第3ラウンドSS・古城その2

よう、久しぶり。俺が二番目に敬愛する読者諸君。元気だったか。
何?お前は誰だ?それに一位が誰か?だって。
そりゃあ、一位は決まってる。我らが世界で二番目の探偵『銀天街飛鳥』。

そうさ。俺は『天問地文』。風光明媚、世界で二番目の探偵の共犯者さ。

何?お前は正史の波に飲まれて消えてしまったはずだろうって?
たしかにそうだ。

けど、俺はこの世界よりちょっとだけ『上』の世界の住人でね。
詳しくは説明しないが特殊なんだ。
だから、正史になったこの世界にも顔を出せるっていう訳だ。

といっても、平行世界の住民が正史に影響を与えるのは好ましくない。
だから、今回は干渉しない。

じゃあ、なんで出てきたのかって?

決まってるだろ。
ただの応援さ。





第2ラウンドの試合終了直後。

心配そうな表情で茉莉花がナズナを見つめている。


「大丈夫よ。心配しないで」

何もなかったようにナズナは茉莉花に笑顔を返す。
笑顔の作り方は知っている。
奇術師の娘としてステージに立つために必要だから覚えた。
観客が見たいものを見せるのがショーマンシップというものだ

だから可愛川ナズナは茉莉花のために笑顔を作った。

「大丈夫?本当に?」

茉莉花がそれでもなお不安なそうな顔で尋ねる。


あんな敗北をみれば、それも当然のことなのだろうと
ちなみにあの試合映像は一部の好事家の間で大人気らしい。

「本当に大丈夫よ。じゃあ、私は部屋に帰るから」
「ええ」

逃げるように茉莉花の元から立ち去った。

針山に針を刺すようにちくちくと心に痛みが走る。
どんどんと心に針が増えていく。

彼女の心配そうな顔を見ているのがつらい。
彼女の悲しむ顔を見るのがつらい。

なによりも彼女の笑顔を見ているのがつらくなった。

茉莉花はとても素晴らしい女性だとナズナは思う
ナズナには太陽の様に輝いて見えた。

なのにナズナは何の役にもたてていない。
彼女の方から選手にしてほしいといったのに。

だから彼女に優しくされると辛くなっていく。
そんな価値は可愛川ナズナにはないのに。





夜、ナズナはシャワーを浴びてそのままベッドにもぐりこむ。

また夢を見た。
以前にも見た茉莉花に見捨てられる夢だ。

夢の中でナズナは絶望する。
当然だ。茉莉花に見捨てられたくない。
そんなことになったら耐えられない。

茉莉花に見捨てられたくない?

本当に?
本当にそうなのか?

そうではなかった。
見捨てられてしまいたかった。
見捨てられて絶望して壊れてしまいたかった。
それでも何も変わらないと信じているから。
それでもナズナは茉莉花のために戦えると彼女は信じているから。

「壊れ行く物、人は美しい」

あの時嫌悪感を覚えた荒川くもりの言葉が、今はまるで甘美なもののように思えてくる。

壊れてしまいたい。壊れてただ茉莉花のために戦う機械の様になりたい。
ナズナの中で歪な願望が膨れ上がっていった。





「事前に戦場の話を聞いたときから思ってたけど、ふざけてるの?」


目の前に存在する今回の舞台。
それを見たナズナは率直的な感想を呟いた。

ハンガリー王国の血の伯爵夫人が居城とした古城。
チェイテ城。

それは問題ない。
問題はその上に見えるものだ

逆三角形のピラミッドが鎮座している。
さらにその上には和風の城。

そう、皆さんもご存じだろう。
これが今回の舞台チェイテピラミッド姫路城だ!

読者の皆さんはふざけているのかとお思いかもしれない。実際そうだ。
チェイテ城も姫路城も古い城なんだから、これも古城でいいだろうという鷹岡の独断で決定された。

なおこの決定に対し、DSSバトル運営の元には「FGOじゃねえか」「それ、もう終わったよ」等の反響が寄せられている
これに対し鷹岡は「操られていたのだ。私は悪くない」と述べており、一切の反省の色が見られない。
全裸中年男性にされておかしくなったのだろうか。C3ステーションの今後の株価が心配である。

なお、筆者は兵庫県民であるということはここに書き記しておこうと思う。


さて、試合の描写に戻ろう。



当然、ナズナは城の中に入っていった。

パトロールドローン、ピラミッドホムンクルス、パンプキンナイト、パンプキンスケルトン。
次々と敵が襲ってくる!

パンプキンナイトが槍で突く!パトロールドローンが銃弾を発射する!
ナズナがステッキで銃弾をたたき落す!
パンプキンナイトの頭部を砕く!ドローンを破壊する!

「こんなふざけた戦場なのに!」

パンプキンナイトの頭部をつぶす!ピラミッドホムンクルスをたたき殺す!
パンプキンスケルトンの身体が砕ける!

次々と襲ってくる大量の雑魚モンスターを蹴散らしつつ、城の中を登っていくと、
ゆるめのミディアムヘアの銀髪、ベレー帽にショートトレンチコートの女性が立っていた。

銀天街飛鳥だ。
ナズナがステッキを構える。

「へえ、それはバーティツだね」
「へえ、知ってるの?」
「当然だろう。イギリス人エドワード・バートン=ライトが柔術をもとに生み出した、ステッキ格闘術。それがバーティツだ。光魔法バリツの原型とも言われている。
むしろ探偵がそれを知らないという方が意外な話だ」

「あの共犯者はいないのかしら?」
「彼には別に仕事をしてもらっているのでね」
「私にはそれで十分っていう事?」

あくまで飛鳥の目的は大会の裏を知らべること。
もはや優勝者として潜入できない以上、彼には別行動を取ってもらった。それだけの話だが、ナズナは舐められているように感じた。

「じゃあ、そろそろ行くわ」

ナズナが動いた!
ナズナがステッキで突く!飛鳥が身をそらして回避する!
さらにナズナがステッキを振る!

次の瞬間、ナズナの手の平が光った!
レーザーポインターだ。ナズナの能力と合わせれば回避は不可能。
そう判断し、飛鳥にステッキを振るう!
しかし、

「避けた!?」

ステッキを振るった先にはすでに飛鳥はいなかった。

「単純な話だ。レーザーポインターは確かに強力な武器だが、目を瞑っていれば回避できる。それだけさ」
「簡単に言うわね」

確かに目を瞑れば回避できる。それは事実だ。
しかし、その状態で戦闘するのは簡単なことではない。
武術の達人であっても苦戦するはずだ。

「実際簡単な話さ。目を瞑った状態でいくらでも戦える技能をつかえばいい。天賦の銀才により身に着けた1京2858兆0519億6763万3865個のスキルなら可能。」

例えばスイカ割りは目隠しをした状態でスイカをたたく競技だ。
応用していけば

「じゃあ次はこれよ」

用意したものはあれだけではない。
次の手段をとるだけだ。

「無駄さ、それも私の技術なら対応できる」

当然のようにそれにも対応する飛鳥。

「じゃあ、これならどう」「無意味さ。世界で二番目で科学知識で対応できる」
「なら、これ!」「世界で二番目なら簡単だ」
「じゃあ」「なら、世界で二番目のサッカーだ」
「じゃあ」「世界二位のパルクール」
「なら、これで」「なら私は世界で二番目の香道だな」
「じゃあ」「世界二位のカウンター」
「それなら」「世界二位の調教師で対応しよう」
「なら世界で二番目の調律師だね」
「それも世界で二位のあや取りなら対応できる」
「世界で二番目のフードファイト」
「世界で二番目の漫才」
「世界で二番目調理技術」
「世界で二番目のセクシーコマンドー」
「世界で二番目の□×△」
「世界で二番目の◇×△」
「世界で二番目の×△△」
「世界で二番目の△○○」
「世界で二番目の○×△」

事前準備してきたあらゆる手段が銀天街飛鳥の前に打ち砕かれていく。

「なんで……」

息を切らしながら、ナズナが尋ねた。その声は怒気をはらんでいる。

「なんでこれだけやって全くつかれている気配がないのよ!」
「私の能力を考えれば、それは初歩的なことだよ」

飛鳥は涼しい顔をして、それに答えた。

「つまり、私は世界で二番目のスタミナの持ち主だからね」

ふざけてる。
目の前の銀天街飛鳥だけじゃない。
触れた全てを破壊する能力。巨大ロボット。ゴメスキル。露出亜。

どいつもこいつもふざけている。

ナズナは茉莉花の役に立ちたいだけなのに。
彼女の願いはそれだけなのに
どうしてみんな邪魔をするんだ。

身勝手な怒りを覚えながらナズナがステッキを振るった。
疲労のせいか、その動きは先ほどと比べて明らかに鈍い。

「降参することをお勧めするよ」
「絶対しない」

諦めない。降参しない。
それを茉莉花が望んだとしても。

茉莉花の役に立たないといけない。
そのためにどれだけボロボロになっても。

彼女の名前とその花言葉に誓って。

「そうか」

ナズナがもう一度ステッキを振るおうとした。
だが、

「あれ……」

急に力が抜けていく。
そのままナズナが倒れた。

「世界で二番目の催眠術さ」


GK注:このSSの執筆者のキャラクター「可愛川ナズナ」
最終更新:2017年11月12日 00:38