テノリライオン

06-10-20

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corelli

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森 博嗣「まどろみ消去」読了。


森博嗣の書く「研究者」は美しいと思う。
周囲の人々が陽の光や雨風に晒され移ろう中、そよとも揺らぐことなく立ち続ける彫像のような無為の強さと無邪気な清潔さを感じる。
というような感想を、この短編集の「キシマ先生の静かな生活」を読んで新たにした次第。

自身も某国立工業系大学の助教授という、小説家の二足目のわらじとしては比較的珍しい肩書きを持つのがこの著者。
収入源としては小説の方がずっと上になってしまったそうだが、どちらが二足目かと問われれば、恐らく当人は迷うことなく小説家が二足目だと主張するのだろう。
大学助教授の仕事の傍らで相当量の著書をものしている森先生のHPを覗くと、ちょっと「人」とは違う部分にネジが締まっている氏の姿が垣間見えて楽しい。
広大な自宅の庭に自作の5インチゲージ鉄道なんぞを延々引いている人が、いずれマトモな訳はないのである(褒め言葉)。

てな訳で、我が家で支持を受けている森作品のうちから3つを挙げてみようと思う。


すべてがFになる
森氏のデビュー作にして代表作。
国立工学系大学助教授の犀川(さいかわ)先生と、その大学の学長が愛娘にして犀川先生の研究室の生徒、西之園萌絵の二人が事件を解決していく推理小説「S&Mシリーズ(このネーミングだけは如何かと常々思っているのだが)」の1作目。
私は推理小説はあまり読む方ではないのだけど、この謎解きは本当に愉しかった――と言うか、実に新鮮だった。
賛否両論あるけれど、「すべてがF」というフレーズに、もしくはintegerとか++とかいう言葉に脊髄反射するプログラマ人種はすべからく読んでよし。
つーかそうでない人も読んでよし。
何故扉は開いたのか。 そこに何十年も彼女は居たのか、それとも居なかったのか。
犀川先生の謎解きは、講義の如くに淡々と。


スカイ・クロラ
草薙水素(すいと)が笑うのは、空に居る時だけだった。
戦闘機を駆って地上から逃げる、その先にだけある彼等の世界。
降りるか、墜ちるか。 墜ちるなら、きっと揺りかごみたいに優しく揺らしてくれるだろう――
シリーズ第二作「ナ・バ・テア」の「誰もお前を墜とせない」という惹句にやられて買ったら大正解だった、独特の書き口が読ませる逸品。
私はこれで森博嗣という作家を知った。



森博嗣の TOOL BOX
森氏の「道具」に対する愛情が溢れたフォト&エッセイ集。 日経パソコンに連載されていた。
あの黄色いチューブの「セメダインC」を熱愛していていつでも20ケース常備していたり、プラモの塗装の難しさと楽しさを懇々と語っていたり、巨大なガレージの2Fにある筆記用具も書物もない書斎には奥様も立ち入らなかったり。
中古の旋盤、手動の鉛筆削り、BOSCHの電動ドライバ、1/4スケールのラジコン飛行機、黒電話。
新旧さまざま――いや、やや「旧」寄りの愛らしい「道具」たちが並ぶ様は、くすぐったいような嬉しいようなノスタルジーを呼び覚ましてくれて楽しいことこの上ない。
(ちょっととうが立った)プラモ少年、工作少年、メカニック少年にはたまらない一冊だと思う。
鏡よりもVICTORINOXを持ち歩くようなオナゴだった私のハートも鷲掴み。


カテゴリ: [読書] - &trackback() - 2006年10月20日 20:27:52
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