真・女神転生デビルサマナー プレイバック(2005年)

 今を去ること4年前、デビルサマナーがPSPに移植されたとき、『メガテンポータル(現在は閉鎖)』ではデビルサマナーを開発者が振り返るというコーナーが設けられていた。それが「真・女神転生デビルサマナー プレイバック」である。しかしメガテンポータル閉鎖と共に(?)現在ではこのページは削除されている。貴重な話も読むことができ、デビルサマナーの資料として価値があると思われるので、ここに掲載することにした。

注)文章中の「宇田」とは、元アトラス広報の宇田洋輔氏のことです。


なぜに今、デビルサマナー?

宇田:まず、自己紹介を。

橋野桂(以下:橋野):今回の「デビルサマナー」移植版の監修をさせてもらっています、橋野です。

礒貝正吾(以下:礒貝):同じく、礒貝です。今回は、ディレクターとして細かいところまで口出させてもらっています。

宇田:まず、月並みな質問なのですが、移植版を出すことになった経緯は?

橋野:デビルサマナーが世に出たのは、1995年の暮れでしたので、気づいてみれば10周年なんですよね。この作品の現行機への移植要望は前々から、ユーザーの皆さんより頂いていましたし、サマナーシリーズの新作もリリースされるということで、タイミング的に、喜んでもらえるかなと思いました。サターンは古いハードだし、常駐させているユーザーさんも、そんなにいないでしょうしね。それに、バトルシーンなど、ロードも遅くて、今の環境に慣れている人は、再度のプレイが実際辛いでしょうし。当時は気にならなかったですけど、描画も遅くて、カクカク見えたり。「え、こんなんだっけ!?」って(笑)。

礒貝:まぁ押入れからサターンを引っ張り出してやれないことはないんだろうけれど、以前の作品が気軽には出来なくなっている問題ってどのゲーム会社も抱えている問題だと思うんですよ。「○○コレクション」とかいって、PS2などの現行機で出てうれしいタイトルが、個人的にもありましたから。「昔のゲームを移植」に関してユーザーのニーズもあるかなぁと。実際、「サマナー」移植希望の署名活動があったりして、開発者としてはうれしい限りです。「サマナー・ラブ」に感謝ですね(笑)。

橋野:当時、20才の方は、今、30才になられているわけで、時間に対する考え方も当時とは違っていると思います。PSPなら、いつでも手軽に起動出来て、同じレベルのグラフィックを再現しながら、読み込み時間などのストレスも軽減出来るんじゃないかということで、 開発が始まりました。「デビルサマナー(以下「サマナー」と略)」は外伝とはいえ、メインシステムは「真I・真II・if…」の流れを完全に汲んでいる作品で、 近作の真IIIにも引き継がれているものです。だから、遊びやすくさえなれば、今プレイしても充分に楽しめると思います。

礒貝:リリースまでは、もう少しかかると思うので、それまで何か良さそうなゲームを見つけて待っていて欲しいと思います。…ちなみに、同じサターンで、名作と言われた「プリンセスクラウン」もリリースされます。なかなか出来がいいので、お薦めです(笑)。

サマナー的ヒーロー像

宇田:そういうのは、僕が言いますよ(笑)。確かにサターンのRPGで、名作と言ってもらえている2本ですよね。ええと、デビルサマナーの魅力って、どんなとこにあると思いますか?

橋野:舞台背景や物語、ゲームシステムなど、様々に魅力を感じてもらっていると思いますが、その中でも大きいのは、ゲームの主人公でしょうね。最近は「世の中で、思い悩みながら、世界との関わりをどうするか」といった内面の問題を中心とした主人公のゲームが多い気がするので、一本筋の通った「カッコイイ主人公」っていうゲームは、新鮮だったと思います。このような個性的なキャラクターに、プレイヤーを感情移入させる、導入部分のイベントは、なかなか見ごたえがあると思いますよ。

宇田:主人公がいきなり死にますからね、このゲーム。ありえないですよね。初めてプレイしたとき、思わず叫びましたもん。「えー!俺死んじゃうの!このゲーム大丈夫?」って(笑)。

礒貝:当時、某ゲーム雑誌のレビューに「主人公が冒頭で死ぬという…これ以上斬新な展開はない」って書かれていました(笑)。

橋野:思い切ったアイデアですよね。

宇田:乗り移っちゃうのは探偵の体ってことで、他シリーズにはない、ハードボイルドな面もありますよね?

礒貝:この主人公には確かに「哀愁」と「ハードボイルド」がありますよね。制作当時、テーマの1つでもあったんですが。まさに「男はタフでなければ生きて行けない。だが、タフなだけでは生きてる価値がない」の世界なのかと。ハードボイルドだからタフか、タフだから難易度は高めなのか?……という暗示にかかってたような気が、今振り返るとしないでもない(笑)。

サマナー作成当時の話~若かりし我ら~

宇田:「サマナー」を作っている時ってどうでした?

礒貝:とにかく当時は「ポリゴン」なんてものを知らない僕らが「初めてのポリゴン」って感じ(笑)。手探りで新しいことをしようって頑張っていた時ですね。このあたりから自分が「悪魔係」としての役割が確定してきた頃で、自分のポジションが見えてきたってところで、思い出深い作品ですね。まあ、今までアシスタント的にゲーム製作に携わっていたのがメインのメンバーとして活躍した「真のデビュー作」なのかも。

宇田:橋野さんは?

橋野:本格的にゲーム製作に関わったのが「サマナー」からだったので、すごく思い入れがあります。だから、こういう形で再び世の中にリリース出来るというのは、我々にとってもうれしいことです。当時、先にハードを調べていた先輩から、「セガサターン」は今までのハードと違ってこんなことができる、あんなことができるって聞かされていて。サターンに対するイメージは、ある意味「夢のようなマシーン」でした。「今までしてきた苦労なんてしなくてもいい。なんでもやりたいことを言ってくれれば対応出来る!」みたいな、大げさなことを言われてワクワクしていたんですが…。もちろん、最初だけでした(笑)。でも、好きなハードです。家では、今でも現役で動いてますよ(笑)。

宇田:お2人は「サマナー」では何を担当したんですか?

橋野:主に戦闘周りを担当しました。今までのメガミっていうのは「仲魔」は対等な仲間という感じでした。けど「サマナー」の悪魔は、すごく乱暴に言うと「下僕」というか(笑)。力を借りるというより「使役する」感覚ですね。このスタンスはデビルサマナーシリーズの大きな特徴でしょうね。「忠誠度」の概念はここから生まれたもので、「聞き分けのない連中を、如何にして使いこなすか」というところをシステムにするのに苦労した思い出があります。手が掛かる分、言うことを聞くようになるとかわいいわけで、戦闘中に「お前についていくよ」とか喋らせてみたりとか、アイテムに変化させたりとか、いろいろ考えましたね。

宇田:礒貝さんは?

礒貝:僕は主に合体システムですね。どの悪魔を登場させるのかとか…どういう法則にするのかとか。検索システムとか。合体周りに関してはほとんど仕様制作しました。悪魔に関しても、金子さんと相談しながらでしたが、大体の枠が見えてから結構、まかされて。ただ、僕が悪魔に関してミスをしても、誰もミスに気付けないという(笑)。

宇田:実際にミスしたんですか?

礒貝:うん……実を言うと(一同爆笑)。墓場まで持ってくつもりだったんだけど、移植という機会をもらったんで直します。とはいえ、間違えていたところはこっそりと「直しました」という告知しないで直しますので、暖かく見守ってあげてください。こっそり修正を見つけてもメガテンポータルにメールしないでください(笑)。

宇田:そんなメール、来ても困ります!

難易度、の話

宇田:「サマナー」ってすごい難易度高いですよね。

礒貝:当時は「難しいからこそゲームなんだ」みたいな雰囲気があったんだけど、自分はサマナーを作るときは「それって、どうなんだろう?」というスタンスで挑んでいました。合体の検索とか、色々な機能を入れることで難易度ダウンというか、「とっつき難さの改善」を計って、ユーザーのハードルを下げてみようというのがあったんだけど…。まあ、合体の難易度は確かに下がったんですが…他は結局、従来の路線を引き継いだので難易度は高くなりましたね。

橋野:今回の移植に際して、大きく根底から変えることは、このゲームの遊びの部分を破壊してしまいかねないのでしないつもりです。けれども、完全移植とは言っていますが、今風に味を足してマイルドにするつもりはあります。例えるのならば…有名なラーメン屋さんで「昔から味が変わらないねー」って言われるようなお店があるとして、「いやあ、ありがとうございます」なんていってる影で、実を言うと飽きられないように、長年かけて味を変えていってるから「変わらない」みたいな、そういう調整を入れたいと思っています。

宇田:確かに。自分は「サマナー」をプレイしたときは、時間が有り余っていたのでクリアできましたが、これが今だったらやらないだろうなぁと。

礒貝:最近は「ユーザーに時間を使わせている」っていう考えが常に念頭にあって。学生の頃は「時間なんて沢山あるじゃん」って思っていたんだけど。そうじゃないユーザーもいるし、「貴重な時間を僕らのゲームに使ってもらっている」って意識が強くあるんですよ。それを鑑みるに、それにちょうどいいバランスやプレイ時間ってものがあるんじゃないか、って思って。それに関しては今回はすごく気をつけて作りたいなと思っています。けど、「難易度低めに作って欲しい」って注文を言われるとちょっと反発したくなっちゃうんですよね。いい例えかわからないけど、「円周率=およそ3、でやれ」と言われる感じなんすわ。「円周率=およそ3」ってなんなんだ!「およそ」ってなんだ!みたいな(一同爆笑)。まぁ、何度も繰り返しますが、難易度を低くするのではなくて、面白い適正な難易度を提示したいって感じですよね。

橋野:全体のテイストはそのままに、遊びやすく改良していくということですね。良い意味で歯ごたえがある「ゲーム」らしい作品にしたいですね。

礒貝:RPGっぽいRPGってないもんね、最近。

一言で言うと?

宇田:さて、サマナーシリーズはやったことがないっていうユーザーの方もいると思うんで、前回、聞いたサマナーの魅力は?って質問と、若干被るんですけど、 他のシリーズと比べると、「サマナー」ってどんな作品なんでしょうか?

礒貝:真・女神転生シリーズの「世紀末サイバーパンク」ってとこにかけると、サマナーは「脱世紀末」かなあ、と思ってました。あの、「世界は破滅するのかも」という雰囲気とは別のところにあるものに。ちょうど「ノストラダムスも何か当たりそうにねぇなあ」という空気を感じていた時期で。

橋野:人間と世界の関わりにおいては、真女神I・IIと全く異なるスケールですよね。ゲームの舞台は、平崎市っていう、世界から見ればちっぽけな町で、ここで何が起きてようと、僕らには関係ないって言うことも出来る。けど、それを見てよって作品ですよね。普段は目の行かない場所、見ようとしていない場所で、がんばれってゲームかな(笑)。

探偵物語?

宇田:探偵モノで行くって言われた時どう思いました?

礒貝:正直「う~?」って思いましたよ。どうしても今までのメガミのイメージがあったんで。そんなんで行けるのか?みたいな。消化するのにはけっこう時間がかかりましたね。

橋野:僕は結構好きなジャンル。「探偵モノ」って言葉が通用するわけだから、わかりやすいですよね。そういう意味でも、メガミの中では異質な存在なんでしょうね。

今だから…言える話

宇田:メガテンポータルという「メガミの資料館」のページにふさわしく、当時のこぼれ話なんか聞かせてもらえると嬉しいですね。

橋野:確か「if…」が終わった後、時代はPSとサターンの時代になっていて。次世代機をとにかくやろうということで、準備にまだまだ掛かりそうな真IIIを構想段階へ戻して、サマナーが生まれたんでしたよね?

礒貝:そう。だからサマナーはサターンと共にあった作品といっていいと思います。それで構想8年のロングハードロードへと真IIIは突入するわけですが…。

あの時の熱気!

宇田:再度「サマナー」をプレイしてもらうユーザーに感じて欲しいことってなんですか?

橋野:当時、サマナーをプレイしてもらった人の中には、今は、ゲームをあまりしていない人もいるんでしょうね。是非、また触って頂いて、当時を懐かしみながらプレイをして欲しいですね。「こんなボスいたっけなー」とかね。その中で、当時のムードを思い出してもらえればと思います。「あの頃熱くなってゲームやったよな」みたいな。それを思い出してもらえればな、って思います。「また、面白いゲームないか探してみようかな」とか(笑)。だから、僕らはがんばって、面白いものを作っていけたらなと思っています。

宇田:では今回、初めて「サマナー」をプレイする人には?

橋野:…10年前のゲームではありますが、メガテンシリーズの根幹である、中毒性の高いシステムは全部入っています。ちょっと手にとってやってもらえれば、必ず面白いと感じてもらえるゲームだと思います。

礒貝:やっぱり、ハードボイルドですかね。ハッピーさはないんだけど、人として、そこへ進まざるをえない流れと言うか。不幸なのか幸福なのか、後悔が有るのか無いのか、という、葛藤と諦念みたいなもの。

宇田:追加シナリオはあるんですか?

橋野:完全移植を掲げていますし、大掛かりなものを用意するつもりはありませんが、何らかの、追加要素は入れたいと思います。いろいろと考えている最中なので、これぐらいしか今の段階ではお答えできません、申し訳ないです。

礒貝:そのうちに、いろいろと追加情報を出していきますので、ホームページもたまにチェックしてやってください。

宇田:最後に一言ください。

礒貝:完全移植ということはもちろん、ポータブルにマッチしたものを作っています。是非とも、プレイしてみてください。

橋野:「移植希望」のお便り、メガテンポータルへももらっていますが、過去の作品で移植して欲しい作品がありましたら、ぜひともご要望をドシドシいただければと思います。移植希望でなくても、こんなの作って!っていうのでもいいですよ。ユーザーの皆様にこれからも応援していただけるように、スタッフ一同、がんばって参りますので、宜しくお願いします!

宇田:どうもありがとうございました。自分もプレイしますので。期待しています!


最終更新:2019年04月21日 16:17