第二回戦【ジャンボジェット機】SSその1
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第二回戦【ジャンボジェット機】SSその1
1回戦終了翌日、大会本会場近くのホテルの一室。
“ケルベロス”ミツコたちは、早くも次の対戦相手の一人、猪狩誠の研究を始めていた。
テレビモニターには硫酸風呂から飛び出した猪狩が、儒楽第に連打を叩きこむシーンが映し出されている。
“ケルベロス”ミツコたちは、早くも次の対戦相手の一人、猪狩誠の研究を始めていた。
テレビモニターには硫酸風呂から飛び出した猪狩が、儒楽第に連打を叩きこむシーンが映し出されている。
「…妙だな。」
画面を見ながら光吾はそう呟いた。
「まぁ確かにちょっと強すぎだよねー。」
内容とは裏腹に満子の言葉には気楽さが感じられる。
「それもだけれど、試合開始時の動きと違いすぎない?」
そう言って光吾は映像を試合開始時に戻す。
画面を見ながら光吾はそう呟いた。
「まぁ確かにちょっと強すぎだよねー。」
内容とは裏腹に満子の言葉には気楽さが感じられる。
「それもだけれど、試合開始時の動きと違いすぎない?」
そう言って光吾は映像を試合開始時に戻す。
「あー。確かに言われてみると全然違うかも。」
「力を温存してたとするにもちょっと不自然な感じがしますわね。」
「うん。だからこれが彼の能力だと考えていいと思う。だとすると問題になるのは。」
「制約かー。」
「強い能力には必ず強い制約がある。これが猪狩さん攻略のカギになるということですね。」
「よーし、ミツゴ君。もっかい頭から再生!最初に見つけた人が今晩のデザート決定権ね!」
「力を温存してたとするにもちょっと不自然な感じがしますわね。」
「うん。だからこれが彼の能力だと考えていいと思う。だとすると問題になるのは。」
「制約かー。」
「強い能力には必ず強い制約がある。これが猪狩さん攻略のカギになるということですね。」
「よーし、ミツゴ君。もっかい頭から再生!最初に見つけた人が今晩のデザート決定権ね!」
3人は真剣にビデオに見返す。しかし
「うーん。ダメだァ、何回見てもわかんないー。」
何度映像を見ても、猪狩が何かしら制約を払った様子は見つけられなかった。
「うーん。ダメだァ、何回見てもわかんないー。」
何度映像を見ても、猪狩が何かしら制約を払った様子は見つけられなかった。
「後払いか、何らかの条件を満たすタイプなのかもしれませんわね。」
「そうなのかもしれないね。それか、もしかしたら制約を支払ったのは彼じゃなくて……」
「どういうこと?」
「ううん、やっぱり考えるのは一旦やめにしよう。ちょっと休憩!」
「そうなのかもしれないね。それか、もしかしたら制約を支払ったのは彼じゃなくて……」
「どういうこと?」
「ううん、やっぱり考えるのは一旦やめにしよう。ちょっと休憩!」
光吾は気分転換に窓を開き、テーブルにおいてあった新聞を何気なく手にとった。
直後、一面の隅に小さく書かれていた記事に彼の目は釘付けになった。
「『ザ・キングオブトワイライト本試合会場で、8歳の男児が重症』」
「どうかなさいました?」
「見て、被害者の名前が『まさる』って書いてある。」
「あれ?確かそれってぇー。」
直後、一面の隅に小さく書かれていた記事に彼の目は釘付けになった。
「『ザ・キングオブトワイライト本試合会場で、8歳の男児が重症』」
「どうかなさいました?」
「見て、被害者の名前が『まさる』って書いてある。」
「あれ?確かそれってぇー。」
先ほど何度も繰り返し聴いた言葉。『まゆ、めい、まさる』
それは猪狩誠が発した言葉だったではないか。
これは偶然ではない。彼の……光吾の探偵としての勘が、そう告げていた。
「この子の居る病院を訪ねてみよう。もしかしたら猪狩の能力の手がかりが、つかめるかもしれない。」
それは猪狩誠が発した言葉だったではないか。
これは偶然ではない。彼の……光吾の探偵としての勘が、そう告げていた。
「この子の居る病院を訪ねてみよう。もしかしたら猪狩の能力の手がかりが、つかめるかもしれない。」
……数日後、彼らは確信する。
猪狩誠の能力の真の力と、その恐ろしさを。
猪狩誠の能力の真の力と、その恐ろしさを。
---
第2回戦試合場、ジャンボジェット機。
普段は多くの旅行者を安全に、速やかに運ぶそれは、
この時、3人の魔人たちが死力を以って闘う、鉄の棺桶となる。
普段は多くの旅行者を安全に、速やかに運ぶそれは、
この時、3人の魔人たちが死力を以って闘う、鉄の棺桶となる。
試合場に転送された猪狩はまず、窓の外を見て驚きの声を上げた。
「これが飛行機って奴かぁ……。話には聞いてたけど、本当に飛んでんだな。」
彼が驚くのも、無理はない。
核やパンデミックの影響で今の世界では飛行機は殆ど飛んでいないのだ。
もっとも、飛んでいたとして、それに乗る金銭的余裕など今までの猪狩にはなかったわけだが。
(立ってるだけでも変な感じがする……。揺れてたりするし、なんか落ちつかねえなあ。)
初めての飛行機に、少しばかり不安を抱きながらも、猪狩は敵を探し始めた。
「これが飛行機って奴かぁ……。話には聞いてたけど、本当に飛んでんだな。」
彼が驚くのも、無理はない。
核やパンデミックの影響で今の世界では飛行機は殆ど飛んでいないのだ。
もっとも、飛んでいたとして、それに乗る金銭的余裕など今までの猪狩にはなかったわけだが。
(立ってるだけでも変な感じがする……。揺れてたりするし、なんか落ちつかねえなあ。)
初めての飛行機に、少しばかり不安を抱きながらも、猪狩は敵を探し始めた。
本来三つ巴ならば、一度身を隠すなどして、残る二人が潰しあうのを待ってから、漁夫の利を狙うのがセオリーだ。
しかし、今回の相手には“ケルベロス”のうちの一人、光吾……すなわち手芸者が居る。
手芸者は直接の戦闘に長けるだけではなく、罠や不意打ちなどの搦め手を用いる事が多い。
放っておけばそれだけ罠を仕掛けられるだろうし、不意打ちされる確率も上がる。
また、猪狩は1回戦で、優勝候補筆頭であった儒楽第を、真っ向勝負で下している。
ミツコと冷泉院が彼を警戒し、手を組む事も考えられる。
故に、時間を与えればそれだけこちらは不利になる。猪狩はそう考えたのだ。
しかし、今回の相手には“ケルベロス”のうちの一人、光吾……すなわち手芸者が居る。
手芸者は直接の戦闘に長けるだけではなく、罠や不意打ちなどの搦め手を用いる事が多い。
放っておけばそれだけ罠を仕掛けられるだろうし、不意打ちされる確率も上がる。
また、猪狩は1回戦で、優勝候補筆頭であった儒楽第を、真っ向勝負で下している。
ミツコと冷泉院が彼を警戒し、手を組む事も考えられる。
故に、時間を与えればそれだけこちらは不利になる。猪狩はそう考えたのだ。
過去の仕事で得た経験を生かし、罠や待ち伏せを警戒しながら、
油断無く、そして迷い無く、速やかに機内を進んで行く猪狩。
どうやら、進む方向は正解だったようで、道中罠が仕掛けられていた。
それらを避け、または解除しながら、更に奥へ進む。
油断無く、そして迷い無く、速やかに機内を進んで行く猪狩。
どうやら、進む方向は正解だったようで、道中罠が仕掛けられていた。
それらを避け、または解除しながら、更に奥へ進む。
仕掛けられた罠も結構な数になってきた。そろそろ出くわすころだろう。
そう思った猪狩の目に、また一つ新しい罠が映りこむ。
脛のあたりの高さに張られたワイヤー。触れれば罠が作動し、何かしらの手傷を負うことになるだろう。
そう思った猪狩の目に、また一つ新しい罠が映りこむ。
脛のあたりの高さに張られたワイヤー。触れれば罠が作動し、何かしらの手傷を負うことになるだろう。
引っ掛らないように足を上げて通過しようとする猪狩。
その時、気流の影響で、機体全体が僅かに揺れた。
「うおおっ!?」
揺れ自体は小さい物だったが、猪狩は過剰反応気味に、大きく後ろに飛んだ。
それが、彼を救った。一瞬前まで彼の頭が在った位置を、閉じた鋏が通過した。
その時、気流の影響で、機体全体が僅かに揺れた。
「うおおっ!?」
揺れ自体は小さい物だったが、猪狩は過剰反応気味に、大きく後ろに飛んだ。
それが、彼を救った。一瞬前まで彼の頭が在った位置を、閉じた鋏が通過した。
「…………!」
よけられたのは、全くの偶然。先ほどの揺れがなければ、猪狩は何をされたか気付く事も無く、死んでいただろう。
だが、猪狩に動揺はない。すぐさま射出方向へと向き直り、構えを取る。
よけられたのは、全くの偶然。先ほどの揺れがなければ、猪狩は何をされたか気付く事も無く、死んでいただろう。
だが、猪狩に動揺はない。すぐさま射出方向へと向き直り、構えを取る。
光吾が身を隠していたのは、天井に配備された開閉式の荷物入れの中だ。
罠を張り、それに敵が引っ掛ればよし。罠に気づかれても、気をとられている内に奇襲で仕留められれば、それもまたよし。
それが、“ケルベロス”ミツコの作戦だった。
罠を張り、それに敵が引っ掛ればよし。罠に気づかれても、気をとられている内に奇襲で仕留められれば、それもまたよし。
それが、“ケルベロス”ミツコの作戦だった。
「くっ……!外した!姉ちゃん!」
奇襲が失敗した光吾はそこから降り、すぐさま姉の蜜子へと交代。
「ヒャッハー!バラ肉にしてやんよぉー!」
蜜子は料理魔人独特の動きで肉切り包丁を振り、猪狩へと切りかかる。
奇襲が失敗した光吾はそこから降り、すぐさま姉の蜜子へと交代。
「ヒャッハー!バラ肉にしてやんよぉー!」
蜜子は料理魔人独特の動きで肉切り包丁を振り、猪狩へと切りかかる。
だが、対する猪狩も様々な苦境を乗り越えてきた歴戦の魔人。
「……ハッ!」
僅かな動きでそれをいなし、カウンター気味に一撃を放つ。
「ミツコちゃーん!」
蜜子は満子へ交代し、驚異的なタフネスでそれに耐える。
「何……っ!?」
「……効きませんわ!」
すぐさま噴霧器を使い反撃に出る満子。猪狩はバック転でそれを回避。
「逃がさない!」
しかし、距離を取った猪狩に、リリアンによって蜘蛛の巣状に編まれたネットが襲い掛かる。
「……ハッ!」
僅かな動きでそれをいなし、カウンター気味に一撃を放つ。
「ミツコちゃーん!」
蜜子は満子へ交代し、驚異的なタフネスでそれに耐える。
「何……っ!?」
「……効きませんわ!」
すぐさま噴霧器を使い反撃に出る満子。猪狩はバック転でそれを回避。
「逃がさない!」
しかし、距離を取った猪狩に、リリアンによって蜘蛛の巣状に編まれたネットが襲い掛かる。
「……クソッ!」
猪狩は無茶だとわかっていながらも、網の下へ飛び込むようにして潜り抜けるしかない。
体勢を崩した猪狩に振り下ろされる肉切り包丁。初撃と違い、今度の猪狩にはそれを避けきる余裕はない。
「ヒャッハー!」
「ぐあっ!」
猪狩の腕が大きく切り裂かれる。
「……まだまだぁ!」
それに怯まず、猪狩はミツコに拳打を叩き込む。
猪狩は無茶だとわかっていながらも、網の下へ飛び込むようにして潜り抜けるしかない。
体勢を崩した猪狩に振り下ろされる肉切り包丁。初撃と違い、今度の猪狩にはそれを避けきる余裕はない。
「ヒャッハー!」
「ぐあっ!」
猪狩の腕が大きく切り裂かれる。
「……まだまだぁ!」
それに怯まず、猪狩はミツコに拳打を叩き込む。
「でりゃあー!」
「ヒャッハー!」
再び始まる両者の攻防。
状況を覆そうと猪狩は気迫をこめて攻撃するが、3人の息の合ったコンビネーションが、それを許さない。
「ヒャッハー!」
再び始まる両者の攻防。
状況を覆そうと猪狩は気迫をこめて攻撃するが、3人の息の合ったコンビネーションが、それを許さない。
「がっ……!」
「ぐうう……!」
「ぐあああ!」
幾度となく、猪狩の体に大きな傷が刻まれる。
今や猪狩には至るところに傷が刻まれており、その体は血だらけだ。
対するミツコは一つも有効打を食らっておらず、ほぼ無傷に近い。
「もういいでしょう。実力の差は明らかです。これ以上は時間の無駄、降参なさい。」
満子が諭すような口調で言う。だが
「………まだ、だ!」
「ぐうう……!」
「ぐあああ!」
幾度となく、猪狩の体に大きな傷が刻まれる。
今や猪狩には至るところに傷が刻まれており、その体は血だらけだ。
対するミツコは一つも有効打を食らっておらず、ほぼ無傷に近い。
「もういいでしょう。実力の差は明らかです。これ以上は時間の無駄、降参なさい。」
満子が諭すような口調で言う。だが
「………まだ、だ!」
猪狩の闘志は微塵も落ちていなかった。その目はまるで、自分が負ける事など在りえ無いと確信しているようだ。
「………自分には家族が居るから、ですか?」
「そうだ……。俺には家族が居る。勝たなきゃいけない理由がある。家族が居る限り、俺は負けない!」
力強くその問いに答える猪狩。
「………自分には家族が居るから、ですか?」
「そうだ……。俺には家族が居る。勝たなきゃいけない理由がある。家族が居る限り、俺は負けない!」
力強くその問いに答える猪狩。
満子は一つため息を付いた。
「みっちゃん。教えてさし上げて。」
気配がスゥと入れ替わる。
「猪狩君、残念だけど君に勝ちの目はない。なぜなら、僕達は既に、君の真相にたどり着いている。」
入れ替わった光吾は淡々と告げ、懐から数枚の写真を取り出す。
「これ、は……!」
写真を見るや否や、驚愕に見開かれる猪狩の目。
その写真に写っていたのは、孤児院『どんぐりの家』と……そこから連れ出される、十数人の子供たち。
「みっちゃん。教えてさし上げて。」
気配がスゥと入れ替わる。
「猪狩君、残念だけど君に勝ちの目はない。なぜなら、僕達は既に、君の真相にたどり着いている。」
入れ替わった光吾は淡々と告げ、懐から数枚の写真を取り出す。
「これ、は……!」
写真を見るや否や、驚愕に見開かれる猪狩の目。
その写真に写っていたのは、孤児院『どんぐりの家』と……そこから連れ出される、十数人の子供たち。
「既に君の武器は封じさせてもらった。この勝負、君に勝ち目はない。」
---
一方その頃、希望崎学園、黒樺寮前。
「子供たちを、わしの子供達を返してもらおう!」
どんぐりの家の園長、松五郎はそこで家族を取り戻すため、孤独な戦いを挑んでいた。
ほんの僅かな時間、孤児院を留守にした間の失態。
幸いにも、万が一の事態のために五本指に持たせてある発信機によって居場所はすぐに知れたが、単身駆けつけた園長を迎え撃つのは十数人の希望崎魔人だった。
「ミツコの頼みだ!あんたを通すわけにはいかねえんだよ!」
「子供たちを、わしの子供達を返してもらおう!」
どんぐりの家の園長、松五郎はそこで家族を取り戻すため、孤独な戦いを挑んでいた。
ほんの僅かな時間、孤児院を留守にした間の失態。
幸いにも、万が一の事態のために五本指に持たせてある発信機によって居場所はすぐに知れたが、単身駆けつけた園長を迎え撃つのは十数人の希望崎魔人だった。
「ミツコの頼みだ!あんたを通すわけにはいかねえんだよ!」
園長はかつて炭夜紫会屈指の武闘派として恐れられた男。並大抵の魔人が叶う相手ではない。だがしかし
「オラッ!おっさん後ろだ!」
園長は蹴られながらも、その足を匕首で切りつける。
「残念、『身長190cmの世界』。膝より下は全部シークレットブーツでしたァ。」
弱小魔人たる黒樺寮寮生たちは真っ向勝負など挑まない。
妨害、撹乱こそ彼らの常套手段であった。
押しては引き、入れ替わり立ち代わり行く手を遮る彼らによって、園長は寮の門をくぐることすらできず、いたずらに時間だけが過ぎていった。
(いかん…このままでは、誠が)
焦りを感じた瞬間
「ヒャッハー!」スライディングタックルで足を払われ、地面に倒される。
次々とのしかかってくる魔人たちの重みで、体の動きが封じられた。
「グゥゥ、くそぉ、殺せ!わしを殺せぇ!!」
「おっと、そうはいかねえ。ミツコちゃんからは決して怪我をさせるなとも頼まれてるんでね。」
(ケルベロスミツコ、やはり誠の能力に完全に気づいておったか。……こうなれば、やむを得ん!)
「誠ぉー!後のことは、全て任せたぞ!」
叫ぶやいなや、園長は渾身の力を顎に込め、突き出した舌に向けて両の歯を噛みあわせた。
しかし、なんたることか、その歯は舌の上をツルリと滑り、そのまま上下の歯が打ち合わされる。
「!?」
何度繰り返しても、結果は変わらない。園長の舌はするりするりと歯を掻い潜る。
その様子を見て寮生の一人が得意げに語る。
「これぞ我が能力『魔術師手術中 』。極限の滑舌を持ったものは決して噛むことは無い!」
「く、クソォー!誠、誠ォーーー!」
必死の形相で叫ぶ園長。しかし、状況は絶望的だ。
園長の声は黒樺寮に虚しく木霊するだけだった。
「オラッ!おっさん後ろだ!」
園長は蹴られながらも、その足を匕首で切りつける。
「残念、『身長190cmの世界』。膝より下は全部シークレットブーツでしたァ。」
弱小魔人たる黒樺寮寮生たちは真っ向勝負など挑まない。
妨害、撹乱こそ彼らの常套手段であった。
押しては引き、入れ替わり立ち代わり行く手を遮る彼らによって、園長は寮の門をくぐることすらできず、いたずらに時間だけが過ぎていった。
(いかん…このままでは、誠が)
焦りを感じた瞬間
「ヒャッハー!」スライディングタックルで足を払われ、地面に倒される。
次々とのしかかってくる魔人たちの重みで、体の動きが封じられた。
「グゥゥ、くそぉ、殺せ!わしを殺せぇ!!」
「おっと、そうはいかねえ。ミツコちゃんからは決して怪我をさせるなとも頼まれてるんでね。」
(ケルベロスミツコ、やはり誠の能力に完全に気づいておったか。……こうなれば、やむを得ん!)
「誠ぉー!後のことは、全て任せたぞ!」
叫ぶやいなや、園長は渾身の力を顎に込め、突き出した舌に向けて両の歯を噛みあわせた。
しかし、なんたることか、その歯は舌の上をツルリと滑り、そのまま上下の歯が打ち合わされる。
「!?」
何度繰り返しても、結果は変わらない。園長の舌はするりするりと歯を掻い潜る。
その様子を見て寮生の一人が得意げに語る。
「これぞ我が能力『
「く、クソォー!誠、誠ォーーー!」
必死の形相で叫ぶ園長。しかし、状況は絶望的だ。
園長の声は黒樺寮に虚しく木霊するだけだった。
---
猪狩と“ケルベロス”ミツコの戦いは、もはや一方的な虐殺へと形を変えていた。
「ぐ、ぐううう……!」
「ヒャッハァー!しぶとい奴だねぇー!」
猪狩の傷は先程よりも増え、もはや息も絶え絶えといった感じだ。
もはや殆ど攻撃を仕掛ける事も無く、ひたすら逃げながら、ミツコの攻撃を防ぎ続ける。
『All for one』を封じられ、肉体的にも追い詰められている、絶望的な状況。
そんな中でも、猪狩の目は、いまだ闘志の輝きを宿していた。
「ぐ、ぐううう……!」
「ヒャッハァー!しぶとい奴だねぇー!」
猪狩の傷は先程よりも増え、もはや息も絶え絶えといった感じだ。
もはや殆ど攻撃を仕掛ける事も無く、ひたすら逃げながら、ミツコの攻撃を防ぎ続ける。
『All for one』を封じられ、肉体的にも追い詰められている、絶望的な状況。
そんな中でも、猪狩の目は、いまだ闘志の輝きを宿していた。
なぜだ……?何故、彼はまだ諦めていないんだ?
それが、絶対的に有利なはずの光吾の心に、僅かな不安を芽生えさせる。
園長が子供たちを取り返してくれると期待しているのか?
それとも……もしや自分たちの推理に見落としが有ったのだろうか…
「俺の家族に手出しをするやつに、俺は絶対に負けねえ……」
真っ直ぐに自分を見据える猪狩の瞳を見ていると、彼は本当に自分たちが考えていたような外道なのだろうかという疑念が膨れあがる。
それが、絶対的に有利なはずの光吾の心に、僅かな不安を芽生えさせる。
園長が子供たちを取り返してくれると期待しているのか?
それとも……もしや自分たちの推理に見落としが有ったのだろうか…
「俺の家族に手出しをするやつに、俺は絶対に負けねえ……」
真っ直ぐに自分を見据える猪狩の瞳を見ていると、彼は本当に自分たちが考えていたような外道なのだろうかという疑念が膨れあがる。
「みっちゃん!しっかり!」
はっ。と、我に返る光吾。
「やっちまったもんはしょうがねぇだろ。考えるのは倒してからやりゃあいいんだよ」
「……そうだね。ごめん、姉さん。姉ちゃん。よし、一気に勝負を決める!」
アイアンロッドを構え、猪狩を見据える。
だが、その視線の先の猪狩は、どこか遠い目で外を見ていた。
「………来た。」
ぼそりと、猪狩が呟く。そしてそれと同時、猪狩を中心に風が巻き起こる。
「なん……!?」
今度は光吾が驚愕に目を見開く番だった。
封じたはずの、猪狩の能力『All for one』が、今、発動していた。
はっ。と、我に返る光吾。
「やっちまったもんはしょうがねぇだろ。考えるのは倒してからやりゃあいいんだよ」
「……そうだね。ごめん、姉さん。姉ちゃん。よし、一気に勝負を決める!」
アイアンロッドを構え、猪狩を見据える。
だが、その視線の先の猪狩は、どこか遠い目で外を見ていた。
「………来た。」
ぼそりと、猪狩が呟く。そしてそれと同時、猪狩を中心に風が巻き起こる。
「なん……!?」
今度は光吾が驚愕に目を見開く番だった。
封じたはずの、猪狩の能力『All for one』が、今、発動していた。
---
数分前、黒樺寮。
そこには、園長の叫びを、聞き届けた者たちがいた。
「ねえ、今の声……もしかして、園長じゃ?」
「いやでも、あのお姉ちゃんは園長と猪狩おにいちゃんの頼みだって言ってたし…」
それは、黒樺寮の中に連れて来られた園児たち。
そこには、園長の叫びを、聞き届けた者たちがいた。
「ねえ、今の声……もしかして、園長じゃ?」
「いやでも、あのお姉ちゃんは園長と猪狩おにいちゃんの頼みだって言ってたし…」
それは、黒樺寮の中に連れて来られた園児たち。
(……やっぱり嘘だったんだ。あの人の言ってたこと。)
そしてその中には勿論、五本指の一人、ももこも含まれていた。
(誠お兄ちゃんが、危ないんだ……。)
園長の叫びを理解したももこは、部屋の奥に目をやった。机の上にはナイフが置きっぱなしにしてあった。
そしてその中には勿論、五本指の一人、ももこも含まれていた。
(誠お兄ちゃんが、危ないんだ……。)
園長の叫びを理解したももこは、部屋の奥に目をやった。机の上にはナイフが置きっぱなしにしてあった。
ももこの脳裏に、まゆとめい、そしてまさるの顔が思い浮かぶ。
……猪狩の能力の正体に気付いていたのは、ミツコだけではなかった。
五本指の一人、ももこは、子供達の中でもとび抜けて賢く、勘のいい子だ。
彼女はまゆ、めいのいなくなったタイミングと、猪狩の逆転のタイミング。そしてまさるが入院した事等から推理し、猪狩の能力を見抜いていたのだ。
(あの3人も……お兄ちゃんの力になれて嬉しかったのかな)
監視の目にとまらないよう、ももこはゆっくりと、机に近づく。
(お兄ちゃんは優しい人だ……。きっと3人を傷つけたのも理由がある。……それに)
ナイフを手に取り、刃を自分の喉元に向ける。監視がももこの異変に気付くが、もう遅い。
(どんな理由でも。誠お兄ちゃんが望むなら、私は……。)
そのまま倒れこむようにして体重をかけ、ナイフを突き立てる。喉からは温かい液体が流れ出し、体からはその分の熱が引いていくのを感じる。
同時に、周りの景色も、声も、意識も、だんだんと曖昧になっていく。
(私はどうなってもいい。だから……。勝って、誠お兄ちゃん……。)
子供達の叫び声が、黒樺寮の魔人の声が、園長の声が、遠くに聞こえる。
そして、ももこは……。
……猪狩の能力の正体に気付いていたのは、ミツコだけではなかった。
五本指の一人、ももこは、子供達の中でもとび抜けて賢く、勘のいい子だ。
彼女はまゆ、めいのいなくなったタイミングと、猪狩の逆転のタイミング。そしてまさるが入院した事等から推理し、猪狩の能力を見抜いていたのだ。
(あの3人も……お兄ちゃんの力になれて嬉しかったのかな)
監視の目にとまらないよう、ももこはゆっくりと、机に近づく。
(お兄ちゃんは優しい人だ……。きっと3人を傷つけたのも理由がある。……それに)
ナイフを手に取り、刃を自分の喉元に向ける。監視がももこの異変に気付くが、もう遅い。
(どんな理由でも。誠お兄ちゃんが望むなら、私は……。)
そのまま倒れこむようにして体重をかけ、ナイフを突き立てる。喉からは温かい液体が流れ出し、体からはその分の熱が引いていくのを感じる。
同時に、周りの景色も、声も、意識も、だんだんと曖昧になっていく。
(私はどうなってもいい。だから……。勝って、誠お兄ちゃん……。)
子供達の叫び声が、黒樺寮の魔人の声が、園長の声が、遠くに聞こえる。
そして、ももこは……。
---
猪狩の目から、一筋の涙が零れた。
「ももこが、死んだ」
「どうして……?誰ひとり傷つけるなって、僕は確かに言ったんだ。誰も傷つけずに戦いを終えられるはずだった…」
激しい動揺を無理やり押さえつけ、リリアンネットを放つ光吾。
「………はぁっ!」
猪狩はその場から動かず、手刀によってそれを切り裂く。
「ももこが、死んだ」
「どうして……?誰ひとり傷つけるなって、僕は確かに言ったんだ。誰も傷つけずに戦いを終えられるはずだった…」
激しい動揺を無理やり押さえつけ、リリアンネットを放つ光吾。
「………はぁっ!」
猪狩はその場から動かず、手刀によってそれを切り裂く。
「こんなもので……今の俺を止められると思うな!」
「……!みっちゃん!危ない!」
猪狩は距離を一足でつめ、打撃を放つ。操作権を奪った満子がそれを防ごうとする。
「が、ぐぅ…っ!」
しかしそれよりも、猪狩のほうが圧倒的に早い。
ボディに直撃を受け、後ずさる満子。
「……!みっちゃん!危ない!」
猪狩は距離を一足でつめ、打撃を放つ。操作権を奪った満子がそれを防ごうとする。
「が、ぐぅ…っ!」
しかしそれよりも、猪狩のほうが圧倒的に早い。
ボディに直撃を受け、後ずさる満子。
「お前らさえ余計なことをしなければ……ももこは辛い思いをしなくて済んだんだ!」
「ああああっ!」
怒声とともに、もう一撃。満子はそのまま、数m吹き飛ばされる。
満子は蜜子に切り替わり、倒れた状態から一瞬で飛び上がって、猪狩に包丁を振るおうとする。
(ダメだ、姉ちゃん……!)
「う……!?」
だが、包丁を振るうより先に、猪狩がその手を掴む。
「ああああっ!」
怒声とともに、もう一撃。満子はそのまま、数m吹き飛ばされる。
満子は蜜子に切り替わり、倒れた状態から一瞬で飛び上がって、猪狩に包丁を振るおうとする。
(ダメだ、姉ちゃん……!)
「う……!?」
だが、包丁を振るうより先に、猪狩がその手を掴む。
「こ、この……!」
蜜子は手を振り払おうとするが、猪狩に掴まれた手はピクリとも動かない。
「……でやぁ!」
猪狩が気合と共に、掴んでいた腕を勢いよく捻る。
「ぎっ……!?」
ごきゅり、という嫌な音とともに、蜜子の右腕がありえない方向へ曲がる。
「が、があああああああああ!?」
痛みのあまり、叫び声をあげる蜜子。形勢は、完全に逆転していた。
蜜子は手を振り払おうとするが、猪狩に掴まれた手はピクリとも動かない。
「……でやぁ!」
猪狩が気合と共に、掴んでいた腕を勢いよく捻る。
「ぎっ……!?」
ごきゅり、という嫌な音とともに、蜜子の右腕がありえない方向へ曲がる。
「が、があああああああああ!?」
痛みのあまり、叫び声をあげる蜜子。形勢は、完全に逆転していた。
「オラァ!」
さらに顔面に叩き込まれる、猪狩の拳。
「あの世で……ももこに侘びろ!」
それに続いて、2発、3発と、まるで機関銃の如く、連続して拳が打ち込まれる。
「オォォォォォォォォォォォラァァァァァ!!」
「――――――ッ!」
『All for one』によって強化された連打に、耐え切れるはずもない。
“ケルベロス”ミツコは声をあげることも出来ずに、吹き飛ばされていった。
「…俺と園長に任せておけば、もっと穏やかな気持で死なせてやれたのに」
猪狩はそう呟くと、流れる涙を拭った。
さらに顔面に叩き込まれる、猪狩の拳。
「あの世で……ももこに侘びろ!」
それに続いて、2発、3発と、まるで機関銃の如く、連続して拳が打ち込まれる。
「オォォォォォォォォォォォラァァァァァ!!」
「――――――ッ!」
『All for one』によって強化された連打に、耐え切れるはずもない。
“ケルベロス”ミツコは声をあげることも出来ずに、吹き飛ばされていった。
「…俺と園長に任せておけば、もっと穏やかな気持で死なせてやれたのに」
猪狩はそう呟くと、流れる涙を拭った。
「…やっぱり、どっちにしろ殺す気だったんだな」
立ち去ろうとした猪狩の背に、光吾が声をかける。
立ち去ろうとした猪狩の背に、光吾が声をかける。
「一瞬でも君を信じようとした僕が、バカだった。…外道、お前こそが“世界の敵”だ…!」
光吾はガクガクと震える足に鞭打って無理矢理に体を立たせる。
もはや戦闘を続ける力はどこにも残されていない。しかし
「僕の能力は『世界の敵の敵』。一人の主人公の死と引換えに世界の災いを打ち消すことができる能力だ」
光吾の言葉には強い決意があふれていた。
光吾はガクガクと震える足に鞭打って無理矢理に体を立たせる。
もはや戦闘を続ける力はどこにも残されていない。しかし
「僕の能力は『世界の敵の敵』。一人の主人公の死と引換えに世界の災いを打ち消すことができる能力だ」
光吾の言葉には強い決意があふれていた。
「お前をこのまま野放しには出来ない。僕の命と引き換えにしてでも、消し去ってやる」
「ミツゴ君!」
「みっちゃん!」
「ごめん、姉さん。姉ちゃん。」
「何いってんの!ひとりだけいいかっこしてんじゃないよ!」
「そうですわ。私たちはいつも3人一緒ですわよ。」
「……ありがとう。」
光吾は左手の拳を猪狩に向かって突き出す。
「3人分の魂、お前にくれてやる!」
握られた手の中から溢れたまばゆい光が、空間を満たす。
「な、なにを…」
「ミツゴ君!」
「みっちゃん!」
「ごめん、姉さん。姉ちゃん。」
「何いってんの!ひとりだけいいかっこしてんじゃないよ!」
「そうですわ。私たちはいつも3人一緒ですわよ。」
「……ありがとう。」
光吾は左手の拳を猪狩に向かって突き出す。
「3人分の魂、お前にくれてやる!」
握られた手の中から溢れたまばゆい光が、空間を満たす。
「な、なにを…」
『世界の敵の敵!!』
全てを白く塗りつぶす、純白の闇。
永遠にも思える一瞬の後、世界は再び元の姿を取り戻した。
元の、姿を
全てを白く塗りつぶす、純白の闇。
永遠にも思える一瞬の後、世界は再び元の姿を取り戻した。
元の、姿を
そう。世界は何一つ変わっていなかった。
眼前に立つ猪狩誠の姿もそのままだ。
「バカ…な…」
すべての力を失った“ケルベロス”ミツコは愕然としてその場に膝をつき、絶命した。
眼前に立つ猪狩誠の姿もそのままだ。
「バカ…な…」
すべての力を失った“ケルベロス”ミツコは愕然としてその場に膝をつき、絶命した。
「俺が世界の敵だと?そんな訳はねえ。俺が、この大会にかける願いはただひとつ。……人類総家族化 なんだからな。」
---
「夕霧、どうやら勝負がついたようです。」
「やはり、勝ったのは猪狩か。」
同時刻。飛行機の操縦室で瞑想を行っていた冷泉院は
猪狩とミツコの戦いが終わった事を感じ取り、ゆっくりと立ち上がった。
徹底した合理主義者である冷泉院は、乱戦を避け、最初から端に陣取って静観を決め込んでいた。
探偵である“ケルベロス”ミツコなら、猪狩の能力の秘密を暴き、打ち破れるのではないか。
そう思ったが、生憎その期待は外れに終わったようだった。
「まあ、当てが外れるのはいつもの事だ。」
「やはり、勝ったのは猪狩か。」
同時刻。飛行機の操縦室で瞑想を行っていた冷泉院は
猪狩とミツコの戦いが終わった事を感じ取り、ゆっくりと立ち上がった。
徹底した合理主義者である冷泉院は、乱戦を避け、最初から端に陣取って静観を決め込んでいた。
探偵である“ケルベロス”ミツコなら、猪狩の能力の秘密を暴き、打ち破れるのではないか。
そう思ったが、生憎その期待は外れに終わったようだった。
「まあ、当てが外れるのはいつもの事だ。」
トン、トンと、軽くステップを踏み、『仮面の力』が正常に働いていることを確かめる。
そして、義足を操縦席の計器類に向かって、勢いよく振り下ろした。
「さて、どこまでやれるか。」
ゴゥン、と気味の悪い音が響き、機体がぐらりと揺れた。
冷泉院は軽く頷くと、扉を開き、猪狩誠の待つ機体の後部へと移動し始めた。
そして、義足を操縦席の計器類に向かって、勢いよく振り下ろした。
「さて、どこまでやれるか。」
ゴゥン、と気味の悪い音が響き、機体がぐらりと揺れた。
冷泉院は軽く頷くと、扉を開き、猪狩誠の待つ機体の後部へと移動し始めた。
---
「うおっ……!?」
“ケルベロス”ミツコを下してすぐのこと。
猪狩が冷泉院を探して操縦室の方へ向かっていると、
突如、ジャンボジェット機の機体が、大きく揺れ始めた。
「なんだ……!?どうなってんだ……!?」
揺れは、一時的なものではない。それもそのはず。これは気流の影響などではなく、
冷泉院が制御装置を狂わせることによって起きた揺れだからだ。
「くそっ……!もしかしてこれ、落ちるんじゃないだろうな……!」
“ケルベロス”ミツコを下してすぐのこと。
猪狩が冷泉院を探して操縦室の方へ向かっていると、
突如、ジャンボジェット機の機体が、大きく揺れ始めた。
「なんだ……!?どうなってんだ……!?」
揺れは、一時的なものではない。それもそのはず。これは気流の影響などではなく、
冷泉院が制御装置を狂わせることによって起きた揺れだからだ。
「くそっ……!もしかしてこれ、落ちるんじゃないだろうな……!」
あまりの揺れにの大きさに翻弄される猪狩。そんな彼の元に、一人の男が姿を現した。
「予想通り、随分と苦労しているようだな」
「お前は……!」
真鍮製の義肢と顔を半分ほど覆う仮面という、独特の外見。
そんな特徴的な姿をしていながら、このトーナメントで最も謎が多い男。そしてこの試合の、もう一人の対戦相手。
「冷泉院、拾翠。」
「予想通り、随分と苦労しているようだな」
「お前は……!」
真鍮製の義肢と顔を半分ほど覆う仮面という、独特の外見。
そんな特徴的な姿をしていながら、このトーナメントで最も謎が多い男。そしてこの試合の、もう一人の対戦相手。
「冷泉院、拾翠。」
現れた冷泉院は距離を取り、注意深く猪狩を観察する。
能力は既に発動しているようだが、一回戦の時とは違い、
その体には“ケルベロス”につけられたと思わしき傷が、治りきることなく残っていた。
“ケルベロス”のお陰かは判らないが、どうやら1回戦のときほどの力は、今の猪狩にはないらしい。
「この揺れを引き起こしたのは、お前か。」
「だったらどうする。」
猪狩の問いに素っ気無く答え、冷泉院が飛び掛る。
小さな動きでそれをかわす猪狩。
能力は既に発動しているようだが、一回戦の時とは違い、
その体には“ケルベロス”につけられたと思わしき傷が、治りきることなく残っていた。
“ケルベロス”のお陰かは判らないが、どうやら1回戦のときほどの力は、今の猪狩にはないらしい。
「この揺れを引き起こしたのは、お前か。」
「だったらどうする。」
猪狩の問いに素っ気無く答え、冷泉院が飛び掛る。
小さな動きでそれをかわす猪狩。
「ハァッ!」
「……!くっ!」
しかし、機体に起こった揺れのせいで、うまく体勢をコントロールできない。
直撃を受けることはなかったが、反撃を行うことができない。
対する冷泉院は、その動きの殆どを空中で行っていた。揺れの影響は、猪狩よりも遥かに少ない。
「……!くっ!」
しかし、機体に起こった揺れのせいで、うまく体勢をコントロールできない。
直撃を受けることはなかったが、反撃を行うことができない。
対する冷泉院は、その動きの殆どを空中で行っていた。揺れの影響は、猪狩よりも遥かに少ない。
計算通り。
猪狩が十全の力を発揮できれば、冷泉院は敵わないだろう。
だが、この揺れがひどい機内では、空中戦を主とする冷泉院のほうに地の利がある。
時間と共に、徐々に押されて行く猪狩。
そして遂に、冷泉院の強力な一撃が、猪狩を捕らえた。
「ぐああっ!」
蹴りをまともに食らい、大きく吹き飛ばされる猪狩。
冷泉院は地面を強く蹴り、追撃を加えようとする。
猪狩が十全の力を発揮できれば、冷泉院は敵わないだろう。
だが、この揺れがひどい機内では、空中戦を主とする冷泉院のほうに地の利がある。
時間と共に、徐々に押されて行く猪狩。
そして遂に、冷泉院の強力な一撃が、猪狩を捕らえた。
「ぐああっ!」
蹴りをまともに食らい、大きく吹き飛ばされる猪狩。
冷泉院は地面を強く蹴り、追撃を加えようとする。
同時に、猪狩が動いた。猪狩は吹き飛ばされた勢いを殺さず、そのまますばやく起き上がり、そして……
「オラァー!」
直ぐ脇にあった飛行機の扉に、拳を突き立てる。
「オラァー!」
直ぐ脇にあった飛行機の扉に、拳を突き立てる。
勢いよく外に吹き飛ばされていく扉。そして機内に巻き起こる暴風。
「な、なんだと!?」
空中にいた冷泉院は吹き飛ばされそうになるものの、とっさに座席を掴み、何とかそれに耐える。
「な、なんだと!?」
空中にいた冷泉院は吹き飛ばされそうになるものの、とっさに座席を掴み、何とかそれに耐える。
「これでもう、あの力は使えない。俺の勝ちだ、冷泉院。」
冷泉院拾翠の能力 『仮面の力』は、地面から完全に体を離さなければ、使う事は出来ない。
しかしこの状況下でそれをすれば、暴風に体を持っていかれ、まともに戦う事は出来ない。
猪狩の言うとおり、『仮面の力』は封じられた。これ以上やっても、冷泉院に勝ち目はない。
冷泉院拾翠の能力 『仮面の力』は、地面から完全に体を離さなければ、使う事は出来ない。
しかしこの状況下でそれをすれば、暴風に体を持っていかれ、まともに戦う事は出来ない。
猪狩の言うとおり、『仮面の力』は封じられた。これ以上やっても、冷泉院に勝ち目はない。
だが、冷泉院はまだ、諦めきってはいなかった。
「降参したいところだが、勝負は最後まで……何が起こるかわからない」
1回戦でも、敗北を覚悟したところから、彼は逆転したのだ。今回もまた、何かが起こるかもしれない。冷泉院はその考えを捨てきれずにいた。
「そうか。それじゃあ……終わらせよう。」
冷泉院に止めをさそうと、猪狩は地面を踏みしめながら、冷泉院に近づいていく。
「降参したいところだが、勝負は最後まで……何が起こるかわからない」
1回戦でも、敗北を覚悟したところから、彼は逆転したのだ。今回もまた、何かが起こるかもしれない。冷泉院はその考えを捨てきれずにいた。
「そうか。それじゃあ……終わらせよう。」
冷泉院に止めをさそうと、猪狩は地面を踏みしめながら、冷泉院に近づいていく。
猪狩が拳を振り上げ、冷泉院を真っ直ぐ見る。
「ふっ」
冷泉院は絶体絶命のピンチでありながら、真っ向から視線を受け止める。
「ふっ」
冷泉院は絶体絶命のピンチでありながら、真っ向から視線を受け止める。
『白刃獲り没収EX』
何も持たず、素手で攻撃しようとしていた猪狩に対して、冷泉院のもう一つの能力が発動する。……その能力は、冷泉院にも予期していなかった、異常な事態が引き起こすことになる。
何も持たず、素手で攻撃しようとしていた猪狩に対して、冷泉院のもう一つの能力が発動する。……その能力は、冷泉院にも予期していなかった、異常な事態が引き起こすことになる。
「「な、なに!?」」
冷泉院の能力によって呼び出された武器を見て、二人が驚愕の声を上げる。
「い、いったい此処は……どこじゃ!?わしにいったい何が……っ!」
そして同時に、呼び出された武器……『どんぐりの家』園長も、驚愕の声を上げた。
冷泉院の能力によって呼び出された武器を見て、二人が驚愕の声を上げる。
「い、いったい此処は……どこじゃ!?わしにいったい何が……っ!」
そして同時に、呼び出された武器……『どんぐりの家』園長も、驚愕の声を上げた。
---
「え、園長……!」
「ま、誠!?どういうことじゃ!」
驚きのあまり、三者の動きが止まる。
「ま、誠!?どういうことじゃ!」
驚きのあまり、三者の動きが止まる。
その中で最も早く次の行動に出たのは、冷泉院であった。
(……夕霧――――)
仮面の声が冷泉院の頭に響き、冷静さを取り戻させる。
冷泉院は突如現れた男、園長に飛び掛った。
「ぬう……!?」
攻撃の気配を感じた園長は振り向きながら、手に持った匕首で攻撃しようとする。だが、
「なっ……!?しまった……!魔人能力か…!」
その匕首は冷泉院の能力によって奪われ、逆にそれを突きつけられてしまう。
「………動くな。」
(……夕霧――――)
仮面の声が冷泉院の頭に響き、冷静さを取り戻させる。
冷泉院は突如現れた男、園長に飛び掛った。
「ぬう……!?」
攻撃の気配を感じた園長は振り向きながら、手に持った匕首で攻撃しようとする。だが、
「なっ……!?しまった……!魔人能力か…!」
その匕首は冷泉院の能力によって奪われ、逆にそれを突きつけられてしまう。
「………動くな。」
園長を人質に取った冷泉院が、猪狩に話しかける
「……こいつが誰だか、俺はよく知らない……。だが、俺の能力で出てきた以上、何かしらお前と関係があるんだろう。」
園長の首に匕首を更に近づけ、冷泉院は続ける。
「もしもこいつが死んだとして……果たして運営の奴らは治療するかな……?」
こいつを殺されたくなければ、今すぐ降参しろ。冷泉院はそう告げているのだ。
「……こいつが誰だか、俺はよく知らない……。だが、俺の能力で出てきた以上、何かしらお前と関係があるんだろう。」
園長の首に匕首を更に近づけ、冷泉院は続ける。
「もしもこいつが死んだとして……果たして運営の奴らは治療するかな……?」
こいつを殺されたくなければ、今すぐ降参しろ。冷泉院はそう告げているのだ。
「かまわん、誠!わしごとやれぇーっ!」
園長が、悲痛な叫びを上げる。
この脅迫が、もしも他の、まともな倫理観を持つ対戦相手に対して行われたのなら、恐らく有効だっただろう。
だが、相手が悪かった。今回の対戦相手、猪狩誠には……そのようなまともな倫理観は、存在していなかった。
「園長!あんたなら、そう言ってくれると思ってたぜ!」
「な…………っ!?」
「う、おおおおおおおおおおおお!」
何の躊躇いも無く、園長に拳を叩き込む誠。
園長を傷つけた事で更に強化された拳は園長で止まらず、その後にいた冷泉院も、まとめて貫いた。
「なん……て……奴だ……」
園長が、悲痛な叫びを上げる。
この脅迫が、もしも他の、まともな倫理観を持つ対戦相手に対して行われたのなら、恐らく有効だっただろう。
だが、相手が悪かった。今回の対戦相手、猪狩誠には……そのようなまともな倫理観は、存在していなかった。
「園長!あんたなら、そう言ってくれると思ってたぜ!」
「な…………っ!?」
「う、おおおおおおおおおおおお!」
何の躊躇いも無く、園長に拳を叩き込む誠。
園長を傷つけた事で更に強化された拳は園長で止まらず、その後にいた冷泉院も、まとめて貫いた。
「なん……て……奴だ……」
園長と冷泉院。二人の目から光が消えていく。
「園長………っ!」
猪狩は腕を引き抜き、倒れかけた園長を支える。
「園長………っ!」
猪狩は腕を引き抜き、倒れかけた園長を支える。
「誠……そんな顔をするな……。これでいいんじゃ、これで……」
穏やかな顔で、園長は猪狩に話しかける。
「死ぬな……死ぬな園長!直ぐに病院に連れて行ってやるからな!」
必死に園長を呼ぶ誠。しかし、園長の顔からは見る見る血の気が引いていく。
穏やかな顔で、園長は猪狩に話しかける。
「死ぬな……死ぬな園長!直ぐに病院に連れて行ってやるからな!」
必死に園長を呼ぶ誠。しかし、園長の顔からは見る見る血の気が引いていく。
「いいんじゃ……。子供達を手に掛けた時から、こうなる事も覚悟していた。何より……」
園長がゆっくりと手をあげ、猪狩の頬に触れた。
園長がゆっくりと手をあげ、猪狩の頬に触れた。
「我が子の手の中で死ぬというのも……。悪いもんじゃあ、ない……ぞ……」
「園長……!?おいっ!園長……!」
持ち上げられた手が力を失い、地面に落ちる。
「園長……!?おいっ!園長……!」
持ち上げられた手が力を失い、地面に落ちる。
「……園長!………えんちょおおおおおおおおおおおおお!」
飛行機内に、猪狩の悲痛な叫びが響き渡る。……それに答えるものは、もう、誰もいなかった。