(track 110/559 杜王町RADIO 菅野祐悟)
『シークレットポーカー』と名付けられたそれは、後輩の平河玲からの提案だった。冬季休暇だと言うのに理科室に呼び出された私たちは、アルコールランプとビーカーで沸かした湯で紅茶をシバきながら紙束をシバいていた。
ゲームのルールは至って簡単。基本ルールはポーカー、ただし、プレイヤーの賭け金は『指定された情報の開示』である。己のシークレットを賭ける、故にシークレットポーカー。今回の親である平河玲にとって、金銭は使い切れないほど口座にあるもので、賭け金としての魅力は、他人の知られたく無い秘密の方が遥かに高いのだろう。
相変わらず最低だな、この後輩。
「まぁまぁ、そう仰らず。本編で泣く泣くカットした部分の、補完をするパートが必要なのですよ、糸遊先輩」
「別に、空き時間で各々が独白としてやったら良かったんじゃない……?なんかもっと、幕間らしいほのぼのしたゆるい日常とかやったらいいじゃあないか。本編では出突っ張りで、疲れているんだよ、こっちは。その2では義手は吹っ飛ぶし、その7ではハラキリされて洗脳されるし」
「泉崎先輩はどう思います?」
「元々はイトーが、経費で全額落ちないのに玲を使ったのが悪い、と思う」
玲って。この二人、いつの間にそんなに仲良くなったのだ。私はまだ、ちゃんと兼雲って呼んでもらえてないのに。
さておき、シンプルに金が無いというのが現状で。実質的な賭け金は無償、勝てば大金が舞い込むというのはとても魅力的だった。なのでホイホイ釣られてゲームに応じてしまったのが、今回の発端である。
「ま、なんでも良いので、ちゃっちゃと始めましょう。幕間は本編ほど尺ないんですから」
親である平河がカードをディールしていく、私、ここね、平河。それぞれ5枚揃った時点で手役を確認する。
❤︎6 ♠︎6 ❤︎A ♣︎A ♦︎A
……勝った、第1ゲーム、初手フルハウス。出来過ぎとも言える、この完璧な引き。やはり神様は見ているのだと確信する。ハルマゲドンにおける影の功労者たる私だが、終結後はヘイトを集めまくりリンチにされ、片腕を失い顔は大火傷。やっと学校に復帰したと思ったら生徒会のワケわからない催しで、平行世界九つ分も仕事で駆けずりまわり。それも終わったと思ったら平河に支払った情報料で一文無し。これじゃあ、あんまりではないか、あまりにも不憫じゃあないか。糸遊兼雲は、報われないじゃあないか。
だが、もうそれも終わる。
「私はチェンジ無しだ」
やっと風が吹いてきた。自分、今回は"勝ち"で良いですか? 良いですよね?
(track 59/559 KAIJI~人生逆転ゲーム~ 菅野祐悟)
「レイズ、糸遊兼雲は二つ情報を開示する」
「レイズ、受けましょう糸遊先輩。情報のレートは一件につき10万円です、40万円でどうでしょう」
「コール、私も四つくらいなら話せるよ」
「レイズ、糸遊兼雲は六つ情報を開示する」
「フォールド、やっぱ降りる」
「強気ですね~、私はコールで」
オープン。
糸遊兼雲❤︎6 ♠︎6 ❤︎A ♣︎A ♦︎A
平河玲❤︎J ♦︎J 2♠︎ 2♣︎ 3♣︎
危ない、ツーペアを引いてたのか。だが勝ちは勝ち、降りたここねと合わせて100万円、やったぜ!
「ま、取り敢えず泉崎先輩の負け40万円分の情報いただきましょうかね」
「いいよ」
「糸遊先輩の意外な性感帯ってどこですか?」
「ん……?」
あれれれれれ?
これってここねの負け分の情報じゃなかったっけ。おかしくないか、これじゃあ実質……
「ここね?40万円は建て替えてあげるから何も喋っちゃダメだよ?」
ここまで来て、やっと私は理解した、完全にハメられている。何が本編の補完だ、完全に平河の悪趣味の延長戦じゃないか。
「ははは、ダメですよ糸遊先輩。ルール守ってください」
「ちょっと黙れ平河」
「イトーは脇腹とか胸とか太ももとかをいきなりつついても、あんまり反応しないのだけれど……えい」
「ひゃあ!?」
身体がビクンと跳ね上がる、これは元々というより"ここねがそういう風にした"のだけれど。だから悪いのは私ではない。
「このように、右腕をいきなり強く握られると反応がとても可愛い、私はクソマゾスイッチと呼んでいる」
「ここね!?!?!?」
耳まで真っ赤になった私は、椅子から転げ落ちそうなほど気が動転していた。いっそ転げ落ちて奈落の底まで落ちることができたら、よかったのかもしれない。
「あ、やっぱ糸遊先輩がネコなんですね(笑)」
今世紀最低の笑みを浮かべる平河とここねが腕に手を伸ばしてきたのを蚊を払うように跳ね除ける。セクハラ親父か、君たちは。
「イトー、私に乗られてる時が一番可愛いもんね?」
「も、もういいでしょ!?40万円分だってこれは!!!」
仕方ないですねぇ、と第1ゲーム終了。平河にツケてる料金と、私の当面の生活費がかかっているので、まだまだ稼がせて貰わなければならない。
背に腹はかえられぬ。例え、恥辱でこの身が焼け落ちようと、セクハラ親父達には絶対負けられないのだ。
全ては金のために。