●人物(ダンゲロス流血少女)
真野片菜。転校生。
黒い瞳、黒の長髪、長身貧乳の女性。
かの剣は、無双にして唯一、あらゆるものを両断し、
かの身は、「空」にして押し寄せるあらゆるものを流転する。
信に厚く義を重んじ、理を外さない性格であり、妃芽薗学園において誰もが頼り、
誰もがかくありたいと願う学園『最強』。
だが、何故か彼女を識るものは学園にいない。
安全院ゆらぎの古き友人。だが、その真実の意味を識るものは真実をおいてほかにいない。
彼女は駆ける、あの日あの刻の約束を守るため。
そして果たせずの誓いを果たすため、彼女は時代の奔流のまっただ中を駆け抜ける。
●―魔界ケ辻ー(元世界時刻:2014/12/26)
逢魔が時。
それは全ての時が交じり合い。行きかうという時空の交差点
「 ほわんほわんほわん~まのまの~
というわけで”誠意ある説得”の末”善意の協力”を取り付け僕は今君の目の前にいるのでした~。ってアレ?」
てっきり罵声か斬撃が飛んでくるかと身構えていた白帽子。だが、予想に反し、女からの答えは沈黙だった。沈黙ののち、ため息。ただ、その吐息には前のような殺気もいらだちは含まれてはいなかった。
「その手の悪ふざけを含んだ言いざまは感心しない――――が、存在をかけてまで戦う者の言葉もまた無下にできるわけがない。お前は私を止めに来た。命と存在をかけてまで。最後まで話せ。そして言うべきことを私に告げろ。」
ただ、凪のように静かな声で彼女は告げた。
白帽子はちょっと困ったように視線を宙に泳がした。どうやらどこかで真意が悟られてしまったらしい。
「最後――話の残りは『時空時計』事件の顛末だけなんだけど、実は”僕たち”にとって
本当にたちの悪い話はここからなんだ。
”迷宮時計”の発生を認識した当初、識家の中で事態はそれほど深刻に受け止められていなかった。
何故発生したか謎は謎だが”全智全能に等しい力”を保有する識家の力をもってすれば、
過去の経緯をさかのぼり、必要な情報を取り出すことはそれほど難しいことではない、そう捉えられていたんだ。
ある意味それは正しい、ワンターレンと時逆順の能力はたしかに強力であるけど、全能ではない。そして識家の力は全能に等しい。
誤算があるとすれば、その全能に等しい力とやらが『時空時計』の前には全く歯が立たなかったことぐらい。全く奢れるものは久しからずだね。
『遡れない!そんな馬鹿な!』
担当者はそう叫んだそうだそうだよ。
『この私が時空の優先権が取れないだって!?ありえない絶対にありえない!十束学園の秘奥の武装『時の導き手-クロックアーム-』装着する事で時間を自由に操る事が可能になり、時間改変はあらゆる能力による改変よりも優先されるといわれる学園長が持つ門外不出のS級神具『時の導き手-クロックアーム-』でも使わない限り、こんな馬鹿なこと、絶対に起こりえるはずがない。何かの間違いだぁぁぁぁ。なお『時の導き手』の詳細に関して知りたい人はダンゲロス流血少女2の白河一の項を参照してネ、うぃあでゆー☆』と。」
「…誰だ、その担当。」
もっともな疑問だが生憎どこからも返答はなかった。
女はMrウィッキーが語ったという言葉を思い出す、たしか彼は「複数の転校生または”転校生クラスの力”の複合によってもたらされた現象といってはいなかったか。
時間に関する優先権をとられていた…不可能…今までの在りえない展開の数々…。
「十束学園の神具が実際に使われていた?」
「その思い付きで正解。これは後追いの調査で判明したんだけど、実は”偶然にも”あの世界線に十束学園の最高戦力”ストレングステン”の白河一が派遣されており、その活動期のはじまりが”たまたま”2014年下半期、迷宮時計が発生したその日その時とぴたり重なっていたんだ。」
そういって右手と左手の人差し指を合わせた。
すごい偶然だね!
ただでさえ軽薄な白帽子の物言いが天井ふきんでふわふわ漂っていた。もはやフレンチカンカンを踊りだしそうな勢いだった。そんな偶然があるわけがない。つまり何者かの意図が働いたということだ。
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「”迷宮時計”は『時空時計』ではなかった。
だが時計の位置を合わせるように綺麗に重ねられた動き、その短針と長針を見て、我々はそれが同じものだと勝手に勘違いしていたんだ。
伝承によれば神具は『手甲にアナログ時計をはめ込んだような形をしている』そうだから
各地に飛び散った”迷宮時計”のかけらの中に紛れ込んでしまえば、その看破はまあ無理だろうね。実際、魔力波長も極めて近いものだったし。
結局、真犯人にとっては”迷宮時計”はもう終わった存在で次の犯行の準備のためのデコイでしかなかった。
迷宮というミストで隠した本命は白河一の派遣先。十束学園支配下の『妃芽薗学園』だったんだ。そしてそこは―――」
「先日の妃芽薗2回目となる黙示録において”安全院ゆらぎ”が復活をした場所であり、そのもとに向かおうとする私が最初に選ぶ場。
つまり―――転校生連続殺人事件の次のターゲットは”私”というわけだ。」
白帽子は首肯した、僕はここで君を止めるために来た。そして地におち、分かれた標識を再度指さした。
『最強』の二つ名を持つ転校生、真野片菜。君は彼女の『物語』に足を踏み入れてはいけない。
例え『最強』であっても。
その先、DANGEROURS生命の保証なし。
◆◆◆
真野片菜は自らが両断したプラカードに歩み寄ると拾い上げ、その断面をすいっと合わせた。
「むこうの状況はどうなっている?」
「真犯人の『物語』に踏込かねないので干渉は自重はしているけど、相当錯綜してるみたい。
主な原因は学園首謀者だった白河一がハルマゲドン直後に行方知れずになっているためで、学園側もその原因を掴めてない様子。あの子も同時に姿を消しているから、白河のひと多分、運悪くあの子にぶち当たって隷属しちゃったんじゃないかなー。あとなんかデカい『薔薇』が一輪咲いているらしい。」
「まあ。そんなところだろうな。『薔薇』?」
「うん『薔薇』。赤いやつ」
「だが、すでにその白河某がゆらぎに膝を折っているなら互いに争う理由はない。私の世界渡航を止める必然性はあるのか?」
男は投げ返された標識を軽く振ってみる。それはいかなる技をもって切られたか吸い付くように接合を果たし、完全に融合していた。標識や薔薇より前に十束学園関係者が目をむきそうな発言があったような気もするが二人は特に気にしなかった。実際、事実であったし。
「確かに白河一と君が正面からぶつかる線はほぼ消えたと思う。けど、それくらい『真犯人』は織り込み済のはずだ。本当の危険はそんなことじゃないくらい知っているだろう。策にしてもいくらでも代替えは効く。
例えば、君、『最強』の登場をもって十束学園は一連の混乱と最高戦力の喪失を識家の手によるものではと疑い始めるだろう。逆に識家は神器の件から「転校生連続殺人」に学園が関与した疑いを払しょくできず、手を色々出し続ける。その両者の疑念に水をやっていくだけでことはすむ。
両陣営とも今まで直接的な衝突は避けてきたが基本的に敵対関係といっても関係だ。これを契機に大規模な抗争に発展していっても不思議ではない。というか僕ならそうする。
だって一度そうなれば、ほら、あとはもう――――――『殺したい放題』になるわけだし。」
「虐殺」というつま開いた事態になってしまえば、もう隠匿する必要すらない。あとは一気苛勢に一切鏖殺。殺しつくすのみだ。そういう相関図(プロット)をかき上げてしまえばいい。
きっといい花が咲くだろう。そこまで言って白帽子が首をかしげた。花…花。何かが引っかかったが。どこだ。
「…まあ、そんな死に方をし始めるようなら、幾ら彼らが死のうが責任持てない。他人事ですますよ。
それに最悪の展開は過程で君が死ぬことであることは、変わりない。結局、事態の危険度は変わらない。
君は”安全院さん”の安全弁だ。
あの子が先に死ぬのはいい。その時傍らに君がよりそっていてくれさえすれば、あのこは満足して受け入れるだろう。だけど、逆は駄目だ。それでは暴走した肝心かなめの時に『事故』を止めれる人間がいなくなってしまう。」
――あの人はいない、だから、次はない。―――
図らずとも二人の心中は一致していた。だが、進む道が同じとは限らない。女は歩みを再び始める。
、、、、、、、、、、、
「適切なアドバイス感謝する。十二分に注意させてもらう」
カタナは折れず曲がらず突き進む。
結局、彼にできたのは10分余りの足止めだけだった。
君が本気になったら誰も止められない。そういったのもまた外ならぬ彼だった。
「これから…
これから君の行く先は魔界の底。地獄にも等しい場所だ。それでも歩を進めるかい?」
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最後に投げかけられる真実の言葉。それは事実であり同時に呪いの言葉でもあった。
女は答えた。無論だと。
「そしてその行いは正しく自業自得。何が起ころうともその結果を誰のせいにもできない、その責と愚かさをすべて君自身が引き受けなければならない。そんことを誓えるかい?」
真実の言葉。それは彼の責任逃れの言葉であり同時に彼の優しさでもあった。
女は答えた。どんな災厄を引き起こそうとも誰も責めはしない、全ては自身の愚かさ故。女は笑った。
「安心しろ、ゆらぎをおいて私は先に死ななない。それがあの男との約束だ。同時にもう二度と死なせもしない。それが今の私の誓いだ。」
「ならもう止めない。無駄に時間を使わせてしまってごめんね。」
女は振り返った。何故男が謝るか女には理解できなかったから。そして、その男の名前を最後に呼びかけようとし、それが使えないことに改めて気づいた。
頭の中で形作れる言葉を探す。そして彼の師がとった先例に倣うことにした。
「さようなら、”あんちゃん”。」
男は音もなく静かに笑った。
「懐かしいな、初めて会ったころそう呼んでくれたっけ。でも、それ、たぶん過去一回くらいしか聞いてない言葉だ。」
女は少し顔をゆがませると、吐き捨てるよう吠えて答えた。
「当たり前だ、こんな恥ずかしい台詞、誰が二度というものか。」
出会いは偶然で会ったかもしれない、だが出会えば必ず別れがやってくる。両者の間に必ずそれは必ず舞い降りるものだ。そして、再会の期がいつか、また別れが永劫のものとなるかを人の身では知ることができない。
「じゃ僕も二度といいそうもないこと言っておくとする。
真野片菜、 『妹を頼む』 」
「―――――――――――――――――承知した。」
そして、それが二人が面と向かい話す、最後の機会となった。
●―逢魔が刻 999番地―
そこは全てが行きかうという逢魔が刻。その地には残されたのは男ひとり。
「―――かくてこの世はこともなし。やれやれ僕たちは実に無力だね。」
そう首を振った拍子に耳につけたイヤリングが揺れる。男はついと片手を耳の装飾具に当てた。
「で、そちらの結果は?」
その問いに、どこからともなく返答があった。
「結論から言おう。進道 ソラは”大当たり”だ。」
(その2へとつづく)