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消せる痛み、消せない痛み

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匿名ユーザー

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消せる痛み、消せない痛み ◆MobiusZmZg


 民家が宿屋を圧壊させている、冗談のような光景。
 その現場にたどりついた時、言葉を失ったのはシエロの側であった。
 自分の背中を守るように、あるいは押すようにいてくれた彼は、一体なにを思ったのか。
 黙りこんだまま壮年の男を助け起こした狩人の隣で、キャットもしゃがんでみせた。
「あの、大丈夫ですか? 怪我はないみたいですけど、どこか打ったりは?」
「いえ、すみません……私は平気です。しかし――」
 どう見ても民間人だろう男に視線の高さを合わせながら、シエロにならって辺りを見回す。
 観察からいくばくも経たないうちに見つけた。いや、男の傍らにあるのは、両腕を喪った青年の遺骸だ。
 動転して見落としたのか。それとも、気付きたくなかったから見えなかったのか。
 普段の自分らしくないと思いながらも、都会の盗賊は同業らしい青年の、存外に安らいだ死に顔に目をやる。
 なんでもいい、なんでもいいから、男に言葉をかけることもひとつの手だったのかもしれない。
 けれども男の視線を追うことで、彼の抱く気持ち……逝かれた側の気持ちに添えるような気がしたために。

「この人の傷は……人間がやったんですね? たとえば、飛竜みたいな生き物じゃあなく」
「ちょっと、シエロ!」

 だからこそ、静寂を打ち破った青年の声に、キャットは抗議の声をあげた。
 穏やかに自分を慰めてくれたはずの狩人はいま、盗賊の青年のなきがらを冷徹に見据えている。
 冷たいわけではないが、ものごとの本質を射抜くような視線には、なにか、容赦がない。
 危機に備える獣のような狩人を抑えた都会の盗賊へ、男は「いいんです」とかぶりを振った。

「いいえ。その方の言うとおりです。家はともかく、竜は人間などひと呑みにするでしょう。
 この……勇者様のお仲間は人間に片腕を断ち切られ、それでも闘うために、もう一方の腕を……自分で落としました。
 戦いに満足して、村を出たようですが――ええ。獲物が見つからなければ、戻って来ることは十分考えられます」

 “ブシド・ザ・ブシエ”。
 自責や失望の、強く内にこもった声が、破壊をもたらす“人間”の名をつむぎあげた。
「それは、……まずい」
 彼女が東に向かったと聞いて、シエロはキャットに目を合わせる。
 短く、理解を意味する首肯を返すと、狩人はデイパックの中から地図を取り出して広げてみせた。
「こんなことが出来るなら、山岳なんて障害にもならないと思うわよ?」
「……だけど、彼女は人間だ。下手をすれば飛竜より強くて、飛竜より人間のことを知ってる――
 そんな相手が、待ちに徹することを覚えたらどうする? 地の利を得ることを考えない保証はあるかな?」
 自身の背中を押してここに来た、仲間。モンスターハンターの危惧するところは盗賊にも理解できた。
 これほどの破壊活動を行えるものが、戦いを求めて相手を探すなら、まだいい。すれ違いの目が出てくるから。
「ブシド・ザ・ブシエが戦いたいっていうなら、ある意味、東行きを選んだ時点で地の利を得てるわ。この村より東と……えっと、D-4よりも北に飛ばされちゃったら、きっとここが目印になるでしょう?」
 茶褐色で描かれた山岳よりも峻険らしい、灰色の峰々を指して、キャットは城への道筋を否定する。
 絵面からして足場の悪そうな場所を越えて城を目指すのは、それこそブシド・ザ・ブシエのような者くらいだ。彼女がを目指す参加者を待つ体勢に入ったとして、唯一の救いは平野部が比較的広いという部分しかない。南北に分かれた森に入れば、まだ生き延びる目も出るだろうが……もしも行き合ってしまったなら。
 血を浴びて背をそらす少女の姿が、マントを引きずりつつ倒れた少年の姿が、都会の盗賊の脳裏をよぎる。
 もしも彼女と行き合ってしまったなら。息が浅くなる。あまり考えたくはない想像だ。
「ああ。とくにこの――狭隘部にブシド・ザ・ブシエが入ったら、泉のあたりにいる人間は封殺されたも同然だよ」
 C-4エリアの北部あたりに指を滑らせながら、シエロは煮え切らない様子で唸る。
 こちらを慮るような、いたわるような目で見ながらも、彼は、腰に差した剣の柄に手をやった。

「質問ばかりですみませんが――彼女の得物はなんでした?」
「ちょっと、まさか!」

 ひとりで飛竜を狩り、あるいは捕獲してきたという青年の問いは、ある意味では彼らしいものだ。
 だが、それが意味するところを理解していながら止めないことなど、キャットには出来ない。
「そうじゃない。目の前のひとひとり、守れずに終わる気はないさ」
 もたついた響きの否定の言葉は、赤い瞳の下にある涙袋をゆがめながら言うことでもなかった。
 確かに、シエロは殺生を許容している。狩猟なしに生きていけないことを理解しているから、自分を許したのだ。
 けれども、それを見過ごして知らないふりをすることもかなわないというわけか。

「じゃあ、約束しなさいよ。私と一緒にいてくれるなら、私を、あなたが小ずるく生きのびるための理由にするって。
 迷惑をかけるのはお互い様でしょうけど、あいにく、盗賊っていうのは墓守なんかじゃないんだから」

 沈黙ののち、キャットは言葉をひねり出した。
 なんでもいい。言わなくても伝わるなどということを、彼女は信じない。
 言わなければ、問わなければ、価値観の違い――ここでは生死に直結するだろう要素にすら気付けなかったのだから。
 それでも全力でシエロに向かった直後。毒気を抜かれた様子の第三者と目を合わせてしまった盗賊の頬が赤くなる。
「……その。このおじさんだって、ここに放っておくわけにはいかないでしょ」
 照れ隠しに付け足したセリフには、悪気も、余裕も無かった。
 ゆえにこそ、彼女は目の前の男が沈痛な瞳を伏せて隠したことに気付けない。
 盗賊のとなりで、シエロは黙考し、男も黙る。ほどなくして、戦場跡には静けさが訪れ――


「すみませーん! そこの、人たちー!
 私、有里公子って言うんですけど、ここで何が起こったか知ってますー?」


 停滞してしまった空気を破ったものは、間延びした問い掛けだった。
 軽快な足音が近づくとともに、のびやかなアルトも徐々に小さくなっていく。
 走っていても汗が浮かんでない声の持ち主は、ぱっちりとした目が印象的な少女だ。
 目で見える疲労の度合いからして、この人物もいずこかの家屋からやってきたとみえる。
「……こうしてる時点で敵意はないって判るでしょうけど、この村には無防備な手合いしかいないの?」
 キャットの目配せを受けたシエロは、さり気ないしぐさで仲間の追求から目をそらす。
「そういえば、名乗りもまだでしたね」
 沈黙を紛らすように耳の後ろを掻く狩人の隣で、男が誰にともなくつぶやいた。

 *  *  *

『おっ……さん……俺は、使い……こなせなかったが……こいつを、勇者……アルスにくれてやってくれ……。
 あの子なら……きっと……きっと……みんなを、世界を……たの……む……』

 いまだ無事な姿を保っているほうの宿屋。
 民家と言い換えても通じるだろう、質素な建物のロビーに、男の声が流れた。
 吐息に苦鳴がにじむ遺言のもととなっているのは、携帯電話だが、それを笑うような者はいない。
『ファイズギアと、ファイズフォンか。夏の映画祭りで似たようなヤツを見たような気がするなー』
 その電話に変身には不適格とされた者のひとり、有里公子もそのうちのひとりである。
 奇矯な話ではあったが、今更“携帯電話が変身デバイスである”と言われて驚く彼女ではない。
 死に瀕してペルソナ能力に目覚め、殺し合いに参加させられた今では、どんな不思議も受け入れ――
『――納得は出来ないけど、理解はしないといけないって感じかなあ』
 られるというわけでもないが、わけも分からずに殺される展開はもっといやだ。
 ブシド・ザ・ブシエ。謎の少女。積極的に殺そうとする者が周辺にいることを聞いて、まずはよしとする。
『そういえば、もう4時間過ぎたんだ。24時間の間にひとりも死ななかったらって、具体的に考えられてなかった……』
 しかしながら、決意はともかく見通しの甘さを痛感して、もれそうになるため息を抑えた。
 機械の動きは友情や絆でどうにかなるようなものではない。そもそも、先ほどの接触もそうだ。
 自分は相手を疑うことはなく、相手側も穏やかだったが……気が動転したところに、大声をかけたら驚くだろう。
 少なくとも、この村には、公子の呼吸を分かってフォローを入れてくれる仲間はいない。
 ここに来る前は情報の示すとおりに人の心の一面であるシャドウと戦っていたが、そんなナビだってない。

「シエロさん、キャットさん。……勝手ですが、貴方がたに任せてよろしいでしょうか。
 勇者様とて、先ほどような状況で民を守れる保証もありません。戦える者の手をわずらわせるのも申し訳ないことです。
 それなら、勇者様の足を引っ張らず、確実にことを成し遂げたほうがいいのではないかと……」

 けれど、たとえそれが事実であっても、こんなに悲しい言葉もなかった。
 目の前では、単なる宿屋の主人であったという男が、盗賊の遺言が吹き込まれたファイズフォンと変身デバイスを、出会ったばかりの人間に渡している。
 ペルソナで戦える自分や、剣や魔法の腕があるふたりと、彼は違う。
 きっと、約束を自分の手で守れないと実感してしまったのだ。
 柔らかな物腰といい、言葉つきといい、戦い以外でも十分に凄い人物だと分かるのに――
 殺し合い。たったひとつの要素が加わっただけで、彼は良いところを活かしきれずに落ち込んでいる。
「隠れる場所については、考えなくても大丈夫ですよ。
 家の中にいてもらえたら、ひとりもふたりも変わらないですから……あの子と一緒に、私が守ります」
 相手がクラブ通いをしていた破戒僧のような人物で、今が日常であれば、もっと別の言葉をかけられただろう。
 なにを失うこともなく距離を近づけて、新たに絆を築いていくようなこともあったかもしれない。
 だが今は、この選択をした代わりに、自分は“この家屋から離れられなくなった”。
「それで、ぼくとキャットが周囲の情報を集める。出来れば、殺し合いを回避するための方法も」
 失うものなど何もない。今でもそうだったなら、この事態を重く捉える頭も無かっただろうか?
 特別課外活動部。満月の夜に現れるシャドウを倒して影人間を救う、姿を見せないヒーローのような部活のなか、初めて命を落としてしまった先輩。今はもういない荒垣の存在が、公子の目を痛みとともに開かせてくれる。
「じゃあ、村に集まることにしよっか? あの子はまだ動かせないと思うし、行き違いになると困るから」
「そうね……ここが侵入禁止にされたら、とにかく南に行って。
 こっちは、城から塔に移動してみる。城と塔がまとめてダメにされたら――洞窟かほこらに行くわね」
 さすが、都会の盗賊(シティシーフ)。
 広げた地図を眺めるキャットの異名を思い出して、公子は手際のよさに胸中でうなった。

「あ、それと――良かったら、これ」

 なにか思いついたのか、彼女は確認の終わった地図を戻しかけて、手を止めた。
 名前のとおりの猫っ毛が、うつむいたしぐさとともに揺れる。
「上で寝てるって子、まだ小さいんでしょう? 甘いものでも食べたら、少しは安心できるかも」
 彼女が取り出してみせたのは、クラフト紙の袋に入った焼き菓子。
「え、それって……!?」
 マチつきのラッピングバッグに包まれているカップケーキを前に、公子の目が見開かれた。
 丁寧にフォークでかたまりを潰し、レモン汁を加えて変色を防いだバナナの甘酸っぱい香り。
 道具を洗いつつ焼き上がりを待っていたときの、ゆるゆるとした時間の流れは鮮やかに覚えている。
「このケーキ、昨日あたしが友達と作ってたお菓子だよ。
 フロストくんの紙カップって、あのとき料理部の部活に持っていった型だもん」
 青いニットの帽子を被った雪だるま、ジャックフロスト。ゲーセンでも人気だったキャラクターのイラストが散らばるカップは、“特別課外活動”仲間の同級生に誘われた部活用にと買ったものだ。
 見れば、ナイロンのバッグには口の近くに模様がある上、チャームタイには金色の蝶もついている。
 どれもこれも、料理部へ誘ってくれた女の子と『可愛い』などと言いあいながら買い揃えたものだった。
 説明を聞いた男女は“部活”という単語にこそ首をかしげていたが、伝えたいことは伝わったらしい。
 言葉自体は通じているのだから――ひょっとして、彼らのこれはコスプレではなく、素の状態なのだろうか?
 人の無意識に繋がる、青い扉の先。ベルベットルームのイゴールたちのように、別世界に生きる、

「そうなの。あなたの手作りなら良かった、けど……疑わないの?」
「なんで? 紙袋はともかく、ナイロンのほうには穴が開いたりしてないでしょ?
 あ、それとも味? そっちだって大丈夫だよー、ぶっつけのバナナ投入も上手くいったんだから」

 そんな背景があるとしても、緊張した顔、というものは万国共通であるらしい。
 警戒心と罪悪感、肩透かしをくらったような声を出すキャットに向けて、公子はあっさりと笑ってみせた。
 いちど曲げれば形崩れが戻らない針金。チャームタイの芯には、結び直されたことによる歪みはない。
 なにより、これから自分たちをたばかろうとする輩が、わざわざ疑心暗鬼を煽るようなことを言う必要もない。
 そして――問題があれば、対処するだけの地力は自分にだって身についている。
 心の絆を築くには、ここから逃げてはいけないのだ。

「だから……そうだな。ありがとう、だね」

 むしろ、そんなふうに気を回してくれる彼女の慎重さが、行き当たりばったりな自分にはなくてうらやましい。
 よく言えば人好きのする、悪く言えば人に“惚れやすい”公子の一番の長所が、このプラス思考だった。
 最終手段の「どうでもいい」というセリフは、なにも全部投げ出すために使う言葉ではなく――
『うん。やっぱ、私自身で良いとこを見つけた人だもん。そんなコが物事をダメにするとこなんて考えらんないね』
 好きになった相手を信じて、彼らの心の持ちように任せてみようと思ったときの合言葉なのだ。
 ……もちろん、すぐに面倒がって結論を放り出す部分については悪癖なのだが。
「良かったじゃないか」
「え――う、うん」
 ええ、などと、余裕をもって応えようとしたキャットの声が、ふいに揺れる。
 彼女の両肩をかるく押さえて、シエロは公子にうなずいてくれた。
「じゃあ、ぼくらはこれで。気が急くだろうけど、相手が相手だ……お互い、焦らずにやろう」
「あなたは、もうちょっと焦りなさいよね」
 ゆっくり料理なんかしてるんじゃないわよ、との意趣返しに、宿屋の主人も少しだけ微笑んでくれる。
 それぞれの心に抱えていたものが見えて、やっと、全員の笑顔だって見られた。
 お互い、見えないなにかを確かめ合うようだった視線が、なにかを共有するようなそれに変わっていき――


『あぁ、またパキィンて! パキィンていったっ! やっぱ増えるかもしんないんだコレ!
 でもよりによって愚者って……いや、そりゃ愚者コミュって特別課外活動部もそれなんだけどもさー……。
 なんか今の状況だと裏を考えさせられそう、っていうか“バカ”って言われたみたいで心が! 裏切られた心が痛いー!』


 空気詠み人知らず! と心の奥に向かって叫ぶも、いちど開いたパスはそう簡単に閉じることもなく。
 一見して落ち着いているはずの彼女。その奥底では、またしても色々なことが台無しなのであった。


【A-2/レーベの村→南方面/午後】
【シエロ(男性ハンター)@MONSTER HUNTER PORTABLEシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:シエロツール@MHP、連合軍式隊長剣@wizXTH
[道具]:基本支給品、くろこしょう@DQ3
[思考]:守れる者は守る。戦うべき者とは戦う
1:キャットと一緒に行動。南下して城に向かいつつ、アルスという名の少年を探す
2:血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒
3:殺し合いに乗るのは最後の手段にしたい
[参戦時期]:無印クリアずみ。2ndにデータを継承している(ポッケ村を知っている)可能性あり。
[備考]:髪型・ボイス・フェイスパターンなどは、後の書き手さんにお任せします。

【キャット(シティシーフ女)@Romancing Sa・Ga2】
[状態]:軽度の混乱、術力消費(小)、マントなし
[装備]:サイコダガー@魔界塔士、ヒールのサンダル@ロマサガ2、555ギア@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1~3
[思考]:生存を最優先に行動
1:シエロと一緒に行動。皇帝or信頼できる仲間のために、ノアや参加者の情報を集める
2:血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒
[参戦時期]:運河要塞クリア前(皇帝に抜け道の情報を渡していない)
[備考]:天の術法を修めています。


 *  *  *

「おはよう」
 目を覚ますと、そっとささやくような声で迎えられた。
 上体をあげると、なにか、頭から血が下がるような感覚をおぼえる。
 マスターとの共依存関係はプルシリーズの間でもささやかれていたが、やはり、喪失感の根は深い。
 胸に穴が空いたようで、代わりになにで埋めていいのかも分からないまま、呼吸とともに抜け落ちていくものがある。
「おはようございます……その、」
「あ、そっか。私は、有里公子。呼びやすいように呼んで」
 そして、あけっぴろげで優しい微笑みを、その“代わり”にしてはいけないとも思った。
 一度死んだら、執着もなくなるようなものだろうに――
「プルフォー。……私は、プルフォーです」
 救いの手をとっていいのかどうか迷いながらも、プルフォーは公子に応えた。
 ここでもたれかかるのも簡単だが、あたたかな好意を無碍にしてしまうこともできない。

「起きたばかりで悪いけど、他のひとと会ってみて、色々分かったことがあるの。
 最初に会ったときも、調子悪そうだったし……今の状況がどんなかとか、そういう話は聞けそう?」
「はい。現状の認識は、重要な事項であると判断します」
「じゃあ、あまり長くならないように話すね――」

 なによりも、彼女は自分を単なる少女として見てくれていることが、なにか嬉しく思えてしまったから。
 使命に従う軍人ではなく、マスターに依存するしかないNT部隊のひとりでもなく。
 自分の感じ方を縛ることもない説明を聞いていて、喪われた主に対する思いとは別種の痛みが胸を衝いた。
 それが選択に、思考にともなう痛みだろうか。しかし情報処理の能力は、こんな時にも落ちることなどない。
 話を聴く。ボロボロの状態で、精神の平衡をなんとか保つ自分が知りたいと思うから聴いている。
 殺し合い……ノアという機械が開いたという舞台の上で、話を聴き続ける自分は、公子と――
 最初に出会ったときに感じた、“もう一人の公子”にふたりがかりで支えられているようだ。
 そんな、ただの子どもが歩いているような状態で、プルフォーはただの子どもにない頭脳を回転させる。


 公子がこの村で出会ったのは三人。
 うち、シエロとキャットのふたりは変身デバイスとやらを携えて南へと向かった。
 デバイスを渡した宿屋の主人は、盗賊の男を埋葬すると同時に、すこし外の空気を吸ってきたいのだという。

 加えて、間接的に情報を得たのは五人。
 危険人物とされるブシド・ザ・ブシエに、血を浴びて恍惚としていた少女。
 逆に、協力的と見込まれたのはバレンヌ皇帝・ガラシェ、勇者・アルス、もうひとりの勇者・ジャガン。
 情報の鮮度も落ちているであろうから、スタンスを問わず、彼らの位置情報は限りなくまっさらに近いだろう。

 そうした、村から離れてしまった人物の去就よりも、いま自分たちが気にするべきは――


「彼をひとりにしていて、問題は起こりませんか?」
 この村にまだいるのだと知れている“宿屋の主人”であると、プルフォーは判断した。
 その気持ちは公子も同じだったのか、彼女は悩ましそうな様子でうなる。
「……正直、難しいとこだね。自分もアルスって男の子を探したいって言ってたし、デバイスは他に渡してるし。
 盗賊さんのことがすんだら、あの人、整理しなきゃいけないことがなくなるよ。選択の幅が広すぎっていうか――」
 だから、次にすべきだって思うことは、なんでも選べちゃうと思う。
「でも、後悔したくないって気持ちも分かるから、戻らなかった時は仕方ないかも。
 そういう時は、私たちのほうがおじさんの方に行けばいいかな……って」
 シエロたちとの約束、守らなきゃだけどね。
 その名前を口にして、公子は思い出したように笑みを深めた。

「ねえ。いいもの見つけたんだけど、何か食べられそう?」
「はい。少し空腹ですが……」

 にこにことしながら、彼女は後ろに回していた両手を前にやった。
 そこにあるのは、お菓子。濃い蜂蜜色の焼き色をしている、カップに入った可愛いケーキだ。
「あ……」
 公子から渡されたそれを見つめるプルフォーの目が、わずかながら輝く。
 手渡されるが早いか、金色の蝶を飾ったタイをふるえる指でほどく。甘い匂いが広がっていく。
 型から外さずにかじりついた生地はふんわりとしていて、バナナの香りが鼻に抜ける感覚が心地いい。
「どう? おいしい?」
 おいしい。とてもおいしい。――だからだろうか。
 その問い掛けにうなずく前に、少女の双眸からは涙がつたった。
 回収しきれない感情をかたちにしたかのように、あごを離れた液体はぽろぽろとシーツにこぼれる。
 心配そうな顔をした公子に向かって、なにか言わなければ。なんでもいい。いま思ったこと、いま伝えたいことを。


 ほんの少しなのか、それとも、もっと時間がかかっただろうか――


「公……子」
「……ん?」
 少女の呼び声に対して、公子は慎重に反応した。
 初めてプルフォーが名前を呼んでくれたのだ。「なあに?」などと強めに返して、ひるませたくはない。
 なにより気になったのは、栗色の髪からのぞく、彼女の決然とした瞳である。
 生き返った、というような表現が似合うだろう表情。そこに沈んでいるのは――

「私……私、多分、“二回死にました”。
 マスター、と……私自身と……それで、二回……」

 彼女自身の思いと向き合うための覚悟だ。
 ぽつりぽつり。先ほど流れた涙のように言葉をつむぐプルフォーの肩に、自然、公子の手が伸びる。
「うん」
 年端もいかない少女を抱きよせたペルソナ使いは、ゆっくりとうなずいてみせた。
 最初に出会ったときと同じだ。助けてください。痛い。この子は、それを言うことができる。
 だったら、私はそれを聴いてやりたい。聴くことで胸が軽くなるなら、話したいなら、その判断を信じたい。

 ――私の一番大切は、この人の側にいることであります――

 マスター。
 プルフォーが何度も繰り返していた単語に、真っ直ぐな女声が脳裏で重なる。
 自分のことを、それこそマスターのように守ろうとした機械のことを、公子は知っていた。
 だからだろうか。なんとなく……守るべき対象をなくした少女の気持ちも、分かる気がする。


【A-2/レーベの村・宿屋2階の一室/午後】
【有里公子@ペルソナ3ポータブル】
[状態]:健康
[コミュ]:Lv1・刑死者(プルフォー)、Lv1・愚者(ノア打倒の同志たち)
[装備]:ペルソナ装備済(???・数不明)
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いはしない。他の参加者と協力してノアを打倒する。あとコミュMAXゲフンゲフン
1:プルフォー、宿屋の主人を守る。プルフォーの話を聞いてみる
2:宿屋の主人が気になる。血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒しておく
3:イゴールさんいないかなー?
[参戦時期]:詳細不明。決戦より前、荒垣死亡後
[備考]:コミュは絆を築いた相手との間に生まれるもので、ペルソナ合体をした場合に使います。
 だから別に使わないかも(え)。これから増えるかどうかはわかりません。
 コミュコンププレイ中なので、大分股かけてます。

【プルフォー@機動戦士ガンダムZZ】
[状態]:錯乱(やや沈静)
[装備]:NT兵用パイロットスーツ@機動戦士ガンダムZZ
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:マスター……?
1:公子を信用。彼女に事情を話してみる
[参戦時期]:最終回、死亡後
[備考]:殺し合いのルールと、ノアについての話を公子から聞きました。


 *  *  *

 民家から見つかったのは、牛飼いのものとおぼしき鋤であった。
 鍬ならまだしも、これでは地面を掘ることも難しい。
 そして、意識を喪った青年の体というものは、彼が思う以上に重たいものだった。
 宿屋をやっているときには、仕入れた食材の木箱や麻袋などもかついでいたものだが、これは違う。
 両腕を失くした人の体は、その傷口から流れた血は、どこまでも男の手から大切なものをすり抜けさせる。

 結局――
 宿屋の主人に出来たのは、名も知らぬ男盗賊の姿勢を整え、そこに土をかける程度であった。
 少なくとも、この盗賊よりは長く生きているうちに妥協も覚えたはずだが、それでも胸が痛い。
 勇者への信頼。彼の奥底に眠っていたものを目覚めさせたきっかけは、自分だったのだ。
 そして、ファイズフォンの“伝言”を託されたのも自分だったのだから、そう簡単に現状を割り切れはしない。
 この結果はやりきれなかった。自身の無力が悔やまれた。無力という単語に逃げる心が、情けなかった。
『しかし、それではどうする? いったい、どうすれば……』
 宿屋の主人らしく、客寄せのベルでも鳴らせということなのだろうか?
 ギヤマンで出来た美しい鐘。ある意味では皮肉そのものといった武器が、彼の前に姿を現す。
 モンスターハンター、シエロ。都会の盗賊、キャット。ペルソナ使いだという、有里公子。
 そして、あのブシド・ザ・ブシエと、彼女に立ち向かって散っていった男盗賊――
 眠っている子どもは別としても、彼がこの数時間で行き合った者たちは、あまりにも格が違いすぎた。
 こんな状況で、自分も宿屋として役目を果たそうと思うだけの気概も誇りもあったが……違うのだ。
 しかし。それを分かっていても、守られる側でいて本当にいいのか。
 あの散りざまを見ても動けない、そんな自分を許せるか。


 死者を弔うように、半鐘を思わせたベルが鳴る。
 穏やかであった彼の死に顔は、もう、宿屋の主人に見えることなどない。


【A-2/レーベの村・宿屋Bと民家のミックス跡地周辺/午後】
【宿屋の主人@ドラゴンクエストⅠ】
[状態]:自身への落胆、焦り
[装備]:ギヤマンのベル@FF3
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×0~3
[思考]
基本:勇者やその仲間を救う
1:勇者達を探したい(ジャガン、アルス優先)が……
2:血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒


【バナナカップケーキ@ペルソナ3ポータブル】
キャットに支給された。
親しくなりたいキャラにプレゼントできるアイテムのひとつ。
女教皇コミュで公子が作ったケーキ。生地には潰したバナナが混ぜてある。

【ギヤマンのベル@FINAL FANTASY 3】
宿屋の主人に支給された。
風水師とたまねぎ剣士の専用装備となる、ガラスで出来た鐘。
FF3では鈍器のように扱う他、類似ジョブ(風水士)が出てくるFF5では音色で攻撃している。


040:テメえの都合じゃ生きちゃいねえよ 投下順に読む 042:才にあふれる――(愛にあぶれる)
040:テメえの都合じゃ生きちゃいねえよ 時系列順に読む 043:血も涙も、故郷(ここ)で乾いてゆけ
029:マダカレークッテナイデショー シエロ 053:キックOFF
キャット
026:GO!GO!GO! 宿屋の主人
022:刑死者コミュ―プルフォー― 有里公子
プルフォー



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