しばらく前まで“
リュックだった”物体は蝙蝠の翼をはためかせて帝国上空を飛行していた。
その速度は、滑空や羽ばたきではあり得ないスピードだ。何か、別の力が関わっているようだが。
アルス達から離れて数十分。すでにソレは大陸の真反対の位置に到達していた。
…ヒトの匂いがする。
かなりの高空で飛行しながら、ソレは地上の匂いを認識していた。
ひどくゆっくりと、ソレは降下を始め…匂いのする場所、橋の上へと着陸した。
導士は、橋の下で
黄金の腕輪を眺めやっていた。
「何なんだろ…コレ。」
見れば見るほど不思議な感じがしてくる。
古代の紋様と装飾が施された腕輪の、その黄金と黄金の隙間から黒いオーラがにじみ出てくるのを感じる。
「捨てた方がいいかも…。」
導士は、その腕輪が“危険”であると認識した。
怖い。危ない。趣味悪い。なんかもやもやしてる…。
と、その時、導士は頭上…橋の上に何か“圧迫感”を感じた。
橋の上に立っているのではなく…何か、空から降下してくる感覚。
「…?」
導士は橋の上に上がり、封魔壁監視所側の空を見上げてみた。
何となく、光るペンダントを身につけてゆっくり下りてくる
エリアの姿を想像したが…そちらの空に見えるのは、雨粒と雲でしかない。
導士は何気なく振り返って…そして、硬直した。
いつの間に現れたのか背後には、トカゲに蜘蛛の脚と蝙蝠の翼、ついでに甲虫の大顎を付けた異形の怪物が出現していたのだ。
「っ…!うわわわああああっ!」
それに驚いて、導士は監視所の方に駆けだした。手にした黄金の腕輪をほっぽり出して。
ソレは、導士を追おうと身をかがめた。
エネルギーが足りない。この身体を身体として維持するには。
そして、逃げていく導士に飛びかかろうと脚に力を溜めて…止めた。
目の前の虚空に舞う黄金の腕輪を見て。
その時、ソレの中では二つの意志がせめぎ合った。
“アレを手に入れろ。アレが必要だ。”
“アレを壊せ。アレは必要ない。”
その意識は一瞬の間に数百回もぶつかって…結局、前者が勝った。
ぶうん、とカギヅメが振われる。そのカギヅメのさきっぽに、腕輪がすっぽりはまりこんだ。
そのとたん、ソレの身体が爆縮する。カギヅメが引っ込み、脚が縮んで、鱗が滑らかな皮膚へと変化し…。
ソレは…否、リュックはヒトの形を取り戻していた。きちんといつもの服も身につけて、意識もしっかりと持ってそして…右の二の腕にあの腕輪を身につけて。
「……あ。」
意志を取り戻したリュックの唇から、声が漏れた。信じられない、と言う思いのこもった声が。
自分が化け物になっていた事。
アーロンを殺してしまったかも知れない事。この腕輪のおかげで…“進化”の方向が定まった事。
それらを突然認識する。他にも色々な事を腕輪が教えてくれる。
…リュックは腕輪が身につけられた方の腕を見て、試しに“進化”を命じてみる。
腕輪は命令を忠実に実行した。右腕がたちまち硬質化し、巨大な三つ又のカギヅメへと姿を変える。
ひっと怯えた声を上げて、リュックは“退化”を腕輪に命じた。たちまち腕が元のカタチを取り戻す。
意識を失いそうになる自分を叱咤して、頬をぴしゃぴしゃ叩く。
この腕輪さえあれば何とかなる。そうだ。コレさえあれば助かるかも知れない!
リュックは、通常ではあり得ない速度で駆けだした。こんな雨の中でも前がハッキリ見える。
みんなと、合流しよう。早く、早く!
【導士 所持品:
天罰の杖
第一行動方針:化け物から逃げる(逃げ切ったら身を隠す)
基本行動方針:なるべく動かない。戦闘は避ける】
【現在位置:封魔壁の洞窟への橋の下→封魔壁監視所方面へ】
【リュック(魔獣化制御・身体能力上昇) 所持品:黄金の腕輪(進化の秘法)
第一行動方針:仲間と会う】
【現在位置:封魔壁に通じる橋】
※魔獣時の能力を行使可能・腕輪を失えば再び暴走の危険性有り
最終更新:2011年07月17日 19:31