これは、いわゆるDSSバトルが始まるよりも少し前の話。
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俺と飛鳥の甘々な安息、その締めくくりの就寝タイム。
あいにく100万ドルを積まれてもその仔細を語るつもりはないが、
(逆に聞くが、お前らはそこまでしてバカップルの体験談を聞きたいか?
聞きたいんなら裸になって『だんげろだんげろ』と唱えな)
飛鳥なら今俺の横で完全にとろけて寝ているぜ。
「はにゃーん……」
普段、探偵として様々な相手と対峙し、退治してきた飛鳥だが――
この時ばかりは無防備上等、完全にリラックスしている様子だ。
そんな飛鳥の寝顔を眺めながら、俺は飛鳥と初めて出会ったときのことを、ふと思い出す。
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さて、そういえばなんだかんだで自己紹介が済んでいなかったな。
俺の名は天問地文。
銀天街飛鳥の『共犯者』だ。
俺の能力は『地の文からの空襲(エアレイド・フロム・アンダーグラウンド)』。
一言で言えば地の文を操る能力、ということになるが……
それは今俺が降り立っている、飛鳥のいる世界から見た場合の話だ。
もう少し厳密に言うならば、『下層世界に自在に干渉する能力』といったところか。
地の文として振る舞うことで、世界を書き換える能力。
イメージとしては箱庭遊び、が一番近いかな。
箱庭の中の街や人に、手を伸ばして掴んだり動かしたり――壊したり。
余談だが、一応できないこともある。
1つ、『既に書かれた過去を書き換えることはできない』
2つ、『モノローグを読めない』
他にもこまごまとした制約はあるが――
それ以外なら、地の文として『嘘』もつけるし、逆にホラ話を現実にもできる。
……そんな万能性を手に入れたら、色々と試したくなるだろう?
言っちゃなんだが、俺にとっての『現実』は、あまりにもつまらないものだった。
まあ、よくある底辺労働者の暮らし向きを、もうちょっとだけ悲惨に報われないものにしたものだ、と理解してくれりゃそれでいい。わからない奴は幸せ者だ、そのままでいろ。
……ともあれ、だからこそ、俺はこの『箱庭』に憂さ晴らしをしていたのだと思う。
だが、なんでもかんでも思い通りってのは逆に面白みを削ぐことだということも、俺は思い知らされた。
建物を壊しても、物品を盗んでも――人命を奪っても。
面白い、はすぐに麻痺して削れていく。
憂さ晴らしのつもりが、それにさえ倦んでいく。
そんな中で、俺は飛鳥に出会った――
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「犯人は、天上――いや、この世界の理の外側にいる、ってところかな」
俺が戯れに起こした盗難事件(確か、アレキなんちゃらとかいうデカい宝石を盗んだ気がするが――忘れた)の捜査に、当時まだまだ駆け出しの銀天街飛鳥が乗り出してのたもうたセリフがこれだ。
無論、現場の捜査員にはゲラゲラ笑われたが――それを外側から見ていた俺は、ドキリとした。
下の世界で、初めて俺の存在に気づき、辿り着いた――犯人であることを見抜かれた動揺だったのかもしれないし、あるいは歓喜だったのかもしれない。
それからというもの。俺が事件を起こす度、飛鳥は嗅ぎつけて現場に現れるようになった。
手口も変えてみたり、ミスリードもバラ撒いてみたり、スケープゴートも用意してみたり――その度に、飛鳥は綺麗さっぱり俺の存在を看破してみせた。
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「やあやあ、天上人くん? 今度はまた随分チープな仕掛けだったねえ。
力任せではなく、もう少し知恵も絞り給え。探偵には脳細胞へのストレスが必要なのさ」
やがて、飛鳥は――周囲には独り言にしか聞こえない、俺への呼びかけを始めた。
その口調や表情は、俺の存在を疑いもしていない――自信に溢れた、銀の天使のようだった。
「しかし、君は優しいね――」
? 優しい、だと? 俺が?
……あいにく、そんな言葉をかけてもらう資格はない。
この箱庭で、俺はお前の知らない無法も働いている――
「私が関わる前がどうだったかは分からないが、私が関わってから――
一件も、君が関わる殺人事件を見ていない」
……それは、確かに。飛鳥が俺の存在に気付き始めてから、色々手を変え品を変えて事件を起こしてはいるが――殺人は、していない。
「だから、私は安心しているのだよ――姿も声も、証拠一つまともに残さない犯罪者であっても、君は本当は優しい人物だ。
できうることならば、自首を勧めたいところだけれども。天上人では、収監のしようもないからねえ」
だから、私にできるのは――君のいるところに馳せ参じて、ちゃんと君を見ている、と教えることだけだよ。
そう呟いて、事件現場から飛鳥は颯爽と去っていった。
俺が起こす事件以外にも、事件は起こり続けているのだから。
そして、その数時間後。
銀天街飛鳥と俺は、ついに“出会う”こととなる――
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「……」
港に面した、あからさまに長年マトモな用途で使われていないのが丸わかりな倉庫の一つ。
その中で、銀の駆け出し探偵が紅の中に沈んでいた。
「……」
ひゅうひゅう、と気管が隙間風を立てる。まだ、かろうじて生きている。
その周囲には、粗末な檻の残骸と、床のあちらこちらに転がる肉塊が数個。
――俺が、殺した。
経緯を説明すると、こうだ。
いわゆる人身売買のヤマを追って、被害者を救うべく駆けつけた銀天街飛鳥を待ち受けていたのは――卑劣な罠だった。
被害者――否、被害者役の殺し屋が毒ナイフで不意討ちをカマしてきて、飛鳥はとっさに『世界二位のCQC使い』となって対応したが――それ故に、伏兵どもの銃撃を防げなかった。
銀の銃弾ならぬ、無粋な鉛玉をその身に数発受けた女探偵は倒れ込み――
それを見た俺は、沸き上がる感情を抑えきれぬままに、銃撃者と暗殺者を諸共に虐殺した。
地の文として振る舞える以上、俺が『銃撃者は死んだ』と言えばそれだけでカタがつく。
尤も、死に様を見る限り――俺は相当、残酷になっていたようだが。
「……みて、るのか」
口から血の泡を零しながら、飛鳥が口を開く。
頼む、それ以上喋るんじゃない――!
俺は、矢も楯もたまらず、飛鳥の元へと降り立った。
「……死ぬな。頼む」
冷たくなっていく飛鳥の手を取り、必死に懇願する。
それが無駄だとわかっていても、俺はそうするしかなかった――
「……はは、やっと、つかまえたね」
弱弱しい声で、しかし飛鳥はそう言って微笑んだ。
「……馬鹿野郎、命と犯人、どっちが大事なんだよ……!」
「……どっちも、さ。
しかし、まさか本当に、会えるとは――触れ合えるとは、思わなかった」
「もういい、もういいから喋るな! お願いだから――」
俺のことを見てくれていた、あの美しい銀色が、赤くくすんでしまう。
その後に残されるものを思うと、怖くて怖くてたまらなかった――
「いや――本当に、ありがとう。おかげで、命を繋げるよ」
「……え?」
その時の俺がどんな間抜けな声で返事をしたのか、いささか思い出したくないが――
俺が降り立ったことで、飛鳥の『比較対象』が生まれ。
飛鳥は即座に『世界二位の自己再生力』を発揮して、瀕死の重傷から生還したのだった。
「――そして、本当に、すまない」
みるみるうちに傷が癒えていく飛鳥だったが――もう一つの傷は、そうはいかなかった。
俺がつけてしまった、心の引っかき傷は。
「私のせいで、君を――殺人者に、してしまった」
――ぽろり、と飛鳥の瞳から銀の雫が一粒、零れ落ちた。
「……気に病まないでくれ。これは、俺の罪だ」
長らく越えなかった、一線を越えた。それは、揺るぎのない事実だった。
「いいや。私を救うためにやったのなら――私の罪だ」
口元の紅と、目元の雫を拭いながら。探偵見習は、静かに、厳かに宣言した。
だが――俺は折れる訳にはいかなかった。
俺が折れちまったら、こいつは――銀天街飛鳥は、ただの人殺しとして終わってしまう。
俺のせいで。俺ごときのような、くだらない人間のせいで!
それだけは、まっぴらごめんだ。
「――罪の償い方は、一つじゃないだろう。
これがお前の罪だと言うのなら、今死んだこいつらの分――その分も他の奴を、探偵として救えよ!
世界二位の才能があるんだろう!?なら、刑務所で燻るんじゃねえ!現場で輝けよ!
それがお前の、お前にしかできない償いだろうが!
こんなちゃっちい罠なんか蹴散らして、犯人を一網打尽にできるような!
下らない連中の企みを正面切って叩き潰せるような!
どんな逆境にも折れず曲がらず挫けない、そういう探偵に!なってみせろよ!」
でなきゃ、俺が命を救った甲斐がないじゃねえか――!
たぶん、そのとき俺は泣いていたのだろう。みっともなく、声の限り、ガキのように。
だが、その言葉は飛鳥の胸を打った。言葉が届いた。
地の文としてではなく、一人の男、天問地文としての言葉が。
「……そう、だね。
経緯はどうあれ君に救われた命、私の好き勝手で散らしていいものではなくなってしまったのも道理だ。
いいだろう、君の望む通り――探偵として、生き恥を曝し続けてやるさ」
飛鳥もまた、目から涙を溢れさせながら――しかし、さっきまでとは質の違う、決意のこもった涙だ――力強く、頷いた。
「……こちらからも一つ、いいだろうか。
これから私は君のことを、共犯者と呼ばせてもらおう――異議は認めないぜ」
こうして、俺と飛鳥は――共犯関係になった。
共犯関係が、男と女の仲になるのは、もう少しだけ先の話だ――
(プロローグ0:終。プロローグに続き、そしてどこかに続く)