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才にあふれる――(愛にあぶれる)

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才にあふれる――(愛にあぶれる) ◆MUMEIngoJ6





 【0】




『■■って可哀想だね』


『どうして?』


『自分より大きいものがいないもの。よりかかって甘えたり叱ってくれる人が、いないんだもの』




 【1】




 緑の布を纏いトンガリ帽子を被ったゴーレムが、起動音を響かせるチェーンソーを振るう。
 ケイ=アイと名付けられたゴーレムの動作は、寸胴なボディに反して機敏。
 ハンドル部が子供の胴回りほどもあるチェーンソーを、まるで指揮棒を操るかのように軽く扱っている。
 主人の敵になりうる存在に向け、まず粉砕するかのような打ち落とし。
 次いで刃を横に倒して流すと、一切の溜めなく斜め気味に持ち上げる。
 相手が達人であろうとも、確実にオーバーキルとなりうる連撃。
 されども帽子の下で輝くケイ=アイの両目は、眼前の敵の落命を捉えない。
 後ろに結った長い黒髪を宙に泳がせ、ブシド・ザ・ブシエは攻撃を回避し続けている。
 相手の存命を把握してケイ=アイは攻撃を続けるも、やはりブシエのほんの少し前を刻み続ける。
 ことごとく、すんでのところで刃から免れ続ける。そんな事実がケイ=アイには理解できなかった。
 ほぼ百パーセント当たるはずの一撃だというのに、切っ先が触れることすら叶わない。
 先ほど仕掛けてきた相手とは違い、戦闘開始からいくら経とうとも対策を見出せない。

 せわしなく両腕を動かすケイ=アイとは違い、ブシエの方はどこか遠くを見据えている。
 彼女が現在勤しんでいるのは、戦闘ではなく思考を巡らすことだ。
 ひたすらに繰り出されている連撃など、彼女にとっては意識を集中させずも掻い潜ることができる。
 人間を越えたスペックに任せただけで、技巧のいろはもなく命を奪いに来るのだから。
 もはや彼女に見えているのはケイ=アイにあらず、戦場の横で倒れている男。
 少し前に終わってしまった、彼との戦いだけであった。
 物心が付いてから初めての劣勢にして、初めての不本意な勝利。
 人にしても獣にしても、前に立つ全てが彼女に劣っていた。
 けれども、この殺し合いにはいるかもしれないのだ。己と同等、あるいは上を行く存在が。
 そのことに気付いたブシエは、巻いたさらしの下で胸を高鳴らせた。
 自身の足元にも及ばぬ欠陥品ばかりの世界とは違い、ここで最強を名乗ることができたのなら。
 単独で『三竜』を討ち取りながらも満たされなかった自分の心に、何かが注がれるかもしれない。
 ここで思考の渦から復帰し、ブシエは前方に鋭い視線を飛ばす。

(だというのに、眼前にいるのは…………)

 赤みがかった瞳から、隠しきれない失望が漏れ出す。
 感情など読み取れずとも剣を手に取られれば、ケイ=アイとてブシエの狙いを見抜くことができる。
 一向に命中しそうにないチェーンソーを右手に任せ、左ストレートを放った。
 これまで通りに紙一重で回避しようとして、ブシエは勢いよく地を蹴る。
 大げさなサイドステップを踏んだブシエがいた空間を、ケイ=アイの左拳が殴りつけていた。
 ブシエが目測を誤ったのではない。ケイ=アイの左腕が伸びたのだ。
 紫色の手袋に覆われていない腕部から、内部の機械が見て取れる。
 ここに来て、初めてブシエはケイ=アイが人工物だということに気付く。
 獣の類かと判断していたが、作られたものならば攻撃から技術が見て取れないのも頷ける。
 ならばスペック以上の力を見せることなどあるまいと結論付けて、ブシエは腕を上下させた。
 風切音とともに、伸ばした状態で横に振るわれたケイ=アイの左腕が切断された。
 ブシエが行ったのは、携えた剣の紅い刀身が視認できなくなるほどの速度による斬撃。
 ケイ=アイは現状を把握しようとするが、そんな隙をブシエが見逃すはずがない。
 秒と経たぬうちに間合いにまで入り込み、幻魔という名の剣を構えた。
 咄嗟にバックダッシュに出ようとするケイ=アイの前で、ブシエの両腕と得物が掻き消えた。
 いや、それは錯覚だ。常人の捕捉可能な限界を半歩はみ出した、それだけの話。

 キィン――と、高音が大気を切り裂いた。

 空間を支配しそうになった静寂に、二つの落下音が割って入る。
 ボディが二分割されたことに気付くことさえなく、ケイ=アイは機能を停止させた。
 ブシエの一撃は神速であるがゆえに、ケイ=アイに主人のことを思い出させる時間すらも与えなかった。

「あら、なかなかね」

 物言わぬ残骸に視線を向けることなどせず、ブシエは幻魔の紅い刀身を眺める。
 この地にて蒸発させた鋼鉄の剣とは、どうやらものが違うらしい。
 全力でないとはいえ二度も振るったというのに、蒸発どころか溶解もせずに形を保っている。
 となれば、ついつい連想してしまうものだ。
 もしもあの時に、得物の強度を気にせず戦えたのならば。そんな仮定を。
 ケイ=アイとは反対側に横たわる死体に向き直り、ブシエは目を閉じた。
 そのまま、先刻の戦いを思い返す。蹂躙ではない、闘争を。
 たっぷり時間をかけて意識を集中させ、ゆっくりと双眸を上げた。
 かつてと変わらぬ姿のアバロン帝国皇帝の姿が、彼女の瞳に映った。


【ケイ=アイ(ゴーレム)@聖剣伝説LOM 機能停止】
【残り 38名】





 【2】




 ――――さて、いま一度『初めて』の甘美を味わおう。





 【3】




 金剛盾の反応を越えて、ブシエの握る幻魔がガラシェに振り下ろされる。
 しかし真っ二つになったのは、闇の分身。
 虚を付かれているうちに、ブシエは闇の分身に囲まれてしまう。
 対応しようとするも、すでにガラシェに捉えられてしまった。
 浴びせられる拳の連打。紅い刀身の横腹で受けることすらできない。
 暫し続いた連撃の後に、いっそう強いアッパー気味の拳を受けてブシエは吹き飛んだ。
 強制的にもたらされた嘔吐感に堪えて、ブシエは空中で体勢を立て直す。
 生えている樹木に足裏を向け、接触と同時に強く踏み締める。
 柔軟にして強固な膝を持っているからこその、無理矢理な跳躍。
 吹き飛んでいたスピードを越える勢いでガラシェに向かいつつ、ブシエはデイパックからL字のスパナを取り出した。

「せっ!」

 鋭く息を吐いたブシエが、スパナを思い切り投擲する。
 投擲武器は専門ではないが、剣を極めている以上は他の武器程度使いこなせて当然。
 だが激しく回転するスパナは、闇の分身を粉砕してあらぬ方向へと飛んでいく。
 けれども、邪魔な分身を振り払うことこそがブシエの狙い通り。
 分身が消え去って露になるガラシェは、険しい表情など浮かべてはいない。
 冥府の力の代償などに影響されず、それどころか疲労の欠片も見て取れない。
 その精悍な顔には汗一つ流すことなく、瞳に観音像を浮かべている。
 それでこそとの思いを抱き、ブシエは口角を吊り上げた。
 幾年ぶりかにあげる咆哮とともに、空中で幻魔を大きくかざす。
 再びガラシェが相手を観音の中に捉えようとするが、それより早くにブシエは魔幻を振り落とした。
 刀身への気配りなどない、全身全霊での打ち落とし。
 その一閃から、金剛盾は主を守らない。
 先ほどブシエが投擲したブーメランスパナは、巧みに回転をかけることで望む軌道から戻ってくる代物だ。
 金剛盾は、背後から迫るスパナを防ぐ方に回っていたのだ。
 となれば斬撃からガラシェを守るものは、己が肉体ただ一つ。

 刃と拳、ともに圧倒的速度同士の接触――――これにて決着。





 【4】




 深く突き刺さった幻魔を抜き取られると、ガラシェの身体が霧散して空気に溶けていく。
 ふうと、ブシエは大きく息を吐いた。
 彼女は、脳内で作り出したガラシェの幻覚と戦っていたのだ。
 あのまま仮にガラシェが倒れなかったのなら、というifを繰り広げてみた。
 結果は、何とか勝利を掴み取ることができた。
 とはいえガラシェがまだ何かを隠し持っていたとしたら、どうなることか。
 イメージは、所詮イメージ。実際どうなるかなど、死合ってみなければ分からない。

「そう、分からないわ」

 思わず漏れてしまった言葉に、ブシエは口の端を緩めた。
 結果が分からない戦いなど、残っている記憶には存在しない。
 強弱がはっきりした戦いしか、彼女は知らない。
 命を懸けた死闘などと評されようとも、己の命がベットされたことなど一切ない。
 大人と呼ばれるほどの歳になってからの初体験。
 背筋に氷塊が走るような感覚、だけどその氷塊を溶かしてしまいそうなほどに身体が内面から熱くなる。
 なるほど、と彼女は思う。
 こんなものも知らずに最強を名乗るなど、驕っていたかったのかもしれない。
 何せ先の幻想において、久方ぶりの咆哮をあげた彼女は全力を超える力を出していた。
 あくまで空想にすぎないが、されどブシド・ザ・ブシエの空想である。
 己の限界に至ったと思い込んでいたが、そうではなかった証拠であろう。そのように、ブシエは結論付けた。
 剣の道を極めたのに間違いはないが、心と体にはまだまだ伸びしろがあるのだろう。
 死線において、心技体全ての極限に到達する。
 かつての『自分』を打ち負かすほどの成長を遂げる。

「――それが、『自分に勝つ』ということなのね」

 ブシエは、倒れ伏しているガラシェが頷いた気がした。

「弱者を奢るだけでない以上、この私も支給されたものは大事にしないといけないわね」

 ひとりごちると、彼女は転がるデイパックを二つ拾い上げた。
 続いてチェーンソーを一瞥するが、手放された影響でひしゃげているのでそちらは放置することにした。
 デイパックの中身を一つに纏めていると、出来損ないの妹の姿が浮かんだ。
 この地にて妹が勝手に命を落とさなければ、出会うことにだろう。
 自分に届こうとする妹に、どう対処するべきか――変わらない。
 死なぬ程度に切り刻む。絶望の淵に叩き落す。その上で自殺しないように僅かな救いを与える。
 ブシコの実力では元の世界にて、死線を経験しているだろう。
 その上であの程度では、全くお話にならない。地に這い蹲るのがご身分だろう。
 対してネリーという少女ならば、死線を越えて自身に並ぶかもしれない。
 デイパックの整理が終わった頃には、ブシエはそう結論付けていた。


【一日目 夕方/B-3 森林】

【ブシド・ザ・ブシエ(ブシドー♀)@世界樹の迷宮Ⅱ-諸王の聖杯-】
[状態]:極度の疲労、全身に打痕
[装備]:幻魔@サガフロンティア
[道具]:基本支給品×3、ブーメランスパナ@METAL MAX RETURNS、不明支給品(0~2)
[思考]
基本:「己」を乗り越え、「最強」になる。
1:対等か格上を探し出し、死合う。
2:妹(ブシド・ザ・ブシコ)を見つけたらたくさんいじめる。
3:ネリーの挑戦を「待つ」。




 【5】




 ブシド・ザ・ブシエは、生まれついての天才である。

 言葉も覚束ない頃から、剣術に生きる両親の太刀筋を目で追う。
 ろくにものを握る力もない頃から、両親の技術を全て自身に吸収。
 それどころか既存の剣術の粗を見抜き、その粗を埋める新たな技法を作り出す。
 彼女が五歳の誕生日を向かえた時。両親が彼女を剣の道へと進ませ、彼女の才が明るみに出た。
 武家の跡取りたる父に打ち勝つまでには、大した時間がかからなかった。
 別に、父に流れるブシドの血が薄かったというワケではない。
 体力や経験などの差を埋めたのものは、至極単純にして明快なことに『才』ただ一つ。
 如何に精神を研ぎ澄ませようとも、如何に鍛錬を積もうとも、圧倒的な規格外には届かない。
 一度剣を振るうだけで、ブシエは周囲にそんなことを知らしめてしまうのだ。

 生まれて初めて剣を握ってから約二十年。
 この地に来るまで、ブシエは実力の拮抗した戦いを知らなかった。

 彼女は、ただひたすらに強敵を求めていた。
 もはや学ぶものなどなかったブシド家を出て、あらゆる達人へと挑戦状を叩き付けた。
 トリッキーな戦術を使う相手に驚くことこそあっても、苦戦を強いられたことはない。
 やはり剣術に勝る武芸などないとの思いを強固にした頃、ブシエはある冒険者集団の噂を耳にする。
 『知られざる英雄達』――得体の知れぬ何かを探し求めている彼らは、彼女を差し置いて『最強の集団』と呼ばれていた。
 ブシエは人づてに情報を集めて、ついにそのチームを発見するに成功。
 最強と称される集団相手に単身で強襲し、半日もかけることなく制圧。
 こんなものかと失望するブシエに、『知られざる英雄達』のリーダー格らしい男がスカウトをかけた。
 何でも、彼らをして倒しきれぬ獣がいるのだという。
 仲間に決して軽くない負傷を負わせたブシエを、まるで兵器と見ているかのような提案。
 そんな案に、彼女は乗ることにした。
 人に敵がいないというのなら、人以外を狙えばいい。
 そのことに気付いたブシエが、首を横に振るはずがなかった。
 岩を易々と砕く怪力、完全に絶たれた気配、こちらに対処してくる反応速度――
 人の領域を超越した野生との競り合いは、ブシエにとってとても新鮮なものだった。
 けれども、ブシエの類稀なる才能が安定を許さない。
 異色の血液を刃に塗れさせる中で、次第にブシエは対獣の術を見出してしまう。
 となれば、もはや人間相手と何も変わらなかった。
 一切の苦労なく命を奪い取るだけの、型にはまった流れ作業。
 かつてほんの少し体験した新味などない、漫然とした日々。
 その一方でチームを抜けたところで、現在以上の相手など見つけ出せないだろう。
 マンネリへの苦悩を抱えたまま、漫然とした生活が続き――――ついに『知られざる英雄達』は解散した。
 実際にいるのかも分からない『三竜』をいるものと言い聞かせ、旅の果てに見つけ出した。
 噂に違わない怪物だとは思ったものの、それでもブシエには劣っていた。
 最後に残った蒼竜の三つ首を全て切り落として、最後に残された目標であった『三竜』さえもブシエは失った。

 特に意味もなく故郷に帰ると、そこで妹が旅に出たという事実を知る。
 気に入らない。ブシエは率直にそう思った。
 敵がいなくなってしまった自分と違って、妹にはいくらでも上がいるのだ。目標があるのだ。
 こちらの気苦労も知らずに、ただただ才能を羨んでいる。
 そのことが、たまらなく気に入らない。
 意図せず思いを吐き捨ててしまっていたらしく、両親や血族がブシエに視線を向けていた。
 彼女が顔を上げると、隠れるように顔を背ける。
 妹だけではない全員が、天性の才能だけを見ていた。
 親戚連中だけではない、もはや各地に轟く彼女の名を知るものは全員がそうなのだ。
 戦慄にしろ憧憬にしろ、皆がどこかでブシエの才を欲している。
 圧勝しかできない悲しみなど理解しようともせずに、ただただ才だけを見ている。
 久方ぶりも帰省にてその事実を再認識してしまい、ブシエは逃げるように故郷を後にした。
 達人を求めてさすらう日々に戻ろうか。
 そんなことを考えていると彼女の視界が一変し、機械が殺し合いを命ずる声を聞いた。

 ――――そして彼女は、もう二度と目指せないと思っていた『目標』を手に入れた。



[備考]
※ケイ=アイ(ゴーレム)@聖剣伝説LOMは、真っ二つでB-3の森林に転がっています。
※チェーンソーが、刃がひしゃげた状態でB-3の森林に転がっています。


041:消せる痛み、消せない痛み 投下順に読む 043:血も涙も、故郷(ここ)で乾いてゆけ
041:気まぐれサイケデリック(――――後遺症) 時系列順に読む 044:Tarot No.XX
040:テメえの都合じゃ生きちゃいねえよ ブシド・ザ・ブシエ 058:Red fraction
ケイ=アイ GAME OVER



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