恋する少女は、空へと翔ける
牧田ハナレは恋する少女。
――彼の為なら、きっとこの空だって超えてみせる。
★★★
「ハナレさん! 是非俺と!」
「残念ですが、お断り致します」
時は現代、希望崎学園。たった2人の屋上。
そんな場所でまた今日も、1人のモブ男が絶望に沈む。
……毎日のことだ、もう慣れた。いくら他人に好かれ、愛想良くしなければ行けない立ち位置にある私といえど、これ以上どうでもいい人間に付き合う時間はない。あぁ、ただただ時間が惜しい。きっかけが、ただきっかけが1つでもあれば。
「……どうして、ですか」
倒れ伏したままの男が、ぽつりと言い残すように呟く。
どうして。――そんなもの、答えは1つに決まっている。
「私、心に決めた……いえ、心を撃ち抜かれた人物がいますの」
くるりと男に背を向け、屋上を後にする。
ハナレは、顔も見ぬ1人に向けられた己の恋心が、そしてそんな恋心を諦めきれぬ己自身が恨めしかった。ただ1つのきっかけ、ただそれだけを待ち続けた。……普通の生徒であれば、もっと早くに行動を起こすことは出来たかもしれない。だが、彼女には出来なかった。ただそれだけのことだ。
★★★
――故に、『ラブマゲドン』の開催を知った時のハナレは、まさに狂乱寸前だった。
「ラブ……マゲドン」
放送から流れるイベント開催の告知を耳にした瞬間から、始まったのだ。彼女にとっての、春が。青春の躍動が。人生の転機が!
「なんと……なんと素晴らしい響きなのでしょう!」
「愛」を知らぬ者達が、愛を知るためのイベント。恋人を、本物の愛を手に入れるチャンス。彼女のもっとも欲しかった、「きっかけ」そのものだ。
「これぞ運命……きっとこの使い道の少ない能力も、彼に会いに行くために神様が授けてくれたに違いありません! ええ、きっとそうです!」
ラブマゲドンの規約は、「期間が終わるまで、希望崎学園の外に出ない」こと。しかし、ハナレにそんなことは関係ない。自分の想い人は、誰がこのイベントに参加しようがしまいが、(位置はどうあれ)希望崎学園内にいるのだから。
「そうでしょう……あたる様!」
――スナイパーあたる。必中必殺の異能を持つ、究極のスナイパー。
ハナレは恋してしまった。彼に、ハートまで必中即死されてしまったのだ。
ハナレが空を見上げる。まだ見ぬこの先に、彼がいる。彼が見てくれている。そう思うだけでも胸が高鳴り、魂は躍動する。あぁ、これが恋か。これが愛なのか。
「身元の知れない凄腕スナイパー、きっとステキな方なのでしょう……待っていてください、あたる様! ハナレが今、貴方のもとに参ります!」
恋する少女は空をも翔ける。
それはきっと、運命の――
最終更新:2018年11月20日 08:00