第3ラウンドSS・溶岩地帯その2

【訂正とお詫び】
いつもダンゲロスSSC3を視聴いただき、誠にありがとうございます。


第1ラウンドSS・出場選手に縁の深い場所、土地その2 と
第2ラウンドSS・航空機その2において
"獅子中 以蔵(絆にプロローグで負けたやつ)"という表記がございました。

しかし、実際には枯葉塚 絆のプロローグでは獅子中 以蔵が枯葉塚 絆に勝利しており、
"獅子中 以蔵(絆にプロローグで勝ったやつ)"が正確な表記となります。

このたびは誤った表記によりご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません。
お詫びといたしまして、プレゼントボックスにダンゲロストーン×10を配布させていただきました

今後ともダンゲロスSSC3をよろしくお願いいたします。


===


「はぁ」
三橋 裕子は、補填対応を終えると溜息をついた。
彼女はC3ステーションにおけるカスタマーサポート部のリーダーである。

カスタマーサポート部では視聴者からの不満・問い合わせの対応を一手に引き受けており、
今回のような誤表記をはじめとして
『画面に肌色が多すぎるのではないか?』
『俺様が応援している選手が勝たないのはおかしい』
『モザイクを外す方法を教えてください』
といった多種多様なお問い合わせに適切な返答・対応をいないといけないのだ。


裕子は今の仕事に不満があるわけではない。
…というとちょっと嘘になるが、少なくとも自分の業務の大切さは自覚していた。
彼女自身、DSSバトルが好きだったし、それを成り立たせる上で、
視聴者の不満を解消することの大切さも認識していたからだ。

それでも、時々思ってしまう。
自分は、主役にはなれない人間だと。

別に、目立ちたいという願望があるわけでもない。
そもそも自分自身が、キラキラ輝く様なんて、想像できない。

それでも、自分の心にいいようのない負の感情が、
少しずつ貯まっていたことを裕子は自覚していた。
きっと、自分は普通に生きて、普通に死ぬのだということが、なんだか寂しかった。

三橋 裕子はVRカードを枯葉塚 絆に送付した張本人である。

裕子の人生において、絆は特異な人物だった。

あれは、裕子が教育実習で高校に赴任していた時のこと。
彼女は半ば強制的に弱小部の臨時顧問を押し付けられた。
そして、枯葉塚 絆はその部活のマネージャーだった。

不思議な光景だった。
裕子からみて、絆は優秀な学生だった。
彼女がサポートしている人物の誰よりも。

それでも、それが当然だというように、絆はサポートに徹していた。
表舞台に立つことがなくても、彼女はいつもニコニコしていたのだ。

裕子は自分が凡庸(モブ)な人間だと自覚していた。
才能も、能力も、ふつうな人間だから、(メイン)を張れないことも当然だと思っていた。
だからこそ彼女にとって、才能も能力もあるのに、端役(モブ)であることに疑問を抱いていない枯葉塚 絆は異様な存在だった。

しばらくの時をともに過ごして、三橋 裕子は枯葉塚 絆がアホであることに気付く。
彼女は、能力があるにも関わらず、自分がどういう役割になりたいかとか、そういうことに全く興味がないのだ。
もっと正確に言うなら、人任せに自分の役割を決めてしまう。
誰かにお願いされたことを、絆は躊躇なく全力でこなす。

裕子にとって、絆は端役(モブ)として同族意識もあり、
同時に自分よりも能力のあるゆえの嫉妬の対象でもあった。

カスタマーサポートのリーダーである自分にVRカードの配布権を与えられた時、
裕子の頭に初めに浮かんだのが枯葉塚 絆だった。
彼女なら、端役(モブ)のまま勝ち進んでくれるのではないかと、
ぼんやりしたままだって、優勝してくれるのではないかと信じた。
自分のような端役(モブ)にも夢を見させてくれると願った。

結果として、枯葉塚 絆はたしかに勝ち進んだ。
しかし、もう彼女は端役ではいられない。
魔王を殺してしまった少女として、彼女はすでに強い物語性を携えている。


==============
戦場地形『溶岩地帯』

枯葉塚 絆 VS 変幻怪盗ニャルラトポテト(本名 鳴神 ヒカリ)
==============


VR空間に到達してから数分で、
変幻怪盗ニャルラトポテトは枯葉塚 絆を発見する。
絆は鉄パイプを魔法の箒のようにまたがったまま、ふわーりと浮いていた。
奇襲してくれと言わんばかりの隙だらけだ。だが。

「…おい、アンタ大丈夫か?」
ニャルラトポテトは声をかける。

彼女が絆に声をかけるのは当然のことだ。
進道ソラを救うために"きちんと盛り上げて"勝利する必要があるし、
それ以前に、()()()の資質を持つ彼女にとって、
凹んでいる人間を助けることは当然だった。

「あー、君がニャルラトポテト君か。こんにちわー」
対する絆も、戦闘の意志を見せずにぼんやりと返答をする。

「お前…、その…、もしかして戦う気がないのか?」
「うーん、戦いたいわけじゃないというよりは、殺したくはない…かな…」
「そうか」

ニャルラトポテトは、仮に絆が奇襲してきても対応できる距離を取りながら、
それでも、心の底から彼女のことを想って言った。
「航空機の試合は私も見た。
 その上で言う。
 荒川 くもりを殺したお前は悪くなんかない
 アレは事故みたいなもんだろうが」

「ポテト君は優しいね。
 でも私はさ、これまでずっと、人生に保険をかけて、
 失敗しないことだけしてきたんだ。
 甘ったるくて、フワフワして、楽しいことだけをしてきた人間なんだよ。
 だから本当に"誰かを殺しちゃった"なんて、どう耐えればいいか分からなくって」

「…楽しく生きてきたことが悪いことな訳がないだろう」
ニャルラトポテトは、それなりに修羅場を潜り抜けてきた人間だ。
自身が幸せでない時間だって、それなりに。

だからこそ、幸せな人間を素直に肯定できるのことは、彼女の人のよさをそのまま表していた。
彼女は"敵"に対してすらハッピーエンドを求めることができる人間だ。

「…ポテト君に、私の気持ちなんて分からないよ」
めんどくさい彼女のようなセリフを吐く絆!

そんな絆の想いを知るために、ニャルラトポテトは能力を発動し、
絆の記憶をトレースした。


===

【回想はじめ】

「私、本当に人殺しちゃった…」

「…お前は悪くないだろう。
 復元機能を壊したのは荒川 くもり自身だ」

「たしかに、正当防衛だよね…!私悪くない…!」

「え、立ち直るの早…こわ…」

【回想おわり】

===

実際の荒川 くもりの顛末は第3ラウンド第6試合を参照いただくとして、
(頼む!いい感じに矛盾しない感じになっててくれ!!)
枯葉塚 絆自身はニャルラトポテトの力を借りるまでもなく、わりとすぐに立ち直っていたのだ!
ぼんやりの極致!

「お前!!とっくに立ち直ってたのかよ!!」
「バレちゃった!うん、ごめんね」
「そうか、()()()()()()よチクショウが!」

絆は、一瞬驚いた表情を浮かべる。
ニャルラトポテトは自分を騙していた対戦対手すら「幸せならそれでいい」とそう断言するその強さを持っているのだ。すごい奴だ。

うん、でもこれでいい。
だって今の私は主人公(ヒーロー)を倒す悪役(ヒール)だから。

「インストール、“La Amen”」
ニャルラトポテトは”アクトレスアクター”蜜ファビオ(https://www65.atwiki.jp/dngssc3/pages/59.html)に変身する。
"転校生"たる蜜ファビオはSSC3関係者の中でも随一のフィジカルを持ち、
なにより"演じる"というそのキャラクター性から、"TRPG"を持つニャルラトポテトとの相性も抜群だ!

圧倒的なフィジカルでポテトは絆に襲いかかる。
劇団四季衝!ダビデアッパー!宝塚神拳!

そのいずれをも、鉄パイプを繰りながら辛くも致命傷を割け続ける絆。
空中機動性能で何とか生存をはかっている状態だ。
このままでは絆はジリ貧で負けるだろう。だが。

「…でもこれで1時間がたった。、
 ()()()()の準備は整った!」
絆はどうして茶番を演じていたのか?防戦一方を許容していたのか?
それはもちろん、時間を稼ぐために他ならない。

突如として、溶岩から浮上する一人の戦士がいた。
彼の名は獅子中 以蔵(絆にプロローグで勝ったやつ)!

===

【回想その2はじめ】

「そういえば、どうして以蔵おじさんは私に協力してくれるの?」

「別にお前に協力したいわけではない…。
 俺はただ、C3ステーションを見返したいだけだ」

「…?」

「いいか、俺は鷹岡に怒っているんだよ」
鷹岡 集一郎、今大会の総合プロデューサーであり、
"勝利"よりも"面白さ"の方が大切だと断じた人物。

「俺はずっと、勝利にこだわってきた。
 俺だけじゃない、他のディーチューバ―(DSSバトル配信者のこと)も同じだろう
 なのに、アイツは勝利よりも盛り上がりの方が大事だって言ったんだ」

「あんまり勝ち方が面白くなかったんじゃない…?」

「うるせー!実際、あんまり勝つ気がない奴が結構いるじゃねーか!ふざけんな!
 …その点、お前はちゃんと勝つ気はありそうだなって思ってるんだよ!」

「うーん、正直私は別に面白ければいいと思うけど、
 まあでも、おじさんが言うなら
 "どんな手を使ってでも勝つ"ってので面白くするのを頑張ってみようかな」

「お前… マジふわっとしてるな…」

「えへへ。
 …それじゃぁ、いっこお願いできる?」

「…なんだ?」

「次の試合、おじさんと一緒に戦いたいな」

「フン、ようやく俺の力を使う気になったか」

【回想その2おわり】

===

絆が"武器"として一緒に転送してきていた獅子中 以蔵は
溶岩の中に耐熱フォームのまま潜むという苦行を強いられていたのだ!熱い!
しかし、その甲斐あって、"チャージ"はすでに完了している。
枯葉塚 絆、一人でも十分強いのに二人でとは!悪辣!

「はァ!?お前らマジ最悪だな!!」
叫びながらニャルラトポテトは一転して全力で逃走を図る。

「クソッ!インストール、《エンゼル・ジンクス》!」
ポテトは打開策を求めて恋語ななせの能力を発動しようとする!
だが!ななせは男の子になっていたのでポテトの能力発動は未遂に終わった!
「クソッ、しまった!」
ななせちゃん、本当にどうなってしまうんだ!気になる!

そして、その隙に獅子中 以蔵の超必殺技が発動!!
「アンリミテッド・フルチャージオーバーレイジウルトラビームアゲインストフューチャー改二!!!」
「ちょっお前ら、マジひど――」

1時間のチャージという制約と引き換えに、あたり一面を溶かしつくす以蔵の超最終決戦兵器が
ニャルラトポテトごと戦場を薙ぎ払った。

===

枯葉塚 絆 ○ - ● 変幻怪盗ニャルラトポテト(本名 鳴神 ヒカリ)

===

『獅子中 以蔵がこのように動くのは求めていませんでした。人気サブキャラに甘えすぎでは?』
『能力バトル好きとしては全く受け入れられない試合でした』
『自分勝手にやりすぎ』

三橋 裕子はため息をつく。
今日も多種多様な"お問い合わせ"を頂戴いたしております。
なにより、お問い合わせの多くは裕子自身も同意する部分が多かったのがつらい話である。

それでも。

裕子が勝手に自らの願いを押し付けた枯葉塚 絆は、
裕子の想いなど気にかけずに、
勝手に傷ついて、勝手に立ち直って、そして端役(モブ)からぼんやり悪役(ヒール)にクラスチェンジしてしまった。

当たり前だ。
誰かに端役(モブ)でいてほしいだなんて、あまりにも自分勝手な願いだった。
そして、誰もが成長したり変化するのが、このSSC3という物語なのだろう。
それはそれでいいか、と裕子は自分を納得させる。
だって、絆がぼんやりしていることは今もそのままだから。

きっと、もう一つの世界線では、いい感じに鳴神 ヒカリが枯葉塚 絆を素敵なハッピーエンドを導いてくれていることだろう。
でも、もっとふんわり元気になって、ふんわり頑張る可能性があってもいい。
…ダメかな?

『最後にいきなり作者の想いを語ってきたのが気持ち悪かったです』
新しく着信したコメントに
なにこれ意味わかんないなと笑いながら、三橋 裕子はどう返信するか思考を巡らせた。

<おわり>
最終更新:2017年11月12日 00:50