狭岐橋憂 幕間『プレゼント作戦』

憂は恐ろしいことに気付いてしまった。
それは彼女が現在想いを寄せる男、“スパンキング”翔についてのことである。

DSSバトル第1ラウンドにおいて、彼女は自身の作戦ミスによってあわや墜落という所を対戦相手の翔に救われた。
それはいい。それこそが惚れる最初のきっかけになったわけだし。
しかしその後、第2ラウンドにおいて翔は露出卿(女性)と対戦。
卿のお供の少女(女性)の仕掛けた罠による古城の崩壊から、翔は2人を助けた。
さらに第3ラウンド、翔は野々美つくね(女性)と対戦し、なんか戦いの手助けをしたらしい。

これは最近流行りのアレではないか?
プロローグまでは女っ気も無かったのに、物語が始まると圧倒的な優男っぷりで女の子を次々と落としてゆく。
すなわち『ハーレム主人公』!
そうだ、翔はその素質を持っていたのだ!
きっと他の3人も翔に惚れているに違いない!(憂ちゃんの想像です)
しかもそのうち対戦者の2人は翔と同じく武の道を志す者である。
通じ合うものがある可能性は高い。
まずい!
かなりまずい!
メインヒロイン(最初に落ちた子)としてもっとアピールの機会を増やさなくては!



「で、なんで僕なのさ」

そういう訳で憂が相談相手に選んだのは、第2ラウンドで戦った恋語ななせであった。
その戦いで色々あったものの、現在彼女たちの仲がどうなってるかとかは幕間なので深く考えないことにする。

「他に好きな人がいるんでしょ?」

つまりライバルにならないということ。
恋愛相談では重要である。
まあ実際はななせは「他に」とは言ってないので、『その2』が正史になったら衝撃の事実が明らかになるかもしれない。
その場合「妹」もきっとライバルに違いない!
『その1』が正史の場合は大丈夫だが。

「それに、男の子の気持ちも分かると思って……」

自然と憂の視線が下がる。
ななせは割とシャレにならない目付きで凄んだ。

「絞めますよ?」

「ゴメンナサイ」

しゅんとする憂を前に、ななせは溜息をついた。

(そもそもアピールの方法なんて知ってたら僕自身『おまじない』なんかに頼ってなかったよ……)

なので回答は当たり障りの無いところに落ち着く。

「物で釣る……って言うと言い方悪いけど、プレゼントなんか贈ってみたらどうでしょう?」

「なるほど! 恋語さん、ありがとう!」

憂は一気に笑顔になった。
そのはしゃぎように、「そんなに名案言ったかな?」と首を傾げるななせであった。

憂が向かったのはデパートの衣料品売り場であった。
翔へのプレゼントとして真っ先に思い付いたのがふんどしである。
ぶっちゃけ異性からいきなり下着贈られたらどんなに好感持ってる人でも若干引くと思うのだが、その辺りは憂の頭には無かった。
まあ翔も翔で全く気にせず受け取る姿が目に浮かぶのであんまり問題ないだろう。
今は「クラシックパンツ」と称してふんどしのレパートリーもそれなりにあるらしい。
色、柄、生地。
吟味に吟味を重ね、「これだ!」と思った一品をレジに持っていく。
すると会計の前に店員にこんなことを言われた。

「こちら男性用になりますがよろしかったでしょうか?」

「女性用もあるんですか!?」

思わず聞き返した。

「ええ、あちらのコーナーになります」

店員は丁寧にも場所を教えてくれた。
即答で拒否! ……しかけて思い止まる。
憂の頭には勝手にライバル認定した一人、野々美つくねの姿が引っ掛かっている。

(あの子だってまわし着けてるんだから……負けられない!)

それは力士への変身のためなのだが、憂には関係なかった。

「お下着の上からならご試着もできますが」



そんなこんなで試着室。
憂の手にあるのは翔のために選んだのと同じで一回り小さなもの。

(ふふ、おそろいだ……)

どうしようこの子ちょっと怖くなってきた。
ストーカーとかになりませんように。
パッケージ裏の説明を読みながら憂はふんどしを巻いていく。
越中ふんどしなので割と簡単。
それに、憂独自のメリットもあった。

(あ、これサイズ調整できる!)

憂は変身のとき体格が変わるが、衣服までは一緒に変わってくれない。
そのため変身することをあらかじめ決めている日は、ゆったりした服を着たりスカートだったりノーブラだったりする。
しかしパンツだけはそういうわけにはいかない。
お尻も大きくなるので結構キツキツなのだ。

そんな説明をしてて今気付いたけど羽の所どうしてるんだろう。あんまり考えてなかった。
まあそこは魔人能力なので、四次元的な何かで服に穴を開けずに背中から羽を出す方法があるのだ!
としておこう。

それはともかく。
ふんどしの着け心地は意外と悪くなかった。
今はパンツの上からなので実際に下着として着用してみるとまた違うのかもしれない。
しかしそれを言っても始まらない。
憂は自分用、プレゼント用の合計2点をレジまで持っていった。

「お買い上げ、ありがとうございます!」



その後、憂は翔を呼び出し、無事プレゼントを渡すことができた。

「翔さん、これ、あの時のお礼です」

もちろんそれはどれだけ返しても返し足りないのだが、よく考えるとプレゼントを贈るには口実が必要だったのでそう繕っておいた。

「あ、ああ、全然気にしないでいいのに」

翔の方は翔の方で見返りなど求めていなかったが、受け取らないというのも不誠実そうなので受け取った。
そうして渡したところまではよかった。
しかし会話が続かない。
側で見ていた通りすがりの一陣の風さんが、2人を見かねて親切にも話題を提供してくれた。

「きゃあっ!」

すなわち、憂のスカートをまくりあげた。
はためくふんどし。

(ど、どうしよう、おそろいだってバレちゃう!)

憂はあくまで自己満足のためにおそろいを買ったのだ。
翔に見せるつもりなど全く無かったのである。
今は包んであるためにプレゼントの中身は分からないが、それも時間の問題。

「憂ちゃ……」

「バカーーーーっ!!」

混乱しきった憂は、翔にビンタして去っていったのだった。
まるでラッキースケベで主人公のせいじゃないのに主人公に八つ当たりするヒロインのように。
最終更新:2017年11月18日 02:07