『先に駆けること──────sideA』
「やらせねぇ…………ぞ」
地面に倒れ伏した仲間を背に、道之せんとうは両手を広げて上級生に立ち塞がった。
既に勝敗は決している。皆、激闘の末に力を使い果たし、戦える者はもう居ない。
道之自身でさえ同じだった。それでもふらふらと立ち上がった。
体力など、一欠片も残っていない。精神力など、一滴も残っていない。それでも何故
立ち上がれるのか。自分にさえ分からなかった。精一杯の虚勢を張る。
「へっ…………なんだか知らねぇが、立っちまうんだよ……」
その答えは、意外なところから現れる。すなわち、彼ら1年生の敵…………3年生。
「…………それが、希望崎学園魂だ」
「希望崎学園…………魂……?」
厳かで、しかし力強い言葉が轟く。
「ただ今をもって我ら古参、新参1年生の入学を正式に認める!!」
「…………押忍、ごっつぁんです、先輩」
一瞬呆けたような表情を浮かべたが、やがて不敵な笑みに顔を歪ませ…………。
立ったまま、気絶した。
「フッ…………思ったより骨のある奴だ。………………さぁ、1年生ども全員、第二
保健室に運ぶぞ。”不可思議”蓮ならまだ間に合う」
「応!」
対する3年生側も無論、無事ではない。ハリセンで叩き飛ばされた者。とろっとろに
とろけたブリ大根を食わされた者。痛い目を見て病院で栄養食を食べるハメになった者。
酷い者になると、「おはよう」とよく通る声で挨拶された者までいる。被害は甚大と
言えたが、上級生の貫禄か疲労を微塵も見せずにそれぞれ負傷者を担ぎ上げ運んでゆく。
残された古参が一人、ニヤリと笑った。
「今年の新参はなかなか、活きが良い…………」
骨肉の戦いを終え、運ばれてゆく1年生を見守るその瞳は既に、後輩を見る目だった。
「江田島校長、ご報告申し上げます! 覇竜魔牙曇は3年生側の勝利で決着です!」
ドタドタ、と足音を立てて校長室に飛び込んできた一人の教師。その報告を江田島は
年代物の湯呑みに淹れた熱い茶を飲みながら聞くと、意味ありげに頷いた。
「予想通りだな…………これで漸く奴等を迎え撃てるというもの」
「奴等…………?」
事態を飲み込めない教師は首を捻る。ただ、とてつもなく嫌な予感だけはひしひしと
伝わる。
「フッフフ…………東に希望崎学園あれば、西に羅漢学園あり」
「ま、まさか…………!?」
「今年の夏は、熱くなりそうじゃわい」
校長室の窓から見上げた空には既に雲一つなく、ぎらぎらとした太陽の季節の到来を
予感させていた。
<了>
TIPS
※”不可思議”蓮…………通称”ワンダー”蓮。第二保健室の主である女医。白蓮刺繍
のチャイナドレスに白衣を羽織った抜群のプロポーションを
誇る美女。魔人能力「死亡確認!」は強力な死者蘇生術。
魔人名「一 不可思議(にのまえ・ふかしぎ)」
※羅漢学園…………………西日本に位置する、言わばもう一つの希望崎学園。
『先に駆ける者──────sideB』
「…………覇竜魔牙曇、1年生側の勝利で決着です」
一人の男の最終報告を、校舎内の一室にて聞く者たち。その数、十。何れもその容貌
は影に紛れ、杳として知れない。
「ご苦労だった、同志K」
同志Kと呼ばれる男は身分を秘して新参陣営に潜入し、その内情を探る働きをしていた。
戦いに不慣れな新参の士気をそれと無く高めたり、実戦が初めてな者へ魔人同士の戦いの
なんたるかを最低限示したりすることで彼らの信用を得、陣営の情報を微に入り細に入り
把握していた。1年生の強みも弱みも、開戦前から丸裸であったと言えよう。
そして、この部屋に集まる者たち。彼らは古参の中でも指折りの実力者であり、覇竜
魔牙曇の名目で新参の実力を測る計画を企てた希望崎学園の影の支配者──────
Government of Kibousaki──────GKと自らを呼称する者たちだった。
「さて…………では、希望崎学園の真の恐ろしさ。新参共に教えてやらねばなるまい」
重々しい言葉で、GKの領袖である男が断を下す。
「奴等はようやく登りはじめたばかりだからな。このはてしなく遠い希望崎学園坂をよ……」
「それ、打ち切りフラグですからね。我々の出番ないですよ、ボス」
「えっ」
「えっ」
「…………同志L。同志ε」
「はっ」
名を呼ばれた二人は同志Kの肩を両側からがっし、と捕まえるとそのまま何処かへ
連れ去る。誰もが恐れる朗読室送りは同志Kには効果が薄い。恐らく別の懲罰室であろう。
希望崎学園を支配するGK。その恐ろしさを新参が知るのには、今暫くの時を待つこと
になるであろう。
<了>
TIPS
※ボス…………GKの最高権力者である魔人。しかしGKはその時々で構成員の入れ替わり
があり、一定ではない。正体は不明。
※同志L…………頭文字Lの名を持つ魔人。正体は不明。
※同志ε…………頭文字εの名を持つ魔人。正体は不明。挨拶が好きという噂がある。
※同志K…………頭文字Kの名を持つ魔人。正体は不明。朗読が好きという事実がある。
無題14
諸君 私はハッピーエンドが好きだ
諸君 私はハッピーエンドが好きだ
諸君 私はハッピーエンドが大好きだ
友情が好きだ
共闘が好きだ
完勝が好きだ
仲直りが好きだ
お約束が好きだ
大団円が好きだ
無血開城が好きだ
甘い展開が好きだ
デウス・エクス・マキナが好きだ
教室で 廊下で
校庭で 屋上で
体育館で 保健室で
職員室で 秘術室で
媚術室で 死兆覚室で
この学び舎で起こりうる ありとあらゆるハッピーエンドが大好きだ
何が起こっても怯まない主人公が 必殺技と共に敵達を吹き飛ばすのが好きだ
指揮官を失った雑魚敵が 戦意喪失してちりぢりになった時など心がおどる
命を張って味方を助ける 心熱き漢が好きだ
どう考えても絶体絶命の状態で 巨大な爆弾の爆発と共に消えておきながら
なんだかんだで平然と復活したときなど胸がすくような気持ちだった
昨日の敵が今日の友となり 敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
かつて味方を苦しめた必殺技の数々が 新たな敵を 縦横無尽に蹴散らしている様など感動すら覚える
ライバルが主人公のピンチに駆けつける様などはもうたまらない
口では悪態をつきながら まるで10年来の親友のように
主人公とライバルが絶妙なコンビネーションを見せるのも最高だ
そうしたご都合展開を繰り広げ 冷静に考えて想定しうるあらゆる問題を闇に葬り去り
誰一人欠けることなく勝利の二文字を掲げて物語が決着した時など絶頂すら覚える
主人公が奈落の底に投げ出されるバッドエンドが嫌いだ
必死に守るはずだった仲間が蹂躙され 主人公が殺されるバッドエンドは とてもとても悲しいものだ
主人公に痛みを強制するトゥルーエンドが嫌いだ
何かを失い 悲しみを胸に明日へと進むトゥルーエンドは屈辱の極みだ
諸君 私はハッピーエンドを 幻想の様なハッピーエンドを望んでいる
諸君 私と共に先駆けた新参達
君達は一体 何を望んでいる?
更なるハッピーエンドを望むか?
情け容赦のない 糞の様なハッピーエンドを望むか?
ご都合主義の限りを尽くし 上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如き サッカリンの様な結末を望むか?
「ビッチ!! 触手!! 妹!!」
(´・ω・`)
……よろしい ならば応援だ
我々は満身の力をこめて今まさに書き込むボタンを押さんとする人差し指だ
だがこの蒸し暑い梅雨空の下で一ヶ月もの間 堪え続けてきた我々に ただの応援では もはや足りない!!
大応援を!! 一心不乱の大応援を!!
我らはわずかに31名 二戦制の規約に満たぬ新参にすぎない
だが諸君は 一騎当千の新強者だと私は信仰している
ならば我らは 諸君と私で総兵力2チームと1人の軍集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし 眼を開けさせ思い出させよう
連中に魁の味を思い出させてやる
連中に我々のSS朗読の音を思い出させてやる
天と地のはざまには 奴らの経験では思いもよらない事があることを思い知らせてやる
31人の魔人の応援団で
本戦終了後も戦勝SSを投稿し尽くしてやる
「最後の2チーム+1名 陣営ラジオより全新参メンバーへ」
第二次魁!!ダンゲロス応援作戦 状況を開始せよ
征くぞ 諸君
「新参陣営から見たBチーム各ターンの見せ場SS」
【濡れ場濡れ場の第1ターン】
―――――先に動いたのは新参陣営だった。
戦闘に自信のある新参魔人達が開幕直後から敵陣を目指し一直線に駆けだしたのだ。
ある者は自分が目立つ為にある者はまだ見ぬ敵の能力を記録するためにある者は自分の拳を示すために、それぞれが確固たる意志をもって歩を進めた。
そんなメンツの中でもひときわ強い覚悟を秘めて単身敵陣に向かう男がいた。
そう、その男こそ最強の一般人こと緑風佐座(みどりかぜ さざ)であった。
緑風の覚悟とは、すなわち自らの死に対する覚悟だ。
開戦前に行われたシミュレートの中で、緑風が単身突撃しなければ新参陣営に勝ち筋のないことが判明していた。
しかし単身突撃した際の彼の生存率はせいぜい1割程度であり、緑風の用法をめぐって作戦立案時の陣営内は荒れに荒れていた。
「…私だって『死ね』って言ってるんじゃないのよ? ただアンタが行かなきゃ勝てないってんなら…その…仕方ないっていうか…」
「『死ね』はやめましょうよ!!! 緑風さんが死んじゃったらすごく悲しいですよ!!? きっとみんなすごく後悔しちゃいますよ!!?」
「必要犠牲ならば止むを得ずだな。無論僕も陣営の為に死ぬ覚悟を有している。」
「私は戦略とか戦術とか難しいことはわかんないけど、佐座君には死んで欲しくないかなぁ…」
そんな終わりの無い舌戦を纏め上げたのは、他ならぬ緑風だった。
彼は自身の隠された能力である「認識を周りに強制する能力」を使い、作戦会議をしていた魔人達に「緑風はきっと死なない。緑風ならきっとなんとかしてくれる。」という希望的認識を植え付けたのである。
緑風はよく戦術を理解しており、自分の立ち位置の重要性を知っていたのだ。
故に自らが犠牲となる最善手を能力によって選びとり、これにより緑風特攻案は誰にも止められることなく当日決行されるに至ったのである。
なお、この緑風の決断の背景には彼が元から持っていた「ヒーロー願望」とでも呼ぶべき理念の影響も少なからずあったことを付け加えておく。
以上のような思惑の元、新参陣営は開幕と同時に攻めをかけたわけだが、この直後に「確固たる意志」も「死に対する覚悟」も邪悪なる古参陣営の前では何の意味も無かったと思い知らされることとなるのである。
―――――その陰惨な返し手は新参陣営内の事前シミュレートで予想済みのものであったが、予想するのと実際に体験するのは別物であり、新参達が直に体験したそれは想像を遥かに凌駕した邪悪なものであった。
返し手の核を担った古参魔人は「身操屋(みくりや)」の異名を持つ操身術士の一族、御厨一族の女性「
御厨括琉(みくりや・くくる)」と月の力で精神力の低い対象を即死させる「
月宮クズレ」両名であった。
特筆すべきは御厨の能力の凄惨さであろう。
彼女の能力「弄ばれた者の末路」は相手を操り奇行を行わせ、相手を社会的に殺す(=精神ダメージを与える)というものだ。
操身術士として決して能力の高くない彼女が他人を操れる数秒間を最大限に活かそうと工夫した結果生まれた能力がこれである。
しかし衆目に晒されている状況下では恐ろしいこの能力だが「人払いが行われているダンゲロス本戦中においては効力が薄れるのでは?」と新参魔人達は楽観視していた。
そしてその楽観視が見事に仇となったのである。
結果から言えば彼女の所持していた奇行アイディアメモの底は新参が考えていたよりずっとずっと深く、衆目がなくとも見事に血気盛んな新参アタッカー4名の精神を根こそぎ削ってのけたのである。
「確固たる意志」も「悲痛な覚悟」も彼女の手のひらの上で弄ばれて投げ捨てられた。
埴井葦菜は操られている数秒の間に自慰行為をさせられ、それを手下である無数のアシナガ蜂達に目撃された。
忠誠度の高い蜂達ははじめ葦菜のことを気遣い葦菜の痴態を見なかったことにして、黙していたのだがその不自然さを誰ならぬ葦菜が感じ取り、きつく詰問したのである。
数秒間意識が飛んだ後、何故か自分に余所余所しい態度をとるようになった手下達に対して不信感を抱いた葦菜を誰が責められよう。
「アンタ達、一体どういうつもりなの!? 私に隠し事なんて許されると思ってるの!?」
「「………」」
「…そう、何があったか教える気はないってわけね。 …わかったわ、上等じゃない!
不忠な手下なんていらないわ!
アンタ達なんて大っきらい!!」
「「……あの…とても言い辛いんですが…」」
「な、何よ。 今さら謝ったって遅いんだからね…?」
「「……『ひゃーん ひゃーん』…です。」」
「ひゃーん?」
こうして蜂達から事実を聞きだした葦菜の精神はゼロになった。
行方橋ダビデは自らの残像とホモセックスをさせられた。
彼に意識が戻ったとき、残像の質量を持ったイチモツが彼の内にずっぽりと収められていたのである。
いかに同性愛者のダビデといえど自身とウリ二つな残像との性交はこれがはじめてで、動揺せざるを得なかった。
なお、普段の同性との性生活において彼が男役であったことも動揺に拍車をかけた一因である。
こうしてダビデの精神はゼロになった。
夢追中は愛用のペンを遥か遠方に投げさせられ、トレードマークのスパッツを下着もろとも細切れにさせられた。
御厨は「愛用のペンを紛失したことによって発生する喪失感と衣服を失くしたことによって発生する羞恥心で彼女の精神を削ろう」という意図でこの行動をさせたのだが、その狙いはイマイチであった。
御厨ひとつめの誤算は鷲の存在である。
夢追が愛用のペンを放り投げたのを見て、上空で待機していた彼女の友達である大鷲がそれを拾いに行ったのである。これによりペンの消失は防がれた。
御厨ふたつめの誤算は彼女の羞恥心に関してだ。
もちろん一端の女の子である夢迫には一端の羞恥心があるのだが、彼女にはそれを遥かに上回る「特殊能力に対する探求心」があった。
能力が解けた夢迫は一瞬のうちに自分の変化に気づき、それが能力によるものであることを理解した瞬間、はあぁぁぁぁ~~~ん!と嬌声に似た歓声を上げた。
その後、うっすらと湿り気を帯びた丸出しの下半身を隠そうともせず鷲から受け取った愛用のペンで特性のメモ帳にガリガリと何かを書き込みはじめたのである。
「はぁ…はぁ…
これが御厨先輩の能力『弄ばれた者の末路』
すごい…すごすぎます…
想像してたよりもずっとずっと立派な射程と精度です
何の前兆もなく気付いたら意識がトんでました…
はぁ…はぁ……
……もっと……! 古参のみなさん…聞こえていますか…?
もっとです!! もっと…もっと…もっと私にぃぃぃぃ!!!
特殊能力ぶっかけてぇーーーーーーーっ!!!」
こうして御厨の意図とは別に夢迫の精神はゼロになった。
そして緑風は―――――
意識を取り戻した彼は右手の親指の痛みと口の中に広がるほのかな鉄の味を感じた。
冷静な彼は今置かれている状況をすぐさま把握した。
自分が御厨の能力によって操作されたこと、そしてそれによってどうやら親指を少し噛み千切ってしまったということを。
そして彼は安堵した。
「事前に予想していた通り、御厨先輩の能力は衆目がなければ役に立つ代物ではなかったんだ。僕の精神を削る有効な奇行を思いつかず苦し紛れに指の先を噛みちぎったに違いない。どうせ噛みちぎるなら舌を切った方が強いだろうに先輩はマヌケだな」などと楽観的な考察をしたのだ。
だが楽観的とは言ったが、実際問題この時点で彼の精神は健全そのものであり、それ故に接近してきた古参魔人・月宮を鋭敏に感知することもできた。
事前のシミュレートではここで精神の枯れた緑風が月宮に討たれる算段だったのだが、今の精神状態の彼が月宮の精神攻撃にかかるはずもない。
緑風は自身の生存と陣営の優勢を確信し心の内でガッツポーズをした。
が、接近と同時に月宮が放った一言により事態は一変する。
「何そのTシャツ、ウケるwww」
一般人を装うために彼は普段から「一般人」と大きくプリントされた白地のお手製Tシャツを愛用していた。
「一般人」Tシャツは一般人を装うことを何よりも大切にする彼の性質を具現化したような代物だ。
ダンゲロス本戦当日の今日においてもその習慣に漏れはなく、…いや、むしろいつもより気合を入れておろしたての「一般人」Tシャツを着て陣営に参じた緑風であった。
その信念の象徴とも言えるTシャツをバカにされて緑風はムッとして言い返した。
「『一般人』Tシャツはカッコいいです。
むしろ先輩の格好の方が失笑ものですよ?」
「『一般人』Tシャツぅ?w 『魔人』Tシャツの間違いじゃないの?ww」
何を…と、自分のTシャツに視線を落とした緑風はこの時になってようやく気付いたのである。
自らのTシャツに刻まれた「一般人」の「一般」に血で派手なバッテンが描かれ、その横にやはり血で「魔」と大きく書かれていることに。
緑風にとってこれは耐えがたい羞辱であった。
例えるなら忍者に「忍者」と大きく金の刺繍を施した紫地のTシャツを着せるようなものである。
いや、コナン君に「僕は工藤進一です」と刺繍したTシャツを着せるという例えの方がこの時の緑風の心情に近いかもしれない。
兎にも角にも、これをもって緑風の精神はゼロになったのである。
「いやっ! これはちがくて! 俺マジ一般人だし!」
緑風のクールな仮面は既に剥がれおちており、動揺が見てとれた。
そんな隙だらけな彼を熟練の使い手である月宮が見逃すはずもなく、
「ファンタズムーン・ディバイン・キャッチ!」
というどこかで聞いたような必殺技名と共に緑風は即死したのであった。
■
緑風の死亡により新参陣営の連携に乱れが生じた。
それは緑風の能力により押しつけていた認識が消えたことに起因する
「なぜ誰も緑風の特攻を止めなかったのか?」
後悔と悲しみが新参陣営を襲う。
特に御厨の能力をまともに受けた上で緑風が死ぬところを目撃してしまった行方橋・埴井の両名は発狂寸前の精神状態に陥ってしまった。
→緑風を失った新参陣営に勝機はあるのか!?
次回! ドラゴンダビデな第2ターン!
【ドラゴンダビデな第2ターン】
開戦から約1時間後、沈黙を守っていた新参陣営の阿野次(あのじ)のもじがついに動いた。
「♪一つ積んでは君のため~ HA! 」
能力によりのもじの歌がダンゲロスに参加しているすべての古参魔人の耳元で響き渡る。
聞き慣れた者にとっては戦意を鼓舞する軍歌のように聞こえるこの歌だが、聞きなれない者にとっては単なる騒音に過ぎない。
これにより古参陣営の精神力とSAN値はガリガリと音を立てて削られていった。
■
のもじの歌を反撃ののろしに攻勢にでる新参陣営。
ダンゲロス伝統のB廊下とD廊下の攻防がついに始まった。
D廊下を挟んで睨み合うは新参陣営の二枚盾がひとり「鉄壁絶壁幽霊少女(フラットロンリーガール)・梨咲(ありのみざき)みれん」と古参陣営の変態九大天王がひとり「私の彼は子宮住まい(ボーイミーツガール)・名戯(なざれ)まりあ」である。
D廊下は両陣営共に手薄な配備で、みれんとまりあ(&こう)による一騎打ちの様相を呈していた。
梨咲「ふぇーん、設定が高次元過ぎて怖いよー!! お願いだからこっちこないでー!!」
まりあ「こう君こう君! な、なんかあっちに幽霊さんがいるんだけど!?」
こう『うお…まじじゃん、こえーな』
…訂正、お互いがお互いの存在に怖気づいて震えていた。
結局
名戯まりあがB廊下の攻防に備え引くこととなり、ここでの戦闘は行われなかった。
■
一方互いの主力が集結したB廊下周辺には一触即発の雰囲気が流れていた。
古参陣営は先ほどまでD廊下を守護していたまりあが最前線で睨みを利かせ、その横には開幕直後に緑風を葬った精神即死魔人の月宮が控えている。
さらにまりあのすぐ後ろには凶悪な攻撃性能を持った魔人たちが控えている陣形だ。
対する新参陣営も埴井や夢迫といった攻撃的能力者が控えているものの御厨による精神的ダメージが響いておりまともに殴り合うには分の悪い状況だった。
さらには能力休みになっている月宮が再び動き出すのも時間の問題で、それも旗色の悪くしている原因のひとつであった。
そんな押され気味の新参陣営の中で1番深刻なダメージを負いながらも自らの意思で最前線から動こうとしない男がいた。
それこそ新参陣営攻め手の要、行方橋ダビデであった。
ダビデの能力は質量をもった残像を生み出す能力である。
この残像はダビデ本人に準ずる攻撃力と耐久力を有し、手数を増やす能力として新参陣営内で重宝されていた。
そのダビデが今、鬼気迫る形相で残像と共にB廊下に陣取り古参の進軍を牽制している。
ダビデの負った傷は生易しいものではない。
残像を生み出すだけでもかなりの体力と精神力を要するというのに、そのあとに古参魔人・御厨の能力によって心身ともにボロボロにされ、泣き面に蜂とばかりに親友・緑風の死に様まで見てしまった。
本人は
「うおおおおお!!! こんなことで残像を消してたまるかァーーー!!」
と気力を振り絞って能力を維持しているが、傍でその様子を見ている新参魔人達の中には彼の見舞われた数々の不幸に同情の念から涙を浮かべているものさえいる。
十年ほど前にトランプが体に刺さり集中力が切れたために能力を維持できなくなった分身能力者がいたが、彼を比較対象として挙げるなら何故ダビデが能力を維持できているのか不思議なくらいなのだ。
そんなダビデの後ろで彼を見ていた新参陣営リーダーの
稲荷山 和理(いなりやま にぎり)は後にこう語る。
「あの時のダビデ君の様子は今でも鮮明に覚えています。
…ダビデ君、緑風君と仲が良かったんですよ…。
雰囲気が似てたし、たぶんお互いどこか惹かれるところがあったんじゃないですかね。
そんな緑風君が死んじゃって、とても悲しかったんでしょう…。
あんな風に声を荒げて必死になっているダビデ君を見たのはあれが最初で最後でした…。
あの時のダビデ君からは頼もしさよりも怖さを感じてしまいましたね…。
手負いの虎というか…こう…逆鱗に触れられた龍のような荒々しさがありました。」
→「ドラゴン」という不吉な属性を得て生き残れるのか行方橋ダビデ!
次回! 死なせません!!私が死んでも守ります!!な第3ターン!
【死なせません!!私が死んでも守ります!!な第3ターン】
行方橋ダビデの消耗は誰の目にも明らかだった。
B廊下に陣取ってから早一時間、目前に控える古参主力・名戯まりあと月宮クズレのプレッシャーを一身に受け続けているのだから無理もない。
ただ、彼が一瞬でもその場を離れれば瞬く間に敵がなだれ込んで来ることは想像に難くなく、安易に「引け」と言える状況ではなかった。
そうしたつばぜり合いのような緊張状態が長い時間続いていたのだが、ついに契機が訪れる。
今まで頑なに沈黙を守ってきた古参陣営リーダー・アキカンが能力を発動したのである。
アキカンの能力の禍々しさはその場にいた全ての新参魔人が知っていた。
味方の古参魔人を媒介として発現するアキカンの呪いは逆らう者全てに凄惨な死を与える。
この能力が発動された時、新参陣営には逃げる以外に有効な選択肢が無いのだ。
「おい、さがれ馬鹿 病院で栄養食を食べる事になる」
業を煮やした新参陣営の一人がダビデに撤退を促すが、ダビデは一切反応せずに残像の維持に集中を傾けている。
そんなダビデの努力をあざ笑うかのようにアキカンの能力を受けた古参魔人・重川がB廊下に飛び込み、ダビデの残像を拳で殴りつけた。
パンッと小気味のいい音を立ててはじけ飛ぶ残像。
残像の維持以外何も考えないことで発狂しそうな精神状態を抑え込んでいたダビデはこれにより心身虚脱に陥ってしまった
分身も消え、心身共に消耗しきり、もはや彼を守るものは何も無くなった。
「これが最前線に立つ者の定め」とばかりに間もなく訪れるであろう死を受け入れた様子でダビデは力なく座り込んでいる。
目前には分身を殴り消した古参魔人の重川、後詰めには名戯まりあや月宮クズレをはじめとする古参陣営の手練れが5名も控えている。
これをどうこうするのは例え万全な状態なダビデをもってしても不可能で、ましてや消耗しきった彼ではなおさらである。
「(最早ここまで…佐座(さざ)…速右(しゆう)…死ぬ前にもう一度…)」
「『死ぬ』はやめようよ!!!」
死を覚悟したダビデと重川の間に割って入るように一人の半透明な少女が現れた。
古参陣営の方を向き華奢な手足を目いっぱい広げて仁王立ちの構えでキッと重川を睨みつけている少女の名は梨咲(ありのみざき)みれん、新参陣営の二枚盾を冠する防御能力者である。
遠い昔に自殺した少女の幽霊である彼女は自殺後になって自らの愚かな行為を悔い、同じ過ちを犯そうとしている人間を見つけるとついつい諭したくなってしまうのだ。
また彼女は幽霊特有のスキルをいくつか習得しておりダビデの心を読んだのもそのスキルの一つである。
「私が来たからもう大丈夫だよ!! ちょっと下がって見ててね!!」
そう言ったみれんに対して「余計なことを」とダビデは心中で毒づいた。
精神が枯れ切っているダビデはもはや生に対する意欲が薄く、むしろ死にたいとすら思っていたのだ。
自身の自身たる証である能力に犯され、親友を目の前で殺され、最後の精神的支えであった発動中の能力が消えた今、彼を支えるものは何も無かった。
元々陣営に対する忠義心は薄く、新参陣営の中で行われていた友情ごっこも弱り切った彼の生きる動機となるには足りなかった。
もうどうでもいいんだ、もう―――――
彼がその次の言葉を連想した瞬間、みれんは大声を張り上げた。
「『死ぬ』はっ!! 『死ぬ』はやめようよっ!!!」
それは何の代わり映えもしないいつも通りの台詞だったが、彼女の声は震えていた。
「私がファッション自殺しちゃったのは知ってます…よね…?
私は本当に下らない理由で死んじゃったんです。
はじめて好きになった男の子に勇気を出して告白したら手酷い振られ方をしちゃって…。
そのショックで…つい…。
…そんなのってありきたりで馬鹿馬鹿しいって思いますよね?
私もそう思います。
でも今の私はそう思えても当時の私はそうは思えなかったんです。
その時の私の頭の中はその男の子のことしかなくて、それがダメになったら全部がダメになったような気がしたんです…
だから今がダメだと思っても実は全然ダメじゃないっていうか…その…
うまく言えないんですけどとにかく『死ぬ』はダメなんですっ!」
みれんは拙い言葉を一生懸命紡ぎだし、ダビデを何とか説得しようと試みた。
しかし彼女の必死の説得が彼の心を打つことはなく、むしろ薄っぺらな内容の説得は彼の心をより一層冷やしてしまったのだ。
だが一周回ってそれは吉とでた。
死にたい死にたいと思っていたダビデの心はもう思考することすら面倒だという領域に突入したのだ。
その結果ダビデは煩い音から遠ざかりたいという原始的な欲求に素直に従うようになり、大声を放つみれんを嫌いズルズルと自陣営の奥へと下がっていったのである。
ダビデの心を読んでいたみれんは彼の精神が今なお世紀末な状態にあることを知っていた。
しかしそれでも、先程まで目にいっぱいの涙を貯めていた彼女の顔には安らかな笑みが浮かんでいる。
自分の想いが全く伝わっていなくても、たとえそれが一時しのぎの生だとしても、とにかく死なせなければ先に繋がることを彼女は知っていたのだ。
自分で捨てたもう無い先に未練を抱く、そんな辛いのは私だけで十分です。
ダビデはいずれ元気になって戻ってくる。
その未来に繋ぐため、まずは今この場を死守しなければいけない。
覚悟を決めたみれんは改めて重川と視線を合わせる。
みれんがダビデを説得している間、重川とて遊んでいたわけではない。
重川は精神を集中した状態で重川流格闘法の構えをとって幽霊の様子を静観していたのだ。
それは幽霊独特のただならぬ気配に押し込められたというわけではない。
彼女は長い戦闘経験から自分の会心の一撃を3発~4発打ちこまなければ目の前の敵が沈まないであろうことを察知したのだ。
複数回拳を打ちこもうとすれば必然的に隙が発生する。
そして隙ができれば幽霊の後ろに控えている魔人に仕留められてしまう。
故に殴らず静観は武道家である重川らしい合理的な判断だったと言えよう。
そんな重川の様子を見てすぅっと深く息を吸ってから、みれんはありったけの大声を張りあげた。
「私がここにいる限りこれより先は無いと思って下さい!!!
誰ひとり通しません!! 誰ひとり死なせません!! 私が死んでも守ります!!」
こうして幽霊と古参主力達によるB廊下防衛戦がはじまったのである。
なお、この声を聞いた新参陣営ベンチから「ジブンもう死んどるんとちゃうんかーい!!」という関西弁がやまびこのように響いてきたことを追記しておく。
新参陣営と古参陣営がB廊下を巡って火花散る攻防を繰り広げているそのさなか、「奴」は古参陣営の奥深くに現れた。
「奴」は所謂
転校生と呼ばれる存在だった。
経験豊富なダンゲロスプレイヤーにとっては周知の事実だが、転校生というのはインベーダーゲームでいうところのボーナスUFOのような存在であり、出現と同時に各陣営にポイント目当てに命を狙われてしまう大変不憫な役割なのだ。
過去のある転校生は登場直後に瀕死にされた上に童貞を奪われ放置された。
またある転校生は焼きそばパンを食べさせられて瀕死になった上に隅っこで戦いが終わるまで放置された。
この瀕死からの放置プレイはダンゲロスの歴史を重ねるにつれ伝統芸能のように確立されていき、それに比例して当初「異界から召喚されし、圧倒的な戦闘力を持つ魔人」という触れ込みで一般魔人を震え上がらせていた転校生の威厳は地に落ちていったのである。
故に今日の新参対古参の戦いにおいても、両陣営共に転校生に対してそこまでの警戒心を抱いておらず、「まぁでてきたら殺してやろう」程度の認識しかなかった。
だが「奴」はその認識を真っ向から裏切り、両陣営に衝撃を与えたのだ。
「奴」の名は「HET壮九郎」といった。
HETとはハイパーエリート転校生の略である。
HET壮九郎は自身のようなハイパーエリート以外の者に生きる価値は無いという考えの元、視界内に入ったHHE(非ハイパーエリート)を片っ端から灼き尽くす特性を持った転校生であった。
なお、HET壮九郎の定める基準を満たすHEは希望崎学園内に存在していないため、つまるところ現在古参対新参に参加している全ての魔人が彼の抹殺対象となるのだ。
そのHETは実にHE然とした優雅な振る舞いで登場し、手始めにたまたま視界に入ったHHE魔人を殴り殺した。
この仕事の早さこそHETがHETたる所以である。
そしてその殴り殺されたHHE魔人というのが誰ならぬ古参陣営リーダー・アキカンであったことにより戦況は一変する。
阿野次のもじの歌によってただでさえ精神を削られていた古参魔人達は、突然のリーダーの死に直面して半狂乱状態に陥った。
さらに古参陣営にとって都合の悪い事にはアキカンが死んだことにより、アキカンが重川と
六埜九兵衛(ろくのきゅうべえ)にかけていた能力が解除されたのだ。
一方、新参陣営も前線に出ていた重川の不気味な付与が霧散したことからアキカンの死を察して、今が好機と総攻撃をかけることを決意する。
→熱を帯びるB廊下の攻防! 戦いはいよいよ佳境へ!
次回! 激動波乱な第4ターン!
【激動波乱な第4ターン】
一人孤独にB廊下防衛に勤しんだ幽霊少女は当初の宣言通り誰も通すことなく、約30分もの長い間この場所を守り通した。
その彼女の眼前には息遣いこそ荒くなったものの未だ凛とした構えを解かずにいる重川がいた。
重川はみれんと対峙して構えた瞬間から今まで、構えを崩さず睨み合いを続けていたのである。
しかしそこは人間と幽霊、多少の不意打ちを貰っても死にはしない幽霊に対して不意打ち一発で死んでしまう人間の方が危機感を持って対峙しなければならない。
後の後であろうと、とれさえすれば及第点が貰える幽霊と最低でも後の先をとらなくては落第の人間とでは比べるまでもなく後者の方が不利なのである。
そして如何に師範クラスの使い手といえど、気を充実させたまま構え続けるには大変な気力と体力を要するのだ。
それらの差が現在までに蓄積された疲労の差として如実に表れてきている。
あまり疲労の色が見えないみれんに対しずっと気を張り詰めてきた重川の全身からはおびただしい量の汗が噴き出ていた。
その汗ははじめうっすらと浮かんでいた程度だったのだが、10分、20分と経つにつれ徐々に粒状なり、やがて統合され流れへと収束していった。
そうして今、収束した一筋の汗が彼女の額から瞳に向かい流れだした。
これを拭うためやむなく重川は一足一拳の間合いから飛び退く。
離れて額を拭う重川を見て一瞬だけみれんは気を緩めた。
そして、これが勝負の分かれ目となったのである。
梨咲みれんの胸から下が爆ぜた。
―――――増援として呼び出された古参魔人・
錫原 呂々郎(すずはら ろろろ)は自らの不幸と、不幸ばかりを与えてくるどうしようもない世界を呪った。
はじめに、増援として呼び出された位置からして致命的に不幸だった。
よりにもよって新参陣営のど真ん中、しかも新参のリーダーである稲荷山和理の目の前に召喚されてしまったのだ。
新参の魔人達に囲まれ、魂を握る即死寿司職人・稲荷山を前にして、これはたまったものではないと自陣営を目指して遁走を計った呂々郎であったが、当然のように稲荷山が後を追いかけてきた。
それでも「きっと手薄なD廊下からなら自陣営に脱出できるはず」という希望にすがって呂々郎は逃走を続けていたのだが、その希望は儚く打ち砕かれることとなったのだ。
「またこんな役か…」
呂々郎唯一の脱出経路上には新参陣営の刺客が立ちふさがっていたのである。
「あなたにぴいぃぃぃぃ~~~ったりな特殊能力!
見せてちょおおだあああぁあああああいいい!!!!」
まるでそれはお伽噺に出てくる怪物のような魔人だった。
魂を喰らう鬼、人を喰らう山姥、そんな怪物達が呂々郎の脳裏をよぎった。
生殖器や性本能を持ち合わせていない呂々郎の関心は向かなかったが、内腿にぬらぬらと輝いている淫蜜がその魔人の危険さを際立たせていた。
前門の痴女後門の寿司職人。
将棋やチェスでいうところのチェックメイトに嵌った呂々郎は、こうして世界を呪ったのであった。
―――――重川が事態を理解した頃には、全てが終わっていた。
『私が飛び退いて汗を拭った瞬間、目の前の幽霊が爆ぜた。
そしてその爆発と同時に床スレスレの軌道を描きながら銀の閃光がこちらに向かって来て、
私が迎撃に繰り出した下段突きをかわしたその閃光は、
カウンター気味に私の水月に手刀を深々と差し込んだ、…か。
低い姿勢での高速移動技術とそれを支える強靭な足腰。
私の下段突きをものともしない良い目と勝負度胸。
この肉体を貫くほどに鍛えられた鋭利な手刀。
なるほどどうして―――――』
「―――――御美事(おみごと)!」
この一瞬の攻防を重川は回想し、そう一言だけ言い残して崩れ落ちた。
重川紗鳥、即死。
重川を刺した銀髪の少年は重川の中から血まみれの右手を引き抜く。
そして彼は死体となった重川を優しく寝かせると古参陣営の方に向かい肘から先をゆるやかに回し、半身の戦闘姿勢を取った。
彼は強者ぞろいの希望崎学園一号生の中でも屈指の拳法の実力を持つ痩身銀髪の美少年
「行方橋くん!!」
ようやく彼の正体に気付いたみれんが歓声を上げる。
そう、銀髪の少年の正体は数十分前にリタイアしたかと思われた行方橋ダビデだったのだ。
相変わらず精神的にも肉体的にもボロボロで言葉を発する余力は無いようだが、その眼には消えていた闘志が再び戻っていた。
(この脅威の復活劇の裏には彼の恋人である
左高 速右(さたかしゆう)の活躍があったのだが、ここでは割愛する。)
「…って!!いくら私が幽霊だからってこんな乱暴なことしちゃだめですよ!!
私が死んじゃったらどうするんですか!? すごくびっくりして心臓止まるかと思いましたよ!!!」
と、自分が目暗ましとして使われたことに対してプンプンと腹を立てているみれんをダビデは片手で制した。
目前に、あの緑風を葬った精神即死魔人・月宮が迫ってきていたのだ。
多少回復したとはいえ未だダビデの精神はゼロであり、対する月宮は能力休みも解け万全の状態。
まともにぶつかったとき、どちらに軍配が上がるかは明らかだった。
しかしダビデは一歩も引こうとしない。
親友・緑風を殺した魔人に、刺し違えてでも一発ブチ込んでやりたいという想いが彼に引くという選択肢を与えなかったのだ。
それを知ってか知らずか月宮はニッコリ笑うと月の力を秘めた即死ステッキを構え、一騎打ちを誘った。
むろんそれは遠間からの誘いであり、いかに拳法の達人といえども一瞬のうちに詰めることのできない距離がダビデと月宮の間に存在していた。
それでも不利を承知でダビデは駆けた。
対重川戦で見せたのと同じ閃光を思わせるほどの疾走ではあったが、ステッキを振りおろしきるまでにかかる時間はあまりに短く、行方橋ダビデぼ即死は避けられないかと思われた。
しかし、
「あまり調子に乗ってると裏 世 界 で ひ っ そ り 幕 を 閉 じ る」
月宮がステッキを振り終わるより早く、ある新参魔人の能力により月宮はいくえ不明になったのである。
月宮クズレ、永続戦線離脱。
「し、師匠!!!」
予想外の助太刀の主を視界に捉えたみれんがまたしても歓声を上げた。
彼女が師匠と呼び敬愛するその魔人は新参陣営の二枚盾が一人、名を「
武論斗さん」と言った。
彼の能力はビビりが鬼なった貧弱一般人を全身からかもし出すプレシャーでズタズタにして、 病院送りにして栄養食を食べさせるという論理能力である。
「師匠が来てくれて心強いです!!」
「シレンは見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」
お互いがお互いを認めあっている二枚盾の二人は、戦場での再会を心から喜んだ。
そしてついに並び揃った二枚盾の壮観さにあてられた新参魔人達は「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」と口々に持て囃し、大歓迎状態だった。
しかし、わいやわいやと浮足立った新参陣営を想像を絶する悲しみが襲った。
最初にそれに気付いたのは遅れて来たメイン盾だった。
「…この怒りはしばらくおさまる事を知らない」
彼が憤怒の炎を燃やす理由は視線の先にあった。
そこには先程まで獅子奮迅の働きを見せていた行方橋ダビデの死体があったのだ。
→さらばダビデ!マスター・チャイナ暁に死す!
次回! 大団円な第5ターン!
最終更新:2011年07月01日 02:26