薄暗い洞窟の中、2つの人影が見える。
少し遠くて性別だとかは判別できない。
何やら片方の奴が、もう片方に何かを頼み込んでいるようだ。
「な、なあ……いいだろ?こんな状況なんだしよ、俺と付き合ってくれよ!!」
「え〜……本当の愛じゃないと私不幸になっちゃうかもしれないじゃーん。そんな怖いことできませーん」
「頼むよ……!もう俺にはお前しかいないんだ……!それに早くこんなとこ出たいのはお前も一緒だろ?」
「じゃあ……誠意を見せて欲しいなっ!君がどれだけ私のことを好きなのか、それを見せてくれたら決心つくかも〜」
ゆっくりとその人影へと忍び寄る。
どうやらそれは男と女らしい。
いつからここは告白スポットになったんだろうか。疑問である。
「わ、分かった!俺がどれだけ君への愛が強いかラブレターにしたためるから、それを読んでくれ!」
「ん……そういうのはちょっと違うかなぁ……私はぁ“誠意”っていったの。そんなゴミみたいなもの貰っても女の子は嬉しくないよ?」
あと1歩踏み出せば彼らに手が伸びる位置まで拙者は到達した。
実のところ、拙者は優雅なお昼寝タイムを邪魔されるほどの騒音に気がたっていた。
故に。
「天誅でござぁぁるぅ!!!」
チュピン。
よく見たらこっちの男は、人が良さそうな顔をしている。
もう首とはおさらばしていたが。
「……え、な、なに。血?血!?きゃぁぁぁぁ!!」
つい斬ってしまったが、天は許してくれるだろう。
現に、拙者には何も変化は見られない。
これがいけないことだとしたら、恐らく拙者は死んでいたはずだからだ。
拙者が髭を擦りながら、ちょっと伸びすぎてきたな、そろそろ切ろうかな等と考えていると、女が驚愕から立ち直ったのかキャンキャン騒ぎ始めた。
「あんたふざけないでよ!せっかくの金づるをっ!ちょっと分かってんの!?こいつはいいとこの坊ちゃんだったんだから死ぬほど毟り取れたはずなのに!この、人殺しっ!許さない、あたし絶対に
「振り向き天誅!!」
あまりのやかましさに脳天から斬り付けてしまった。自慢の一張羅が返り血でベタベタだ。
「男に金を貢がせようとする悪い女故に……天誅もやむなしでござったな!あとピーピーうるさかったところは斬っても仕方ないでござる、うむ」
この女に巻き込まれ、斬られてしまった少年にはとっても悪いことをしたなぁ……と心の中で懺悔する。
そして、憎き悪女を討った自分を褒め称えるのであった。
「そう言えば、悪女が少年はいいところの坊ちゃんとか言っていたでござるな?よし、死体に口なしと言うしちょっと身ぐるみ剥がさせてもらうでござる」
少年に対して罪悪感はないのか?先程の懺悔はなんだったのか?と問われそうだが、拙者、過去は振り返らない主義なので。
「ブランドものは拙者分からんからなぁ……現金たんまり入った財布なんて今どき持ち歩かんし、拙者も万札風呂とかに入ってみたいでござる……ん?この紙切れはなんでござるか?」
拙者が手に取った紙は説明書らしいもので『ラブマゲドン』について、と書いてあった。
そう言えば拙者がねぐらにしているこの学園には頭のおかしい生徒会があり、日夜ふざけたイベントが繰り広げられているらしい。
もしや、先程の男女もイベントの参加者?とよく手元の紙に目を通してみると、生徒ではない拙者もまさかの強制参加させられているのであった。
「拙者の行動を縛るとは……気に入らないでござる!天誅してえ!!」
だが、拙者では生徒会の顔が分からない。
話を聞こうにも周りには首なし死体と半分こ死体しかない。
ここに来て先程の悪女を切り捨てたのが響いてきた、あの時の拙者を天誅するべきであったか……。
「もう、しょうがないでござるな。イベント参加者は他にも山ほどいるであろう。無理やりにでも口を割らせて拙者を手伝わせよう、話さなければ斬ればいいだけでござるしな!」
そうして、拙者ことちょんまげ抜刀斎は、ねぐらの洞窟から外に踏み出した。
かの暴虐で圧政を強いる生徒会に天誅するために!!