泉崎ここね
誰かが私が入っているトイレの扉をノックする。
続けて声が聞こえてきた。
「あのっ……!」
どちらかといえば陰気な、そして何かを恥ずかしがっているような雰囲気を漂わせた女子の声だ。
トイレは両隣が空いているはずだ。わざわざ私のところに来たということは、何か目的があるのだろう。
扉一枚を隔てて向こう側にいるA子(仮)がレズビアンで私に告白しに来たにしろ、他の男子生徒から逃げて助けを求めてきたにせよ、関わり合いになることはない。
私はもう一度ヘッドフォンを耳に当てて無視を決め込むことにした。
私はいない。私はいない。私はいない。私はいない。私はいない。私はいない。私はいない。私はいない。私はいない。ここには誰も存在しない。
しかし。
「あ、あの、変なこと聞いて悪いんだけど、パンツの換え、持ってないかな……?」
「……へ?」
相手の妙ちくりんな質問に私は思わず声を上げてしまっていた。
パンツ? なんでそんなものを必要としているの? もしかして漏らしたの?
「良かった。やっぱり人、入ってたんだ」
A子はほっとしたような声を出した。
「ごめんね」
そうA子が申し訳無さそうに言うと、次の瞬間、耳から頭の中にかけて何か異物が流れ込んでくるような感覚――例えるならば泳いでいる時に耳に冷水が入った感じだ――が私を襲った。
そこで私はA子の本当の名前、およびここに辿り着いた理由を、彼女の魔人能力によって知ることとなったのだ。
朱場永斗@鬱
あたしはパンツのことを「パンティ」と呼ぶ人種に初めて出会った。
「パンティ」なんていうのは死語で、今やオジサンしか使わない言葉だと思っていた。
――そして、あたしはその「パンティ」がどれほど大切なものなのかをその日、初めて知った。
嶽内大名
あれはそう、確か吾輩がパンティの淫猥な香りに釣られ校庭中の女子高生たちにセクシャルハラスメントをかましていた時だった。
南か東、いや北? 西だったかもしれんな。兎に角、ある種異様な雰囲気を纏った男がどちらの方角からか現れたのよ。
その男は武士(もののふ)の身なりをしていた。少なくとも半年は湯浴みをしたことの無さそうな”強者”の臭い――いや、匂いをさせてな。
吾輩はすぐにその男が履いているものが褌などではなく、ワコールの「サルート・スペシャル」のショーツであることを見抜いた。
今にして考えれば、その武士は少しばかり気が触れておったのかもしれぬ。
吾輩を目にするなり、「やあやあ、そこにおるは異形の化生か。天に代わって仕置いたす。拙者の太刀筋見きれるか」などと因縁をつけ、斬りかかってきた。
だが、まあ天がどうのこうのと、他人の顔色ばかり伺うような輩に義は無いわな。吾輩の皮下に仕込まれた「鎖かたびら」ならぬ、ショーツ製のレースである「鎖びらびら」がその刃を見事防いでくれた。
狂人の凶刃――おっと、これは洒落ではないぞ――を二度も受ける訳にはいかぬ故、吾輩の【パンタローネの抱擁】壱拾玖ノ奥義である『精巣拳』で、履いておる「サルート・スペシャル」を操って両睾丸をキュウと絞めてやった。
き奴はウッと呻くと地に伏せた。無論、殺してはおらぬぞ。寧ろ初めて受ける快感に身をよじらせ倒れたのだ。
まあ、そこまではどうでも良いのだ。前座だ。これからが本題ぞ。
吾輩はむせ返るようなパンティの匂いに目を奪われた――いや、鼻を奪われたと表現するべきかな?
兎に角、先程の武士に襲われ、少しばかり股下に汗をかいたのだろう。いや、もう、本当に神々しくもある香りで、吾輩はただただ、「尊い」としか言えなんだ。
そして振り返ると、吾輩の見立通り、そこにおったのは四人の女子高生だったのだ。
一人は、紫の艶髪をたなびかせた陰の気を纏った少女。この少女は一番香りが濃厚で、嗅いでいるだけで失神しそうになった。例えるならば、「日本盛、鬼殺し」と言ったところか。
一人は、長身痩躯の隻腕と顔の大きな火傷が目立つ少女。この少女は少し前に何やら用を足したのだろう。微かなアンモニア臭が心地よい香辛料となって吾輩の鼻腔を刺激した。例えるならば、「シャネルの5番を自慢してくる高飛車の委員長」と言ったところか。
一人は、甘い香りのする、まだあどけなさの残る少女。この少女は濃厚さでは先の少女には劣るが、香りのえげつなさでは群を抜いておった。甘い香りでは隠しきれぬその危険な香りは底知れぬ背徳感を吾輩の身に抱かせたよ。例えるならば、「マルキ・ド・サドの書籍が収められた本棚」と言ったところか。
一人は、なんと空に浮いておった。この少女は下から見るとパンティが丸出しで、視覚と嗅覚の両方で吾輩を楽しませてくれた。ただ何やら憂い顔をしていたのが気にはなったが。例えるならば、「恋人を待つ時にしとしとと降る雨」と言ったところか。
――と、まあ、四者四様に良いものではあったのだが。四人とも吾輩をあの武士の仲間だと勘違いしたのだろうな――吾輩を見やいなや襲ってきた。
無論、吾輩のことだ。そこは余裕で切り抜け、「鬼殺し」の少女にいたってはパンティをしっかりと奪ってやったが。
え? そこをもっと詳しく聞かせてくれって?
あいすまぬ。吾輩、忙しい身なものであまり長居は出来ぬのだ。
まあ、粗茶でも出してくれれば話は別だが。
何? 取り調べ室でその傲慢な態度は止めろと?
それは無理な相談だな。
……。
よろしい。ならば、黙秘権を行使するとしよう。
甘之川グラム
「一斑をもって全豹をぼくす」ということわざがある。
豹の毛皮のまだら模様の一部を見ただけで、それが豹であると推し量る。
――転じて、物事の一部から全体を推量し、判断することのたとえなのだが、私は今、その言葉を噛み締めていた。
先程は、愚蒙の極みである一般男子生徒その1に襲われたが、「まあ、そんなの参加者の一部分だろう」と楽観視していた。
だが、生徒会室を訪れた私を待っていたのは、愚蒙という言葉だけでは表しきれない、「浅短・軽忽・うすのろ・あほ・とんま・間抜け・梼昧・あんぽんたん・愚劣・薄鈍・軽骨・あほう・おたんこなす」な一般生徒たちだった。
「うわー、誰かー!」「誰でもいいから愛してくれ!」「やばいよやばいよ~」「お前、俺のことが好きなんだろ!?」などと騒ぐ男子生徒たちの狂乱ぶりは酸鼻を極め、一秒とて滞在できないほどだった。
もうそろそろ騒ぎも収まった頃だと考えていた私が愚かだった。木下会長は会長で「フヘヘヘヘ……」と惚けたような顔をしてその騒ぎを見守っているだけだ。
本当にあの、「あいつ」とは比べものにならない愚かさだな、などと肩をすくめつつ、私はきびすを返して生徒会室から退室した。
さて、これからどうするかと思案していると、第一グラウンドの方から叫び声が聞こえてきた。
「天誅でござぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁああるぅ!!!!」
異様な鬨の声のようなものを聞いて、そちらを見やると、なんと侍のような風体をした男が騒ぎながら女子、男子の区別なく追いかけ回しては切り伏せているではないか。
あちらこちらで血しぶきが上がり、切断されてビクンビクンと跳ねている遺体や、足を引きずって逃げようとしている瀕死の生徒などが多く見かけられた。
「えっ、怖っ……」
私は思わず思ったことをそのまま口にしてしまっていた。普段の私にあるまじき失態!
――すると、なんと例の侍と目が合ってしまったのだ。
えっと、こういう状況を何て言うんだっけか。
そうだ。ピンチだ。
ちなみにピンチ(pinch)は、実はゲルマン祖語の「pukanan」という単語が語源となっていて、「つまむ」という意味なのだが今は関係ない。
いかんな私。ちょっとパニックになっているではないか。いつものようにクールになれ。
目が合ったと思ったのは偶然だろう、とそちらをもう一度そーっと見てみると、侍は不敵な笑みを浮かべ、日本刀を和紙で拭って血を落としているところだった。
依然こちらは見ていた。
侍は刀を振りかぶるとメキメキと音がしそうなほど、地面を強く踏み込んだ。
マズい。今私がいるのは校舎の四階で、ここまで直線距離で500メートルはあるはずなのだが、どうにかしてこちらまで飛んでくるつもりだ。私の直感がそう告げている。
『あれ』を使うか? いやいや、私の能力『林檎の重さと月の甘さ(ニュートンズ・イクエイジョン)』の範囲は2メートル。全く距離が足りない。成功するかはタイミング次第だ。上手くいけばいいが。
「天」
侍の姿が校庭から消えた。
「誅」
次の瞬間には私の目の前に現れていた。
速い……! 避け――、否、死!
私は死を覚悟した。
正直、ちょっと漏らしそうになったかもしれない。
世界がスローに映し出され、誰かが、「だめっ! やめて!」と叫ぶのが聞こえた。
それぐらいであの狂人侍が斬るのをやめたら苦労はしないだろう。
――だが、刀は私に届くことはなかった。
侍は何故かゼエゼエと息をついて、刀を地面に突きたて、必死の形相で今にも崩れ落ちそうなのを堪えていた。
すると廊下の向こうの方からそこそこ美人な紫髪の女子が駆けてきた。
「大丈夫?」
その声は先程「やめて」と叫んだものと同じだった。
「あの侍はどうしたんだい? 君が何かしたのか?」
「うん、まあ、事情は逃げながら――いや、今でいいか。今話すけどとりあえずここから離れよう。あたしの能力もあいつ相手だと長くは保たない……と思う」
すると私の頭の中に情報が流れ込んできた。昔、マサチューセッツ大学でディープラーニングを体験した際に同じような感覚を味わったことがあるからか、気持ち悪さはすぐに治まった。
その情報はものすごく冗長で、何やらSNS依存者の垂れ流す文章のようだったが、可能な限り要約するとこうだ。
「あたしの名前は朱場永斗@鬱。さっきラブマゲドンが始まって、恋人探しでこの辺りを散策してたら変な叫び声がして、見ると侍が人を殺してまわってたの。まあ、あたしも恋人探しの途中で告白しようとして何人か殺しちゃったんだけどね。まあそれはその人があたしと運命の赤い糸で結ばれてなかったってことで。話を戻すけど、あたしの能力は『ヘイストスピーチ』って言って、言語圧縮して他人と意思疎通ができる能力なんだ。それで今、あなたに情報を送れてるってわけ。あ、もちろんあなたもあたしに話しかければやりとりできるからね。それで偶然見かけたあなたを助けようとして大量の情報をあの侍の頭に流し込んだんだけど、たぶん効いてないよね。魔人相手だと『ヘイストスピーチ』も結構耐えられるみたいなんだ。だからあたしは付き合うなら魔人の男の人がいいなって思ってるの。それでね、その前に兼雲ちゃんに出会ったんだけど、その兼雲ちゃんが危ない目に遭ってる人を見かけたら連れてきて欲しいんだって。来てね。みんなで一致団結してこのラブマゲドンを乗り切るんだって。偉いよね。あと何か話さないといけないことってあったっけ? えっと、あ、そうだ。あなたの名前を聞いてなかったね、何ていうの?」
ちなみに上の長いのは読まなくていい。可能な限り要約してこれなのだから始末に負えない。優秀な私は重要な点を四点に絞った。
1:この子の名前は「朱場永斗@鬱」。
2:能力は『ヘイストスピーチ』、情報を言語を介して直接対象に流し込むことができる。
3:「兼雲ちゃん」という人が私を連れてこいと言っているらしい。
4:「朱場永斗@鬱」は私の名前を尋ねている。
「そうか」とだけ私は言った。その言葉は言語圧縮され、以下のような文章として朱場の耳に届いた。
「分かった、分かった。とにかく助けてくれてありがとう。私の名前は甘之川。甘之川グラムだ。まあ、なんだ、助けてくれたよしみだ。その『兼雲ちゃん』とやらのところに行ってみるよ」
朱場は「えっ!」とだけ言ったが、「ありがとう! 兼雲ちゃんのいる場所はね……」というように、詳細な場所が私に伝わった。
私たちは侍が復活しない内に「兼雲ちゃん」のところへ急いで向かうことにした。
牧田ハナレ
ラブマゲドン開始五分前のことでしたわ。
私は欣喜雀躍でステップを踏んでおりましたの。
ああ、いよいよあの「スナイパーあたる」様に出会えると思うと、待ち遠しくて待ち遠しくて体が焼け焦がれてしまいそうでした……。
「――96、97、98、99……」
私はラブマゲドンが始まるちょうど八時間ほど前から校舎の屋上で待機をしておりました。
いえ、もちろんラブマゲドンが始まるのを事前に知っていたから、というわけではなく、私はどこにいるとも知れぬあたる様のために毎日欠かさず最低八時間は屋上で愛を伝えておりますの。
「100! ですわ!」
そして、ついにラブマゲドン開始の放送が流れました。
双眼鏡で空を見上げると上空一万メートルに人工衛星のようなものが出現したのが見てとれ、私はそこにあたる様がいらっしゃることを確信いたしましたわ。
「待っていて下さい、あたる様。私のこの『エターナル・フライ・アウェイ』で貴方に会う時が来ました!!」
私は早速、『エターナル・フライ・アウェイ』を発動しました。
まずは水平移動でX軸座標を調整し、続いて『エターナル・フライ・アウェイ』の本領、『上空に向けて秒速300メートルで急上昇する』効果を発揮しました!
目指すは上空1万メートル。空を飛ぶ鳥や脱走者がいないか見張るためのドローンをぐんぐん追い抜き、私の体はどこまでも上昇していきました。
ですが、ああ、何ということでしょう……。
私は大切なことを失念しておりました。
秒速300メートルは時速に直すと時速1080キロメートル。
速度の単位「マッハ」は時速約1224キロメートルです。
そして、物体はマッハに近づくと衝撃波を放ってしまうのです。
もちろん、魔人である私の体は無事でしたが、あたる様のお乗りになっていた人工衛星はそうは行きません。
人工衛星はボッ、と軽い音を上げてあっという間に墜落してしまいました。
私は、あたる様に会うことすら叶わず、それどころか、この手で、あたる様を、こ、殺してしまったのです。
目の前が真っ暗になるとはこのことでしたわ。
自業自得とはいえ、私は自らの手で想い人を殺害したのですから。
私は自らの手で命を絶つことを考えました。
――ですが、人が自分の手で自分の首を絞めても死ねないように、『エターナル・フライ・アウェイ』を解除しても高速で地上に激突はせず、ゆっくりと地上に降りてしまうだけなのです。
どうぞ嘲笑ってください。私の本能は、この期に及んでまだ生きようとしていたのです。
その後、暫くして私はこう思いました。「あたる様のことを殺したのは自分だけれども、ラブマゲドンが無ければそもそもこのような痛ましい事故は起こらなかったのではないか?」と。
そうなのです。ラブマゲドンこそが諸悪の根源だったのです。
ラブマゲドンさえなければ私はあたる様に不用意に近づいたりはせず、ずっとこの想いを抱えていただけなのでしょうから。
私は怒りに打ち震えました。
そして、ラブマゲドンを潰そうと、そう心に誓ったのです。
糸遊兼雲
電算室は最高だ。
ピコピコと作動を続けるよく分からない機器たちに囲まれてやる作業は、通常の1.5倍は捗る。
そして何よりこの埃を被ったパソコンの香りがいい。あの思い出したくもない、「ハルマゲドン」の血の臭いを忘れさせてくれる。
私は上機嫌でハッキングした監視カメラやドローンの画面を覗き込んだ。
そこには様々な映像が映し出されていた。
嫌がる女子に告白を迫ってフラれ、頭にタライが落ちてきた男子生徒。生ゴミにたかる小蝿のようにイケメンに群がる女子生徒。口元からよだれを垂らし、惚けた顔でそれらを見ている木下生徒会長。第一グラウンドで人を殺してまわっている侍の姿をした謎の男。第二グラウンドでチェーンソーを振り回して暴れまわる体長二メートルはあるかと思しき人型の怪物。ふらりふらりと歩きながら道行く女子のパンツに何やら熱心に話しかけている青年。
後半三つは無視するとして、私は『万蕃儿縁起大系・手引足抜繙自在鉄之帖』に次々と生徒の名前と特徴を書き込んでいった。
希望崎学園の全校生徒の名前と顔(特に魔人のもの)については事前に調査済みだ。
あとは誰が参加しているのかを調べ上げ、監視カメラなどから得た情報から『手引足抜繙自在鉄之帖』に書き込んでいけばいい。
もちろん『手引足抜繙自在鉄之帖』には私の名前と自分が思いつく限りの私自身の個人情報を書き込んである。
これで私に「協力」する軍団の完成というわけだ。
「協力」してもらうのが元々恋愛脳な連中だと思うと、不思議と罪悪感はわいてこなかった。
ラブマゲドンが潰れるのにそう時間はかからないな、と思い、私は忍び笑いを漏らした。
そうしていると、一人の女子生徒が私の目に留まった。
「えーっと、確か名前は……『朱場永斗@鬱』? なんだこの名前、私の調査ミスか?」
なかなかに整った顔立ちをしているが、一人であっちにフラフラ、こっちにフラフラと危なっかしい雰囲気がする。
案の定、あっという間に告白相手を探しているらしき男子生徒に絡まれた。
私はハルマゲドン時代に習得した読心術を使って、朱場永斗と男子生徒A(仮)との様子を見守った。
「ヘイ、彼女。かわいいね~。こんなことに巻き込まれちゃってお互い大変だね」
おっ、会話の掴みは上手いじゃないか。これが後々ボディブローのように効いてくるんだよな。
「えっ、それって、あたしのことが好きってこと?」
「ん?」
「いや、あなた、今、あたしのことナンパしたでしょ? それってあたしのことが好きってことでしょ」
「え、えーっと、あははは……」
男子生徒Aの顔が引きつる。ヤバい。この女子、地雷だ。男子生徒Aもそう思ったに違いない。
「え? 好きじゃないの? あたしは好きだよ。それを今から証明してみせるね。『あー』」
「は?」
男子生徒Aが首を傾げたと思ったら、次の瞬間には耳から血を噴き出して倒れていた。即死だ。
え、ふ、普通に殺したんですけど……。ハルマゲドン時代に人死にを見慣れていた私もこれには少しばかり驚いた。
だが、この子も魔人か。ならばどのような能力であろうと利用しない手はない。
私は監視カメラから手元の調査表に目を移して「朱場」という名前を探した。
幸いにも「あ行」だったのですぐに見つかった。
「魔人能力『ヘイストスピーチ』、『誰かに何かを言うと、伝えたかったことが言語圧縮され、対象に完全に伝えることができる。双方向の使用も可能』か……」
この能力で大量の情報を脳に流し込まれ、先程の男子生徒Aは耐えきれずに死亡したというわけか。
使いようによっては、相手と密な関係を築けそうな能力だが、いかんせん使い手が悪すぎる。
まあ、声をかけておこう。一応、念のため、ね。
ちょんまげ抜刀斎
遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。
でもよい子のみんなは画面から離れて部屋を明るくして見てね。
やあやあ、拙者のことを血も涙もないただの人殺しだと思っている皆の衆。
拙者はYouTubeを見るし、歌のレパートリーだってそこそこある。
それにほら、このように赤い血だって出る。
悲しければ月夜に泣くし、嬉しければ即天誅。
このように四六時中天誅のことを考えているわけではないので天誅。
さて、そろそろ本題へ行こうか。
拙者が当初の目的を忘れ、楽しく天誅に勤しんでいると、何やらそれを妨害せんとの動きあり。具体的には果たし状が矢文で届いたのでござる。
天に代わって誅すれば反乱が起こるのは世の常。戦いこそが花の道かな、と喜び勇んで行ってみれば、待ち受けていたるは四人のJK。
その中で見覚えがあるのは二人。一人は瓶底眼鏡をかけた白衣のおなご、そしてもう一人は拙者に妙な術をかけ、暫しの間天誅不能に追い込んだ憎き敵の紫おなごでござった。
見覚えが無いのが四から二を引いた残りの二人。拙者、算術は得意にござる故。
一人は宙に浮いたなかなか容姿端麗なおなご、最後の一人は火傷が酷い隻腕のおなごでござった。
おなごとはいえ、四対一とはなんと卑怯な。これはもう何があっても天誅せねばならぬ。拙者は心にそう強く誓ったのでござる。
拙者が武士としての名乗り、「遠からんものは~」の口上を言い終える前に四人は襲ってきた。
拙者の怒りの炎はますます燃え盛り、これはもはや一度天誅した後にさらに天誅、いわゆる「後天誅」をせねば気がすまぬという心持ちになってきた。
まず先陣を切ったのは、かの憎き紫おなごであった。
「どうして人を殺すの!?」というような内容のことを言ってきた。すると例のごとく頭痛と立ちくらみがしてきた。
だが、種がバレれば妖術など死んだも同然。拙者は自ら鼓膜を潰し、その妖術を無効化したのでござる。さすが拙者~!
――が、拙者が紫おなごに気を取られている隙に、隻腕おなごと宙浮きおなごがお互いがお互いの陰に入ることでミスディレクションをさせるという見事な連携で距離をつめてきた。
長物使いは懐に入られると不利だと考えてのことだったのだろうが、あいにく拙者はこういう時を想定して刀を二本、常に携帯しているのでござる。
ちなみにその刀はコンビニエンスストアで106円で買ったものでござった。刃が傷んだら先端を折ることで切れ味を戻すことのできる、大変便利な短刀でござった。
拙者がそのカッター……じゃなくて、短刀を「天誅じゃあ~!」と叫んで振り回したので隻腕おなごと宙浮きおなごは怯んだ。
そこを本命の日本刀で斬りつけてやろうとした時、既に勝敗は決していたのであろうな。拙者とおなごたちの痛み分けで。
後ろから近づいてきた白衣おなごが『ルグズナム』だかなんとかいう、砂糖の約30万倍甘い粉を振りかけてきたのでござった。
たちまち拙者は千匹のおんぶおばけにのしかかられたかのように全身にものすごい重さを感じ、地べたに倒れ伏した。
これはいかなる妖術か? 拙者は妖術使いのおなごたちにしてやられてしまったのでござる。あくまで痛み分けでござるが。なんという不幸~!
――と、思っていると何故かあっという間に体の重みがなくなり、拙者、復活にござった。
これはおなごたちも想定していなかったようで、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。
しかし、あの連携、一朝一夕で身につくものではござらん。恐らくはあの四人の中で術を唯一見せなかった隻腕おなごの妖術でござろうか。
などということを考えていると、向こうから人の形をした化生――人を騙す悪い妖怪のことでござるな――が現れたのでござる。
全身に女性用下着の入れ墨を入れたその化生は、こちらを見て、品定めするように不敵な笑みを浮かべたのでござる。
拙者、品定めするのは好きだがされるのは大嫌いにござる。
拙者は、「やあやあ、そこにおるは異形の化生か。天に代わって仕置いたす。拙者の太刀筋見きれるか」と口上を若干早口で述べ、天誅すべく斬りかかったのでござるが……。
ごほん、そこで何があったのかは皆の衆の想像に委ねるとして、兎に角拙者は深い眠りについたのでしまったのでござる。
いや、まさか一日に二度も地に額を擦りつけるはめになるとは思わなかったでござるよ。
それにしても先程のあれ、ちょっと気持ちよかっ――いやいや! そのようなことがある筈が! 拙者衆道は嗜まぬので!
いや、でももう一度ぐらいならあの技を……。
根鳥マオ
俺は実は童貞だ。
それが後輩や友達、特に部長にバレるのが恥ずかしい。たぶん、バレたら生きていけないと思う。
中三の頃に『宇宙ヒモ理論』を使ってカネを集め、それで口説いた女の子といいところまでいきそうになったのだが、肝心の息子がピクリともしなかったのを思い出して時々嫌な気持ちになる。
それがこれからの話にどう関係があるのかっつーと、俺が生徒会室のドアを開けた時、木下礼慈サンと滑川ぬめ子副会長が「おたのしみ」中だったからだ。
木下サンは「アッヒーン」などと情けない声を上げ、滑川副会長は「会長……ヒヒ……どこがいいの……?」とSっ気全開で尋ねていた。
まあ、それはいい。以前から二人がそういう関係にあるというのは学生中の噂になってるからな。
現場を目撃してしまった俺は気まずさから目を逸したが、単純な性的興味から再度視線を戻した。二人は(恐らく)俺の方には気がついていない。
視線を戻した俺は、えっ? と思った。今さっき、木下サンの方が副会長にケツを掘られてなかったか?
じっくりと見る。やっぱりだ。
木下サンが掘られている。
「あー、なるほど。そっちの関係だったのか」と俺は合点がいった。
会長は副会長に弱み――というか急所か――を握られていたわけだ。
そんなことを考えていると野太い咳払いが耳に入った。
気づくと木下サンが恐るべきスピードで服を来て、立っていた。
滑川副会長はその後ろにサッと隠れてニヤニヤ笑っている。
「ね、根鳥くんか……。は、入る時はノックをしたまえ……」
会長の顔は左半分が真っ赤で、右半分が真っ青だった。
昔ロボットアニメか何かで見た体の半分が男で半分が女の悪役そっくりだった。
「す、すいません。木下サン……」
俺はこういう時の対応はどうすればいいのか全く分からなかったので、とりあえず謝ることにした。
「あ~、それで、まあ、話だが、根鳥くん、君は空手部が他校の生徒に怪我をさせた件に関与しているらしいな?」
「いや、関わってるっていうか……」
「事実関係はきちんと把握しているから言い訳は無用だ」
「ヒヒ……無駄……」
滑川が追い打ちをかけてくる。
「……木下サン――いや、木下会長! ホントっ、すいませんでしたァ!」
俺はジャンピング土下座をもするほどの勢いで頭を下げた。
こういう時は平謝りするに限る。本来なら女子の前でこんなカッコわりーことはやらないが、滑川はストライクゾーンから大きく外れているので全く問題ない。
「本来であれば、停学処分も視野に入れるべきではあるが……」
思ったとおり、会長の語気が弱まる。
「特別に『ラブマゲドン』に参加することで免除としようではないか!!」
ん? ラブマゲドン? 風向きがおかしくなってきたぞ。
すると木下サンは制服のポケットからピンク色のプリントを一枚取り出した。
「これは電撃発表するつもりだから他言は無用だが、俺はこの学校の乱れに乱れた風紀を正すために、フヒッ……恋のイベントを開催することとした!」
あんたもついさっき風紀を乱してたじゃねーかよ、という俺のツッコミはさすがに口に出すわけにはいかず、なんやかんやで無理やり了承させられる流れとなった。
まあ、弓道部で一番俺のことを慕ってくれている後輩である相澤ちゃんあたりに告ってOKでももらうかー、などと考えていたら、あっという間に時間は過ぎ、ラブマゲドン開催が正式に発表された。
俺は相澤ちゃんにラインでメッセージを送ることにした。
mao:今暇?笑
相澤:ごめんなさい、ヒマじゃないです。実家の近くに人工衛星が落ちたらしくてすごい騒ぎになってるので ( ><;)
オーマイガー! だがまあ俺のルックスをもってすれば女子の一人や二人、余裕でゲットできるだろう。
とりあえずは弓道場に寄って、居残りの後輩がいたらいいなー、という我ながら安直な思考で第二グラウンドを横切っていると、ビュン! と何かが俺の頬をかすめて飛んでいった。
見ると、飛んで来たのはそこらへんの石で、石が飛んできたほうにいたのは身長は五メートルをゆうに超える、チェーンソーを抱えたデカい怪物だった。
身体能力が一般人よりちょい上なだけの魔人である俺は、腰を抜かしてへたり込んだ。よく見たら辺りに死体がゴロゴロ転がっている。死体の中には弓道部の後輩もいた。
なんでこんなバケモンがこんなところにいるんだよ! いや、希望崎だからいてもおかしくはないのだけれども、なんでよりによってこの俺と遭遇するんだよ!
俺はジタバタともがきながら怪物からの逃走を試みた。
――が、無論逃げ切れるわけはなく。無情にもチェーンソーは振り下ろされた。
“絶対勇者” ウィル・キャラダイン
私がこの世界に辿り着いた時、最初に目にしたのは『彼』と『ソレ』だった。
『彼』は、『ソレ』に襲われていた。スキルを使用して調べたところ、どうやら彼のような存在こそがこの世界の一般的な「人間」のようだった。
『ソレ』は、『彼』を襲っていた。同様にスキルを使用して調べたところ、どうやらソレのような存在こそがこの世界の「怪物」のようだった。
故に、私は彼を護った。護らなければならなかった。
それは私の世界で、私がか弱き人たちのためにしてきた唯一のことだった。
私はとっさに鎖付きの戦斧を木盾で防ぎ、銅剣で迎撃した。
木盾はあっけなく壊れたが、彼は無事だった。
さすがに怪物には傷一つ付かず、こちらを睨みつけながらグルルルと唸っていた。
「君、大丈夫か!?」
私は彼に声をかけた。
この世界に来る前に”知恵の果実”を使用してニホン語を一通り習得したつもりだったのだが、通じていないのだろうか――彼はこちらを見てガクガクと震えている。
怪物は未だにこちらを睨みつけて動こうとしない。
私は火球魔法を唱え、それを怪物めがけて放った。
これで僅かな時間でも目くらましにはなるだろう。
私は怪物が怯んでいる隙に、彼を抱えて城――だろうか? とにかく白塗りの建物に滑り込んだ。
怪物は追ってこなかった。
どうやら城内には入って来れないようだ。
「大丈夫かい?」
私は彼にもう一度優しく話しかけた。
彼は真っ青な顔で首を縦に振った。肯定の意だ。
「私の名前はウィル・キャラダインだ。ウィルと呼んでくれ。……君の名前は?」
「ね、ね、ね、ネトリ・マオ……です」
「分かった。マオ、安心してくれ。君は私が護る」
「あ、ありがとう……ございます……」
「立てるかい?」
「たぶん……いッ!」
マオは立ち上がろうとして、足を押さえた。
怪物に襲われた時に擦りむいたのだろう。膝に擦り傷が付いていた。
「おっと、私に任せてくれ」
私はマオの傷口に手をかざし、回復魔法を唱えた。
傷口はみるみるうちに塞がった。
「しかし、厄介だな。あの怪物、今の私の装備だと傷一つつかない……」
私は思考を巡らせた。
「もう魔力も残り少ないし、火球魔法を連打するわけにはいかないか。ならば目を狙うか? いや、盾が無いこの状況では返す刀で斬りつけられるだろう……」
ふむ、ゴロゴ峠のスプリガン以来の厄介な相手だ。
「マオ、信じてはくれないだろうが、私は別の世界からここへやって来たんだ。まだこの世界に慣れていない私よりも、この世界の住民であるマオなら何か打開策を見つけられるかもしれない。知恵を貸してはくれないか?」
私はマオに尋ねた。
返事はなかった。もしかして、あまりの事態に気を失ってしまったのだろうか?
私がマオの方を見ると、マオは目を輝かせて塞がった膝の傷を見ていた。
「……マオ?」
「え、あ、ご、ごめんなさい。ウィル先輩のさっきの魔人能力があんまりにもファンタジーに出てくる魔法みたいでスゲーなって思って……」
「『マジンノウリョク』? いや、これは魔法だ。修練さえすれば誰にでも扱えるようになるぞ」
「えっ、あのバケモン倒したら俺にもさっきの教えてくださいよ!」
「ははは、もちろんだ」
私は快諾した。帰った際に長老連中に「他の世界の摂理を乱した」とか色々小言を言われるかも知れないが、少年のせっかくの頼みを無下にすることはできない。
「いや、それだけじゃあない! あのバケモン相手に斬りかかって行ってすっごくカッコよかったです!」
「はは、そんなに褒めるんじゃない。照れるじゃないか」
「……それに比べて、俺はダメだ。あのバケモンにビビって。あの中には俺のことを慕ってくれてる弓道部の後輩もいたのに……俺は自分の身が一番で、逃げることしか頭になかった……」
マオは鼻をすすった。
事情は分からないが、どうやらマオはマオなりに思うところがあったようだ。
「そんなことはないさ、きっとな。私だって、もっと早くに駆けつけられていれば多くの人を救えたはずだ」
私は元いた世界でのことを思い出した。
救えなかった人たち。救うはずだった人たち。――そして、愛するアリスのことを。
「マオ、私はこう思うことにしている。私たちにはそれぞれできることとできないことがある。それは決まっていて、変えられないんだ。でも、私にできないことだけどマオにできることだってあるはずだ。だからそれを一生懸命こなすんだ」
私はマオに向けて、ウインクをした(以前、マリアがウインクはこういう時にするものだと教えてくれたことがある)。
マオは無言で頷いた。
外からは変わらず怪物の唸り声が聞こえてくる。
「さ、もうひと頑張りしてくるか……!」
私は立ち上がって、軽く背伸びをした。
麻上アリサ(act.殺杉ジャック)
「殺戮セヨ」
俺――殺杉ジャックがポッドから覚醒した時に初めて聞いた命令だ。
それは俺を造ったDr.ジョーズからのメッセージであり、俺に刷り込まれた本能でもある。
俺は殺戮した。
斬って、叩いて、刻んで、潰した。
だが、足りなかった。
俺は血を求めてやまなかった。
だから、だからだからだからだからだから!
俺は……オレハ、ウギゲラベラバェゴォ!!
調布浩一
「ちょうふこういち」。
読み替えると、「超不幸一」。
でも、この名前を付けた両親は、「浩一は不幸なんかじゃあない。世界一幸せになるように付けた名前なんだから」と言って励ましてくれた。
俺はそれを心に刻んで、ここまで元気に生きてきた。
そんな俺は薄暗い電算室で、後ろ手に縄で縛られ監禁されていた。ご丁寧に助けを呼べないように口には猿ぐつわまで噛まされてある。
――ごめん、父ちゃん、母ちゃん、俺、心が折れるかも。
なぜ俺がこんな目にあっているかというと、遡ること三十分程前――。
幾度かのアンラッキースケベを乗り越え、カップルを成立させるためにとりあえず人が集まっていそうな生徒会室に向かおうとしていた俺は、職員室の前で偶然、才色兼備で有名な牧田ハナレさんと同じB組の糸遊兼雲さん、それにヤバいことで(ある意味)有名な朱場永斗さんに出会った。
――いや、偶然だと思っていたのはこちらだけかもしれないが。
話を戻そう。
俺は珍しい取り合わせだなー、などと悠長なことを考えていた。
すると口数の少ない糸遊さんにしては珍しく、「やあ、調布くん。君もラブマゲドンに参加しているの?」と、聞いてきた。
「まあ、参加しているというか、させられるはめになったというか……」
俺は口を濁した。糸遊さんと俺はあまり話したことがなかったからだ。
その上、俺の『アンラッキーワルツ』については知らないはずだし、説明しても同じ魔人同士とはいえ理解を得られるとは限らないからな。
「ふぅん、じゃあ君も恋愛に興味があったんだ」
「いや、まあ……」
「この先には生徒会室しかないんだけど、何か用でもあるの? ふふっ、もしかして告白の相手でも探しているとか?」
何というか……、質問攻めだ。ラブマゲドンという非常事態時とはいえ、糸遊さんってこんなに喋る人だったんだ、と少し意外な一面を見た気がした。
まあ、事情ぐらい話してもいいか。もしかしたら協力してもらえるかもしれないし。
「実はさ――」
――と、話を切り出しかけた瞬間。
「あ!!」
朱場さんがすっとんきょうな声を上げた。
「大変だよ! 兼雲ちゃん!」
「何だって!? そりゃあ大変だ……!」
「何が大変ですの?」
「いや、それがね、ハナレちゃん」
「それは一大事ですわ!!」
俺は目の前で何が起こっているのかさっぱり分からなかった。
全員が全員、話を最後まで言おうとせず、大変だ一大事だなどと言っている。
しばらくして、糸遊さんが、俺の方に向き直って、「調布くん、このラブマゲドンを、その『アンラッキーワルツ』で成功に導こうと画策しているんだね?」と言った。
どうして俺の言おうとしたことが筒抜けなんだ!?
それからはもう、あれよあれよという間に三人がかりで捕まえられ、さっき言った通り電算室に押し込まれてしまったのだ。
もう、わけが分からない。
俺はまた誰かの不幸をおっ被ってしまったのか?
いや、何となくだが分かる。これはそんな生ぬるい状況じゃない。
もっと、何かいびつなものが裏で糸を引いている、そんな気がした。
すると、部屋の扉が開き、糸遊さんが入ってきた。
糸遊さんはどこか気まずそうな顔をしていた。
「いきなりあんなことをしてすまない。私にも事情があってね」
――と、糸遊さんはここで一度言葉を切った。。
そして、言おうか言わざるか悩んでいる様子だったが、ついに意を決したようで、口を開いた。
「――単刀直入に言おう、調布くん、君にはこのラブマゲドンが終わるまで、この部屋にいてもらいたいんだ」
「……もがっ!?」
俺はあまりのことに言葉が出なかった。いや、猿ぐつわを噛まされていたから喋れなかったというのもあるのだが。
「おっと、ごめん。このままじゃ喋れないよね。今から猿ぐつわを取るけど、できれば指を噛まないでほしい」
糸遊さんは右手だけで器用に俺の猿ぐつわを外した。
「ぷはっ、え、糸遊さん、俺の聞き間違い……? このままここにいたんじゃ俺、ぬめぬめにされちゃうんだけど」
「えっと、少し単刀直入すぎたね。すまない、君には選択肢が二つある」
糸遊さんは指を二本立てた。
「一つ、さっき言ったようにラブマゲドンが終わるまでずっとこの部屋にいてもらう。安心してほしいが、私たちが君を絶対にぬめぬめにはさせない」
え、いや、「ぬめぬめにはさせない」って言っても、木下生徒会長の『レジェンダリー木下』で強制的にぬめぬめになっちゃうんだよ……。
――と、言おうとした俺の唇は糸遊さんの人差し指で塞がれた。
「ここからが重要なんだけど、君の『アンラッキーワルツ』は、私の『万蕃儿縁起大系・手引足抜繙自在鉄之帖』によってこの部屋内限定で効果を発揮しないようにしてある」
ん? どういう意味だ?
「朱場さんがいればもっと話はスムーズに済むのだけれど、あの子は今、泉崎さんと何やら話し込んでいるし、連れてくるとややこしいので私が一人で頑張って説明するよ」
糸遊さんはこほん、と可愛らしい咳払いをすると説明を始めた。
「私の『手引足抜繙自在鉄之帖』は記入した対象の協力関係を因果を捻じ曲げて操る。つまり、君の『アンラッキーワルツ』も漏れなく対象に、私にとって『不都合が生じないようにできる』ってことさ」
ま、因果干渉系能力は調整が難しいから狭い範囲内でしか無効化できなかったけどね、と言って糸遊さんは胸を張った。
「な、なんだってーっ!?」
俺は思わず声を上げていた。そんな魔人能力を持った人が同じクラスにいたとは……。
す、すごい……。これが能力の上手な使い方ってやつか……。
「そしてもう一つの選択肢は……『今すぐにこの学園から出ていってもらう』」
「俺に死ねって言ってるんで……?」
「いや、違うよ。まあ、ある意味そうかもしれないが――いくら私でもそんなことは言わないよ」
どっちなんだ?
「いいかい?」
糸遊さんは俺の耳元に顔を近づけてきた。
今まで恋人ができたことのない俺はものすごくドキドキした。
「これは牧田さんには言ってはだめだよ。もちろん私がここで喋っているということも内緒だ。彼女は心に深い傷を負っているから」
俺はつばを飲み込んだ。
「生徒会側は必死に隠そうとしているが、スナイパーあたるはもうすでに上空一万メートルにはいない。おそらく、死んだ」
「な、なんだってー!? スナイパーあたるが……もがっ」
俺は再び思わず声を上げようとしたが、糸遊さんに口を押さえられてしまった。
「静かにと言ったはずだよ! もう、全く……」
糸遊さんは手を腰に当ててぷりぷりと怒った。
その姿は普通に可愛かった。
「とにかく、これで学園から出ていくのは自由だ。君は『アンラッキーワルツ』で誰かの不幸を引き寄せてしまう前にさっさと出ていくといいさ」
「じゃあ、何で『ここに残れ』なんて言ったんだ? 糸遊さん、さっき言ったよな? 選択肢は『二つ』だって」
「意外と冷静なんだね。ああ、その通り、脱出にはスナイパーあたる以外にも問題があるからさ。これを見てほしい」
糸遊さんはポケットからタブレットを取り出した。
そこには返り血まみれで人を斬りまくる侍と、二メートル強はあるチェーンソーを振り回す怪物が写っていた。
「こいつらが校門までの第一グランドと第二グラウンドを占拠しているんだ」
「そ、それはなかなかに絶望的じゃん……」
「ああ、そうさ。だが、君の『アンラッキーワルツ』を無効化しないとラブマゲドンが滑川ぬめ子の思惑通り成功してしまう」
「そんなにラブマゲドンを成功させたくない?」
「させたくないね」
「さっきの二つの選択肢に従わない場合は?」
「すまないが、命の保証はできない」
「なるほど。そっちにも事情があるようだし、俺は糸遊さんの言うことを聞くさ」
「では、一時間あげよう。その間にどちらにするか、決めてほしい」
「いや、いいよ。もう決めた」
俺は覚悟を決めた。
頑張れ調布浩一、世界一幸運な俺!
「俺は――」
――十分後。
俺は第二グラウンドで暴れる怪物を、校舎の三階からこっそり見下ろしていた。
そう、この学園から脱出することにしたのだ。
第一グラウンドの侍は糸遊さんたちが引きつけてくれることになった。
さっき異世界の騎士? っぽい格好をした人が怪物と戦ってくれている間に逃げようとしたが、いつ出ようか迷っている内に逃げそびれてしまった。
騎士っぽい人は校舎の中に入ってしまったし、ここから先は自分でなんとかする他ない、そう思っていると、騎士っぽい人がまた校舎から飛び出してきた。
もしかして、またあの怪物と戦うつもりなのか?
「我が名は、ウィル・キャラダイン! 貴公に名乗るべき名があるかは分からぬが、”勇者”の名において、貴公に果たし合いを申し込む!」
騎士っぽい人――ウィルさんは剣を掲げるとそう名乗りを上げた。
マジで戦う気だ!?
ウィルさんは素早い剣技を次々と繰り出し、怪物と互角に渡り合っていた。
素人目に見ても分かる。この人は強い。
――だが。
「貴様ハチェーンソーノ怖サヲ知ラネェ!!」
怪物に与えた傷が治っていく。
チェーンソーを雑に振り回し始めた怪物は、ウィルさんを次第に俺のいる校舎の壁際に追い詰めていった。
くそう、俺は見ているだけしかできないのか!!
俺の『アンラッキーワルツ』にもアイツをやっつけれるような力があれば……!
そう思っていると、俺の体が急にズシンと重くなった。
何だ、これは? こんな時にまた誰かの不幸を被ったのか?
考えている暇もなく、俺は校舎から校庭に落下していた。それも、ものすごい重量でだ。
ドォン、という今まで聞いたことがないような地響きがした。
正直言って死んだかなと思ったが、何かがクッションになって助かったようだ。
ふと、尻の下を見ると怪物はぺちゃんこに潰れていた。
俺が倒したのか!?
や、やったー! 俺の、俺の『アンラッキーワルツ』が初めて俺自身の役に立った!
こうなると思ってたぜ、世界一不幸で世界一幸運な俺!
麻上アリサ(act.本当の自分)
「目覚めはとても大切だ」、と亀川部長がおっしゃっていた。
目覚めはホルモンバランスを左右するし、肌つやにも関わってくる。
女優を志した頃は私も多少は気にしていたけれど――。
今回の目覚めは人生で一番最悪だった。
辺りに散らばるのは人の肉、血、骨、皮。
うっすらと覚えている。
これは全部、私が『ハイ・トレース』で殺杉ジャックになりきって、起こしたのだ。
以前所属していた芸能プロダクションの社長に言われた言葉がフラッシュバックする。
「お前は役に入り込みすぎる――」、と。
どうしよう。
私は嗚咽を漏らした。
ごめんなさい。
亀川部長や鴨田副部長、部員のみんなの顔を思い出す。
涙が滲んで私はその場に座り込んでしまった。
すると、その肩に手が回された。
「大丈夫」
ふと見ると、そこにいたのは根鳥先輩だった。
入学したての頃、ガラの悪い人たちにしつこく付きまとわれていたのを一度助けてもらったことがあった。
正直、軽薄な感じがして、あまり好みではなかったのだけれど――。
「大丈夫だよォ、麻上ちゃん。君の罪は、『俺が借りる』。永遠に返さないけどね。だから気にしなくていいんだぜ?」
そして私の目がぐるぐると渦を巻くような感覚がし――。
そこから先はあまり良く覚えていない。
だけども、何だかとても大切なことを思い出せない感覚は続いて――。
時々、その大切なことを思い出せない自分が悔しくって、涙が溢れてしまうのだ。
平河玲
画面には二人の人間が映し出されている。
一人は立派な髭を蓄えた壮年の男性。
もう一人は全身から粘液が漏れ出した、小柄で痩せた少女。
二人は椅子に座って何やら話し込んでいる。
音声は出力されず、画像は荒いが、私には読心術で何を話しているかはっきりと分かる。
僕が『そういう風に思った』からだ。
「――なるほど。調布浩一の学園内からの脱走、及び糸遊兼雲らの妨害によってラブマゲドン計画は僅か一日で瓦解した、というわけか」
「ええ……。”マーダー”として用意しておいた例の『侍』と、偶発的にその役割を期待された麻上アリサも既に戦闘不能状態になったようです……」
「ふむ……。つまり、ラブマゲドン――いや、正式名、『第十四次ダンゲロス・ハルマゲドン』は事実上失敗に終わったのだね」
「はい……。申し訳ありません……」
「いや、重要なのはそこではない。今回のハルマゲドンの死亡者数は?」
「……百四十六人です」
「その内、魔人は?」
「…………八十九人です」
「結果だけ見てみると上々じゃあないか。やはり学内に溜まった不良魔人どもを一掃するにはこの”手”に限る」
「…………」
「君の傀儡政権は中々上手く機能しているようだね。これなら卒業後の魔人小隊での昇進も確約されるだろう。では、これからも何かあったらよろしく頼むよ、ぬめ子クン」
「はい、理事長……」
「うむ、ではもうよろしい」
「はい……」
「……やっぱり」
僕は理事長室から出ていく滑川ぬめ子を見て、そう呟いた。
嫌な予感は当たっていた。
ラブマゲドン開始直後から滑川ぬめ子の動向を調査していたが、ラブマゲドン計画が特に何の成果も上げることもなく、人工衛星の墜落発覚によって次々と脱走者が続出、計画が頓挫したと見るやいなや理事長室に向かったのを見て感じた違和感の正体はこれだったのか。
「は、ははは……はは……」
僕は思わず笑い声を漏らしていた。
これが、この希望崎学園の正体か。
”愛”の名のもとに。
”恋”の名のために。
学生たちを不幸にし、場合によっては排除する。
これが、この学園のやり方か。
なんという悲劇、なんという喜劇。
――許せない。
「……平河さん」
後ろから、誰かの声がした。
いや、この声の主は僕のよく知ってる人物だ。
そう、例えばさっき理事長室で理事長と話していたような――。
「『ラブマゲドン計画』、とんだ茶番だったようだね。滑川さん」
僕は背中に滴る冷や汗を隠しながらそう応えた。
「……”北風と太陽”って話、知ってる?」
僕の問いかけには応えず、滑川は続ける。
「あのお話、最終的には太陽が勝って終わったけれど、私は問題は『勝負の内容』だったと思うの」
「……何が言いたいのかさっぱり分からないな」
僕は滑川からは見えないようにこっそりとポケットに手を伸ばした。
そこにはいつも通り、護身用の小型ナイフが入っていた。
「そうね、例えば勝負の内容が『どちらが先に旅人の上着を脱がせられるか』じゃなくて『どちらが先に旅人に上着を着せられるか』だったらどう?」
「……北風が勝つだろうね」
「そう。だから、問題だったのは『勝負の内容』。『上着を脱がせる』なら太陽の勝ちだし、『上着を着せる』なら北風の勝ち」
「やっぱり何が言いたいのか見えてこないよ。……それに今日はよく喋る。普段のおどおどした雰囲気は演技だったのかい?」
「……私だけの力ではあなたには敵わないだろうけど。……こういう勝負の方法もあるの」
「――なッ!」
気配を感じた僕が振り向く間もなく、後ろから誰かに羽交い締めにされた。
ものすごい力だ。
「フヒヒ……ぬめ子ちゃん……フフ……」
くそっ、木下礼慈か!!
同時に口も塞がれる。
マズい、このままじゃ僕の『流言私語(ブルー・ライアー)』も発動できない。
「……安心して。あなたにも”愛”を教えてあげるわ」
滑川の目が妖しく輝く。
「これまでのことを全て忘れて、身も心もとろけるぐらいに……」
手から例の粘液が分泌される。
「ふぐッ! ふぐーッ!!」
僕は必死の抵抗を試みた。
だが、惚けた顔をした木下の力は異常なまでに強い。
下手をすると僕の首の骨が折れてしまいそうだ。
粘液が迫る。
手が頬に触れる。
――嫌だ、気持ち悪い!
「おっと、そこまでだよ」
薄暗い部屋に急に明かりが差し込んだ。
部屋の扉が開いたのだ。
「……糸遊さん」
滑川が振り返った。
「全く、私の大切な電算室で何をコソコソしているのかと思ったら……。今の話、全部聞かせてもらったよ」
そこにいたのは糸遊兼雲先輩だった。
僕の調べによると、彼女も理事長から密命を受け、何らかの暗躍をしていたようだ。
――無論、ラブマゲドン計画の真相については何も知らなかったようだが。
「……」
滑川は俯いた。
「理事長にも色々問い詰めたいことはあるけれど、それは今は置いておくとして、ね。生徒への暴行は感心しないな。木下生徒会長」
糸遊先輩は開いたドアに寄りかかると、片足を上げて扉を塞いだ。
「フ……フヒヒ……ぬめ子ちゃん……フフ……」
当の木下会長は相変わらず心ここにあらずといった様子だ。
「……折って」
滑川が木下に何やら告げた。
「フヒ?」
「その人の首を、折って」
「ふ、ふぐッ!?」
ど、どう見たってもう詰んでるだろう。
何を急に言い出すんだ!?
「……私は……まだ……負けてなんかいない……『勝負の内容』が悪かっただけ……その人を殺して、あなたも殺して……そして、私がみんなから本当の”愛”を独り占めするの……!!」
「……」
糸遊先輩は微動だにしない。
滑川を刺激するのを恐れたか、それとも僕が見捨てられたか……。
暫くの間、膠着状態が続いた。
「やめておいたほうがいいと思うんだけどなぁ」
静寂を破ってのんきな声を上げたのは、電算室に取り付けられたスピーカーだった。
――ん? この声、どこかで聞いたことがあるぞ? 入学式以来だったか?
「おっと、言い忘れていたけれど、これまでの会話は私の『協力者』たちに筒抜けさ」
糸遊先輩は胸元のポケットから小型の機器を取り出した。
これまで情報屋の仕事を曲がりなりにもこなしてきた僕には分かる。あれは盗聴用の小型マイクだ。
「……!!」
滑川も何となく察したようで、途端に体が震え始めた。
泣いているのか……?
――いや、この薄暗がりの中、僕にだけは分かった。
彼女は、笑っていた。
「ぷっ――、あーっはっはっはっはっは」
その笑い声はどこか悲痛な叫びにも似ているようで――。
空調の効いているはずの電算室で、僕は体の震えが止まらなかった。
しかし、糸遊先輩は冷静だった。
スピーカーから「準備できたよー」という(相変わらずのんきな)声を聞くと、「それじゃあ」と言って部屋から出ていこうとした。
あ、あれ、僕は……!?
「にっ、がすかぁぁああああああああ!!」
滑川はそう絶叫すると血走った目で糸遊先輩めがけて飛びかかった。
恐らく、道連れを一人でも増やしたかったのだろう。
――が、横から飛び出してきた少女の「やめて!」という言葉で全てが終わった。
滑川はその言葉ひとつで地面にへたり込み、フヒフヒとニヤつき始めたのだ。
「遅かったね、泉崎さん」
何だかよく分からないが、全て糸遊先輩の予定の範囲内だったらしい。
「だって、朱場さんがあんな遠くから『阿』と『吽』の指定をしたことないから、ちゃんと効果が発揮されるか分からないって脅すから――」
飛び出してきた少女は、1年C組の泉崎ここねさんだった。
「いや、その件については本当に申し訳なく思っているよ。下手をすれば君が怪我をしてもおかしくはなかったからね。勇気を出してくれた泉崎ここねさんに敬意を」
「も、モガッ!?」
もうわけがわからない……。
僕が必死にもがいていると、糸遊先輩が「おっとっと、平河玲さんにも謝らなくてはね」と言った。
「そのマフラーを外すように首を動かせば、その腕から抜けられるはずさ」
――あ、その手があったか! と僕は膝を打った。
僕は早速木下会長の腕から抜け出た。
そして木下会長の方を見やると、彼は立ったまま気絶していた。
僕たちはその後、朱場さんと甘之川さん、それに牧田さんと合流した。
彼女たちから(主に朱場さんの能力によって)説明を受けたところによると、彼女たちは当初から主にラブマゲドンを潰すべく動いていたようだった(甘之川さんはその気は最初はあまりなかったようだったが、助けられた弱みでなんとなく協力していたらしい)。
「――ところで、どうして滑川はあんな風になってしまったんですか……?」
僕は機会を待ってそう聞いてみた。
「ああ、それはね……」
糸遊先輩が説明するには、泉崎さんの『論理否定』を朱場さんの能力によって圧縮して投げかけたために、一度でああなってしまったらしい。
後輩の話をにこにこしながら聞いてくれている糸遊先輩だが、何気にえげつないことをする……。
これがハルマゲドン参加者とそうではないものの感覚の差ということか……。
――などと思っている内に、僕たちは校門まで辿り着いてしまった。
僕たちはそれぞれ「じゃあね」と言って別れた。
僕は帰路につく途中、空を見上げた。
そこには満天の星空が輝いていた。
「もう冬かあ。……そう、だよね」
誰に言うともなく、僕はそう呟いた。
――恋って、愛ってなんだったんだろう。
それは簡単なようであり、難しいようでもある。
――だから、僕はこう青い言葉を紡いだ。
「世界中のすべての人が、恋や愛について深く考えすぎませんように」
青い言葉は夜空に溶けて、あっという間に消えてしまったけど、僕はようやく胸のつかえが下りた気がした。
泉崎ここね
男性嫌悪を直すためにとりあえず朱場永斗@鬱の恋愛術を学ぶことに。
全く参考にはなっていないが、楽しくはあるらしい。
朱場永斗@鬱
泉崎ここねに年上として色々教えている。
最近は一緒に東京ディズニーランドに行った。
友達ができたことで精神の不調は治りつつあるとのこと。
嶽内大名
逮捕、起訴。罪状は猥褻物陳列罪、および強制猥褻罪および準強姦罪。
本人は罪を認め、檻の中で男囚相手に楽しくやっている。
甘之川グラム
マサチューセッツ大学に想い人と一緒に進学――するにはまだ一年早いので勉強を教えている。
個人授業はスパルタで、本人曰く「甘くない」。
牧田ハナレ
奇跡的に生存していたスナイパーあたるに満を持して告白。
返事はまだだが、うまくいきそうらしい。
糸遊兼雲
理事長と生徒会との癒着を大々的に発表。
国は理事長の完全独断と発表した。
ちょんまげ抜刀斎
逮捕、起訴。罪状は殺人罪等々。
本人は罪を認め、檻の中で嶽内大名と親友になる。
根鳥マオ
”あの事件”以来行方知れずだが、新宿のホストクラブで似ている人を見かけたとの情報あり。
“絶対勇者” ウィル・キャラダイン
殺杉ジャックとの戦いで魔力を使い果たし、元の世界に帰れなくなった――と思いきや、強敵を倒したことによってレベルアップ。
魔力が全回復し、元の世界に帰還。時々、希望崎にやってきては生徒たちに魔法や剣術を教えている。
調布浩一
相変わらず不幸な目には遭っているが、めげずに頑張っている。
本人は『アンラッキーワルツ』を完全に使いこなす方法を模索中。
麻上アリサ
都の開催する学生向け映画コンテストで「炎陽の殺人鬼 ~END OF WAR~」が最優秀賞を受賞。
本人は「これを機にもっと激しい役にも挑戦したいです!」と言っているが、他の部員たちはあまり乗り気ではない模様。
平河玲
僕は――僕はあれから何も変わっていない。
週に一度は糸遊さんたちと滑川元副会長のお見舞いに行くし、授業も少しは出るようになったけれど。
情報屋の仕事はまだ続けている。レートは一本1,000円から10,000円に値上げした。
ただ一つ、ただ一つだけ変わったことがあるとすれば……恋愛に興味が出てきたことかな。