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古参陣営最終応援ボーナス:182点



抜人 言乃、贖罪。


 お金がいるんだ。
 お金がいる。もっと、たくさん。

「お姉ちゃん、いつもごめんね」

 私には歳の離れた妹がいる。
 両親が早くに他界し、私たちは二人きりの家族になった。
 私たちに残ったのは、二人で生きていくにはわずかとしか言いようのない遺産だけ。

 周りは全て敵。

「二人きりじゃ大変だろう?」

 父の友人を名乗る男性が現れた。優しそうな人だった。笑ったとき笑窪ができるのが印象的で……。
 私は不安に押し潰されそうだった。だから、誰かを信じたかったんだ。
 けれど、その言葉を信じた私は愚かだった。両親の残したわずかな遺産さえやつに食い潰された。
 もう、誰も信じない。

 やつの元から離れた後、しばらくは貧しくても幸せな日々が続いた。
 さらに少なくなってしまった遺産を、少しずつ少しずつ崩しながら、アルバイトをして暮らした。
 遊んでる余裕はなかった。クラスメイトがおしゃれの話をしているのを、内心うらやましいと思いながらも、私は妹と二人で暮らすために日々を費やした。
 妹と過ごすわずかな時間が、私の幸せだった。

 だけど、そんなささやかな幸せさえ、神は奪った。妹が入院した。
 難しい病で、完全に治すには移植が必要……らしかった。だけど、そのための手術は海外でしなければならない。
 莫大な医療費がかかる。だから、たくさんお金がいる。
 そう言われた。
 学校を辞めて就職したところで、私が稼ぐには何年、何十年とかかるであろう額。

 まともな方法では、決して手に入らないであろうことは、すぐに理解できた。
 お金が欲しい。
 助けてもらいたい。
 けれど、救いの手は差し伸べられない。
 お金がない。
 たったそれだけで、向けられる視線は冷たくなる。

 妹の担当医に呼び出された。
「君たち、お金の当てがないらしいけれど、大丈夫なのかい?」
 その男は優しそうな笑みを浮かべたている。
 だけど、私には、その笑みが恐ろしかった。
「……」
「答えられないかい? 残念だけど、君の妹さんの病は難しい。その進行を遅らせるだけでも、たくさんお金がかかる」
「……」
「保健は入っているのかい?」
 入っていないとは言えなかった。
 言えるはずがない。そもそも、私たちには保険に入る余裕もない。
 日々をやり過ごすのが精一杯だった。
「そうか……」
 私が無言でいると、男は私の沈黙を肯定と受け取った。
 追い出されはしないだろうか。私は不安に駆られる。
 しかし、男は表情を変えることなく、私の耳元で囁いた。
「お金がないなら、どうするか……分かるだろう?」
 男は私の肩にそっと手を回した。
「君一人で、どうにかできるのかい? それなら、私に身を委ねるのも、悪い選択ではないんじゃないか?」
 男は私に身体を要求した。妹を抱えて、私には選択の余地はない。
 せめて、妹だけは――。
 私は固く目を閉じた。

 ・
 ・
 ・

「妹のこと……よろしくお願いします」
 衣服を整え、ドアノブに手をかける。
 ホテルの一室。ベッドの側で半裸の男がワインをあおっている。
 あれから、五年の月日が経った。
「まかせてくれよ。金の用意さえあれば、すぐにでも移植ができるよう掛け合ってあげよう」
 その男は医者だ。妹の担当医。
 男との関係は、あれ以来ずっと続いている。

 男にはある意味で感謝している。彼のおかげで、私は一線を越えることができた。一度、一線を越えてしまえば、後は何だってできた。

 "妹と一緒に幸せになる"

 そのためなら、どんな事でも引き受けた。
 どんな手段も講じてきた。
 今、ようやく、目標の金額に達しようとしていた。

 後、少し……。
 私はホテルを出た。


「お姉ちゃん、会社の方はいいの?」
 お見舞いに行くと、妹はそんなことを尋ねる。
 私は妹に、自分がどのようにして、多額の医療費を稼いでいるかを話していない。
 あの男に口裏を合わせてもらい、会社を立ち上げ、その経営が上手くいっている、ということにしている。
「大丈夫。有能な部下に恵まれているから」
「そうなの?」
「ええ」
 私は笑顔で頷いた。チクリと心が痛む。
 妹は、その人生の三分の一を病室で過ごしてきた。 
 妹にはこんな私のような道を歩んでもらいたくはない。
「お姉ちゃん、見てみて。外にはこんな花が今咲いてるんだって」
 妹が携帯の画面を見せる。そこには、白い花が健気に咲いていた。
「メールの子?」
「うん」
 妹は、どこで知り合ったかは知らないが、同い年の女の子とメールでやり取りしているようだった。
 妹の心の支えになってくれているようで、私は心底感謝していた。いつか、その子にもお礼が言いたい。
「その子とどんな話をしてるのかしら」
「気になるー?」
 妹が意地悪な笑みを浮かべる。
「えー、お姉ちゃんにくらい話してよー」
「仕方ないなー、うーんっとね。恋の話だよ」
 恋の話。ちょっと驚きだ。
「私ね。その子の相談に乗ってあげてるの」
「へぇ」
 意外だった。ちょっと信じられない。
「あー、信じてないなぁ! 私、恋人だってちゃんといるんだからね!」
 あの妹に恋人。ますます眉唾だ。
「どんな人ー? あっ、あのカッコいいナースのお兄さん?」
「もう! 茶化さないでよ。お兄さんには、ちゃんとした奥さんいるの知ってるもん! そんなこと言うなら、お姉ちゃんにはまだひみつー!」
「はいはい、わかったから。ごめんね」
「もう、信じてないなあ!」
 妹はぷくっと子どもっぽく頬を膨らませた。
 そのしぐさが愛おしく感じる。 



 ・
 ・
 ・

 希望崎学園で引き抜きの仕事を始めた。
 見所のある魔人を極楽学園へ引き抜く仕事だ。
 これを紹介してくれたのは友人だった。
 出席日数も足りずに、私は留年を繰り返していた。学校で自由に動き回れる人材ということで、私は抜擢されたと言う。
 実際、この仕事は労力の割には、報酬が良かった。

 妹は手術を前に、ナーバスになっているようだ。気丈に振舞ってはいたが、どこか違和感があった。
 この仕事なら、夜は妹の側にいてやれる。

 妹と変わらない年齢の子を相手に、このような商売をすることに抵抗がないかと言えば嘘になる。
 だけど、そんなことを言ってはいられない。目標まで後もう少しなんだ。

 楽とは言うものの、思春期の子ども達だけあって、一筋縄ではいかないこともある。
「いくら説得されましてもぉ、ぼくぅ、行く気ありませんからぁ」
「あら、それなら、こっちの方にお願いして見ようかしら」 
 生徒の腰に手を添え、舐めるような手つきで愛撫を繰り返す。
「な、なんですかぁ……! お姉さん――……!!」
 お金が欲しいんだ。
 そのためなら……。私は何でもできる……。何だってするさ……。
 私は彼のズボンのチャックを静かに下ろした。


「あなた、最近こそこそと何してるの?」
 あるとき、風紀委員の少女にそう呼び止められた。
 彼女は可愛らしい顔つきをしていたが、常に怒ったような表情と、その風紀に対する厳しさから、一部の男子からは非常に疎まれていた。
「何のことかしら?」
 そ知らぬ顔で聞き返す。
「しらばくれないで下さい」
 少女は、汚らわしいものを見るような眼で、私を一瞥する。そして、ずいと私に詰め寄る。
 面倒なガキだ。だが、こんなこともあろうかと、彼女についてはすでに調べてある。
「あなた、いつも目を吊り上げてるけど、欲求不満なんじゃないかしら?」
 少女の耳元で、私は、彼女が想いを寄せているとある男子生徒の名を囁いた。
「なっ……!」
 少女は明らかに動揺して見せた。情報は間違っていなかったようだ。
「ふふ、あなたたち付き合ってるの? どちらから先に告白したのかしら?」
「あ、あ、あのひととは何の関係にもなっていませんっ!」
 少女は恥ずかしそうに顔を赤らめ、必死に関係を否定した。
「もう、どこまで進んだのかしら? A? それともB? まさかCなんて――」
「か、何の関係もないって言ってるじゃないですかぁっ!!」
 少女は声を上げた。
「もう、いいです! 次は証拠をあげて、学園から追放してやるぅっ!」
 少女はそう言い残して、走って逃げていった。


(……あの子、邪魔だ……)
 今回は上手く誤魔化すことができたが、これを機に、しつこく追いかけられるのはまずい。

 私は、私と関係を持った男子一人一人を呼び寄せ、あることを頼んだ。
 少女が想いを寄せている男子生徒、彼も私と関係を持っている。彼女には気の毒だが、私の邪魔をするというのなら仕方がない。

 その放課後、あの風紀委員の少女は、数人の男子生徒に呼び出され、暴行を受けた。魔人たちの跋扈する、この学園ではよくあることだ。当然、彼女も気をつけてはいただろうが、好きな人からの呼び出しには無警戒だったようだ。
 私は彼らにその一部始終をビデオに取るように言いつけていた。それをネタに少女を脅すためだ。
 だが、少女が学校に来ることはなかった。少女は暴行を受けたその晩、学校の屋上から身投げした。

 私は、ビデオを見ていた。
『や、やっ――! あっ、うっ……ゆ、許して――』
 あの少女の声が、ディスプレイの明りだけの薄暗い部屋に響き渡る。

 バカなやつだ。

 自分を正当化しようと、そんなことを呟く。
 だけど、本当は分かっていた。だけど、いまさら、それを受け入れることはできない……。

 ――バカは私だ――。


 昨夜、顔を出せなかったことを謝ろうと、翌日の朝、妹の病室を訪れた。

「お姉ちゃん!!」

 妹が目を泣き腫らしていた。携帯の画面を私に見せた。
「昨日の夜、メールがきて……! ごめん……って。それから、いくら電話しても出てくれなくて……!」
 背筋に何かが走るのを感じた。
 いや、そんなわけがない。そんなことがあるはずない。そんな偶然あってたまるか。
「その子の……名前は?」
 妹が言った名。
 それは、あの風紀委員の少女の名と同じだった。

 ・
 ・
 ・


「今日はやけに激しいじゃないか? 私もそう若くないんだから。あまり無理はさせないでくれよ」
 男はそう言いながらも、一層激しく腰を振る。私はその突き上げる快感を貪欲に求めながら、淫らに喘ぐ。
「もっと――もっともっと――もっとっぉ……!」
 私をもっと穢してほしい。
 二度と罪の重さに飲み込まれないよう、私の全てを犯して。


 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 ようやく金が貯まった。
 あの男から連絡が来る「話がある」ということだった。調度いい。こちらも移植の件で話がある。

「今日は、すまないな」
 改まったように男は言った。
「私も話があったから」
 男は、気まずそうに「そうか」と答えた。
「で、話って何?」
「……」
 男は言い難い内容なのか、言葉に詰まらせている。
「妹のこと?」
「ああ」
 男は頷く。冗談じゃない。
「移植の件は、ちゃんと通してくれたんじゃなかったの!?」
 私は激昂した。
「そのことについては、きちんと話は通した。向こうに着けばいつでも移植は可能さ」
「……なら、何? まさか、今さらお金の問題?」
「……いや、違う」
 歯切れが悪い。いつもなら、このような歯切れの悪い話し方をするような男ではない。
「なんなのよ」
「俺の離婚が成立した」
 離婚……。確か、噂で聞いたことがある。こいつの妻は、名のある資産家で、別の若い男と関係をもった末に、本気になってしまい、男に離婚を突きつけたとか。
「その慰謝料でな、あいつの病気を治せる」
「あいにく、お金は貯まったの。今日はそのことで話があるわ」
 ん?
 私は何か違和感を覚える。
 "あいつ"?
「悪いが、お前のその金は必要ない。これから先は、俺があいつの面倒を見る」
 意味が分からない。
 "俺があいつの面倒を見る"? いったい、こいつが私たちと何の関係がある。私たちの弱みに付け込んで、食い物にしてきただけだ。
 私の初めては、こいつに穢されたんだ。
「私だけに飽き足らず、あの子にまで手を出す気か……!」
「違う」
「何が違う……! お前は――」
「話を聞け! 俺はあいつを愛しているんだ」

 アイ シテ イ、ル ?

 バカ ヲ イウ ナ。

 オマエ ガ、アノコ ヲ アイス?

 オマエ ノ ナニ ガ アノ コ ヲ アイ シテ イル ッ テ イウ ンダ  ! ?


「ぶっ殺してやるっ!! 妹に何をしやがったっ!」
 私は、そいつの喉元に手を伸ばし、力の限り握り締める。
 だが、男の拳が次の瞬間、私の鳩尾に食い込む。
「っえぐぉ……!」
 私は男の喉元から手を離し、蹲った。
「落ち着け。まだ、俺の方から手を出しちゃいない」
 私はあいつの顔を睨む。
「俺は根は腐っていても筋は通す。それだけは信条にしている。お前の件があって、俺もあいつに告白されたときは断ったさ」

 告白? そんなの嘘に決まっている。

「けど、あいつの側にいて、あいつが懸命に戦っているのを見ているうちに、あいつのために何かしたい、あいつを一生かけても守りたい。そう思い始めた。だから、あいつの想いを受け止めた」

 騙されない。私は、もう騙されない。妹だけは守ってみせる。こんなやつの手で汚されてたまるか。
 私は懐に手を伸ばす。護身用のナイフを忍ばせてあった。
(今、ここで殺してやる)
 だが、そいつは私が懐に手を入れたのを見て、すぐさま靴の先で私の胸を蹴り上げた。
 ナイフが手から落ちる。

「だから、話を聞けよ。あいつには、一足早く空港に向かってもらっている」
「なっ……!」
「あいつの気持ち、分かってやって欲しい」
「お、お前が、知ったような口を叩くな! お前が私にしたこと、あの子にも全部ばらして――」
 ばらして――……?
「…………俺はもう空港に行く。これはあいつから、お前にだ」
 そう言って、そいつは、私にフラッシュメモリーを投げてよこした。
「あいつからのビデオレターだよ。信じちゃくれないとは思うが、俺はあいつを何があっても守り抜く。それだけは信じてほしい」
「ま、待て……!」
 追いかけるが、そいつは車を用意していたのか、それに乗って消えてしまった。
 手元には、そいつの残したフラッシュメモリーだけが残った。


『お姉ちゃん』

『こんな形の行ってきますで、ごめんなさい』

『先生とのこと。お姉ちゃんは許してくれないって、先生は言ってたけど、心配しすぎだよね』

『うーん、お姉ちゃん、怒ってるぅ? ……怒ってるよね。ずっと私のために頑張ってくれてたのに……。』

『けどね。お姉ちゃんは、私なんかのために頑張りすぎだよ。お姉ちゃんにはさ、もっと、自分を大切にして欲しいの』

『お姉ちゃんの幸せが、私の幸せでもあるんだよ』

『私はね、必ず、帰ってくるから! そのときは、私のこと、うんーっと叱って。私、お姉ちゃんにたくさん迷惑かけたのに、お姉ちゃん一度もそれを表にだしたことないよね?』

『だからさ、今回ばっかりは、怒っていいんだよ。おまえのためにずっと頑張ってたんだぞーって」

『だからね……、お姉ちゃん。もう、私のことなんか、忘れちゃってさ、幸せになってよ……! 私には、先生だっているし、支えてくれるたくさんのスタッフさんがいるから、もう大丈夫だよ……!!』

『あれッ ごめん。なんかッ、目にゴミ入っちゃったかなぁッ。またね、お姉ちゃんッ。バイバイ……ッ! 行って来るッ!』


 これで、いいんだ。これで……。

 ・
 ・
 ・

『あーっ、言乃さんですか?』
 電話だ。
 今日、見所のある新入生何人かにパンフレットと連絡先を渡した。
「はい、ご用件承ります」
『あの、極楽学園ってどんなところですか?』

 私は、この仕事をまだ続けていた。あのお金は手付かずのまま残している。
 使い道は決めている。このお金は、私が傷つけた多くの人のために使う。全然こんなのじゃ足りないけど。
 それでも、この一生を、その償いのために費やす。
 ただ、あのときとは心境は異なる。
 今度は、自分の幸せのためにも、お金を貯めるんだ。

 あの子がそう望むように。


真野がしょんぼりするだけのSS



「なあヨネスケ!お前って並行世界の自分を連れてこれるんだよな!?」

「たしかにそうだが、それがどうかしたか?」

「じゃあさじゃあさ!女性で貧乳のお前を召喚することもできんじゃね!?」
「それは無理だ。」

「ショボーン(´・ω・`)」



「なあシヴァ!お前って昔地球に移民した宇宙忍者の末裔で忍術とPSYを使える、魔法の力で男にも女にもなれる、前世(雪女だった)の記憶と能力が残ってるごく普通の男子(兼女子)生徒なんだろ!?」

「は、はい…で、でも急にどうしたんですか…?」

「じゃあさじゃあさ!実はシヴァって巨乳でも貧乳でもあるんじゃ」
「それはないです。」

「ショボーン(´・ω・`)」



「なあ歩峰!お前のカマボコって自由に容姿を設定できるんだよな!?」

「ええ、そうだけど…それがどうかした?」

「ならさ!貧乳の女の子のかまぼこを召喚してくれよ!」
「それは嫌。」

「ショボーン(´・ω・`)」




「なあ一年!そんだけ人数居るんだし一人くらい貧乳の子がいるよな!?」

「いいえ、いませんよ」

「 (´;ω;`)ブワッ 」
「!?」


特に落ちはない


サツキ姫の、なんでもない一日(^-^)b



「あーあ、退屈だなあ(*≧m≦*)」

いつもと変わらぬ平日の放課後。
自称・学園のアイドルであるサツキ姫は、大きなため息を漏らした。
取り立てて面白いことも起きない、平和な毎日。
そんな変わり映えのしない日常に、彼女は飽き飽きしていたのだ。

学園のみんなが、自分を愛してくれている。
そのことを重荷に感じたことはないし、自分の立場に対して、高慢な気持ちを抱いたこともない。
たとえそれが思い込みであったとしても、彼女の中では絶対の真実であり、
ならば、不満などあるはずもないのだ。

だけど、足りない。
心の中を満たすだけの、何かが足りないと、サツキ姫は感じていた。
そんなときだった。
彼女のケータイに、一通のメールが届いたのは。

「あれ? これ、誰だろう?」

画面を見ながら、サツキ姫はわずかに首を傾げる。
「KOTAKEGASUKI」
という文字列から始まるそのメールアドレスは、彼女にとって見覚えのないものだった。
不審に思いながらも、サツキ姫はメールを開く。
そして、人を疑うことを知らない彼女は、
そこに添付されていた一件のURLに、ためらいなくアクセスした。

「あっ……」

その瞬間、彼女の心が激しく揺れ動く。
それはまるで、ガス爆発にでも巻き込まれたかのような、大きな衝撃だった。

メールに添付されていたURLは、twitterのIDだ。
アクセスした先には、見知らぬ誰かのつぶやきが表示されている。
そして、その言葉の数々に、サツキ姫は魅了されたのだ。
どこにでもいる無垢で無邪気で純粋な彼女だって、twitterくらいはやっている。
だけど、ここまで心動かされるつぶやきを見たのは、初めてだった。

「こんなところに、こんなところにいたのね。私の、王子様が……」

もはや彼女は、その人物の虜となっていた。
メールの送り主が誰なのか、
また、そのURLがなぜ添付されていたのかなど、
そういった細かいことはどうでもよかった。
今はただ、この運命的な出会いに、感謝するばかりだったのだ。

恥ずかしいから、フォローはしない。
こちらから声もかけない。
リストに追加して、静かに、静かに、見守るだけだ。
それだけで、彼女は満足だった。

「私の銀河には今、最高の綺羅星が輝いているわ……」


――しかし、サツキ姫は気付いていなかったのだ。
それが、BOTと呼ばれる代物だということに。
自動的につぶやきを漏らす機械を相手に、今日も彼女は、熱いまなざしを送り続ける。

サツキ姫が熱中するKOTAKESAMA_BOTは、現在も絶賛稼働中である。





『外待雨』


 3年生の教室によろよろと辿り着いたその男は、敷居を越えると同時に、どう、と
倒れ伏す。ずぶ濡れの学ランから滴る雨水と血が、床にどす黒い水溜りを染み広げた。
 その満身創痍の身体には、切り裂かれた傷跡で挑発的な言葉が刻まれている。
 彼は1年生への連絡役として、覇竜魔牙曇(ハルマゲドン)の開戦延期を伝える為に
先刻、単身敵地へ赴いた使者であった。勿論、延期の理由は3年生が怖気づいての事で
はない。本来ならば関係の無い他の在校生は安全の為にとっくに帰宅している時間なの
だが、予報には無いゲリラ豪雨により校舎を出られず未だ学内に留まる一般生徒が数名
いる、との報せが3年生側の探知能力に優れる魔人によりもたらされた為である。
 1年生への懲罰を意図した覇竜魔牙曇に、無辜の一般生徒を巻き込む訳にはいかない。
いかに生意気で道理の分からぬ1年生とはいえ、その程度の判断はつくものと考えた
3年生達ではあったが、その返答が前述の通りであった。
 「おいッ、しっかりしろ! くそッ、早く治癒能力者を!」
 「下種どもがッ……!!」
 元より血の気の多い魔人揃いである。滾る血を沸騰させ、怒髪天を衝く者。無言で
得物である日本刀をすらりと引き抜く者。所作に違いはあれど許せぬ心は一つであった。
 「…………待て」
 だが、そんな彼らを押し留めたのは他ならぬ彼らの同志。その中でも古参として発言
力の高い男だった。
 怒りに身を任せ、闇雲に突撃すれば待ち構えている1年生の思う壺であろう。それに
何より、一般生徒の件もある。此方から開戦を早めるのは愚の骨頂と言えた。
 「一般生徒の避難が先だ。お前と……お前。あともう一人くらい連れて誘導に行け」
 探知、移動能力……そして戦闘能力のある魔人を数人選び出す。いずれも戦闘経験の
豊富な優秀な戦力である。正直これからの決戦を前に戦力の減少は非常に厳しい。だが
社会から厄介者扱いされる魔人である彼らにも、譲れぬものはある。暴虐と破壊に身を
おき、信条すら打ち捨てる。それは既に魔人ではない…………その末路は人ではない、
魔、そのものだ。
 「しかしッ……!」
 理屈は分かっていても、納得できるかどうかは話は別だ。反論しようとした武闘派
魔人の肩を、しかし隣の魔人が引き止め…………静かに告げる。
 「………………使者は、あの人の小学校時代からの親友だぞ」
 「………………ッ……!」
 絶句。教室内に沈黙が流れ、場を支配する。
 「急げ。開戦は近いぞ」
 重々しい古参の一言に込められた苦渋と静かな怒りが、静寂を破った。


 「…………外道だと思うか?」
 訪れた使者を血祭りに上げ、見せしめとして侮辱を刻んだ上で放逐した後。1年生の
教室に残っていたのは二人の男女だった。残りの1年生は開戦に備え、既に戦闘配置に
着いている。 
 血で血を洗う戦場においてさえ、使者への暴行は禁忌とされる。それを敢えて犯し、
非道を行う。1年生の中にも反対の声が無いでは無かったが、それを押し切った武闘派
の首魁が彼であった。これは3年生側の罠だ。時間を与えては邪な企み事を許すだけだ。
そう主張する彼の言葉に、結局大勢は決したのだ。元々、3年生に対する反発から生ま
れた争いである。猜疑心の土壌は常に育まれていた。加えて3年生に比べて層の薄さが
否めない陣容には探知に優れた魔人が存在せず、裏を取る事も出来ない。
 「えぇ、そうね」
 それに短く答えたもう一人の女生徒。
 否定はしない。彼女には彼の考えが痛い程に分かっていた。だから慰めは言わない。
糾弾され、非難されるのが彼の望みだったからだ。
 使者による開戦延期が告げられたとき。瞬間、1年生の間に緩んだ安堵が生まれた
事に彼だけが気付いた。人に恐れられる魔人とはいえ、彼らもまだ若い。若すぎた。
勢いで始めた覇竜魔牙曇、生命の保証など無い戦い。その開始が僅かとはいえ延びる
提案に本能的に安堵を覚えてしまった事を、一体誰が責められようか。気の緩みが、
すなわち死に直結する事を実感として知る者は少ない。
 だが、一度緩んだ戦意を再び引き締める事は容易ではない。出来るとするなら、非業
による蛮勇、強烈な狂信的圧倒。それを為しうるのは彼しかいなかった。
 この戦いがどちらに転んでも彼の運命は明白と言える。勝者となろうが敗者となろう
が、外道の名を背負い生き、或いは死す。それで良いと、彼は思う。
 そんな彼を彼女は慰めはしない。一言、呟くだけだ。
 「貴方の心は、わたしが抱いて地獄へ堕ちる」
 許されたい訳ではなかった。擁護されたい訳ではなかった。
 ただ、誰か一人。自らを理解してくれる者がいる。それだけで。
 それだけで、彼は救われた。


                                <了>


TIPS
※外待雨…………ほまちあめ。局地的な、限られた人だけを潤す雨。
※ゲリラ豪雨……予測が困難な、突発的で局地的な豪雨を指す俗語である。実のところ
        ある魔人による能力であったが、今回の覇竜魔牙曇においては直接の
        関係性を持たない為、詳細は割愛。
※首魁……………悪事・謀反などの首謀者。張本人。彼が誰であったかは記録に残って
        いない。


『はじめての銀行』


晴れた日曜日。三途川紗鳥は一つ下の妹を連れて隣町の銀行へと歩いていた。
「今日は晴れててよかったー。もうちょっと近くに銀行があればいいんだけど」
「希望崎に作るわけにも行かないし、しょうがないよ」
愚痴る紗鳥に、妹の沙也加が答える。
魔人の多い希望崎では、能力による強盗を警戒して銀行やATMの類は設置されていない。
そのため希望崎に住む人間や魔人は、お金を引き出すために隣町まで行かなければならないのであった。

「それに、お姉ちゃんだって文句言えないでしょ?」
「え? なんでよ」
首を傾げる紗鳥に沙也加はいたずらっぽく笑ってこう答えた。
「ほら、お姉ちゃんが銀行に入ると強盗に遭いそうでしょ? そんな人が住む街に銀行なんて作れないじゃない」
「う、うるさいわね。今までのは偶然よ」
「いやーでもホントに、お姉ちゃんには家で待ってて欲しいんだよ」
茶化しながらも本気混じりにいう沙也加に、紗鳥は言葉を詰まらせる。
沙也加のいうことは決して冗談ではない。実際に紗鳥はほぼ月に1回以上は何かしらの事件に巻き込まれている。
先月も空き巣を見つけたし、目の前でひったくりが起きたことは1度や2度ではない。
そんな沙也加が昨日急に銀行に行きたいと言い出した。無謀だやめろと家族全員に反対されたが、今日はそれをおして出かけた。
専ら銀行へ行くのは沙也加に任せているのだが、今日は壊してしまった武道場の窓の修理費を引き出すため、何としても紗鳥自身で金をおろしたかったのだ。
「私だって自分のお金は自分で管理したいのよ。ほら、着いたわよ」
言いながら紗鳥は自動ドアをくぐる。不安だなーと言いながら、沙也加も後に続いた。

「えーと……」
「ほら、お姉ちゃん。こっちだよ」
勝手がわからず戸惑う紗鳥を沙也加が促す。沙也加にとってはいつもの銀行だけれど、紗鳥にとってははじめての銀行だ。
そうして沙也加はいつものように列に並んで、紗鳥はその後に続いて――

「ヒャッハー!! てめえら動くんじゃねえ!!」
いつものように事件に巻き込まれた。
強盗に入ったのはモヒカンザコ。数は10人。転校生の乱入した学園祭でモヒカンザコとなった希望崎学園の生徒の成れの果てである。
それぞれ釘バットは標準装備。サバイバルナイフや改造エアガンなどを持ち、強盗に相応しい姿となっている。

突如乱入したモヒカンザコの群れに騒然となる銀行。
そんな中、紗鳥は気まずそうに沙也加を見やる。
「……えーと、その」
「いいよもう……さっさとやっつけて」
沙也加が諦めたかのようにいうと、紗鳥は軽く頷き、溜息とともにモヒカンザコの前へと立ちはだかる。
「うう、なんでこんな……ほら、あなた達。怪我したくなければ今すぐ武器を捨てなさい」
無駄と分かりつつも忠告は欠かさない。むやみに能力を振るうことは武術家の精神に反している。
「ああ? 何ふざけたこと言ってやがる。てめえら、こいつをやっちまうぞ! ヒャッハー!!」
「「「「ヒャッハー!!」」」
モヒカンザコたちは当然のように聞き入れず、紗鳥へ向かって武器を振りかぶりながら走りだす。
それを見た紗鳥は、手首のところで両手を交差させ、ゆっくりと息を吐き出しつつ、拳を作りながら両手を下げる。


            ・ ・
その姿を見ていた濃い顔をした2人組の客が突然声を上げる。
「むう、あの構えは!」
「知っているのか雷電!?」
「うむ、――重川流格闘法。その期限は江戸時代に遡る。太平の世。力を持て余した侍による辻斬りに対抗するため庶民の始めた護身術がその源流とされる。
 刀を持つ強者に対し、徒手空拳で立ち向かう為の解を「気」に求めた。
 「気」を用いたその奥義は武器を持つ者に対し絶大な威力を誇ったという。
 余談ではあるが、銃刀法で規定されている違法物は、重川流格闘法奥義の対象となるもので決められている。
                         民明書房刊 『江戸時代の庶民生活』より」


いやいや、そんなわけないでしょう。紗鳥は突如解説を始めた2人組に心のなかでツッコミを入れながら、静かに息を吸い始める。
下ろした右拳をゆっくりと脇の下まで引いて、左拳はまっすぐ前へ伸ばし正拳突きの構えを取る。
そのまま向かってくるモヒカンザコたちへ向け、「はあっ!!」という掛け声と共に正拳を突き出す。
「ウギャー!」
叫び声とともに吹き飛ぶモヒカンザコ。彼らは何が起きたかもわからないだろう。
紗鳥の放った技は重闘法:威蛮。正拳に合わせて気を飛ばす彼女の魔人能力であり、重闘法の奥義の一つでもある。
重闘法における奥義とは、すなわち武器を持つ者に有効な魔人能力のことをいうのである。

「助かったのか……?」
「あんたすごいな! 今のはなんなんだ!?」
「ありがとう。そしてありがとう」
湧き起こる歓声。その中で紗鳥は照れくさそうに頭をかく。何度も事件に巻き込まれてはいるが、ここまでの規模のもの、そして大勢から直接感謝されるのは初めてだった。
次々と告げられる感謝の声に、戸惑いながらも紗鳥は応える。

紗鳥にとってはじめての銀行はこのような顛末と相成った。次に来るときはもうちょっと気をつけよう。そう思いながらも本来の目的であるATMへ足を向けると
「さっすがお姉ちゃん! やっぱり強いね!」
満面の笑みを浮かべた沙也加が目の前に立ちふさがった。ちなみに今の台詞は棒読みだ。
「さ、沙也加……さん? 目がコワイデスヨ」
「顔も怖くしたほうがいいのかな? いいからほら、お姉ちゃんはさっさと外に出て」
「で、でも、せっかくここまで来たんだし!」
「いいから」
「はい……」
妹にジロッと睨まれた紗鳥は、肩を落としながらすごすごと出口へ向かう。
この後、銀行に来た理由を沙也加に問いただされて姉の威厳が失墜したり、事件に関わったことで生徒会長から雷を食らったりと散々な目に合うのだが、
とりあえず今は、もう二度と来ることはないであろう店内を、名残惜しそうに目に焼き付けた。


3号生陣営視点開幕SS


「ねえ、知ってる?」
「なに?あ、そこのきのこの山とって」
「このきのこ厨が。どうぞ。」
「サンキュ。で、なんなの?」
「また山乃端一人が死んだんだって。」
「マジで?」
「うん、超マジ。あ、私にも一本ちょうだい。」
「おらよ。あー、また死んだのかー。これで何回目だよオイ。あっぶね、ワンワンに体当たりしそうになっちまった。」
「モグモグ、うん、やっぱりたけのこには敵わないな。」
「うるせえ、きのここそ至高だろうが。」
「きのこ厨は味覚障害だね。」
「黙ってろばかやろう。で、やっぱりいつもの感じになりそうなのか?」
「そうだね。一号生が結構ピリピリしてるから。時間の問題かな。あ、そこ1アップあるよ。」
「マジで?わっばかっ、てめえが急に言うから死んじまったじゃねえか。」
テテッテテテッテテテッテテ
「君の腕が悪いからだよ。まぁ、たけのこ里でも食べて落ち着きな。」
「あー、そんなアメリカ人好みの下衆た食べ物なんざいらんわ。」
「漫画から、台詞持ってくるのはどうかと思うなあ。いい年して。あ、そこにはっぱあるのに。」
「アイテムなんて俺には必要ねえんだよ、とっはっ。」
「おー、やるねえ。」
「で、一号生がピリピリしてるって具体的にどうなってるんだよ。」
「んー、3号生狩りって言って、あ、そのままいくと危ない。」
「マ、ジ、か、よ、あぶねー!流石俺だね。」
「3号生を適当にやってるみたいだね。」
「どこまで狩られてるんだよ。」
「まだ3号生になったばかりの新米さ。」
「ふーん、まぁ、やっぱそうだよな。ってうおい!」
テテッテテテッテテテッテテ
「あー、やっぱりそこで死ぬと思ったんだよねー。きのこの山なんか食べてるからだよ。」
「たけのこ食ってるよりは全然マシなはずだけどな。」
「言い訳は見苦しいねえ。ま、1号生の話なんだけど。まだLv0のヤツらしかやられてないとはいえ、彼らに勢いがあるのは確かでね。なんでそんな簡単なとこで死ぬの。」
テテッテテテッテテテッテテ
「油断した。クソが。で、あれか、生意気な1号生たちを軽く揉んでやれって上の連中がいってんのか?」
「や、そうじゃないよ。軽く揉んでやるからお前らも手伝えって話さ。」
テテッテテテッテテテッテテ
「また死んでるし。」
「や、そんなことはどうでもいい。上の連中も出るってマジでそう言ってたのか?」
「あぁ、ホントだよ。やらないならそれやってもいいかな。」
「それは、ダメだ。」
「ケチ。」
「どこまで、上の連中が来るんだよ。」
「Lv30。」
「レジェンド級どころか元老院級じゃねえか!なんでそんなヤツらが出てくるんだよ。」
ブチッ
「コントローラー持ったまま立ち上がるから画面消えちゃったじゃん。」
「あ…。セーブは…あー消えてるわー。」
「頑張ってたのにね。」
「なー。」
「まぁ、そういうわけだから。君の今回のハルマゲドンには参加してもらうよ。」
「あーい。わかったよー。」

Lv=留年した回数


『私の役目』


「おねーちゃーん! また載ってるよー!」
2つ下の妹の沙苗が持っているスポーツ新聞の一面には、お手柄女子高生。銀行強盗を撃退!! という見出しが

躍っている。
もちろん私がこの間銀行強盗を捕まえたときのものだ。
某大型掲示板ではJ18-29(重川18日ぶり29回目)というスレまで立っているらしい。

「あれだけ止めたのにねー」
「だ、だから謝ったでしょ」
沙也加はあれ以来ずっとこの調子で私に素気無い態度をとってくる。
まあ、銀行にどうしても行きたいといった理由が武道場の備品の修理代を下ろしたかったからだったのはちょっと

悪かったかなと思う。
「ちょっと友達と電話してくるねー」
明るい声で沙苗は自分の部屋へと向かった。

静かになると少し気分が重くなる。
「私だって巻き込まれたいわけじゃないんだから……」
そういって私はため息をつく。
ただでさえ高校生でありながら指導する立場になることにプレッシャーを感じているのだけれど、一時期はさらに

、あまりに事件に巻き込まれるからとマッチポンプではないかという噂まで立った。
疑われた後、監視もされている中でも何回と巻き込まれたため、さすがにすぐたち消えになったのだけど、今度は

同情の視線も痛い。
それに捕まえているとはいえ被害にあっている人がいるのも事実だ。それが自分のせいではないかと考えるとあま

りいい気分はしない。

「……ごめん、言い過ぎた」
「ん。……まあ、聞かずに行った私も悪いから……」
気まずい空気が漂う。それをかき消すように、沙苗が明るい声を上げながらリビングへと入って来た。
「お姉ちゃんたちー! そろそろ道場の時間だよ!!」
「あれ、ほんと。もう出ないと」
時刻は14時20分前。道場へ片道10分かかることを考えるとギリギリだ。

「師範! 今日もよろしくお願いします!」
押忍の姿勢をとりながら沙苗がいう。苦笑しながら私は答える。
「家でそれはやめなさい」
「よろしく、師範」
「あんたまでいうのー?」
沙也加の言葉に笑ってしまった。つられるように沙苗、沙也加も笑い出す。
「フフッ。じゃあ、そろそろ行きましょう」

――――
―――
――

「失礼しま――ってうわあ!」
先を歩く沙苗が道場の扉を開けると同時、突然大声を上げた。
何事かと沙也加と一緒に道場の中を見ると、いつもより20人ほど多くの人間がいた。
「あ、師範。おはようございます」
「おはよう……ってそれよりこれは?」
「いやーほら、師範が強盗を捕まえた記事が載ったじゃないですか。それの影響で」
「あー……」
門下生が増えること自体は歓迎したいのだけれど、さすがに数が多い。
元々道場はあまり大きくないので、これだけの人数を抱えきれるだろうかと頭をかかえる。

「いいじゃない。みんな入れちゃって」
「沙也加……。いやでもこの人数は」
「みんなお姉ちゃんに憧れてきたんだよ」
「……!」
言われて新しく来た人たちの顔をじっと見る。みんな真剣に私のことを見つめている。
記事を見て感動しました。俺も師範みたいに強くなれますか。ああいう技を使えるようになりますか。そんな声が

聞こえる。

「そうね、うん。私に憧れてきたんだもんね」
他人の視線なんて関係なかった。私の周りで事件が起きたのならそれはいいことだ。誰かが傷つく前に私が捕まえ

ればいいのだから。
私が本当にやるべきことは、ただ一つ。弱者のための拳。それを教えることだけだ。

「じゃあみんな、入門を認めるわ。最初のメニューは――」