「おぉー、ようやくお目覚めですか。思ったより時間がかかりましたねぇ、先輩?」
僕が目を覚ましたのは、白い部屋の、ベッドの上だった。
頭が痛い。記憶も所々飛んでいる。そして何より、身体が上手く動かない。
「えぇと、僕は――」
「おっと、動かない方がいいと思いますよ、先輩。何と言っても、施術が終わったばかりですから。身体にまだ違和感が残っていると思います」
「……うん」
その通りだ。違和感が体の中に渦巻いている。気持ち悪い。
なんというか、なんだろう。上手く言葉にできない。
「……僕は、何を?」
「安心してください、先輩は何もしていませんよ? ある意味、それは幸運が重なった結果でもありますが――おっと、すみません。これはこちらの話です。気にしないでください」
そう言われると、気になる――が、三千院は、こういう時にはテコでも言ってくれないヤツだ。押しても無駄だろう。
「……水が欲しいな」
「おや、もう生体機能が動くとは。さすが先輩ですねぇ。感服ですよ」
どうぞ、と言いながら、三千が紙コップに入れた水道水を僕の方に手渡してくる。
僕は、それを取ろうと手を差し出して――気づいた。
自分の掌が小さい。
否、それだけではない。腕も、細くて短い。
「……っ!?」
「おや、どうやら気づいてしまいましたか。本来、もっと落ち着いた後にこちらから教えて差し上げるつもりだったのですが――仕方ありませんね」
三千が、紙コップを離すと、胸ポケットから取り出した手鏡を、僕の目の前に差し出した。
そこに映っていたのは、僕自身の、疲れ切ったような顔ではなく――
「ごめんなさい、先輩。先輩を助けるためには、これしかなかったんですよ」
僕が一番大切に思っていた少女――阿久津ミカ、そのものだった。
■ ■
「いやはや、『魂虫』の実験は成功、と。賭けではありましたが、成功して良かったというかなんというか――」
三千院三千は、夜の街を闊歩する。
『魂虫』。それは、他人の魂を肉体から取り出し、移植する魔人能力――《魂喰らい》を持つ虫である。当然、そんなものが自然にいるわけはない。そんなものが存在し得るのは、当然、三千院三千の魔人能力によるものだ。
そう――《燦然たる三千、三千にして未知》。それが、三千院三千の魔人能力。『人間以外の存在に、魔人能力を持たせる』能力。それがあるからこそ、彼女は、なんでも屋として、魔人とのコネクションを大量に持つことが出来ているのである。
「まぁ、そこは良しとしましょう。支倉饗子――『キルイーター』も、どうやら先輩の身体の中にはもはやいないようでしたし」
そう、海斗の魂を取り出した後の肉体は、伽藍堂だった。
何もなく、そして、ただただ虚無だけがあった。まるで死体のように。
「さて――他人の話まで盗み聞きとは。お久しぶりです。流石、変幻怪盗様、といったところでしょうか」
くるり、と三千が振り返る。
その目線の先に居たのは――鳴神ヒカリ。別称、変幻怪盗ニャルラトポテトだ。
「こっそり尾行したつもりなんだけど……いつからバレてた?」
「いえいえ、ついさっき気がついたばかりですよ。だいたい、私があの部屋を後にしたあたりからでしょうか」
「……全部じゃないか」
おや、そうでしたか。ならば不肖私、探偵でも始めてみましょうかねぇ――と、何時ものように張り付いた笑顔で応対する三千。
その目は――目線こそ鳴神に向いてはいるが――本質は何も見ていない。
「さて、立ち話は短めに、というのが私のモットーでして。用もなしに話しかけて来たわけではないのでしょう?」
「……話しかけてきたのはそっちだけど」
「おっと、そうでした。まあしかし、尾行しているということは何か用があるというのにあながち間違いはないのでしょう。私、これでも何度か尾行の経験はありましたからねぇ。追う方も、追われる方も」
ふふふー、と三千が笑う。
「……一つだけ聞きたい。進藤美樹が死んだことについて」
「――ほほう。そうなのですか。私の知らない情報を持っていらっしゃるとは。さすが怪盗――」
「惚けるな。これだけ魔人とのコネクションを持っていて、知らない訳が――」
「落ち着きましょう? まあ単に私、又聞きの情報を信用しないタイプなのですよ」
――やはり、惚けるか。
ギリ、と鳴神の歯が軋む。
鳴神にとって、彼女――三千院三千は、嫌悪の塊のような存在だ。以前一度会った時、何時もの癖で能力を使って酷い目にあった。
こいつは、闇の塊だ。誰とも相容れず、ただ一人、孤独に笑う者だ。
「ふふふ、安心してください。私は先輩以外をいたぶる趣味はありませんよ。――真実を言ってしまえば、貴方の想像は概ね、半分正解、半分不正解といったところでしょうか」
「半分、不正解?」
「そう。私は進藤美樹の殺害について、直接的に手を下したわけではありません。ここが、いわゆる不正解の部分です。逆に、これだけ複数の魔人とのコネクションを持つ私が、その件について『全く』関与していないわけがありません。直接接触こそしていなくとも、指示くらいは出せますからね。これが、いわゆる正解の部分ですよ」
つまり、『関わっていても明言はしない』ということですよ――と、三千はまた笑う。
「さて、話はこの辺りにしましょう。これ以上は私も喋りませんし――いえ、一つだけ、貴方に渡す物がありましたか」
「渡す――っ!?」
鳴神が口を開くが早いか、三千がなにかを鳴神の方に放り投げる。
慌ててキャッチしてみると、それは。
「……鍵?」
「ええ、駅前の貸し倉庫の鍵です。明言はできませんけれど、きっと、次の試合で役に立つであろう者が入っているとだけ」
「役に……待て、もっと詳しく――」
鳴神が、慌てて顔を上げ、前を見る。
――そこにはもう、誰もいなかった。
■ ■
――VR戦場。病院。
「と、いうわけで! 『NPCとはいえ病人を巻き込みたくないから外で戦う』、という提案の結果! わらわたちは病院前のひろーい運動スペースに居るのじゃ!」
「……誰に喋ってるの?」
「カメラに向かって状況説明じゃな!ここから見た視聴者もいると思うのじゃ!……あっ、カメラこっちじゃなくて逆じゃった!ぐわー!」
お互い、数メートル離れた位置で準備体操中のイナリとポテト――もとい、鳴神ヒカリ。
ちなみに、イナリはさっきまで「病院といえばナースじゃな!」などと言ってナース服&巨大注射器ルックだったのだが、あまりの動きにくさと場所チェンジの影響で、いつもの和服に戻していた。――「ナース」「AI」「巨大注射器」で何かを連想した人もいるかもしれないが、それとは全然関係ないので、悪しからずなのだ。
「――で、どういうルールで戦う? 前やってたみたいに鬼ごっこでも良いけど?」
「む? 別に普通に戦えば良いのではなかろうか?」
「……いやぁ、そう言われちゃそうなんだけど」
実際、イナリ相手には鳴神の能力は比較的相性が良い。相手の手に合わせた姿に変化すれば、常に有利を取って戦うことも不可能ではない。
だからといって、正面から突っ込むのは愚策だ。イナリは――今のところ片鱗すら見せてはいないが――単純戦闘でこそ輝く能力を持っている。
成長。『自己変革アルゴリズム』である。
一撃で殺し切らなければ、次には同じ戦法が通用しなくなっている可能性もある。その点で考えれば、まともなバトルは即死以外に勝ち目がないとも言える。例えば、過去の戦い――というか鬼ごっこであるが――で見せた【プログラム:オートリペア】は、体力を自動回復するプログラムであり、それを含めて防御プログラムで固められれば、持久戦に持ち込むことも彼女には容易だろう。
だからこそ、ここは慎重に行かなければならない。『エンゼル・ジンクス』で強制勝利することも策には入るが、それでは人気が取れない。ワンサイドゲームは面白くないの理論である。
つまり、イナリ本人を十全に即死させられる火力を持ち、しかもこちらの身を守ることが出来、見た目も派手で、かつ『イナリ化』に対応できる策。
「……あ、あるじゃん」
「? 何がなのじゃ?」
「ああ、いや、何でもない。すぐ分かるから」
よし。彼女に対しては一度使われた策だが、しかし対応している様子はなかった。本来は別のヤツに使おうと思っていたんだけど、まあもう当たらないし使ってしまっても問題あるまい。それに……あいつよりは、自分の方が上手くできる自信はある!
「それじゃあ、始めようか――インストール、《金属曲げ》!」
枯葉塚絆の――魔人能力。
だが、今回の目的は単純な金属操作ではない。枯葉塚絆対イナリ戦において、とてつもない印象を残した技。
ゴーレム――機械人形の作成を行うのだ!
右脚。左脚。腰部。胴体。胸部。右腕。左腕。首――そして、頭部。
そして、出来上がったゴーレムは――
「ふっふっふー、これが対G(ゴメス)専用超大型機動人型搭乗兵器!」
「あ! 絆おねーさんの……に、近いヤツなのじゃ!」
そう。これは絆の作ったただの金属ゴーレムとは一味も二味も、或いは七味も違う。
「颯爽登場!変幻怪盗!これが変幻装騎、『ニャルガライザー』だっ!」
ニャルガライザー。対ゴメス用に構想していた、巨大スーパーロボットだ!
黒を基調にした暗色系のボディはすらっとした細身タイプ。例えるならば、エヴァンゲリオンやファフナー、サイバディなどに近いスタイルであり、所々に鳴神の趣味っぽいロゴが見える。
そして何より、近頃のロボットアニメっぽく、ぬるりと動きそうな外見!
ああ、今からでもここにゴメスを連れて来たい!
「すごいのじゃ! カッコいいのじゃぁ!」
イナリ、テンション爆上がりである。
ちなみに、言わなくても分かっている人は多いだろうが、イナリはアニメ好きである。その中でも、ロボットアニメはかなり好きな方なのだ。
そんなイナリが、見ているだけで終わるわけがないのであった。
「――よぉし、わらわもやるのじゃっ! えい!」
【プログラム:金属曲げ】。枯葉塚絆の魔人能力を元に作られた、金属操作プログラムである。当然、同じことが出来ないわけはない!
ガシャン。ガシャン。ガシャン。と、周囲の地面やら建物やらから無理やりぶんどって来た金属が、巨大な人形を作り出していく。触れていなくても能力が使えるのは、このプログラムが本来の能力と違い、【プログラム:イナライズ】の派生能力に当たるからである。ちなみに、先程の鳴神のものも同じ原理だ。
そして、もう一体の機動兵器が、地に足をつけて立ち上がる。
白のボディに金のライン。狐感溢れるそのロボの名は!
「とくと見よ!これがわらわの愛機!電脳機星、イナリオンじゃぁっ!!」
説明しよう!
電脳機星 イナリオンとは、イナリの【プログラム:金属曲げ】によって作られた巨大金属製人型搭乗兵器である!
その胸部に搭載されたコア・エネルギー・ユニットには、大気をイナリ化することでエネルギーを溜め込んだ、通称『INA粒子』が充填されており、それを燃焼させることで、イナリオンは駆動するのだ!
ちなみに、イナリオンは、細身のニャルガライザーと比較してもかなりゴツめの体型だ。例を挙げるならば、マジンガーZやゲッターロボ、或いはグレンラガンのようなタイプの巨大ロボだといえるだろう。
「へぇ、巨大ロボ対巨大ロボと来たか!流石に何も成長してないってわけじゃないんだね!」
「当然なのじゃ!わらわも、このバトルで遊んでいただけではないのじゃぞ!」
いや、大体遊んでいただけである。
閑話休題。
二機のロボットが向かい合って立っている。かたや漆黒の機体、かたや純白の機体。
白と黒、まさに対極的対局と言えるだろう!
「さて、まずはビーム技で勝負するのじゃっ!」
「待って! ビーム出るの!? 嘘!?」
鳴神、予想外!流石に、ただの機械人形にビーム技はない!
それに対して、イナリはちゃんとエネルギーコア付きである!エネルギーがあるということはつまり、ビームくらい当然撃てるのだ!
「ゆくぞっ!わらわの必殺技! スパークリング・イナレーザーじゃあっ!」
刹那、イナリオンの胸部から、極太のレーザーが放たれる!
INA粒子を一気に燃焼させ、胸部のコアユニットから纏めてエネルギーを放出することで、まるでレーザーのような光線を撃ったのだ!
だが、鳴神も直線攻撃の一撃で死ぬほどヤワではない。咄嗟の判断でニャルガライザーを左に跳躍させ、レーザーを回避!
「――っぶな!」
「む!避けるでない!もう一発――」
イナリオンが再チャージを始める――だが、それは隙である。
「一発ならまだしも、二発も撃たせるか!」
ニャルガライザーが、背中のブースターを展開し、超加速!そのままの勢いで、イナリオンに右フックを叩き込む!
「のじゃぁ!?」
「まだまだ……もう一発っ!」
左ストレートが、イナリオンの腹部に叩き込まれる。
だが、これはボクシングではない。巨大ロボット同士によるスーパーロボット大戦である。殴られただけでダウンするような戦いではないのだ。
「効かないのじゃっ! ならばこちらは…イナリオン・バスターじゃっ!」
イナリオン版エルボー・ロケット――イナリオン・バスターがニャルガライザーの頭部に命中!大きくニャルガライザーが後ろに仰け反った!
だが、イナリオンは止まらない!
「連撃じゃっ! イナリオォォン……ミサイィィルッ!」
イナリオン・ミサイル。イナリオンの肩部に収納された、対巨大ロボット用自己推進型徹甲弾だ!
イナリオン・ミサイルがニャルガライザーの左腕部の付け根を抉る!
「――っ!」
衝撃が、ニャルガライザーのコックピットに響く。
だが、左腕がやられた程度では退かないのが変幻怪盗である。
「そっちがその気なら……はぁぁぁあああっ!!!」
ニャルガライザーが、下段の構えから、回し蹴りを繰り出す!
こういう時、イナリオンのような重装型のロボットは不利だ。何故なら、回避に向いていないからである。
回し蹴りがイナリオンの左腕部に命中し、金属が軋むような音とともに、イナリオンの左腕が破断する。
「む! なかなかやるではないか……もう一度、イナリオォォン…バスターじゃぁ!」
「甘い……甘い! 行くぞ、怪盗式…クロス――カウンタァァァァッ!!!」
イナリオンとニャルガライザー、両者の拳が同時に頭部に命中する!
地響きが鳴るほどの衝撃波が辺りに飛び、病院の方からは悲鳴が上がる!
そして両者――完全にコントロール系統が停止している!
「動かない……っ!仕方ない、後は野となれ山となれ!機外でトドメを刺す!」
「むむ…こうなれば直接相手のコックピットに乗り込むしかないのじゃな!」
両者が、同時に腹部のコックピットから姿を現し、互いの姿を視認した。
イナリが駆ける。鳴神が構える。それを見たイナリがデータキューブから剣を召現させる。対して、鳴神は――
「武器がない……あんなのの言う通りになるのは癪だけど……負けるよりはマシか……! 良し、《TRPG》っ!」
刹那、鳴神の姿が変化する。
気怠そうな眼、ボサボサの頭髪、そして眼鏡。
その全てが、イナリの動きを止めるのには、十分すぎるものだった。
「主――様――!?」
イナリが、剣を取り落す。
そこに居たのは、イナリの管理者にして創造主――阿久津海斗、その人であった。
■ ■
「なるほど……そういうことじゃったか……」
イナリが、ポツリと呟く。
――納得がいった。今までの違和感に。
- 海斗の様子が、最近おかしかった。
- だが、データ上は何も問題なかった。
- 変装系の魔人は、機械の能力をも超えると言われている。
- 怪盗、ニャルラトポテトは、阿久津海斗の姿になることができる。
そう。全てが、イナリの中で繋がった。
「ふふふ…そういうことだったのじゃな! わらわの目は騙せぬのじゃぞ! 『一週間前から本物の主様と入れ替わって居た』のじゃな!」
「……は?」
鳴神、唖然。
思いっきり、なにかを間違えている。根底から、明らかに。
しかも、それを全力で信じてしまっているようだ。
ちなみに、鳴神は海斗の様子がおかしかったことは知らないのである。
つまり――アンジャッシュ状態だ。
「待った待った待った! 何がどうなったらそうなるの!?」
「そんなことを言っても無駄じゃぞ!では、神妙にお縄につくが良い!」
イナリが、がしり、と海斗(鳴神)の腕を掴む。
――ヤバい。とにかく、何を勘違いされているかは知らないけど、この試合を終わらせないと何をされるかわからない!
「インストール! え、《エンゼル・ジンクス》ぅ!」
必死で、『イナリから逃げる』おまじないを――流石にこのタイミングでこっくりさんはできないのでVR空間の自動文章詠唱機能を利用し――思い浮かべる。
答えは――『自分の頭を叩く』!
「えいやぁっ!」
鳴神――すでに能力の都合上海斗の姿ではない――が、頭をコツンと叩き、イナリの腕から抜け出す。
だが――とんでもないことをしてしまったことに気がついた。
「な……なんじゃそれは!? ガチャ!? ガチャの類じゃな!!」
見られた。
見られてしまった。
『能力をプログラム化してコピーするAI』に、見られてしまった。
――そこからは、エンゼル・ジンクスの撃ち合いだった。
お互いに、『相手を捕まえる』だの『逃げる』だの『壁を作る』だの、多種多様なおまじないを作ってはトンチンカンな方法で逃走劇を行った。
そして、3時間後。
イナリと鳴神は――じゃんけんをしていた。
「じゃん!」
「けん!」
「「ポンっ!!」」
グーとグー。あいこである。
誤解しないで頂きたいのは、彼らはふざけているわけではない。
お互いに最後に出たおまじないが、『じゃんけんに勝ったら相手に強制勝利する』だったのである。
そして今、334回目のあいこである。
ちなみに、12回連続であいこが出る確率は、0.00000188167である。334回となると――数えるのがめんどくさいので自分達で計算してもらえるとありがたい。
「なかなかやるのじゃな…」
「ふふ……そっちこそ……」
お互い、満身創痍。
そして、運命の335回目――
「じゃん!」
「けん!」
「「ポン!!!」」
結果は――――――グーとグー。あいこであった。
結局、試合が決着したのは、それからさらに2時間後のことだったという。
第4ラウンド:第6試合結果
●変幻怪盗ニャルラトポテト-狐薊イナリ○
勝因:狐薊イナリの、じゃんけんによる勝利
■ ■
「ただいまじゃぞ主さm――うわぁ、どちらさまなのじゃ!?」
完全に海斗の姿になった鳴神の事を忘れたイナリが、じゃんけんの余韻も引かぬうちに帰宅すると、そこに居たのは――見知らぬ少女が一人。
そう。阿久津ミカの身体に魂をぶち込まれた海斗である。
「……ごめん、細かいことは聞かないで欲しい」
「う、うむ……あっ、えっ、主様なのじゃ!?」
「そうだけど?」
「ああ、いや、なんというか……綺麗じゃな!」
言葉に困った末、よくわからない褒め方をするイナリ。
仕方がない。知り合いが急に女体化した時の反応には筆者もよく困っている。
「ありがとう……でいいのかな」
「う、うむ……まあ、それはそれじゃな!主様が帰ってきたならばそれでよいのじゃ!」
そう言うと、イナリは今日の試合を語り出した。
――鳴神ヒカリとの、魂のぶつかり合いを。
人生という冒険は続く。この世に語り手がある限り。
きっと、物語というのは、そういうものなのだから。
To be continued――彼女の成長は、まだ終わらない。