を引いたと見るとその子はとてとてと離れていった。

撫でさせてもらっただけ。
何もできない。

漫画は買えても猫は救えない。 猫好きと言っておいてこの程度か、と、反吐が出る思いだった。
ああ、せめてあの子が飼い猫で、できものの為に首輪は外してあって、獣医に通っていて治療途中でありますように。
そんなあまりに都合の良いストーリーは、願いになっても慰めにはならないと知りつつも。


カテゴリ: [雑記] - &trackback() - 2006年07月24日 03:34:02
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