テノリライオン

08-01-24

最終更新:

corelli

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誰も僕を理解して以下略。


その日、16年前に卒業した高校の事務室で、取りに来た必要書類の名称が思い出せない私に、18年前の私の担任の先生は笑いながら言った。

「お前はしっかりしてるようでどっか抜けてるからなぁ」

その通り。
普段はできるだけソツがないように見せかけているつもりだけれど、実はとんでもなく忘れっぽいし雑だし社会性がないし一般常識にも疎い。
そんなダメさ加減がバレないように時には下手な小芝居を打ち、またそれが露見しないかと内心でビクビクしている。

私はそんな奴だという事を、当然のように判ってくれていた。
私がそんな奴だという事を、18年経っても覚えていてくれた。
何の前触れもなく母校に現れた私のフルネームを、ひと目顔を見るなり叫んだ先生。
何千分の何人に埋もれる、問題も起こさない代わりに輝きもしない、あげくその先生の名前すら思い出せないような、地味で薄情な生徒だったはずなのに――

高校の校舎を後にした帰り道、人気のない道を選んで歩かなければならないほど、私は馬鹿みたいにぼろぼろ泣いていた。
心底の涙というものは理由なんか追い越して溢れてくるものなのだと理解する。
誰にも判ってもらえなくて寂しいとか本当の自分を知って欲しいとか、そんな詩歌じみた感傷は生まれてこの方一度だって抱いた事はないはずだ。だのに、それは軟弱者や寂しがり屋の漏らす単なる嘆きではなく、どこかもっとヒトの根底にある欲求そのものなのだと、打ちのめされるように思い知らされる。

18年の時を経て、今なお授業は続く。
「先生」というのは恐ろしい職業だ。


書庫に「春仕度」と書庫版あとがきを追加。


カテゴリ: [雑記] - &trackback() - 2008年01月24日 21:13:16
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