日の出が近づいていた頃。
ソロはナジミの塔を降りてから、洞窟を抜け、西の森を歩いていた。
途中で誰とも出会うことなく、スーツケースは依然として開けられないままだった。
(もう捨てちゃおうかな、これ・・・)
重たいし、かさばるし、何だかみっともないし、ロクなことがない。
(でも、やっぱり勿体無いよな・・・)
武器防具が一人一人に必ず支給されるはずだから、中身は武器であることは間違いない。
強力な剣や鎧などが入っている
可能性も考えると、むざむざ捨てるのは愚かしい行為だ。
ソロはこれまでスーツケースを開けるため、あらゆる方法を試した。
縦に振ってみたり、横にしてみたり、撫でてみたり、放り投げてみたり。
うんともすんとも言わないので、思いっきり踏みつけてみたり、殴ってみたり、頭突きをしたり・・・
終いには
ライデインの呪文まで叩きつけてみたが、全く無傷であった。
中身を知っていたら、とてもこんな扱いはできなかっただろうが・・・
(はぁ~どうするかな。)
途方に暮れていたところに突然声が響いた。
「おおーい。なにやってるんだー」
振り向くと、中年の男がこちらに走ってくるのが見えた。
(誰だ・・・?いったい)
ソロは身構えたが、男(
ホンダラ)は気にせず駆け寄ってきた。
「こんなところで突っ立ってて危ねえぞ、無用心だな」
ホンダラは荒い息のまま喋りだした。
悪人には見えなかったので、ソロは安心した。
「いや、ちょっと考え事してたから・・・あなたこそこんな時間に走り回って、普通じゃないですよ。
あっそうだ、おじさん。このかばん開けられる?」
ソロはスーツケースをホンダラの前にさし出す。
「なんだあ?こんなの鍵がありゃすぐ開くだろ」
「その鍵がないから困ってるんだ」
ホンダラはスーツケースをじっと眺めてみた。
「鍵穴はあるからうまくすれば・・・ちょっと待ってな」
ホンダラはおもむろに針金のようなものを取り出すと、鍵穴をガチャガチャやりはじめた。
そのまま30分間ほど鍵穴をいじり回していたが、手ごたえはなく、ついにホンダラは音を上げた。
「ちくしょう、めんどくせー!!やめたやめた」
ホンダラは針金を放りだした。
「やっぱりだめか・・・」
ソロは残念そうにつぶやいた。ホンダラも舌打ちする。
「せっかく、開けたら5割ぐらい礼をもらおうと思ってたのによ・・・」
「5割って・・・それはちょっと多いんじゃないの?おじさん・・・」
ソロはその図々しさに呆れてしまった。
でも何処か憎めない。
変わった人だな、とソロは思った。
日の出はもうすぐのようだ。
ソロはほとんど眠りかけていた。
ホンダラにまた無用心だと言われるかもしれないが、構わなかった。
張り詰めていた神経を休ませようとすれば、眠気が起こるのも無理は無い。
だがソロは、ホンダラの次の言葉で一気に目が覚めた。
「そろそろ日が昇り始めるぜ。 ふう、
デスピサロみたいな奴にはあれから出会わずに済んだか」
(デスピサロ・・・!)
次の瞬間、
「デスピサロがいるのか!?どこだ、どこにいるんだ!」
「お、おい、なんだ。いきなり」
ソロはさらに激しく詰め寄る。
「あいつに会ったのか!?近くにいるのか?教えてくれ!」
「わ、わかった。言うからとにかく落ち着いてくれよ・・・ 奴を知ってるのか?」
ああ、とソロは深くうなずいた。
「仇さ。・・・・・仲間だった時期もあったけど。」
仇なのに仲間、というのがどうにも解せなかったが、ソロの様子が尋常ではないので、
ホンダラは深入りするのをやめた。
「えっとよ、ここから東に向かうとある橋を超えて、それから南下したところにある城の中だ。
そこの書物庫みてえな所にデスピサロはいたぞ。」
それを聞いた途端、ソロは走り出していた。
あのスーツケースを持って。
「行っちまった・・・何だよあいつは」
ソロの遠ざかる姿を、呆然とホンダラは見つめていた。
(あいつがどうなろうと知ったこっちゃないけどよ、あのかばんは惜しかったなあ)
あのスーツケースが恐ろしい兵器であることを、ホンダラは知らない。
【ソロ 所持品:
スーツケース核爆弾
第一行動方針:アリアハンへ行く
【ホンダラ 所持品:
加速装置
基本行動方針:敵から逃げ回る】
【現在位置:岬の洞窟北西の森】
最終更新:2011年07月18日 07:40