「拙者と貴様たちの差は天に愛されていたか、いないか。これこそ愛の勝利、でござるな」
彼はついに生徒会長の首を切り落とした。
機械的な断面を晒した“人間衛星”あたる、全身をバラバラにされて血の海に沈む“粘液喪女”ぬめ子。
私達は結果として勝利しました。
だが、勝つためとはいえこのクーデターに無関係の生徒達も沢山巻き込んでしまいましたた。
恐らく私は今後追い立てられるように生活を送るのかもしれません……。
私は彼みたいに心が強くないから、多分耐えられないと思います。
だから、先に終わらせてしまいましょう。
1歩ずつ余韻に浸っている彼へと近づいていきます。
いつ見ても彼は綺麗で、殺伐とした雰囲気を持っていて。
昔、あの場所で見た記憶のままでした。
――あと5歩。
ナイフを手に。
あと4歩。
なんて言おうかな。
3歩。
驚くかな、それとも分かってくれるのかな。
2歩。
私の想いをしっかり乗せて。
1歩……。
そして、回し蹴りが腹にめり込んだ。
「そんなに殺気を飛ばしていれば、誰だって気づくでござる。何のつもりでござるか、麻上!」
ああ!やっぱり私、貴方のことが大好きです!
ゆっくりと砂埃を払いながら立ち上がる。
だって好きな人の前では綺麗な私を見て欲しいから。
「何って……ちょんまげ抜刀斎さん、愛の告白ですよ?私がどれだけ貴方を愛しているか、それを刃に乗せてお届けしようと思って」
「麻上……やはりお主ただの演劇部員ではなかったでござるか」
「あ!気づいてくれてたんですね、相思相愛じゃないですかー。そうですよ、子供の頃から役者で、能力が出てから辞めたってのは事実ですし演劇部員になったのもそれのおかげですよ?でも、それは“趣味”ですから」
私の不穏な気配を感じ取ったのか、彼は見えない柄に手を掛けます。
なので私もお返事を返してあげますね!
「ほんっぎょうは!ご覧の通り、暗殺者です!」
そう言いながらナイフを6本投擲しますが、居合一閃。
全て刃の部分だけ斬り落とされてしまいました。
「わー!パーフェクトですね!なので私の事を追加で教えてあげますね。私の能力は確かに演じようとしたものに身も心も変わると言いましたけど、あれ嘘です!」
正確に喉元を狙うであろう一撃を靴からナイフを取り出し逸らす。
「本当は、心は変わりません、だからこういうことも出来るんです」
空いていた左腕をチェンソーに変え、そのまま振り抜く。
彼は右腕でそのまま左手を弾き飛ばした。
私の愛を受け止めても傷一つない彼の腕!最高ですね!
「どうです?私のことをもっともっと知りたくありませんか?」
「とんだ異常者でござるな!生徒会を餌に拙者に近づくのが目的でござるとは、絶対に許さんでござる!」
「私も貴方がここに居るなんて本当にビックリしたので、おあいこですね?……あ、今の恋人っぽくありませんでした?」
「天誅!」
彼から私へのダンスのお誘い、受けるしかありません!
柔肌を触れるように、けれど情熱的なタンゴを踊る私達。
どんどん愛が深まっていく感覚が最高です……。
「お主がどこで拙者と出会ったかは知らんが、拙者を謀ったこと天に代わってお仕置きするでござる!反省は死で結構!」
「あー、覚えていませんよね。だって私は遠巻きに貴方を見ていただけですし。でも貴方の太刀筋はあの時から全く変わっていませんね!大好きですよ」
彼に私が惚れた日、それは彼が最初に人を殺した日です。
ターゲットを先に取られたと思ったら私の心まで取られるとは思いもしませんでした。
あの日から私は彼を自分のものにするためだけに動いてきました。
ですが、“目”がしくじって見失った時はそれはそれは荒れました。
それが、こんな所で出会えるなんて本当にツイてます!
このチャンス絶対にモノにしてみせますよ……!
「くっ……お主本当に厄介でござるな。拙者がここまで手こずらされるとは……」
私が思いを巡らせていると、突然地面に投げ飛ばされて距離をおかれてしまいました。
一瞬、肩を掴まれたのには気づいたのですが……どうやって真後ろに叩きつけられているのでしょう。
そんなことよりダンスが終わってしまった事の方が問題ですけど!
そして、連戦の続く彼も流石に息が上がっています。
本調子の彼と愛を育みたかったのですが、今を逃せば次会えるのはいつになることだか分かりません。
妥協しましょう。
「好きな人に褒められるの、とっても嬉しいです!じゃんじゃん褒めてくださいね!行きますよ〜!」
「ちぃっ!」
飛んできた鉄球を弾き飛ばす。
麻上アリサ、奴は強い。
もう軽く1時間近く経っているだろうに全く拙者から一撃を食らわすことができない。
拙者の身体は過去に天が許してくれたので生半可な攻撃では傷一つ付くことは無いがそれでもいくつか良いのを貰っていた。
流石に拙者も天がそうあれと言うので人間のため3連戦の後にこのような強敵と戦うのは体力が厳しくなってきた。
本来拙者は一撃必殺のため、このように長引く戦いを経験していないのも理由であるが。
「ちょんまげ抜刀斎さん!動きがどんどん鈍くなってますよ?お疲れですか?」
「分かってて聞くんじゃないでござる!クソッ!」
近づけば離れられ、遠ざかれば近づかれる。
だと言うのに斬ることが出来ない、というのは相当にストレスだ。
こうなれば拙者が天に与えられた奥義で決めるしかない!
拙者は天誅をするための道具を見えなくしている、と相手に思われていることが多い。
しかし、事実は違う。
拙者の天誅は拙者が考えると勝手にそこに出てくるのでござる。
これが拙者の奥義、つまり今は刀を振っているという状態であるがこれを変える!
一足一刀で振り抜いた刀から手を離す。
そして両手とも相手の腹めがけて撃ち抜く!
「天穿!」
やはり拙者に不可能はなかった。
相手の腹には確実に致命傷だろう穴が空いていた。
「そ、ういうことです……か。これはちょっと見誤り、ましたね……」
「拙者は天に愛されている、死ななかったのはそういうことでござる」
「ふふふ、やっ、ぱり最高ですね。愛の告白はよく、身体に効きますから。子を孕んでしまいそうですよ……」
死人同然がまだ減らず口が治らないとは……本当に異常な女だった。
だが、もうここにはなんの敵もいない。
そろそろ騒ぎも広がる、ここを退散しよ、ゥ!?
「よく、よく効くんですよ。直に届くんです、毒ですよ毒。あ、治ってきた。お腹で助かりました、頭なら多分身体を変える前に死んでましたから」
まさかこの女、傷がなかったのは……!
「最初の最初に仕込んだ麻痺毒、効いてて助かりました。これで私の目的達成ですね」
やはり毒……天よ!拙者に早く天誅を、天誅をさせてくれでござる!
この女は生かしておいてはいけないでござる!
天よ……天……。
「眠ってくれましたね……よし、皆さんあとはお願いします。私は先に戻ってますから」
その声を最後に拙者の意識はなくなった。
「っていうのがお父さんとお母さんの馴れ初めです。あと貴女の実質誕生日ですね」
「ママ……怖……そりゃお父さんも家に居ないわ」
「お父さんはもう何年もいませんからねー、ちょっと愛が薄まってきた気がします」
「頼むから私の見えないところでやってよね。私もやらなきゃいけないことあるし」
「既成事実は早めに、ですよ?」
「うっさい!」