【第3ラウンド第2試合・その3】

(これまでのあらすじ・ロックンローラーは死んだ。だが、雑談スレは死んでいなかった……!)

2287年度・世紀末フードファイト大統領決定戦が始まって、既に三時間が経過しようとしていた。

世紀末でフードファイト?と思う方もいるだろうが、決闘者がどんな世でも決闘するように、フードファイターが戦えばそれはもうフードファイトなのだ。
ドントシンク、フィール。そういうことだ。

だが、世紀末においては食事にありつくだけでもかなりの努力を必要とする。餓死者が出ることも珍しくはない。
そんな環境でフードファイトをするためには、ルールの最適化が必要となった。

それこそが、今回初めて使われることとなった新ルール『スカベンジング・フードファイト』だ!

基本ルールは『大食い』、すなわちどちらが多く食べられるかの勝負である。
だが、運営は食料を用意しない。ではどうするか?
参加者が自ら廃墟を漁り、旧文明の遺食物を集め、そしてそれを用いてフードファイトをしようというのだ!
集められる食料は缶詰、保存食、よくわからない変異動物の肉など多岐にわたる。それらを集め、そして食う!

なんたる世紀末に根ざした自給自足のフードファイトルールか!筆者は感動を抑えられない!

そして今!
参加者たる狐薊イナリと支倉饗子は、廃墟の中で食料を探しているのだった!




38: はっしー :2017/11/12(日) 00:23:23


「のじゃー、のじゃー」

世紀末名物、ミュータントのじゃロリの鳴き声が響く。
彼らは降りしきる放射性廃棄物によって突然変異を起こしたのじゃロリの成れの果ての姿であり、この世紀末においてはポピュラーなタンパク源である。

だが侮るなかれ。彼らはただののじゃロリではない、突然変異したミュータントのじゃロリなのだ。当然、ただののじゃロリにはない特異な生態を持つ!

「ロリー、ロリー」

な、なんということか!ミュータントのじゃロリはのじゃだけでなくロリとも鳴けるのだ!
これでのじゃロリ濃度は二倍!突然変異が引き起こした奇跡が、そこにはあった!

その時!

「ヒャッハーー!!のじゃロリ狩りだぜェーーッ!!!」
「のじゃーっ!?」

モヒカン・のじゃロリハンターだ!髪型がモヒカンで凶悪!

「ヒャッハハハーーッ!喰らえやーーッ!」
「のじゃーっ!のじゃーっ!」
「大漁だぜェーッ!ヒャーッハハハーーッ!!」

哀れなミュータントのじゃロリ達が、モヒカンの持つテニスラケットで捕獲されていく!
だが、これも世紀末で必死に生きる人々の暮らしの姿なのだ!
我々文明人に、どうしてこの光景を責めることができようか!?いやできるはずがない!

「待てえーーい!待つのじゃーーーっ!!」

その時!一人の少女が廃墟の陰から現れた!

その髪はキツネ色、その目は緑!そして輝くのじゃロリソウル!
何を隠そう、彼女こそDSSバトル参加者・狐薊イナリその人(AI)だ!
彼女はフードファイトに使う食料を探す中、こののじゃロリ虐待現場に遭遇し、我慢できず飛び出したのである!

「のじゃロリを虐めるのはやめるのじゃ!モヒカン!」
「なんだァ、てめぇ」

モヒカン、キレた!
テニスラケットを振り上げ、イナリに迫る!

「なにおう、来いっ!エクス……カリバーーーッ!!!」

イナリも対抗してデータキューブからエクスカリバーを呼び出す!
黄金に輝く剣が出現!貴方が私のマスターか!

ガキィィィン!ガシィィィン!

打ち合うテニスラケットとエクスカリバー!その力は互角!

「くっ、さては貴様ただのモヒカンではないな!なにやつ!?」

激しいサーブの連続を捌きつつ、イナリが問う!
対するモヒカンは余裕の表情!やはり只者ではない!その正体は!

「へっ、よく気づいたな!その通り、俺はただのモヒカンじゃあないぜ!俺は」
「のじゃー、のじゃー」
「俺は何を隠そうあの」
「ロリー、ロリー」
「何を隠そうあの地下シェルターの」
「のじゃー、ロリー」
「うるせーーーッ!!!テメーら黙っとんかい!!!」
「のじゃーーっ!?」

モヒカンの標的がミュータントのじゃロリに移る!
そして、その隙を逃すイナリではなかった!

「食らうのじゃーッ!エクスカリバー……ッガラティーーーン!!!」
「うっウワァーーーーーッッッ!!?」
「のっのじゃーーーーーッッッ!!?」

エクスカリバーからエクスカリバー光線が発射!
モヒカンとミュータントのじゃロリは星の光になった!あばよ、ダチ公!

「ふう……強敵だったのじゃ」

力尽きるように、地面に倒れるイナリ。
手に持ったエクスカリバーが灰になって、荒野の風に飛ばされていった。
百戦錬磨ののじゃロリたる彼女にとっても、今回の戦いは厳しかったのだ。

「というか、マジで何者だったんじゃあのモヒカン……」

その答えを知るものは、もうこの世にはいなかった。




ついに、スカベンジング・フードファイトの時間がやってきた。

支倉饗子の前には集めに集めた缶詰、保存食、よくわからない変異動物の肉が山と積まれている。
この短期間で集めた量としては異常だが、それには秘密がある!
それは、彼女の能力……1回戦と2回戦でやってた、あの、あれ。増えるやつ。あれを使って集めたのだ!筆者はあんまり好きじゃないネタだ!

かえってイナリは!?
彼女の前には小さな袋がひとつだけ。
フードファイターからすれば一食分にも満たないそれが、イナリの集めた食料の全てだった。

一体なぜこんな事に!?
その理由は簡単、モヒカンとの戦いで力を使い果たしてしまい、食料集めに使うだけの体力が残っていなかったのだ!
ああ、ミュータントのじゃロリを助けたばっかりにこんな事に!なんという運命!
だが、彼女はそれを悲観してはいない!人助けをして窮地に陥るのは、騎士にとってはむしろ名誉である!

しかし、これでは勝負にならない!支倉が勝ったも同然だ!
狐薊イナリは、このまま敗北を喫してしまうのか!?

その時!

「あの、提案があるんですけど」

支倉が声をあげた!

「これだとイナリちゃんがあんまりにも可哀想ですし、私の食料を分けてあげても」

な、なんと!彼女は自分の食料をイナリと分けようと言うのだ!聖女か!

「え、えっ!?いや別にいいのじゃ、気を使わなくても!」

慌てるイナリ!それもそのはず、はっきり言って、彼女には支倉が集めた食料の1割でも食べ切ることはできない!貰ってもありがた迷惑だ!

「いえ、みんなで食べた方が美味しいと思いますし、分けましょう!」

だが支倉も引かない!その言葉はすべて善意でできている!
なんだこいついい奴じゃん!筆者も見直した!

イナリと支倉が譲り合い宇宙(そら)を始める中、審査員によって協議が進んでいく。
そして……結果が出た!

『食料を分けるのは不可、全部交換なら可』

「「ええーーーーーッッッ!!!?」」

その判定に、全選手(2名)が涙した。




現在、イナリの前には支倉が集めに集めた食料の山がマウンテン存在していた。

そして、支倉の前には、小さな袋がひとつだけ、存在していた。

選手は、みな泣いていた……。

そうして準備か整った後……ついに、フードファイトが始まろうとしていた!

世紀末には、時計などと言う気の利いたマシンは無い。
フードファイトの開始時間は、東の空から太陽が出た時だ!

イナリが、支倉が、モヒカンがミュータントのじゃロリが、東の空、地平線を見つめる。

そして……日が、昇った!

「もっきゅもっきゅ、もっきゅもっきゅ!」

凄まじい勢いで食べ始めるイナリ!ここまで来たら、もはや皿まで食う心持ちだ!

缶詰の赤飯を、レトルトの赤飯を、そしてよくわからない変異赤飯をかっ喰らう!
赤飯しかないのかこの世紀末には!

対して、支倉は!?

「そっそれはワシの種もみ~ッ!?」
「えっそうなの、おじいちゃん!?」

支倉は、謎の老人に絡まれていた!

彼の名は種もみの老人!何を隠そう、小さな袋の持ち主だ!
実はイナリがモヒカンから奪った小さな袋は、モヒカンが彼から奪った種もみだったのだ!

「おお、それはまさしくワシの種もみ……見間違えるはずもない、そのふぐりのような姿……」
「なんてこと……でも、私はフードファイトしないと」
「待って、待ってくれ!今食べてはそれまで。だが種もみを植えれば、来年も、再来年も米にありつけるのじゃ……!」
「そ、それは……」

支倉を説得にかかる種もみジジイ!フードファイトとジジイの間で揺れる支倉!本当にこいついい奴だな!

そんな間にも、イナリは食べ続ける!

「もっきゅもっきゅ、もっきゅもっきゅ!」

だが、ここで想定外の出来事がイナリを襲った!

「もっきゅのじゃ。のじゃ、のじゃ……」

赤飯が、思っていたよりもおなかに溜まってきたのだ!
少し考えればそれも当然。赤飯に使われるもち米は通常の米に比べて粘度が高く、そのぶん咀嚼を要求される。
つまり、多く噛む分たくさん食べたような気になってしまうのだ!
満腹感がイナリのAI脳を襲う!

一方、支倉は!?

「だが種もみを植えれば、来年も、再来年も米にありつけるのじゃ……!」
「そ、それは……」

その話まだ続いてたの!?
駄目だ、話に夢中になって周りが見えていない!
そんな事ではフードファイトに勝てないぞ、支倉饗子!

「もっきゅのじゃ、のじゃもっきゅ、うう
……」

イナリの食事ペースが目に見えて落ちている!限界が近い!
だが、負けるわけにはいかない!散って行ったミュータントのじゃロリ達のためにも!

そして!

そして!!!

「も、もう食べられないで、ヤンス……がくっ」

フード・ノックアウト(食い過ぎによる気絶のこと)!!!
狐薊イナリの気絶により、支倉饗子の勝利が決定した!

「だが種もみを植えれば、来年も、再来年も米にありつけるのじゃ……!」
「そ、それは……」

いい加減その会話止めろよ!




薄暗い部屋の中で、阿久津海斗はイナリの試合を観ていた。

そして、試合終了後。
彼は、頭の中に渦巻く困惑、疑念、陰謀、その他色々な感情を、一つの言葉にまとめた。

「……なんじゃ、こりゃあ」

それは奇しくも、『太陽にほえろ!』で松田優作演じるジーパンが殉職した時のセリフと、同じものだった。



【勝者・支倉饗子】
【決まり手:フード・ノックアウト】

(おわり)
最終更新:2017年11月12日 02:42