雲一つない青空には鳥が飛び、バイソンの群れが水辺を求めて移動を始めている。
川の中ではカバが大きな欠伸をしている。
草木が美しく広大な大自然。サバンナ。
その一角に異様な空間ができていた。
元は動物であったと思わしき赤い血だまり、解体された肉や骨の跡。
中心には、複数のライオンたちとふくよかな細目の女性の姿。
細目の女性は当然荒川くもりである。
ライオンたちは彼女を取り囲み、飛び掛からんとする。
そして、そのうちの一体がくもりによって粉と赤黒い水分へと姿を変えたところだった。
「じっくりと壊して行きたかったんですけど、こうたくさん来るとそういう訳にもいきませんねー」
不満げにそう呟いたくもりは血に塗れていた。
ライオン、豹、ハゲタカ、ハイエナetc.etc
この空間に入り込んでから、妙にたくさんの野生動物が彼女に襲い掛かってきた。
まるで、全ての動物がくもりに注目し、獲物に見定めたようだった。
動物への破壊欲の発散に集中していたくもりはそのことを疑問に思わなかったが、当然、自然な現象ではない。
猛獣たちがくもりに注目するようにナズナが能力をくもりに使用したのだ。
ナズナは今は離れた位置から持ち込んだ双眼鏡でくもりを見ていた。
「本当に化け物ね」
身体能力もさることながら、やはりあの能力が厄介だ。
事前に茉莉花と動画を確認していたが、一度触れられれば、対応のしようがない。
色々と茉莉花に装備を集めてもらったがそれだけで対応できるかどうか。
そして野生動物とともに戦うという選択はない。
動物たちはくもりを襲っているが、それはナズナの味方だからではない。
ただ、発見した獲物を本能で襲っているだけだ。
今飛び込めば、殺されるのはナズナの可能性の方が高い。
故に奇襲をするにしても今いる猛獣たちが全滅した後になるだろう。
厳しい戦いとなるだろう。
ふと、VR空間だからといって死んでほしくないと不安そうな顔で言っていた茉莉花の顔を思いだす。
「心配させる気はなかったわ」
実際のところ、DSSバトルにおいて勝敗は必ずしも重要ではない。
しかし、ナズナは負ける気はなかった。
他ならぬ親友のために
「勝つわ」
くもりがライオンを処理し終えた時、突然ナイフが飛んできた。
そちらの方を見れば真っ青なドレスにシルクハット、手にはステッキを持った少女が立っている。
「えーと、確か対戦相手のー……」
「可愛川ナズナ。別に覚えなくてもいいわよ」
ナズナがシルクハットを脱ぐと手に持つ。
シルクハット中からハトが飛び出した!飛び出したハトがくもりに真っすぐと向かう。
くもりの手の平に掴まれたハトが肉片へと姿を変える。
「手品師さんですかー」
「ええ、そうよ」
ハトに対応している間にシルクハットをかぶりなおしたナズナが前進する!
手に持ったステッキをくもりに振るった!
しかし、瞬間移動によりくもりはそれを回避していた。
さらにステッキを振るう!
「いささか無謀なのではー」
「そうかしら」
強引で単調な攻撃だと
自分の能力を以前の動画で調べた結果、速攻で決め様としているのだとくもりは判断した。
そろそろ反撃に移るべきか。
くもりが思案する
さらにステッキを振るってきた。
迎え撃つべくくもりが待ち受けていた時―――
ナズナの左手から光が照射された。
レーザーポインター。
レーザー光線を用いて図などを指し示すための道具である。
だが、実際にはコンサートなどでいたずらに使われることも多く、失明にもつながる危険なアイテムである。
直視した時、目に致命的な損傷を与える可能性があるクラス3A以上の販売は国内では禁止されている。
強力なレーザーポインターを茉莉花に頼んで用意をしてもらった。
そしてくもりはこれを回避できなかった。
そこにその物体があれば、そこを見てしまう。否が応でも。
可愛川ナズナの能力『アトラクションショー』とはそういうものだからだ。
結果、レーザー光を直視した荒川くもりの視野は破壊された。
レーザー光を浴びたくもりは目を瞑っている。
使用に目を見開く必要がある『全壊(オール・デストラクション)』も当然使用できない。
それはナズナの意図するところではなかったが、
「目、目が」
怯んだくもりにナズナがステッキを全力で振るう!
フルスイングがくもりの頭部に直撃する!
さらに殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!
殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!
いつしか、くもりの身体は動かなくなっていた。