第二回戦交通地獄 夜魔口工鬼&夜魔口断頭


名前 性別 魔人能力
夜魔口工鬼&夜魔口断頭 男性/女性 グレムリンワークス
ラーメン野郎・有村大樹 男性 白虎落とし

採用する幕間SS

なし

本文


縦横無尽に交差する道路!!道路!!道路!!道路!!
或る所では立体的に交差し、又或る所では地下に潜る!!
黒いアスファルトの道があるかと思えば、風情のある煉瓦積みの陸橋、翻っては土を均しただけの田舎道!!
血の濁った様な薄暗い空に向かって無数の道路標識や信号、照明灯が墓標のようにそびえ立ち、奇妙な輝きを放っている。
しかし、それらが本来の役割を果たしている様には見えない!!
如何なる無駄な交通行政の成せる業であろうか!?
税金の無駄遣いは此処まで進んだのか!?
しかし道路としての体を成さぬはずのこの場所には無数の車両が猛然とした速度で行き交う。
法定速度の時速60kmなど見えていないのであろうか。
様々な場所で交通事故が起き、爆発炎上、轢き逃げ、横転が起きている。
しかし次の瞬間には何事も無かったかのように車は走り出す。
なんという無法地帯、警察は仕事をしているのかッ!!
否!!ここは地獄である!!事故に巻き込まれた亡者たちの苦悶や怨嗟の呻き声が彼方此方から聞こえてくるのが判る!!
交通地獄とは、つまり、そういう場所であった。


北アメリカのネイティブアメリカンが使う手斧をトマホークと言う。
そもそもは白人が持ち込んだ斧をネイティブアメリカンが改良したものだ。
投擲武器としてのイメージが強いが本来は汎用的な道具であり、武器としても近接武器として使用され最終手段として投擲に用いられたという。
嘘か誠かアパッチ族のジェロニモの投げるトマホークは百発百中という物語が生まれた。
アメリカの巡航ミサイルがトマホークと命名されたのはそういう理由があるともされる。
 民明書房 オー!!ノー!!斧伝説より

一台の黒塗りのベンツが道路を走り抜けていく。
運転席には金髪にサングラスのチンピラ。
助手席には銀髪の美女(両手は無く、また下半身も無いように見える)。
車の窓際にはベンツには似合わぬファンシーなサルのヌイグルミが無数に飾られている。
彼らは地獄に堕ちた亡者、魔人ヤクザの夜魔口組が一党。
工鬼(ぐれむりん)と断頭(でゅらはん)、そして工鬼の使い魔達である。

「おい、工鬼。車を奪って手に入れたのは良いんだがな、なんで黒塗りのベンツなんだ?」
「うおおおおおおおおッ!!やべえッスよ!!なんだこりゃ!?」
「私はどちらかと言うと、もう少し可愛い系の方が好みなんだがなあ。」
「だああああああッ!!うおおおおおおッ!!」
「五月蝿いぞ、グレムリン。落ち着いて運転に集中しろ。そして能力に集中するんだ。ほれ、前から大型バスだ。」
「「「「「うっきーッ」」」」」

ベンツに向かって大型観光バスが突っ込んでくる。
あわや激突かと思われた瞬間、突然バスは大きくスピン。
回転しながら周囲の車を巻き込みベンツを避けて左へと逸れていく。
爆走するベンツの周囲では、同じくタンクローリーや、軽自動車や、大型トラックや、原付バイクや、その他無数の車両が行き交っている。
しかし、如何なる事か事故は起きてもベンツの走り抜けるスペースは確保される。
工鬼の魔人能力『グレムリンワークス』は機械を狂わせる力を持つ、その効果であった。
事実、使い魔たる角の生えたサル達は目をぐるぐるの渦巻きにして「みょ~ん、みょ~ん」と怪しげな念波を発している様に見えた。

「せっ、先輩!!冷静でスね!!後ろのアレ!!気にならないんでスかァ!!」
「運転するのはお前だ、気にしても始まらんだろう?」

工鬼が慌てるのも無理はない。
周囲で起きる交通事故などは問題ではないのだ。
大きな問題は、後方より迫ってくる巨大な渦潮であるからだ!!
渦潮!!
この地獄に水などは見当たらないが、道路の上を滑るようにして巨大な渦潮が周囲を破壊しながら一色線に突き進んでくる。
異様な交通地獄にあっても、この状況は極めて異常であった。

「急げ、飲み込まれるぞ?何、心配は要らん。私はお前の運転は信じているよ」
「ゲ、ゲェ~?何そのご褒美のお言葉。もっと余裕のある時に言ってほしかったァ!!」
「今の状況で下半身も無い私だ。乗り心地にまでは文句は言わん、まあ頑張れ。」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!いにしゃあああああある!!でぃぃぃぃっ!!」

ギャリギャリギャリ…ッ。
ドリフトを決めて、ほぼ直角にターン。
間一髪で巨大な渦潮をやり過ごす。
渦潮は道路の上を滑りながら数十、いや数百の車を飲み込んで突き進んでいった、周囲に水の気配はないというのに。

「やればできるじゃないか。ふふふ。」
「ぜ、ぜはぁ。ふぃーふぅ…。気軽に言わんでくださいよォ、先輩。この規模の機械を狂わせて、尚且つ運転もするのはしんどいんでスから。」
「大丈夫だ、お前は私の為に命を懸けるんだろ?」
「せ、せんぱーい!!」

ゴスッ!!
思わず抱き着こうとした工鬼の顔面に断頭のロケット頭突きが決まる。

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『ロケット頭突き』
首を切り離せる断頭の技の一つである。首を振る反動で文字通り首をロケットのように飛ばして頭突きを決め、尚且つ元の位置に戻るという、対セクハラアクロバット護身術である。
体が戻った事によって封印が解かれた。
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「い、痛い…」
「調子に乗るな、死ね。」
「うう、でも。アレなんなんでスかねェ。魔人能力なのは確かだろうけれど。えーと有村だっけ?ら、ラーメン?」

大会参加パンフレットをぺらぺらと捲る工鬼。

「ラーメン野郎だ。そうか、有村…。聞いた事のある名前だと思ったが…。」
「知ってるんでスか?先輩。」
「月刊ラーメン野郎で読んだ事がある。渋谷の『ラーメン魂』に凄い新人がいると。先ほどのラーメンからみてもヤツは本物だろう」
「な、何言ってんですか?先輩。」
「あれはな、簡単に言うとナルトだ。知ってるだろ?渦巻き状の薄っぺらい蒲鉾だ。それを拡大解釈した魔法だよ。ラーメンってのは魔法なのさ。」
「ナルトォ?ラーメンが魔法?や、でも、そんなのあり得るんでスかねえ。」
「おいおいおい、何飲まれちまってるんだ?私たちは何だ?泣く子も黙る魔人ヤクザだ。借金で首の回らない貴方に何時もニコニコ首無し金融だ。数多くの魔人から金を取り立ててきた私たちが何を今更、だ。」
「そりゃあまあ、確かに。」
「そうだろう?あれが魔人能力じゃないと言うも良し、だ。そこに興味を持つヤツもいるだろうさ。だがお前にはそんな事は関係ないし興味もない。そういう能力と戦うというだけだ。考えるのは私がやる、お前は動けばいい」

断頭の言葉に工鬼は落ち着きを取り戻す。

「私もラーメンに手を出したことがある。あれは奥が深い。だが…」
「何かあるんですか?」
「ラーメン野郎ってのは魔人料理の中でも、おぞましく異端だ。だからこそ強い。」
「その割には、笑ってますよ、先輩。」
「対抗手段はある、だがまあ私はこんな姿だからな。お前がやるんだ。」
「うっきっき、まあ先輩がやれッていうんなら何でもやりまスよ。」
「よし、じゃあお前、ラーメン野郎になれ。」
「は?はあああああああああああ?」
「なあに、ヤツほどにならなくても良いぞ。今すぐできる簡単な基礎だけだ。」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ先輩。俺、先輩が裸エプロンで作ってくれた料理ならどんなに下手でも食えまスけれど。料理は作れないでスよ?」
「大丈夫だよ。お前は学生の時、私の見よう見まねで斧部のレギュラーになったアホだ。信じてるよ。」

断頭がウィンクをする。

「あがががががががッ!!や、やります!!俺は、俺は!!」

まあ、その後抱きつこうとして。

「こっそりとセクハラしたうえに発情してんじゃねえ!!アホンダラァ!!誰が料理下手だゴルァ!!」

ロケット頭突きを喰らうのは当然であった。


数分前の事である。

「仕込みは十分だな。仕入れ状況はオールグリーンだ。」

破壊された無数の車の山の頂点で有村大樹は仁王立ちになった。
頭には白いタオル。
黒のTシャツには「一期一杯」の荒々しい書体。
店名がプリントされた前掛けには清潔感が漂う。
胸を張り威風堂々と腕を組む様はある種の異様さと神々しさを伴っている。
これが、ラーメン野郎。

彼の足元でスクラップになった車の燃料タンクからは大量のガソリンが漏れだしている。
しかし奇妙な事にそれらは下へとは流れていかぬ。
蛇のようにうねりながら有村の足もとへ集まっているのだ。
何ゆえにガソリンであるのか。

有村大樹は体内でのラーメン精製(しこみ)の触媒として外部から素となる物質を吸収(しいれ)する。
だが、再び問われる疑問が生ずる。
何ゆえにガソリンであるのか。

「生命のスープ。血に匹敵する濃縮された海の旨味成分(マナ)。それだけでは無い、動物性の大地の旨味(マナ)も感じる。遥かな年月をかけた熟成醤油ダレのような良い食材だ。」

そう、ガソリンとは石油を原料とする。
この地獄に何故ガソリンが豊富に存在するかは問題ではない。
ガソリンが石油を元にした物であるという事が重要なのだ。
化石燃料である石油は文字通り生物の化石である。
古代生物、特に海洋微生物の死骸などが長き年月を経て石油となるのだ。
それを精製したものがガソリンである。
すなわち石油という天然の出汁からアクを丁寧にとり、時間をかけて作り上げた澄み切ったスープ、それがガソリンであるという事実は全くもって言い過ぎではないという事が解るであろう。

「malstrøm…。」

キィィィィィ。
有村の体の周りに海蛇が巻きつくように出現する。

「沖縄では海蛇で濃厚な出汁を取るという、今回の客には相応しい。行け、リヴァイアサン=イラブー。」

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【リヴァイアサン=イラブー】(エラブウミヘビ)

核となった精神→遊び心

モチーフ→エラブウミヘビ(イラブー)

■召喚持続時間:15分

■設定

「黄金螺旋属性の精霊」の模造品。有村大樹の遊び心から生まれた世界を飲み込む海蛇。
栄養価の高さを追求し健康食品としてのラーメンを模索したなれの果て。

有村が東京沖縄フェアのご当地ラーメンコンテスト用に考えたラーメン。
渦潮を産み出す力を持つ。
ちなみに東京沖縄フェアは沖縄開発庁の企む第七次世界沖縄化計画の一環として開かれた事を有村大樹は知らない。

■能力名『円環の螺旋(ナルトウェイブ)』

周囲を巻き込んで直進する巨大な渦潮を産み出すご当地(こういきはかい)ラーメン。
イラブー汁は複雑な旨味を持つため有村といえども前に打ち出す以外には制御ができない。
黄金螺旋の回転は鳴門の渦潮に似る。
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自己存在情報をカット(切断)・アンド・ペースト(増殖)し、 他の生命体の遺伝情報に交ぜ合わせる。
恐るべきは、その応用力であった。

「malstrøm…。」

海蛇は高速で回転を開始し巨大な渦潮となって前へと突き進んだ。

「これだけ派手な宣伝をすれば客も、ラーメン屋の居場所がわかるだろう。さあ、時間が無いぞ。ミル彦、開店の準備をしなければな。…ふっ。」

そこで有村大樹は、今は側に居ない相棒の事を口にしてしまい、少しだけ笑った。


破壊された荒野を十数台の車が進む。
周囲に散らばるスクラップは、そのうち動き出すだろう。
しかし今はまだ、何もない直線の道をラーメン屋に向かって車は突き進む。
戦闘を走る車の上には腕組みをした金髪の男、夜魔口工鬼。
男が乗る車の助手席には銀髪の女、夜魔口断頭。
それぞれの車には運転手の姿は見えない。

「先輩、これで良いんでスかねえ。」
「ああ、そのまま堂々としていろ!!ラーメン野郎は第一声が大事だ。なーに恫喝(ヤクザハウリング)と基本は変わらん。客を自分の世界に引き込むという点で全く同じだ。ラーメン野郎は一挙手一投足が魔術儀式を伴う。」
「そういうもんでスかねえ。」
「そういうもんだ。湯の準備はできてるんだろうな。」
「うっきき。そりゃできてまスよ~」
「良し、行こうじゃないか、ラーメンを味わいにな。」
「「「「「「うっきー!!」」」」」」

誰が運転しているのかわからない車の集団の先に見えるのは。
スクラップでできた地獄のラーメン屋台。
その頂点に立つのは有村大樹であった。
その姿を見て工鬼はへらへらと、断頭はニヤリと笑うのだ。

夜魔口工鬼は大きく息を吸い込む。
有村大樹も大きく息を吸い込む。

両者が、同時に、声を、出す。

『『……ィィァラッスァァァッセェェェェェイイイィィィィッ!』』

地獄の空気が大きく震えた。
同時に十数台の爆走する車のボンネットが爆発し高温の水蒸気が舞い上がる!!


(奴もラーメン野郎なのか?)

疑問とは無関係に体を動かす、有村大樹の動きは早かった。
沸騰(イグニ)――茹麺(ハルト)…。

「スグオイシー!!」

バリバリバリバリッ!!
圧倒的な速さを誇る有村大樹をも上回るスピードで夜魔口工鬼の口から雷槌の矢が飛ぶ。

(電撃…鶏ガラスープか?だがこの稚拙さはなんだ?そしてこの速さは!!)

ズルズルズルッ!!
有村は右腕で値踏みするかのように電撃を受け止める、確かに美味い、が何かが違う。
相手のラーメンを、あえて受ける事は危険も伴うが「飲み干してこそ解るスープの秘密」もある。
このラーメンでは致命傷を与えられない。

「スゴクオイシー!!」
「何ッ?」

インターバルを置かずに繰り出される電撃。
惰弱な攻撃とは言え二度食らう趣味は無い。

「タマゴポケット!!」

回避しようとした有村の足を異形の手が掴む。

「ぬるいッ!!」

異形の手を振りほどき電撃を叩き伏せる。
前方にはラーメンを放った男がいる。
実に素人臭いラーメン。
(しかし、この速さは、なんだ?)

「すごいでスね。先輩。ほんとにできましたよ!!」
「続けろ、火力が無ければ手数だ。」

沸騰(イグニ)――茹麺(ハルト)、定義(ベースド)、深化(オプト)――展開(リリース)――――――。

「malstrøm!!」

キィィィィィッ!!
煮卵礼賛(ワールドエンブリオ)!!
食事中(せんとうちゅう)に私語を語るなど。
一麺入魂(アナスタシス)!!
ラーメンに対して許されざる行為。
スープ絶品(オリジンオブライフ)!!

店主と客との命のやり取りにおいて致命的な隙。
自家製キムチ(パーガトリー)!!
その隙を有村大樹は見逃さない。

ウミヘビの咆哮と共に巨大な渦潮が出現した。


巨大な渦潮が夜魔口の二人を飲み込まんとした時。

「私は否定するぞ!!」

大音声が辺りに響き渡る、ヤクザハウリングだ。
その声は美しくも恐ろしく響き渡る女性の声であった。

「店主!!これが客に物を食わせる態度かッ!!思い上がるなよラーメン屋がァ!!コンナモンクエルカッ!!」

その声によってか渦潮は雲散霧消する。
どういう事か。
そして彼女は有村を店主と呼んだ。
まだ独立していない有村の事を!!

「やれ、工鬼!!奴にラーメンを教えてやるのだ!!庶民の味を!!誰でも気軽に味わえる食事を!!」
「ゆーふぉー!!」

突然、有村の上空に現れる未確認飛行物体。
薫り高くも安っぽいソースの香りが立ち込める。
ソースヤキソバの属性はアブダクション!!

「これはッ!!そうか!!」

有村大樹は思い当たる、ラーメン野郎とは無縁だと思っていた、その世界の事を。
夜魔口断頭は答える、その力の正体を。

「ラーメンは、一部の特別な人間が使う奇跡の技じゃないぞ。誰でもできる優しい奇跡(カインドマジック)、湯があればだれでもできる!!即席(インスタント)を味わえ!!」

湯は工鬼の魔人能力で狂わされた車のエンジン暴走熱でラジエーター水を沸騰させて用意してある。

「ラーメン野郎を舐めるな!!」

白虎落としが上空に現れたUFOを一刀両断。

「すぱおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

チーズの香りも高いトマトスパゲティ。
赤いトマトの属性は「鮮血」!!チーズの属性は「腐敗」!!
有村の体からジワリと血が流れる。

「医食同源!!ウミヘビは健康食!!黄金螺旋は永遠の健康!!」

渦潮を産み出したウミヘビはエラブウミヘビという。
沖縄ではイラブー、その毒はハブを大きく上回る。
その牙が有村に噛みつきウミヘビは消え去る、と出血は止まる

「毒を持って毒を制す!!」
「即席(インスタント)などと言う紛い物で本物は倒れない!!」

有村は叫ぶ。
ただ叫ぶ。
奴らの言葉は自分を否定する言葉だ。
ならば有村は奴らを否定しなければならない。
独立の為に!!
店長の為に!!
ミル彦の為に!!
全てのラーメン野郎の為に!!

「教えたとおりにやれ、工鬼。お前も食ったことがあるだろう。なら、できる。」
「大(ビッグ)!!勝(ビクトリー)!!軒(パンチ)!!」

魚粉の旨味、つけ麺の斬新さ。
これは。

「馬鹿なッ!!あの名店の技を貴様がッ!!」

本物には確かに及ばない稚拙な、つけ麺。
児戯にも等しい魚介の属性は「切断」!!つけ麺の属性は「飛躍」!!
しかし有村の脳裏には確かに響く。
「大勝軒店主監修」の七文字が!!
有村のTシャツが十字に切り裂かれ鍛え上げられた上半身が露わになる。
有村大樹は動けない。

「キングオブジェネラル!!」

シンプルな醤油ラーメンでありながら餃子が浮かぶ。
乾燥したレトルト餃子など、相手にするまでもない。
醤油の属性は「集約」餃子の属性は「拡散」。
有村の体が一瞬ぐにゃりと歪んだような気がした。
ダメージはある。
しかし、この程度を受けても有村は倒れない。
だが有村は動くことができないのだ。
その脳裏には「餃子の王将完全監修」という言葉がエコーする。

「お前が思うほどラーメン野郎にストイックさなどないぞ。奴らも人間だ。金の為なら技術を見せる。」
「彼らは偉大なラーメン野郎だった。しかし、奴らはラーメン戦争を生き残れず滅んだ。ラーメン野郎の誇りを捨てたのだ。」

その呟きは怒りであるのか。
有村大樹はゆっくりと銃を構える。
狙うのは車の助手席に座る夜魔口断頭。

「Jiminie.」「luchio-ra.」

二匹のホタルイカが射出された。

「お前だ、お前に俺のラーメンを教えてやる」


召喚されたホタルイカは

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(詳細は、同大会参加者・法帖紅の能力を参照。)



【元祖ジミニー=リュキオラ】(ホタルイカ)

核となった精神→独立

モチーフ→ホタルイカ

■召喚持続時間:一分

■設定

「風属性の精霊」の模造品。独立心から生まれた空飛ぶホタルイカ。珍味を求めた迷走の果て。

非力で体は小さいが、空間を切断し、この隙間を貫通して跳ぶ。ほんのり光っている。

有村大樹が最初に調理したラーメン。

■能力名『死を語る佯りの風塵』

空間を切断しながら跳ぶことで、物理特性に左右されない貫通性を発揮する。

独立の志が生み出したため、ごく短時間だが自立行動も可能。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一回戦で早見、静間の二人を葬り去った高速のラーメン。

「うおおおッ!!」

夜魔口工鬼が気付き巨大な斧を投擲するが、高速のホタルイカを捕らえる事は出来ない。
斧は軌道を逸れてはるか上空へと回転して飛んでいく。
不規則な軌道を描いたホタルイカは断頭の額と左胸に突き刺さった。
ズゾゾゾゾゾゾッ!!
おぞましい麺を啜る音がひびく。

「せッ、先輩ッ!?」
「哀れな…お前はラーメンを侮辱した…。だが俺は客を選ばない。手向けの一杯完了だ。」

驚愕に目を見開く工鬼と、無表情に告げる有村大樹。

しかし。

「客は店を選ぶぞ、店主。」

「なんだと…」

「私は否定するぞ!!お前のラーメンを!!そもそも、ホタルイカの臭みは私の好みじゃない。こんなラーメンは食えないな!!」

その言葉を受けてホタルイカは光になって消えていく。

「店主、傲慢だと思わないか?たかがラーメンを偉そうに語り食べ方にまで文句をつける店が何処にある?ちょっとした工夫程度で料理の頂点を見たかのような言動は、真面目に修行している料理人に失礼だとは思わないか?」

「ぐ、むううう!!」

「黒いTシャツが誇らしいと思うのか?あんなのは汚れが目立たないようにしているだけじゃないのか?汚れを本当に気にしている世界の料理人たちは大概白い服を着る。髪の毛も落ちないように気を使っている、なのにタオルやバンダナで何を気取る。」

「ぬうううううッ!!だが、それを好む客もいる。」

「ああ、そうだ。好き好んでラーメン野郎の店に足を運ぶ者たちを悪くは言わない。味も創意工夫があって評価は受けるべきだ。」

「ならば、俺のラーメンを味わえ。そうすれば解る、必ずだ!!」

「店主。君は言った。俺は客を選ばないと。それは間違っている。客は食べたくないものを味わう事は無いのだ。同様に客でないものにラーメンを提供する必要はない。」

「…」

「店主、もうわかるだろう。私達は客じゃない。大体にして私は魚介系のラーメンが苦手でね。食べるつもりが無いのだ。君の店(せかい)には、今、客が、居ないんだよ。」

パキィィィィィィン!!
邂逅の挨拶と共に出現した有村大樹の世界が、今、消える。


「デュラちゃん先輩!!大丈夫でスか!?」

膝をつく有村大樹と車の助手席に座ったままの夜魔口断頭は向かい合う。

「ラーメンが魔法たり得るのは店主と客が向かい合うからだ、これは精神攻撃空間に相手を引き込むという、料理魔人としては一般的な能力でしかない。だがそれに気づくものは少ないが。」

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知る者は知る。
精神料理空間の事を。
料理を食べる事で火山が爆発し、洪水が起こり目から光線が出る。
時に人が死に。
時に人を蘇らせる事もあるという。
そんな精神料理空間の事を、君は知っているはずだ。
かつて味の子を名乗った魔人が居た。
味の皇を名乗る魔人が居た。
彼らの戦いを知る者は知るだろう。
料理魔人とは奥深きものである。
 ワールドマザーズ 世界大料理教典より
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「つまり、私は嫌いなものは食べないのさ、当たり前だが」

ふ…と有村大樹が笑う。

「胸を打たれたよ。ならば、お客様。貴方の好みを教えてくれないか?必ず心に届く一杯を作って見せよう。一期一杯の精神はここから始める。俺は独立の為にではない。俺のラーメンを味わってくれる客の為に再び立ち上がる。俺の本当のラーメンで勝負してくれ。」

「ああ、それは実に楽しみだ。だが、その前に一つ聞いてくれないか?」

「なんだ?」

「店主、君は知っているか?相手を何処までも追い続けるトマホークという巡航ミサイルの名は、ネイティブアメリカンの手投げ斧から名を得ているという事を」

「それが、なんだ?」

「ああ、『投げた斧』は『当たるのだ』。これはそういう幻想だ。」

ゾグッ。
有村大樹の背中に巨大な斧が突き刺さる。
先ほど夜魔口工鬼が投げた斧が。
物語を司る呪われた斧『マリーアントワネットの断頭斧』によって、有村大樹の体内厨房は破壊された。

「そうだな、私は醤油ラーメンが好みだ、あと実は魚介系も嫌いじゃないんだ。だがヤクザは客としてでなくても店に来ることがあるから気を付けるんだよ、有村大樹。偉大なるラーメン野郎。」


「要するに、精神攻撃による料理バトル空間の作成といったら解りやすいんだろうな。世の中の料理バトル漫画を体現した能力だ。だから料理で対抗するならこちらも魔法が使える。料理をしないものは一方的に攻撃される。」

「しりちちふとももーッ!!」
「「「「「うっきーッ」」」」」」
「聞けよ、てめーら!!」

ゲシゲシゲシ!!

「ありがとうございますッ!!」

すらりと伸びた美しい脚。
肉付きの良いピップライン。
スリットの入った黒いタイトスカートにストッキング&ヒール。

「ふむ、流石に下半身が戻ると便利だな。」

セクハラを仕掛けてきたサルと工鬼をゲシゲシと蹴りながら断頭は感慨深げだ。
戦いが終わってから断頭に下半身が戻った。

「彼らは独自の術式を編み出すことで客を自分の世界に引き込む技術を産み出したのだ、本来は味で引き込むべきところをパフォーマンスで行う。という無謀な事をしたのがラーメン野郎達だ。」

「面白い事だが、料理の本質を外れたな。ラーメンとは気軽に食べられるべきものだった。その敷居をあげる事で、強力な力を手にする代わりに「対象制約」を得てしまったのだ。ラーメン野郎のラーメンは好みが合わない相手には全く通じない。その「制約外し」としての術式が集団としての魔人能力だ。動作、掛け声、服装を同一化する事によって自分たちの精神攻撃世界を強固にしていたのだな。」

独り言のように今回の相手について分析する断頭に対して。
蹴りを喰らって伸びていた工鬼が復活して声をかける

「あ、先輩!!一つ言っておきたいんでスが!!」
「なんだ?」
「俺たちはマゾじゃないでスからね!!先輩の足だからこそ…」
「死ねよ、てめーは」
「もう死んでまスよ~」

「相変わらずだね君たち」
比良坂兄弟が魔人ヤクザを次の戦場へと誘う。

2回戦 了。



最終更新:2012年07月19日 22:55