(奴め…ここが年貢の納め時だったようだな、しかし出来ることなら我が手で討ち取りたかったが)
エビルプリーストの死を知った、
デスピサロは表情を変えることもなく、じっと前方の薄闇を凝視している。
そのままピサロは3人の話し声に耳を傾けつつ、
ジタンの様子を確認する。
ジタンは
リディアをかばうように自分の後方に位置を変えている、それは戦うためではなく、
退くための準備だ、それを見てデスピサロは目を細める。
(まずは合格だな)
やはり”守るべき物”を与えたのは正解だったようだ。
そのまま沈黙が続くが、それに耐えられなかったのかジタンが背後から声をかける。
「なぁ、あんたもしかすると人間じゃないだろ?」
「だったらどうする?」
答える口調は明らかに不快感がにじみ出ていた、が、ジタンはそれには気がつかず続ける。
「いや別に、俺の住んでる世界では鼠人間や鳥人間も普通に暮らしてたからね、珍しくも無いよ」
「そうか…」
この返答に関してのデスピサロの口調には、ややうらやましげな響きがあったのは気のせいだろうか?
「なぁ…改めて聞くけど、なんで協力する気になったんだ?」
「単純に
可能性の高い方に賭けた、それだけだ、それに舟に乗るなら早いほうがいい」
「舟?どういう例えだよ」
「残酷なようだが箱舟の定員は決まっている、それも早いもの勝ちだ、全員というわけにはいくまい」
デスピサロの残酷な宣告に少したじろいだジタンだったが、
考えて見ればいくらなんでもそれほど上手く事が運ぶわけが無いし、さすがにこの辺については妥協せざるを得ない。
(自分の中の優先順位をしっかりと把握しろ、情に流されるな…でなければ本当に大切なものを
失う事になる…さっきアンタはそう言いたかったんだな)
自分の腕の中で未だに気を失ったままのリディアをジタンは見つめる。
デスピサロの言う考えに照らし合わせるなら、自分は間違った選択をしてしまったのかもしれない。
だがそれでも、最終的に自分に折れるような形でデスピサロは彼女を救ってくれた。
彼の真意は見えないが、おそらく他に考えがあるのだろう、善意だけとは思えない、
しかし少なくともこれは男同士の誓いなのだからだから、今はこの子を精一杯守りぬくことにしよう。
「それに戦うにしても、私1人で全員を相手にはできん」
「へぇ、あんたでも勝てない相手はいるのか」
からかうような口調のジタンに苦笑しつつデスピサロは続ける。
「評価してくれるのはうれしいが、世界の広さをいまさらながら痛感した…
それに私を殺したくって、うずうずしている奴も心当たりがあるしな」
そこで一端言葉を切って、デスピサロは薄暗くなってきた空を見上げる。
(ソロよ、お前はいま何をしている…私を討ちたいなら早く来い…むざむざ討たれるつもりはないが
お前ならば仕方が無い、私もまた、お前の全てを奪ったのだから)
「だから助かる可能性の高い方に賭けた、しかし賭けに破れれば戦うしかあるまい…私は間違っているか?」
「それは…」
「まして私には戻らねばならぬワケがある…」
愛しい妻、そしておそらく帰りを待ちわびているだろう家臣たち、瞳を閉じるとそれらの姿が瞼の裏に、
浮かんでは消える。
「安心しろ、儀式とやらがどう転ぶか、それまでは仲間でいてやるし、もし戦うにしても、
出来るだけ後回しにしてやる、感謝しろ」
「感謝ぁ!?期待しているような言いぐさじゃないだろ」
と、そこでデスピサロは手を広げてジタンを制する。
「静かにしろ」
前方の3人が、なにやらもめ始めているようだ。
その3人、
ライアンたちが何でもめているかといえば。
「どうしてもワシには信じられないでござる」
道中、これまでのお互いの経緯を話していた3人であったが、ソロの暴挙を
ティーダから聞いた、
ライアンは悲痛な表情で考え込んでいた。
ホイミンの死も彼にとっては衝撃だったが、ソロの愚挙はさらに彼を打ちのめしていた。
最初は何かの間違い、あるいは自分たちの仲を引き裂こうとする何者かの謀略だと思ったが、
ティーダの話を細部にわたって聞けば聞くほど、ソロ本人である可能性は疑い様も無くなっていた。
やがてライアンは、伏せ目がちにやや顔を傾け、小声で2人へと告げる。
「すまんが、他に用事が出来たでござる、どうしてもソロ殿に会い、真実を突きとめねばならぬ」
「そのデスピサロって奴に騙されているとか、操られているとかってことは無いの?」
マリベルの質問にライアンは即座に首を振る。
「デスピサ…いやピサロ殿は確かに我らとは敵同士ではござったが、正面から戦いを挑む事はあっても
他人を弄るような真似は決してしないはずでござる」
その言葉を聞いて、ティーダが手に持ったリストの写真を見る。
そこには整った顔立ちの男が掲載されている、玉座の間と工場で出会った男だ。
考えて見れば仕掛けたのはやはり自分たちの方だったし、2度目は彼の方から逃げたのだ。
これでは乗ったのは、どちらなのか分からない。
ライアンはデスピサロがパーティーに加わったとき、殺されたから殺す、殺したから殺される。
そんな愚かしい魔族との間の憎悪の連鎖を、断ち切るいい機会だという思いがあった。
だからこそ、いわば呉越同舟のパーティ内で、
トルネコらと共に
彼はデスピサロを擁護する立場を取ったのだ。
アリーナやマーニャ、ブライらのように敵意を露にするものの説得は困難を極めた。
特にブライの教育の賜物か、アリーナの魔族嫌いは相当なもので、その説得にはかなりの苦労を要した。
ブライの説得を担当したクリフトは破門寸前まで追い詰められたらしいが…
(いい魔族は滅んだ魔族だけ…ブライの口癖でござったな)
彼らの奔走が無ければピサロは決して受け入れられることは無かっただろう。
そんな動きを静観していたソロも内面は面白くはなかったに違いない、
いや潜在的な恨みは仲間たちの中では1番強いはず、立場を考えて黙って受け入れただけに過ぎない。
何かの拍子にそれら蓄積されていた憎悪が爆発し暴走した可能性も考えられる。
勇者といってもまだ十代半ばの少年なのである。
ならば何としてもソロに会わねばならない、それは自分の役目だ。
感情に流されがちなアリーナには荷が重すぎるように思えたし、
それに何より若者を導くのは、自分たち大人の役目であるはずだ。
「すまぬ…1度仲間になることを約束しておきながら、道を違えることになってしまい」
「そういう事情なら仕方ないわよ、でも銀髪の男を見かけたら絶対に戦っちゃ駄目よ、すぐに逃げて」
「そして、もし他の人に出会ったらこのことを伝えて欲しいッス」
「まだあるわ、それから…」
マリベルはリストの余白を破くとそこにメモの内容を書き写し、ライアンに手渡す。
「
セフィロスのことを教えるついでに、これも見せてほしいの、脱出の手がかりになるかもしれないから」
「心得たでござる…それから」
と、そこでライアンは2人の前に跪くと、両手をついて頭を下げる。
「いかに詫びても詫び様が無い事は承知でござる…だが恥を忍んでお願いもうす
どうかワシに免じてソロ殿を許して頂けぬものか、この通りでござる」
「許すも許さないも私は当事者じゃないし」
マリベルはライアンの行為にかなり戸惑っているようだったが、無言でティーダを促す。
ティーダはかなり複雑な表情をしていたが、やがて無言でライアンの肩にそっと手をやった。
その行為でライアンの表情が緩む、彼は立ちあがりもう1度だけ頭を下げると
そのまま振り返らずに彼らとは反対の方向へと向かっていった。
そして残されたティーダとマリベルだったが、ライアンの姿が見えなくなった頃
だしぬけにティーダが大声で叫ぶ。
「ああっ!大事なことを忘れていたッス」
「何よ、どうかしたの?」
「缶きりもらうの忘れた」
その瞬間ティーダがマリベルに蹴りを入れられたのは言うまでも無い。
流石に声が聞こえるだけで、何を話していたのかは分かるはずもないが、ともかく3人は
2人と1人に別れてその場を去っていく、
その様子をじっと見ていたデスピサロだが、こちらに向かってくる1人を見ながら
何かを考えているようだ。
(ライアンよ…そちらに行ってはいかん、引き返せ)
このままでは彼は東へと進路を取ってしまう。
湖畔にて、東におぼろげながら見えた姿、あれはまぎれもなくあの銀髪の剣士ではなかったか?
幽霊の正体みたり何とやら、という言葉で済ませることができればいいのだが。
ライアンといえど、あの男相手では勝ち目は無いだろう。
ここでライアンに声をかけるのは簡単だ、しかしその結果、余計な何かを知ってしまう可能性もある。
もうこれ以上厄介事を背負うつもりはない。
だが、ライアンには借りがある。
未だに人間に対しての嫌悪感は消えたわけではないが、悪意に囚われてそれ以外の物が
見えなくなるほど、デスピサロは視野が狭いわけではない。
ソロたちのパーティに身を投じて以来、ライアンが自分のために色々と便宜を裏で計ってくれて
いたことは彼も知っていた。
(どうする……)
【デスピサロ 所持品:
正義のそろばん 『光の玉』について書かれた本
第一行動方針:腕輪を探す
第二行動方針:偵察
最終行動方針:勝利者となる】
【ジタン 所持品:
仕込み杖、
グロック17、ギザールの笛、
グレネード複数
試験問題・解答用紙複数(模範解答も含む)、時計
第一行動方針:リディアを救う
第二行動方針:魔法使いを探す
第三行動方針:
エーコを探す
最終行動方針:ゲームから脱出】
【リディア(気絶中) 所持品:なし
第一行動方針:?
第二行動方針:エーコ、
バッツたちと合流
第三行動方針:仲間(
セシル?)を捜す】
【現在位置:祠の南西・山岳地帯と雪原の境目あたり】
【ライアン 所持品:
大地のハンマー エドガーのメモ(写し)
第一行動方針:ソロを探す
基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】
【マリベル 所持品:エドガーのメモ
第一行動方針:仲間を集める
第二行動方針:打倒セフィロス
最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】
【ティーダ 所持品:いかづちの杖
参加者リスト
第一行動方針:仲間を集める
第二行動方針:打倒セフィロス
最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、
ゾーマを倒す】
【現在位置:祠の南西・山岳地帯と雪原の境目あたり】
最終更新:2011年07月17日 19:18