決勝 現世 戸次右近大夫統常


名前 性別 魔人能力
戸次右近大夫統常 男性 母より受け継ぎし覚悟
夜魔口工鬼&夜魔口断頭 男性/女性 グレムリンワークス

採用する幕間SS

後述

本文

ここは希望崎学園の地下深く
そこには半径1km、高さ10mほどの空間が存在していた
また、彼の住まいでもあった
いや“彼ら”か・・・


「お、お前は・・何故ここに・・・? なんちゃって・・・・フヒッ、ンー、待ってましたよ。茎五クン。」
フードを被った人物が笑う
男と女が交じったような声・・・
「君は素晴らしいですネェ。ここまで成長するとは思ってませんでしたヨ。」

「てめぇは良く喋るヤツだな!クソが・・今からその口を封じて・・」

「おっと、待って下さいよ。どうせ、敵わないのでスから、ちょっとくらいお話しても良いではありませんか?」
スルスルとフードを取り払う・・

「え・・おい?」
「お久し振りでス。茎五クン。といっても、私にとっては初対面でスけどネ。」

そこには、半身が女性、そして、もう半身は・・茎五も知ってる男・・そう、不破原拒であった
強引に縫い付けられており、身体のバランスがおかしい・・・良く見ると下半身も不自然だ
見るからに立っているだけでやっとな状態だった。

「ンフフフ・・・、今回参加した“私”と違い、この私は戦闘向きではないですからネー。」
「実際、この部屋から出る体力もないのでスよ。」
混乱している茎五を尻目に、ニタニタと不破原は笑っていた

「ふん、君はここで死ぬんだ。さぁ、茎五くん私たちを殺してくれ!!ここで全てを終わらせるんだ。」
女の半身が喋ったのだろうか?声質は同じだが、口調が違っている

「ンー、せっかちな女でスねー。まぁ、これでも見てくださいよ。」
不破原は手に持っていたスイッチを押すと、背後の照明が点灯した
そこには、十数人の男女が鎖で繋がれていた
「これは私のコレクションでね。君と同じ転校生たちなんですよ・・クヒヒ・・・。」
「彼らはゲームに欠かせない設備でね。あぁ、大丈夫ですよ。もう、ずーーっと瀕死ですから。私の薬でね。」

訳が分からない・・
こいつは何を言ってるのだろうか?
戦う気概を削がれ、呆然と茎五は立ち尽くしていた

「さて、茎五クン・・貴方は転校生です!!素晴らしい・・とても素晴らしい!!きっと、良い世界を持っているのでしょう。」
「楽しみです!楽しみでなりません!!茎五くんの持つ世界・・・それを地獄の戦場に変えられるのですからネ!!」


<用意するもの>
  • 転校生(反抗できない状態で保存しておく、数は多い方が良いですね)
  • 異次元への転送能力者(このゲームに賛同してくれるのが一番ですが、ダメでも自分に同化させてしまえば良いだけです。)
  • 蘇生能力者(同上)
  • 協力者(比良坂兄弟ですね!)

<ゲームの進め方>
1.ハルマゲドンにノコノコやってきた転校生を捕らえます
2.同化した転送能力者(女)の能力を使い、転校生の世界に移動します
3.決戦場として使えるよう、出来るだけその世界を地獄にしましょう。自身が持つ科学力が試されるときです
4.いくつかの決戦場と魔人墓場を作ったら、参加キャラの選定です
5.蘇生能力者(下半身)の能力を使い、魂に呼びかけましょう。このとき、それっぽい雰囲気を出すのが重要です。
6.キャラ選定が終わったら、「蘇生→地獄へ転送」を繰り返します。ちょっと大変ですが、頑張って下さい
7.別次元に存在する自分を出場させるのも一興かもしれませんね


「・・・というわけでスよ。」
楽しくて仕方ないという様子で、一気に不破原は捲くし立てた。
「ふーん、俺を倒すってことか・・けっ・・・そんな身体でか?」
「ははは・・王が戦う訳ないじゃないでスか。王は玉座にですネ。」
「・・・と、こんな感じで時間稼ぎは良かったかネ?」

「「「んー、王かどうか知らないけど、時間稼ぎは充分だったよ」」」
「「「そう、いつも通り、捕まえるだけ・・だね!!」」」

「へー、お前らごときが俺に勝てるのかよ?」
3人別々の方向から現れた比良坂たちを見回すと、葬に向かって突進した
魔人とは比較にならない茎五のスピード・・が、突き出した拳は空を切り、その太い腕の上に葬がいた
「「「さすが転校生だね!疾いなー」」」
そのまま腕を駆け、顔面を蹴り上げる
茎五にダメージはない

“チッ・・・・”

葬を追撃しようとするが、追いつけない
背後から弑の強襲・・後頭部を殴られるが、これもダメージなし

「てめーら、ちょこまかと・・・」

攻撃力は大したことはない、いや、転校生でなければダメージは受けたかもしれないが・・
だが、そのスピードには全く反応できなかった

「「「無駄だよ、無駄・・脳筋のキミでは僕たちには勝てない」」」
「けっ・・・てめーらもそんな攻撃力じゃ勝てねーよ」
「「「そうかなー?僕らには“こばみん”がいるし、頼もしい援軍もいるよ?」」」
「「「ねぇ、そろそろ出てきてよ。」」」

比良坂たちの視線の先の人物を見て、茎五は固まった

「全く・・こんなとこでも他人様にご迷惑をかけているのかい?えぇ?茎五?」

そこに立っていたのは・・紛れもなく実姉・・・月読三枝であったのだ
「え?・・・・なんで?」

硬直した茎五を比良坂たちは見逃さない
鎖を手にし、茎五の身体に巻きつけていく

「「「これは“こばみん”特製の合金製さ。長年の研究の成果だ。転校生の茎五くんでも切れないよ。」」」

ぐっ・・・・ぐぐぐ・・・
茎五が最大限力を込めても千切れない
「ぐがぁ・・」
こんなもの・・・こんなもの・・・
周りで比良坂がはしゃいでいる
馬鹿にしやがって

「「「はい、これで終了♪ こばみんの科学力と僕らの能力には転校生でも勝てないのさ!!」」」

比良坂たちの能力『恣意操身』
これは自分たちを操作する能力である
弑は葬を、葬は沈を、沈は弑を操作でき、それぞれがイメージした通りに動く
つまり、例えば弑が頭の中で描いたイメージ通りに、葬は自動的に行動する
これで攻撃力が上がることはないが、そのスピードには上限がなくなることになる

ただし制約として、操作している者は行動できなくなるが・・

とにかく、この超スピードと不破原が開発した数々の実験成果
今まで数多くの転校生を捕獲できた理由がここにある


さて・・不破原の半身となった女・・・・
彼女は比良坂と不破原のゲームに加担していることが、
自分の能力をこんなゲームに使用されていることが苦痛だった
半身を処分され、もう半身を不破原に縫い付けられたことも耐えがたかった

不破原ごと自分を殺すよう、プレイヤーを召喚したことは初めてではない
また、転校生を捕獲する彼らの様子を何度も目撃している


そんな彼女の策が、茎五を呼び出すだけだろうか?

───否
本命は他にいる
茎五を最初に呼び出したのは、ヤツらを油断させるため・・
万策尽きたと思わせるためだ

そう、本命は彼ら・・
ここから決勝戦が始まるのだ


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「何て陰湿なところだい・・こんな場所で決勝なんてねぇ。」
2人の足音が比良坂たちに近づいてくる

「おや?何であんたらがいるんだい?ベッキーは?」
夜魔口の前には比良坂たちがいた
「「「あー、君たちも読んじゃったんだ。あの女も困ったもんだ。」」」
ため息をつく
「「「申し訳ないけど、手違いだ・・決勝はやりなお・・・」」」

「手違いではない!!」
半身の女が叫ぶ
「比良坂たちを殺せば、ここから出してやる。お前たちは既に生き返っている。ここは希望崎学園だ!!」

断頭のまゆがわずかに動いた

「「「ははは・・あいつは気が狂ってんだ。気にしないでくれ・・。」」」
困り果てたように比良坂は笑っている

「この娘、嘘は言ってないですよ。」

「「「誰だ!?」」」

不破原と半身の女の脇から影が現れる
彼女は満面の笑みで半身の女に語りかけた

「どうも暗殺のご依頼ありがとうございます。」
「ご依頼内容を確認させて頂きます。比良坂兄弟の暗殺、そして、あなた自身の殺害・・でよろしいですね?」

「「「き、貴様、裏切るのか?」」」
肉皮は比良坂の部下・・そう、奪衣婆になったはず・・
「あーら、あんた達の依頼は完遂してるじゃない?完璧な三枝だったでしょ?」
だが、肉皮は涼しい顔だ

「「「ぐぎぎぎ・・・」」」
しばしの歯軋り、そして、弑は葬を突っ込ませた
肉皮は涼しい顔を崩さない
「えっと、あんたは葬ね・・・。」
パラパラとメモを確認しつつ、付け爪を突き出す
「残念だけど、あんたは避けることができない。」

何を言ってるんだ?
弑がちゃんと操作してくれるに決まってるじゃん
あれ?あれれ・・まだ避けない?
ちょ、ちょっと待って・・・よ
待・・・・って・・・・・

肉皮の言葉通り、鋭く尖った付け爪は身体を貫通し、葬の心臓の鼓動は止まった
実にあっけない幕切れ

そして、操ったいたはずの弑は・・槍鉋が頭部から貫通した状態で絶命してる
葬を避けさせるための操作をする直前、天井から攻撃を受けたのだ
半身の女からの情報通り、動けないものを殺すのは神奈にとって簡単だった
そして葬は慣性の力で、そのまま爪に刺さっていく

「やったー!肉皮さん!!奇襲成功だよ。オリーブオイルのお陰だね。また三枝に変身してー!オケケ剃らしてー!!」
天井近くで舘椅子神奈がはしゃいでいる。

「よくやった神奈ちゃん!やっぱり暗殺はスマートにやらなきゃね!!」

「さてと、夜魔口さんたちに状況を説明しようか・・・。」
肉皮は語った
比良坂と不破原がやった今回のゲームのこと
ここが希望崎学園の地下であること
話がややこしくなるので、ベッキーは召喚させなかったこと

「そこにいる沈を殺してくれ、そしたらこの娘がこの空間から出してくれる。そしたら不破原もろとも殺して終わりだ。」

「・・・・・。」
断頭の沈黙
工鬼は断頭の顔を見た
この顔を工鬼は知っている
目だけ笑い、他の部分は笑っていない
この顔を工鬼は何度も見たことがある

断頭のヤクザとしての本性が表に出てきたときの表情だった

「断る・・。」

「な・・・に・・?」

断頭は沈の前に立った
「お前には選択肢がある。1つ目、命乞いも空しくグレムリンにいたぶられた挙句殺されてる。2つ目、夜魔口組の構成員となり、組のしのぎとしてゲームを続ける。どっちだ?」
「くくく・・・不破原もお前たちのも、素晴らしい能力、設備をもつ。金儲けには最適なゲームじゃないか!!」

あっけにとられる沈

「あぁ、夜魔口組に逆らったり、逃げ出そうとはするなよ。構成員2万人、全員能力者だ。自殺願望がなければお勧めはしない。」

「わ、分かりました。夜魔口組にお世話になります。」

「よし、これでお前も私の子分だ。他のヤツらも元に戻してやる。そして・・・」
キッと肉皮を睨みつける・・。
「そいつは、不破原は夜魔口組の所有物だ。返してもらおうか。」
手に持ったマリーアントワネットの断頭斧を高々と上げ、威嚇する

「はっ・・大切なクライアントを売る殺し屋がどこにいるんだい?」
複数の鉋に乗り、肉皮と不破原・半身の女が上昇していく
「いいか不破原、変な気を起こすんじゃないよ。お前の命は私が握ってることを忘れるな。」
「ヒヒヒ・・・この女がいる限り、何をしようと相殺されるからネ。それに・・これはこれで面白い展開です。見物させてもらいますヨ。」
まるで、他人事のような不破原・・あきらかに何も考えてない


「仕方ない。あいつを、ヤツを召喚するんだ。」
肉皮は半身の女に指示を出す
ベッキーだけは呼びたくなかったが、仕方ない
肉皮と神奈では夜魔口コンビに確実に勝てる保証はない
だから、ベッキーと夜魔口を戦わせる
その間、肉皮たちは半身の女を守ることに徹するのだ
弱ったベッキーか、夜魔口コンビ、それなら勝率は格段に上がるはずだ


暗闇から戸次統常が現れる
これで、役者は揃ったか・・・?
いや、もう1人
早々に鎖で縛られ、除け者にされた彼が・・転校生である彼が・・・
その強力な、何人もの転校生を拘束してきた鎖を引きちぎり・・・戦場に舞い戻った
ふざけやがって、ふざけやがって・・・
全員、ぶっ殺してやる


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

決勝戦 「希望崎学園 地下」

戸次右近大夫統常 vs 夜魔口断頭&工鬼 vs 肉皮リーディング・舘椅子神奈 vs 転校生・月読茎五


夜魔口たちは戸次と茎五にはさまれ、上から肉皮や神奈から狙われる位置にいる
絶体絶命の状況・・
だが、断頭の目は笑っていた
「いいかグレムリン、お前はベッキーの相手だ。だが、勝たなくていい。私にベッキーを近づかせるな。鉋に気をつけろよ。」
「いえあー!!で、先輩は?」
「私の相手はアイツだ・・一号を借りていくぞ!!」
「え?1人で?危険すぎまスよ・・。」
笑った目で睨み返される
この状態の断頭に意見するのは危険だ

「うっきき」
そそくさと戸次に向かっていった

茎五が向かってくる・・が、断頭は気にしない
ポケットからメモ用紙を出し、何かを書き込む
岩のような拳が振りあがった
メモ用紙を1号に渡し、命令を伝えた

茎五が目の前に迫る・・・拳が振り下ろされたら、確実な死・・そんな状況下

「十萌ちゃんか・・・可愛いんだろうね。」

“・・・!?”

茎五の動きが止まる
「ふーん、七菜ちゃんとか芽九ちゃんとかもいるんだ。可哀想にねぇ・・。」
「て、てめぇ・・。」
「ここが希望崎学園なのは幸運だったよ。私は斧部OGだ。そして、一号に持たせたのは夜魔口組への連絡依頼さ。」
くくく・・と断頭は笑っている。
「もう少ししたら、斧部の連中が夜魔口組へ連絡してくれる。明日までに私が連絡しなかったら、組の総力を挙げて月読家を潰せってね。」
「な、はは・・ハッタリはよせ。ここは閉鎖空間だ。その手紙は届かない。」
「そう思うなら、その拳を振り下ろせばいい。だが、ここは不破原が生活していた空間だぞ?水道管くらいあるだろ?」

断頭に促され、茎五は近くの壁を見る・・。
そこには何種類かのパイプがあり、一号がそれを破壊し入っていくのが見えた

「はっはー、ヤクザにとって情報は一番重要でね。」
ニヤニヤと茎五に近づいていく、互いの息が顔にかかる距離だ
「親兄弟たちが楽に死ねると思うなよ?」

冷静に考えれば、断頭のハッタリに気付けるだろう
だが、心を凍てつかせるのが断頭のヤクザハウリングだ
茎五の思考は操られていく

姉、妹、兄、弟・・・そして、親
大切な者たちの顔が頭をよぎった
「殺れるのかい?殺れるのなら、やってみぃ!!」
「クソ・・・・・。」
膝を折り、ヘタヘタと茎五は座り込む
大切な家族を、ここまで茎五を育ててくれた家族を巻き込めるわけがなかった

「何だ?この程度で戦意喪失かい?転校生」
「ヤクザに喧嘩を売ることがどういうことか分かっただろ?そして、死ね。」

断頭は斧部元部長であり、手に持つはマリーアントワネットの断頭斧
この世に絶てぬモノはない・・例えそれが転校生の命だろうと
“自分”の首をも断ったこともある、その断頭斧・・・それを静かに振り下ろした
転がり落ちる茎五の首
断頭は、あの時の自分と重ね合わせていた


───月読茎五、脱落


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

戸次統常の前に立ちはだかるは、夜魔口工鬼
茎五に砕かれた大身槍は復活していた

工鬼は断頭の言葉を思い出す
時間を稼げ・・そう断頭は言っていた
長い付き合いだから分かる、あの顔になった断頭は負けない・・

さて、この戦闘狂をどうするか?

すぐさま戸次が突っ込んでくる
威嚇する暇もない
時間を稼ぐのだ、断頭の元へ行かせないように引き止めるのだ
“フーーっ!!”
大きく息を吐き

「攻撃こそ最大の防御だ!!コラー!!」

と、工鬼も突っ込んでいった

消防斧を戸次に向けてブン投げる
槍で弾かれるのは想定内
その隙に懐へ潜り込んだ・・
この間合いなら、穂先も石突も届かない
戸次の横腹を、もう一方の斧で斬りつけた
が・・左手で斧の柄を押さえつけられてしまう
右足のヤクザキック・・体勢の崩れた戸次を踏み台に飛び越え、弾かれた斧をキャッチした

「オラー、シニサラセー!!」
またもぶつかり合う両雄
梁山泊黒旋風流に対槍術が存在したのが幸いしたのだろうか
それとも、戸次にとって斧と戦うのが初めてだったからであろうか
いや、がむしゃらに、本能のままに攻撃に専念しているから・・そんな単純な理由が当てはまるのかもしれない

とにかく戸次に対し、工鬼は比較的優位に戦っていた


そんな中・・

「あえぇぇ・・断頭さん強いなー!!オケケ剃らしてー!!!」

断頭が茎五の首を刎ねた
この場にいる最高戦力のあっけない退場である
戦局が動くには充分すぎる出来事だった

まず動いたのは、舘椅子神奈
天井付近には200個もの鉋をストックしていた
これを戸次と工鬼に照準を合わせる
まとめて殺してしまえば、残るは断頭だけ
オケケを剃るために、断頭は残さないといけないのだ
となると、工鬼と戸次が戦っている今がチャンスだ

「神奈ちゃん、今はまだダメー!!」
肉皮の制止も聞かず、一直線に飛んでいく

「オケケー!!オケケー!!」
200個の鉋が襲い掛かった


さて、戸次統常は戦国時代の武士である
何千もの弓矢や鉄砲の雨の中、槍一本で突撃していく猛者である
そして、夜魔口工鬼はヤクザである
対立組織との出入りでは、銃弾をものともせず斧のみで敵を叩き割る勇者である
相手がマシンガンを持ち出したときも、たった一人逃げも隠れもせず真正面から攻め敵を壊滅させていた

「ケッ・・小賢しいヤツだ!!」
工鬼は降ってくる鉋を打ち落とすと、それを拾い上げる
無数の鉋が工鬼の身体に容赦なく降り注ぐが、気にする様子はない
ゆっくりと体勢をととのえ、拾った鉋を投げつけた

「ザッケンナ!コラッ!!」
ヤクザハウリングで、回避行動をとろうとした神奈の体を硬直させる
投げた鉋の軌道はバッチリだ


“ダン!!”
“痛っ”

「おけ、おけ、お、お、お、オケケー!!!!」
欲望を爆発させ、強引に硬直を解く神奈
“ガキィーン”
間一髪、乗っていた鉋で鉋を防いだのだ
「あ、あふー、危なかったじゃないカー」


      • が、目の前に戸次統常がいた

工鬼の肩を踏み台にして、跳躍したのだ
有無を言わさず、槍が神奈の体を貫く
そして、そのまま神奈の死体を工鬼に叩きつけた

「チッ・・・」
バックステップして死体をかわす
その死体の後ろから、戸次が全力で槍を打ち下ろしてきた

───舘椅子神奈、脱落


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「あー、神奈ちゃんやられちゃったかー」
肉皮は落ちながら呟く
そして、華麗とは言えない体勢で着地
「いってー・・・おっと、クライアント、クライアント・・」
そう言いつつ半身の女を受け止めた

「はぁ・・全く物事って目論見通り進まないものね・・そう思うでしょ?デュラハンさん?」
「いや、そう言えば・・ははは・・・“お姫様”でいらっしゃいましたよね?これは失礼」

断頭の顔つきが変わる
今まで・・それこそ組内の連中にも、工鬼にもアノことは言ったことがない

「いやぁ、情報が重要なのはヤクザだけではないんですよ。殺し屋にとっても大事でね・・」
「き、貴様・・・」
「ところで、その斧を使うのはどのような心境で?マリーアントワネット王妃」

ゆっくりと肉皮は断頭に近づいていく
「しかし、ヤクザとは落ちぶれたものですなー。何ゆえ、王妃ともあろうお方がそのような選択を?」

断頭はプルプルと全身を震わせている
怒りか?悲しみか?それとも、屈辱か?
「だ、黙れ・・・」
絞り出すような声

「200年以上前、ギロチン処刑のとき何があったのです?」
もう、肉皮は目も前にいる

「黙れ!黙れ!黙れーー!!」
手にもつ断頭斧を振り上げ、そのまま振り下ろした
肉皮を真っ二つにするような軌道
だが、相変わらず肉皮はニヤニヤ笑っている
そして、手から断頭斧は失われていた

「いけませんよ?王妃。高貴なる貴方がこんな危ないものを持っていては・・。」
肉皮は奪衣婆である
短い間ではあるが、賽の河原がある空間でモノを奪うスキルを獲得していた
そして、鎖を断頭に巻きつける
比良坂たちが茎五を縛るのに使用していたものと同タイプのものだ
「ふふ・・まるで囚われの姫様ですね。」

肉皮は笑っている・・そして、断頭も笑っていた

「ここまで目論見通り動いてくれるとは思わなかったぞ、殺し屋」
「・・・?」
「1人忘れてはいないか?良く思い出せ」

背後で気配を感じた
すぐ後ろにいる
誰だ?お前は誰だ?
ゆっくりと振り返る

「・・・な?!」
そこには、比良坂沈が立っていた
手にはナイフ
そのまま肉皮をめった刺しにする
「あが・・あっガがガがあががえがががえわg・・・・。」

「良くやった。流石、夜魔口組構成員だ。」
兄弟の仇に対し、死んでも刺すのを止めない沈をやさしく制止する
そして、もはや死体となった肉皮に語りかける
「確かにマリーアントワネットと呼ばれている時代もあったさ。だが、今は夜魔口組幹部、夜魔口断頭だ。私を見くびるなよ。」

そして、断頭と沈は激闘を繰り広げている戸次と工鬼の下へ走っていった


───肉皮リーディング、脱落


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

断頭は影の馬という首のない馬を召喚した
この馬に跨り、断頭斧を振り回すのが彼女の戦闘スタイルなのである

影の馬は無音である
足音、鳴き声などを発生させない
そのため、奇襲にはもってこいであった

断頭は1回戦、2回戦の戸次の試合を思い出す
彼は毎試合、背後からの奇襲で死んでいた
そう・・・倒すのには奇襲しかなかった
マリーアントワネットを持つ手に力が入る
死後の反撃を許さないよう、初撃で体全体を破壊するのだ


工鬼と戸次は戦っている
消防斧は1本だけだ
神奈の死体を投げつけた直後の一撃で、それは破壊された
梁山泊黒旋風流は斧を2本使用する流派である
じりじりと工鬼は追い詰められていっていた

「ふぅ・・・」
工鬼が無事なのを確認し、一息つく
沈には、既に指示を与えている
2方向からの奇襲
影の馬は音もなく、戸次へ突進した

工鬼は断頭の存在にまだ気付いていない
たった一本の消防斧で、必死に攻撃を仕掛けている
胴、腕、顔、足・・ありとあらゆる場所に無数の刺し傷が作られていた
「クソッタレ!!武士ヤローがぁ!!!!」

“ザスッ・・・”

消防斧が戸次の左腕にヒットする
久々の肉を斬る感触

反撃の槍が来ない?
戸次の顔が後ろを向いている
「不細工な殺気よの・・・」
工鬼を無視し、突然走り出す・・・
その先には、馬上の断頭がいた

「しま・・・せ、先輩!!」
手を伸ばしても届かない距離まで、戸次は行ってしまった
残り1本の消防斧を必死で投げつける
左脹脛にヒットするが、戸次は止まらない

「チッ・・グレムリン!!言ったはずだぞ、ベッキーを近づかせるな・・・と」
「ご、ごめんなさい!!先輩!!」
工鬼は泣き出しそうな顔になっている
「仕方のないヤツだ。だが、後輩の尻拭いも先輩の役割だ!」
マリーアントワネットの断頭斧・・この世に絶てぬ命はない
上段に構える断頭
馬の速度を上げ、一気に振り下ろす


その瞬間・・大量の血が飛び散った


断頭だった塊は真っ二つにされている
肩口から股間にかけて、綺麗に・・・
殺害したものは、既にいなくなっている
戸次は近くにいた沈を刺し殺し、様子を伺っていた不破原を発見し、これを葬っていた


よろよろと工鬼は近寄っていく
手に取るは、先輩の遺物・・マリーアントワネットに断頭斧
先輩の亡き顔にキスをした工鬼は、憎きあの男を目で追った
言葉では表現できないくらい、憎い・・・だが、頭の中は以外にも冷静だった

この試合、2度目の相対である
両雄は同時に飛び掛った


実力者同士の戦いでは、往々にして一瞬でカタがつくことが多い
工鬼が狙ったのは、戸次ではなく槍
柄の部分に狙いを定め、大身槍を叩き折る
そのまま憎き男の顔面に断頭斧を叩きこんだ


───ひと時の静寂


立ち上がったのは戸次統常であった
顔面から大量の血が噴出し、左側が変形している
だが、生きていた

工鬼の首には折れた槍が刺さり、彼は絶命していた
折れた分だけ小回りがきき、一瞬早く攻撃できたのだ


───夜魔口断頭&工鬼、脱落


戸次は足を引きづり、壁をよじ登る
戦いで傷ついた体に鞭を打ち、天井を破壊していく
何時間経ったのだろう?
ようやく、戸次は外気に触れた
見慣れぬ世界がそこには広がっていた

不破原は、比良坂兄弟と自らの体に不老の処置を施した
彼らが生きた年数はなんと約1000年
時間をかけ、舞台を作り、そしてゲームを楽しんでいた

戸次が今いる世界は、A.D.30XX年
希望崎学園では聖杯ハルマゲドンと呼ばれる戦いが始まろうとしている時期であった


───勝者、戸次右近大夫統常


ダンゲロス・ヒーローズへ続く

採用した幕間SS



最終更新:2012年09月22日 00:11