第2ラウンドSS・世紀末その2

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(ほ   ん  ね  を い う  な ら き  さ  ま  が  に  く  い)
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(あ ま  ど    い  じ   も   ん)



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「……やれやれ。タッグマッチはやはり性に合わないね」

ったく。だから俺が行く、っつったろ?

「いやいや、共犯者。君の存在は、DSSバトルにおいてはいささか反則気味だからね。
 余程のことがない限りは、君は黒子に徹してくれたほうがよさそうだ」

クロコダイルダンディならぬ、黒子がいる探偵、ってか?

「……黒子に徹しろとは言ったけど、それは寒い冗談を言え、ってことではなくてね?」

悪かったな、このくらいの軽口でも叩かないとやってらんねえんだよ。
ともあれ、次の相手だが――

「刈谷融介、か。……C3ステーションとも随分と関わりがあるようだね」

俺に言われるまでもなく、飛鳥は手元の資料の山から数枚の書類を取り出す。
探偵らしく足で稼いだ情報から俺が覗き見た各種裏事情まで、一通りのデータが揃った資料、今回の参加者14人分(・・・)

「1回戦は……ふむ。なるほど、噂の怪盗殿にしてやられた、ってわけか」

飛鳥の薄い微笑が、どこか楽し気で、しかし油断ならない光を帯びる。
本音としては、こちらの怪盗と一戦交えてみたい、ってところなのだろうが――
頼むぜ、今は目の前の相手に集中してくれよ?

「わかってるよ。とはいえ、ちょっと挨拶くらいはいいだろう?」

挨拶? ……って、飛鳥の奴、俺の問いかけに解答を返すことなく、怪盗に会いに出かけちまった。対戦経験者に情報を聞き込みに行った、ってトコか……?

~~~~~~

さて。飛鳥の突拍子のない行動が何をもたらすのかはわからないし、案外何ももたらさないのかもしれないが――それでも戦闘は始まってしまう。

今回の舞台だが――砂漠というか廃墟というか、乱雑に荒れ果てたエリアだった。
生気はないが、殺気はある……いや、生気を保つために殺気がある、というべきか。
いわゆる世紀末、核戦争後の世界。瓦礫の影やら陽炎の向こう側から、どんよりと濁った、下卑た気配が大量に漂う。……いわゆるモヒカン雑魚どもの気配が。

狂乱の(いかれた)時代へようこそ、って所かな。
 実際の世紀末も、好景気の終焉、狂乱の時代と言えなくもなかったけれど、しかしここまで治安の悪い環境になることもなかったろうね」

どうかね?少なくとも、金ってのは人を狂わせるもんだぜ。
多くても、少なくてもな。

「貧困ゆえに犯罪が起き、富むものはさらに富むことに腐心する……
 しかし貨幣なしで私たちはもはや生きていけない生活と文化を築いてしまった。貨幣経済が崩壊した、ある意味での理想郷(ユートピア)が、この有様だからね」

理想郷、ね。どう考えても絶望郷(ディストピア)にしか見えないが?

「ディストピアはどっちかといえば管理社会だよ。……まあ、VR空間は結局はプログラマ―やサーバー管理者、その他情報技術者に支えられ、支配されていることを思えばこの世紀末も未来世紀ブラジルのようなものさ」

未来世紀ブラジルが何かわかんねえよ、無学な俺には!

「ははっ、今度一緒に事務所のスクリーンで一緒に見ようぜハニー、もちろんオリジナル版をね。
 さて、それはそうと早いところ刈谷君と合流しないと見せ場がないまま試合終了になりかねないね」

見せ場?今作れよ、俺とアレコレ談義してる間にモヒカン雑魚の皆さまはスタンバイ万全、黒光りする得物をギンギンに振りかざしてうら若き乙女をご所望のようだぜ?

「私の見せ場の心配をしてくれるとは嬉しいねえ、共犯者。
 だが、私の心配はそっちじゃない……杞憂かもしれないがね。
 ともあれ、世紀末らしく雑魚掃除といこう。
 世界二位の”暗殺拳”、とくとご覧あれ!」

そっちじゃない―― という言い回しが引っかかる。
そんじゃあ、ちょいと刈谷のほうを見てみますかね。

~~~~~~

「……」

前回の戦いで、怪盗殿との頭脳戦を魅せてくださったヤンエグ崩れ、刈谷融介。
現在の奴の周囲には、縦一文字やら輪切りやらズタズタミンチまで、多種多様なカットのお肉の山が次々VR粒子還元の真っ最中だった。いやVR粒子ってなんだ。

刈谷のここまでの戦闘を簡単にかいつまむと、奴は『空気』を借りることで真空を生み出し、即座に返済することで空気砲の要領で渦巻く空気を打ち出し、モヒカン雑魚を無慈悲に蹴散らしていた。要するに、カマイタチってやつだな。
VR空間でも『空気』は嫌というほどあふれていると見えて、希少価値評価は最低ランク、残高にも影響はほとんどないご様子。まさに省エネ戦法だな。
いや、むしろ現状ではこの戦法しか取れない、と言うべきだろう。

なぜなら。この世紀末は、『貨幣経済が崩壊した』状態の世界。
つまり、刈谷の貸借天が、正常に機能しない。
モヒカン雑魚にいくら金を貸し与えても、ケツを拭く紙屑か明かり用の焚き付けにしかならない――ということなのだろう。
モヒカン雑魚の武器や戦闘力、あるいは攻撃時のエネルギーを借りることができない、という刈谷にとって一方的に不利な状況に置かれた、というわけだ。

ゆえに、空気を借りるしかない。あるいは、足元の砂や瓦礫、とにかく他人の持ち物以外のものを。
貸借天で、そもそも空気を借りられるのかという疑問もあるだろうが――
気体は掴めないだけで、触れてはいる。という解釈で、この賃貸を成立させたのだろう。ちなみにこの場合、借りた金はおそらくはプログラマーとかに配分されてんだろうな。雀の涙ほどだろうけど。

「……クソッ」

毒づきたくなる気持ちもわかるってもんだ、なにしろ核戦争が起きて生命の息吹があらかた滅んだ世界のクセに、モヒカン雑魚は次から次へとキリなく湧いてくるんだもんな。折角怪盗殿がメンタルケアしてくれたってのに、またやさぐれモードに戻ってねえか?

「やあやあ、会いたかったぜ刈谷クン」

っと、ここで飛鳥とご対面、と来た。

「……そうかい。悪いがアンタのお喋りに付き合う気はない」

「おやおや、随分と嫌われ――  !」

静寂が訪れる。飛鳥の長口上が、途絶えた。

「声、借りさせてもらうぜ。悪いがアンタに降参されちゃあ困る」

刈谷が口を開くたび、聞き馴染んだシルバーボイスが響く。
テメエ何やってやがんだ、返せ!

(慌てるなよ、どうやら事情が見えてきたよ)

あ? 事情?
……飛鳥が声の出ない口を開閉させ、読唇術で俺に話しかける。

余談になるが、俺は地の文にアレコレできるわけだが――『他人の心』を読むことはできない。モノローグを読めない。
だから飛鳥の心理や思考を読むには、飛鳥が口に出すか何らかのアウトプットが必要になるわけだ。今回は声を封じられてはいるが、読唇術くらいは俺だってなんとかできる。というか、できるように仕込まれたんだが……

(第一回戦で、彼の抱える事情は若干だが改善を見せていた。
 なら、少なくとも彼の焦燥は自棄からくるものではない、ということだ。

 もっと切実な事情がある――そしてそれは、私に降参されては困るような事情だ、ということだ。
 おそらくは――)

飛鳥がなんとか俺に推理を伝えようとするが、刈谷がその暇を与えちゃくれなかった。
飛鳥に小さなカマイタチを連打し、着実にダメージを与えてくる。飛鳥も無論、黙って喰らっているわけではないのだが、いかんせん空気を一瞬で貸借できるとあっちゃあ全弾回避は望むべくもない。

飛鳥は飛鳥で、反撃に出る気配がない。どころか、どうやら『世界二位の暗殺拳使い』ですらなくなっている。
無理もないだろう、暗殺拳といっても拳法は拳法だ。接触を許せば、たちまちその世界二位の腕前は痛烈なカウンターとなって飛鳥に襲い掛かるのだから、軽々に動けない。飛鳥も、打開策を検討中のようだ。

「「「「「ヒャッハ~~~~~~ッ!!!!!」」」」」

しかも間の悪いことに、モヒカン雑魚が再度現れたときた。
当然のように、見境なく襲い掛かってくる――

「……っ! 邪魔だ!」

刈谷が攻撃の手を、モヒカン雑魚に向ける。
なぜか、十数名のモヒカン雑魚は、切り傷だらけになった飛鳥には目もくれず、刈谷へとめいめい武器を振りかざして襲ってきたのだった――

(……どうやら、私が考えていたより事態は深刻かな。
 黒柳徹子、もとい黒子に徹しろと言っておいてなんだけど、君の力が必要かもしれないぜ、地文)

飛鳥の唇が、俺の名を告げる。
飛鳥が本当に俺を必要とするときにだけ呼ばれる、俺の名だ。

(頼んだぜ。さて……こっちはどうするか、な)

飛鳥が刈谷の方へと向かい、バリツを構える。
刹那、砂塵が舞い――飛鳥の強かな一撃を受けたモヒカン雑魚が次々に倒れる。
刈谷を襲おうとしたモヒカン雑魚の半数以上が、飛鳥のワンムーブで蹴散らされたことになる。

「……流石、世界二位の探偵だ。横槍の排除には礼くらいは言おう。
 だが、俺は勝たないといけないんだ」

(……)

どこか悲壮な覚悟まで滲み始めた表情の刈谷に、飛鳥が自分のこめかみをとんとん、と叩いて示し……一気に距離を詰める。インファイトを挑む腹積もりのようだ。

「……なんのつもりだ?」

このVR世紀末の中で唯一、刈谷の貸借天でまともな貸し借りができる相手――それは、現代の価値観に生きる、銀天街飛鳥をおいてほかにいない。
ゼロ距離まで近づいた飛鳥の頭に、そっと手を触れて『借りる』。

「! ……何……?」

『世界二位』の攻撃をそのまま返す腹積もりでいた刈谷が、意表を突かれたように固まる。
飛鳥の狙い通り、奴は飛鳥の能力を、一瞬だが借りた。
世界二位の探偵の、推理力――そしてそこから飛鳥が導いた事実と、打開策を。

「……探偵は、困った人の味方なのだよ」

飛鳥が、不敵に笑みながらつぶやく。
……声も、返してもらったようだな。

「「「「「ヒャッハ~~~~~!! ヒャッハァ~~~~~~!!!」」」」」

だが、安堵する間もなくまたしてもモヒカン雑魚が現れる。
火炎放射器が、バズーカが、棍棒が――容赦なく、二人に襲い掛かった。


~~~~~~

「ブフォフォフォフォフォフォ!これぞ愉快痛快というものよのう!」

都内某所、廃ビルの一室――
広々とした空虚な空間に、巨大なモニターと、その前に陣取るでっぷりと肥えた男。
そばに控えるいくつかの影も、同様に肥大した肉体を持つ。
その足元には、縛られた女が一人。モニターに映る人物を見て、悲痛な表情を浮かべる。

「ユースケ……」

モニターの中でモヒカン雑魚に痛めつけられる刈谷と飛鳥の姿を、涙を流しながら眺めるのは――笹原砂羽。

「ブフォフォフォ! 無駄よ無駄!お前がいる限り、奴はワシらに逆らえぬ!
 奴は必死だろうなぁ、試合に勝たねばお前を殺す、と脅しておるゆえに!」

中央の男が、腹の肉を揺るがしながら笑う。その頭には……髷が結われていた!

この男こそ――国際暗黒相撲協会所属力士が一人、八百長丸(やおちょうまる)!

「勝たねばならぬと必死にあがいておるが、無駄なことよ!
 わざわざ世紀末を戦場に選んだのも、
 モヒカン雑魚どもが奴に襲い掛かるのも、
 すべては奴を負けさせるためよ! それも気付かんと必死必死……!」

八百長丸の笑いに同調するように、周りの面々も笑い転げる。

「なんでよ!なんでユースケをこんな目に……」

「ンン? 決まっておろう、楽しいからよ!
 それに、試合が混迷を極めれば極めるほど、我らのシノギも儲かるというもの……!」

モニターの脇では、謎のパラメータ群が数字を着実に増やしている。
……DSSバトルを利用した闇賭博のリアルタイム入金データである!

「そろそろだな! 仕上げじゃ、C3ステーションに連絡せい!
 刈谷にトドメを刺すよう、モヒカン雑魚のパラメータを上げよ、とな!」

部下に命じ、卑劣な八百長試合の指揮を執る八百長丸。
無論彼らの本来の狙いはオスモウドライバーだが、その副産物としてDSSバトルをもしゃぶりつくそうとしているのだ……!

「これで終わりじゃ!」

「お前が、な」「君が、だ」

モニターでモヒカン雑魚にぼこぼこにされる二人が映し出される中――
廃ビルのフロアに二人の声が響く。

刈谷融介と、銀天街飛鳥。
無職と、探偵の二人が。囚われの姫を助け出しに現れた。

「!? な、なんじゃ!? なぜじゃ、おぬしらがなぜここに!?」
「当然、私の『世界二位の推理力』で暴いたに決まってるだろう?
 君らのような三下の企みを、ね」

「そうではない!おぬしらはまだ、戦っている最中であろう!?」

動揺を隠せない八百長丸。まあ、そうだろうな。
まだモニターは、二人の戦闘シーンを映してるからな!(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「私には共犯者がいるのだよ、悪党の上前をハネる悪党が、ね」

よせやい、褒めてくれるなよ。

「……くだらない真似をしたツケは払ってもらうぞ」

さて、囚われの姫を救い出した王子様は、ご立腹のようだな。
我らが銀の姫騎士様も、容赦をする気はなさそうだ。

「ぐぬぬ……国際暗黒相撲協会の力士をなめるでないわ!」

八百長丸がのそり、とその巨体を揺らして二人に向き直る。
俺がいちいち実況するまでもない、見え見えの勝負だな――

~~~~~~

数分後。
国際暗黒相撲協会の力士は『世界二位の総合格闘技使い』にバリツをしこたま決められ、己の質量と筋力をレンタルされて密度の下がりまくった肉体で己の力を味わって地をなめる羽目になったとだけ、伝えておこう。
ま、本丸の意向を無視して小遣い稼ぎをしようとした悪党の末路なんざ、こんなもんだ。

~~~~~~

「……困るなあ、刈谷君も探偵さんも、国暗協の皆も」

C3ステーション、社長室――
刈谷融介VS銀天街飛鳥の戦闘のVTRを眺めながら、鷹岡集一郎はため息をついていた。

「面白くなりそうだったから乗ったけど、やっぱダメだねえ八百長は――
 ま、下っ端の考えたプレゼンなんて大概こんなものか」

VTRは、大量に襲い来るモヒカン雑魚を蹴散らし終えて――
寸分違わず、同時にギブアップを宣言する二人の姿で、終わっていた。

「刈谷君もまあ、随分丸くなっちゃって。
 ……ま、それはそれで面白くしがいがある、んだけどね」

ぱたん、とノートパソコンを閉じると――鷹岡は、いつものように微笑んで次の試合のことを考え始めた。

~~~~~~

「……で、いつから気付いたんだ?」

都内某所のホテル、そのロビーで刈谷と飛鳥が答え合わせを始める。

「私の声を奪って降参をさせなかった、ってことは、試合を相応に盛り上げる必要があったということだ。
 となると、勝敗や勝負内容を何らかの形でコントロールしようとしている、あるいはさせられようとしている――
 そこまで考えたら、賭博の可能性に行き着いた。
 あとは、私の推理力と、推理した内容、対応策を君に『借りて貰えば』
 向こうに怪しまれず以心伝心、というわけだ」

「なるほどな。……ともあれ、助かった。
 試合はいささか消化不良だったがな……」

「人命には代えられないさ、ましてや愛する者の命なら、ね」

「……そんなんじゃ、ねえよ。……この借りは、必ず返す」

「無利子無期限無催促で、お待ちしているよ」

二人の恋する戦士が、互いに微笑んだ。

GK注:このSSの執筆者のキャラクター「銀天街飛鳥」
最終更新:2017年11月05日 01:42