第1ラウンドSS・宗教施設その2

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挨拶はそこそこに、どうやら幕はまた上がるらしい。
生憎、夜が明けるとか言い出すにはいささか外れた時間帯だ。緞帳よりはマシだが、まぶたはやっぱり重いのか。いいや、ベッドというかその中身の執着を今だけは払って、ごろりと転がると、ベッドから距離があった、床とキスする羽目になった。歯が痛え。カッコいいもんじゃありゃしねえな。

銀天街飛鳥、恐ろしい女だ。
むにゃむにゃと、口の中でなにかあまぁいものでも転がすような仕草に、ひょっとすれば指を突っ込んでみたくもなる。そしたら最後、離してくれないしな。
未練を断ち切るのも億劫だ。ジャケットを片手通しに振り返る。

やれやれだ、お姫様をカーテン越しに垣間見ちまった。
Q.百階建てのビルディングの屋上からコイツを見つけろ?
A.言われる以前の問題だと答えてやるよ。

そんなバカなことを考えながら俺は上に上がる。
コイツほどに目立つ女を俺は知らない。珍奇きわまるDSSバトルの女魔人どもを見て、そう言い切れるんだから俺も大概だよな。

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銀色天蓋ベッドっていうか、手に糖蜜が付きそうなベッタベタ表現をすると「愛の巣」ってやつかい?
あぁ甘い甘い。昨日あいつが焼いてくれたホットケーキにたっぷりのメープルシロップをかけてみたんだが、たぶんそれよか甘いや。虫歯になっちまう。

で、上から観察開始。よぉし、共犯者様の面目躍如ってヤツだ。起きてすぐから顔を合わせるまで、微に入り細に穿つまで穴があくまで見つめ倒し! あいつのやったことを説明してやるとするか。
……早速銀天街のすかすかと、本来抱き枕にするはずの――(言わせんな恥ずかしい)空振りする手を見て、なんだかすごくやるせなさそうな顔になった。
おいおい、そんな悲しそうにするなよ。こっちからは丸見えてんだぜ。……ずきずきと痛むのは歯じゃなくて心だな。ああもう、言ってみろよ。

「はやく降りておいでよー、はにー」

するてぇと、一転ってゆーか一変だ。この辺は世界二位じゃなくてオンリーワンの笑顔だな
にへら、と普段のクールビューティーぶりが嘘みてえなゆるふわスマイル。そんな笑顔でお願いされて断る男がどこにいる?

「わーい、ぎゅー!」

降りてきた俺を見るなり、抱きついてくる。
そして、俺は長らくサボっていた歯医者に行くことを決意した。

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(セント)アレキセイ寺院の殺人事件に法水(のりみず)が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの(うわさ)が立ちはじめた十日目のこと――。

おっと、出だしを間違えた。
今回の事件の探偵は法水麟太郎(のりみずりんたろう)ではなく、銀天街飛鳥(ぎんてんがいあすか)ってことで読者の皆さんは貴重な一票を頼むぜ。

露西亜正教にしても露出亜性教にしても同じことだが、迫害を受けたら地下に潜るのは古今東西どの宗教も結社も変わらないってことで。
文字通りかは知らねぇが……、物理的に洞窟を掘っちまったんだからっていうからすげぇよな。
で、だ! 今回のバトルフィールドはコストマロヴォの洞窟女子修道院というらしい。歴史上の事件で言えば、キタールだかタタールの(くびき)が発端らしい。

外見は、だが。美術室に飾ってあるような石膏の彫刻みたいだな。
続いて、先程の話を引きずるのもなんだが、ショートケーキの上にベタベタと生クリームをぶちまげたみたいだなとも思ったりした。
丁度、おあつらえ向きにサクランボかイチゴみたいなお馴染みのたまねぎさん屋根までついてるからファンシーだ。なーんてな、こんなとこ、銀天街のお引きでもなきゃ一生知る機会も来る機会もなかっただろう。

「のわりには随分気に入ってるみたいじゃないか、共犯者〈スイートハニー〉?」

まぁな。
お前の手に入れてくる珈琲はこっちじゃ滅多にお目にかかれないからな。
それに合う甘味なら歓迎もしたくなるさ。それより、下戸は甘いものを食べるが定石だったか? やれやれ、それで酒飲みのお前はどうなんだい?
最近、アルコールは体に悪いだけだって研究結果が出たらしいじゃないか。

「”頭”に悪いのでなければいいのさ。それよりも、君の甘い言葉なら大歓迎で大好物なのだけどね?」

はいはい、頭の回転が速くなるように糖分たっぷりあま~い言葉を吐いてやるさ。
砂糖! 蜂蜜! ケーキ! 羊羹! ジュース! シュークリーム! エクレア! だんご! ワッフル! どら焼き! 桜餅! アップルパイ! コーラ! ミルカ・シュガーポット!

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「……」

さしもの探偵も、メガトン級の女神像が動き出すのを目の当たりにしたら、そりゃあそうなるよな。ああ、女神じゃあなくて聖母像だ、なんて野暮は言いっこなしだ。
余談だが、マリア様の肩書はこっちだと聖母様じゃなくて生神女(しょうしんじょ)と言うらしい。ホントに余談だな、神に誓ってこの豆知識が今後の逆転劇に寄与する、なんてことは一切合切無いので安心してくれ。

事の起こりを掻い摘んで言っておく。

「ぴんぽんぱんぽーん。ミルカ・シュガーポットVS銀天街飛鳥の試合をご視聴の皆さま、ご来場いただきまことにありがとうございます。
当コンテンツはなるべく全て年齢の方が楽しめますようご配慮してまいりますが、心臓の弱いかたや、刺激物が苦手な方は視聴しないでくださいね」

気の抜けたアナウンス、銀天街飛鳥という女に言わせれば様式美、なのだろうがなるほどラジオの看板を張るのも納得の声量と音階だ。
メロディアスなのはいいが、早速手の内を明かすのはどうなんだ? と思ったら次の瞬間がこれだ。

しかしまあ、そこは我らが銀天街飛鳥、面喰らうのは一刹那に抑えて次の手を考えるモードに切り換えた。
だが、敵もさる者ひっかく者、狙い済ましたタイミングで二の矢が飛んできた。

「~~~っ!?」

Eutrema japonicum、つまりワサビ特有の鼻腔に抜けるとびっきりの刺激が襲い掛かる。
刺激物、と前置き前振りがあった時点で飛鳥も予測はしていただろうが、これは予測可能回避不可能、って奴だな。
悪いことにさらに追い討ちが来やがった、嗅覚の次は味覚だ。

「ぐっ……甘、い……!」

砂糖菓子に砂糖をぶちまけたがごとき甘ったるさ。
食事中の方はご遠慮ください、も納得だ。
ラーメンでも食ってる最中にこの甘みを食らったらリバース間違いなしだからな……。
しかもワサビの刺激もプラスだ、ミスマッチどころかバッド・バ・バ・バッド、と叫びたくなるだろうさ。蒸血ならぬ吐血喀血レベルでな。

ここはVR空間、現実の今と違って外界はカリンカ/ガマズミちゃんの茂る季節とのことだ。
涼やかな風が、洞窟寺院の中でなければ駆け抜けるんだろうな。密閉された空間では、そよとも名残も見せやしない。今時、蝋燭の照明ってのも、なぁ。
結局、脳を魅せるための錯覚だって頭ではわかっているのに、体はしっかりついていってる。理不尽たぁこの事さ。合理的だけどな!

聖母像の足の裏が銀天街の頭上に迫る――回避に移ったのはいいが、方向が……わざわざ踏まれに行ってやがる!
おい待て飛鳥、そっちじゃねえ!

「慌てるなよ、共犯者」

目から涙を流しながらも(もちろんワサビイメージのせいだ)、そこにはいつもの冷静さを取り戻した銀天街がいた。
……言われてみればそうだった、ミルカ嬢の能力は「イメージの共有」だ。
やろうと思えばマジで重量をかけるイメージもできたんだろうが、それをやれば視聴者一同マリア様に踏まれて昇天、なんてことになる。
どこぞのなんとかマリア様は生意気なファンの鼻っ柱を噛み千切るそうだが、踏まれるのとどっちがマシなのかね。

「マリア様の傍の蝋燭の炎が揺れていなかった。あれだけの質量だ、風圧も相応のものがあるだろう。なぜかな?」

答えを視聴者に委ねるスタイル、嫌いじゃないぜ?
それに、壁面には傷ひとつなかった。いいか? これは銀天街だけに聞こえる俺の意見だぜ。

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それほど頭のよくない俺であるが、少し詩人になってみようか。俺には夢がある。
飛鳥に向けて「大した想像力だ、作家にでもなったらどうかね?」とか抜かす犯人の馬鹿野郎がいやがったらこう言ってやるのだ。

もうなってるよ、バーカ!

ってな。あいつの活躍を本にしたら俺も流行作家間違いなしだろう。探偵の助手が作家の投影だなんてのはもう聞き飽きた説だが、生憎俺は共犯者。探偵様にも作家様にも、もちろん助手にだって出来ないことが出来るんだぜ。

夢といえば、甘い名前を名乗ったなお嬢さん。
写真は見させてもらったけど、可愛いじゃないか。君の目的はわかっているし、パパとママに家族としてまた会いたいって夢はそれはそれは尊いものだろう。
だけどな、我々もまだ勝ちというカードを手放すには早いのさ。鷹岡に迫るためにはな。君は、この大会を素晴らしい物だけだと捉えているに過ぎない。
だから渡せない。写真を見ただなんて言っておいて君の目が一重が二重かもわからない俺が言うのもなんだがな。
……正直に言おう。俺の描写には穴がある。その分を飛鳥に補ってもらっているうちはまだまだなんだろうさ。

マリア様が幻だってわかったが、続きはどうする? おい、飛鳥。

「わかったところで止めはしない、か。それも当然だ。だが、隠れキリシタンはいつか踏み絵に嵌って島原の乱、だよ?」

キリスト教はなんだかんだで偶像崇拝に寛容なのかもしれないな。
ロシアしかりロシュアも、イコンっていう神さまマリアさまキリスト様、聖人の絵を描かれた札に仏像よろしく祈りを捧げたりする。
たまねぎ頭の聖堂なんてカードを住まわせるには、立派なお住まいだろ? 日本人に初めて伝道したニコライさんは各家庭のお仏壇からブッダさんを追い出して代わりにお引越ししてもらおうだなんて企んでたらしいが、それはいい。

ああ畜生、こういうウンチクは俺のキャラじゃねーっていうのに。
こういうのは探偵がしたり顔で言うものだろ。戦闘にかかりっきりだからって押し付けやがって。

「とは言え、だ」

壁に背を付けて迎え撃つ構えの銀天街、流星くらいは打ち返せそうだね、こりゃ。
しびれを切らしたのか、シロップボイスのお嬢様が姿を見せる。
今の今までどこにどう潜んでいたのやら、かつかつと出口の方――いや、入ってきたのだから入口なのか?
ともあれ、ついに探偵とラジオパーソナリティーのご対面、というわけだ。

「綺麗なお嬢さん、対する私は……さしずめ私は素敵な奥様といったところかな?」

おいおい……どさくさに紛れて何を言ってやがる。
ミルカお嬢さん、きょとんとしてるじゃねーか。かわいいぜ。

声の商売をしているなら、守るのは当然とでもいわんばかりの金のチョーカー、ワンポイントのムーンクォーツがキラキラ輝いた。もちろん、装飾品や衣装だけじゃない、本体も負けてやいない。
サテンのドレスに見合って、色合いと質感はともかく高級感では地続きになっていそうな、やわこい肌、刃物なんて握ったことがなさそうでふにふにしてやがる。
天雫を生み出す湿潤の瞳、穢れの無い雨音を吸って育ったからだろうか、草原や湿原を思い起こす天然記念の国宝指定、髪やら瞳やら色の指定が無かろうが、いくらだって褒め称えてやるぜ。

「おいおい共犯者〈スイートハニー〉……ずいぶん私の対戦相手にご執心じゃないか」

おいおい、意趣返しって言葉を忘れたかよ。こちとら胸焼けしてるんだ、たまには妬いてくれ。
十二時だなんてケチなことは言わねえ。舞踏会のダンスパートナーならこのイケメンがいつでも付き合ってやるからさ、今はそこの白雪姫と武闘会してなよ。
……俺だけのサンドリヨン? 一夜で終わらせてやるぜ。

「ははっ」

銀天街飛鳥は軽やかに笑った。ほら、元気出たかよ? 
銀の雫/シルバードロップが零れる。紛うことなき一対一の対決だ。

女を泣かせるは男の甲斐性なしって言うが、俺は今この場にいないんだから仕方がない。代わりに出来ることがあるがね。……それにあいつは笑って泣いたんじゃない、泣いて笑ったんだ、間違えるな。

ともあれ、タイマン勝負の火蓋は――ミルカ嬢の突撃で切って落とされた。
さっき刃物も持ったことがなさそうなお手々、と言った気もするが鈍器なら持っていやがった。魔法少女めいたステッキというか、ご丁寧にデコられた警棒か。
飛鳥も迎撃の為に、探偵武術・バリツの構えを取り、

背後(・・)の、何もない空間に向けてアームロジックを放った。

アームロジック――要は、腕の関節を極める技だ。

世界で一番速いのが「光」であると万人が認めるとして。
じゃあ二番目は何かと問われれば、あの子は「音」と答えるだろう。
そして、俺も飛鳥もそれを追認する(つまりは俺たちの方がずっと早い)。
彼女の得物が煌めいたのは背後からのことだった。そして、わかってしまえばこちらのもの。

真正面からド派手な鈍器を振りかぶったミルカ嬢の一撃は、スルリと飛鳥の身体をすりぬけていく。
……触覚まで律儀に再現してりゃ、頭をカチ割られていたコースだが、繰り返しになるがミルカ嬢にそれはできない。
割れたスイカの山ならぬザクロの山が、数千数万単位でできちまうからな。

「……どうして、不意打ちがわかったんですか?」

虚空を捕らえたように見えた飛鳥のそばに、さっき説明したものとほぼ同じ意匠の衣装を纏ったお嬢さんが現れる。
腕を極められて身動きを封じられた、囚われの姫。その口から零れるのは、当然の疑問だ。

「戦闘の舞台がどこか? という情報は二十四時間前に私の所に届いていたからね。観光がてら歩いてみた感触と違った。それだけのことさ。女の子ひとり分=人回りサイズが小さかったのは流石に盲点だったよ。そしてなにより――いや」

ここで言葉を区切るのが、もったいぶる探偵の気質というか――言葉を選ぶ、性ってやつだろうな。

「なぜなら、私のラジオリスナーとしての腕前は世界二位だからさ」

要は『世界二位の聴力』で――背後から迫る少女の息遣い、足音、衣擦れの音を聞き取って確信したのだろう。
『背景のイメージ』を見せ続けて、己の姿を隠して機を狙っていたミルカ嬢の、真の居場所に。

ラジオパーソナリティーとラジオリスナー、送り手と受け手という立場は隣接する。それは不可分と言っていいほどに、最早切り離せない間柄にあった。
優れた作家が優れた読者を己のうちに抱えているように、自分が喋る言葉に心の中で一番歌い踊っていたのはミルカ・シュガーポットその人だった。
それは彼女が魔人である以前に変えられない、誇りであり矜持だ。
だからこそ、彼女は――音を、戦闘の手段に用いることができなかったのだろう。
あるいは、無意識のうちに避けていたのか。それは残念ながら、俺にはわからねえ。

「負けた……?」

ことりと落ちた、銀色に輝く凶器は今度こそ床に当たって跳ね返ることも、突き刺さることもなく、当たり前のように力なく地に落ちた。これが現実ってやつだ。
ミルカの腕前について述べたところで興味を持つ者は極少数だろう。だから、言うものか。
解答編はもう終わっちまった。疑問を挟む余地は失われた。だからここからはアフターサービスなんだろうが……。

「エフエムダンゲロスは相方の紹介で視聴させていただいた。甘さ控えめで食後のコーヒーブレイクには打ってつけだと言っていたよ。ひねくれ者のあいつが私以外をここまで手放しに褒めるなんて本当に珍しいのだよ?」

銀天街飛鳥は、なかなか非情になれないソフトボイルドな女だ。
だからこそ、自分の命を狙った相手であっても、優しくしちまう。

「君の戦いは一度の勝ち負けで決するものではないはずだ。気休めかもしれないが、御父上と御母堂の心を引き寄せるのは勝利とは限らないということだけを言っておく。
もし、その気でないのなら非礼に当たるので断っておくとするが、鷹岡に頼るのだけは―― !」

説得パート、バリツにおける心理戦術『泣き落とし』の途中だったが、ここで飛鳥が言葉を途切れさせる。
……その原因は、明白だろう。

不穏な地響き、壁に入る亀裂。(・・・・・・ ・・・・・・)

地下洞窟が、崩れる予兆だ!(・・・・・ ・・・・・・・)

「……お嬢さん。どうやら、君の大仕掛け――あの女神像と、洞窟で響く声量がマズかったようだね」

飛鳥はシリアスな表情で呟くと、アームロジックを解いてそのままミルカ嬢を『お姫様抱っこ』する。

「え? え?」

飛鳥の行動が飲み込み切れないのか、困惑の色を浮かべているが――それも僅かの間のことだった。

「……しっかりつかまっていたまえ、お嬢さん?」

宝塚の男役にも張り合えそうな、白馬の王子様スマイルを浮かべて、銀の探偵が駆ける。
地下から地上への脱出劇は、さながら昔話のラスト数ページって風情だ。
B級映画だ、なんて抜かす奴はロマンスどころかロマンもわかんねえ奴だ、ほっとけ。

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さて。めでたく地上へと脱出し――
お姫様をそっと、草原に降ろしたところで試合は決着と相成った。

ミルカ・シュガーポットの『場外負け』で、だ。

そのときのミルカ嬢の困惑としょげっぷりは、本人の名誉のために省かせてもらおう。

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さてさて、舞台はさらに変わって戦闘終了から十数分後。

エフエムダンゲロスの控室(の一つ)に現れたのは、我らが銀天街飛鳥である。
正面には、先程まで死闘(?)を繰り広げていた、ミルカ嬢が鎮座している。

「あの、先程は――ありがとうございました」

「ああいや、かしこまらなくてもいいよ。会いに来たのは、一つこっちが謝らないといけないことがあってね」

ミルカ嬢の、色々な感情が渦巻くであろう挨拶を遮り、飛鳥がどこか小悪魔めいた表情を浮かべる。

「騙して、ごめんね?」

ミルカ嬢の表情が、さらにキョトンと変わる。目がテンどころか、マイクロドットになる勢いだ。美人が台無しだぜ、流石に。

「えっと、騙した……って?」

「よくよく考えてごらん。
 どうして、君のイメージで地下洞窟が崩れるのかな?(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「……あ。 ああっ!」

……まさかマジで気付いてなかったのだろうか。いやまあ、気付かせないようにしたんだけどな?
ミルカ嬢のイメージ力は見事なものだが『無機物に作用しない』という当然至極の欠点がある。もちろん、ミルカ嬢の声量が大きいと言っても地下洞窟崩せるほどのハイパーボイスでもない。

「というわけで、なぜ君が騙されたのかの種明かし特別篇だ。
 地文(じもん)、降りてきてくれないかなー?」

……アフターサービスにも程があるだろう。ミルカ嬢に俺を紹介するなんてな。

「やれやれ……、仕方がない降りてきてやるか」

俺は今度こそ誰一人聞こえることも無いはずの独言を吐き出すと、最後に残ったショートケーキのアラザンだけを口に含み――噛み砕くのも気が引けたので飲み込むことにした。
……地の文から『降りる』っていうと、また違う気がするがまぁいいだろう。

自己紹介が遅れたな。俺の名前は『天問地文(あまどい・じもん)』。名は体を成すって言やあこの業界のジョーシキだが、俺はこの世界よりちょっとだけ『上』の世界の住人で、ちょっくら地の文を操作することが出来る(・・・・・・・・・・・・・・)魔人だ。

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最終更新:2017年10月29日 00:48