魔物たちは侵入者たちがいる扉を躊躇無く開けた。
中にいるのはヒヨワな人間どもで、生意気にもゲームから逃げ出してきたムシケラどもだ。
自分たちの欲を満たすための獲物であり、自分たちの退屈を紛らわす玩具である。
そう思い込んでいた魔物たちは、警戒など微塵にもしなかった。
それ故に、手痛いしっぺ返しを受けることになる。
溶接された扉をサタンパピーが派手に蹴破った瞬間、その顔面に白刃が突き刺さった。
あっと叫ぶ間も無く、その隣にいた一体もハンマーで叩き潰される。
「あ…ああ!」
魔物たちが、部屋の中にいるのがただの人間ではないという事に気付いたのは、
既に大爆発の炎に飲まれたあとだった。
デスピサロ、
サマンサ、
バーバラのトリプルイオナズンが部屋の外にいる魔物を残らず飲み込む。
「この感じ、擬似魔法ではなく本物の魔法のようですね」
「それなら、禁止魔法とかも普通に使えるってことかな?」
禁止魔法の中には蘇生魔法も含まれている。だから安心というわけでもないが、バーバラの表情に少し明るさが戻った。
しかし、デスピサロはそれを否定する。
「安心するのはまだ早い。
ゾーマが直接魔法を封じる
可能性もある。広大なフィールドでは無理でも、城内なら出来る可能性がある」
「そう言えば、屋外なのにルーラとか聞かない場所とかあるよね」
バーバラは肩を落とした。結局はゾーマを討たない限り、何も解決しない。
そして、ゾーマを倒すにはこんな所で足止めを受けるわけには行かないのだ。
気を取り直し、魔法を唱える。今は、戦う事を考えるべきだから。
「大したものだな」
エドガーは前で戦う二人を見てぽつりと呟いた。
エドガーとて、剣術にはちょっとした腕を持ち合わせている。
しかし、
アルスや
ライアンのそれに比べれば及ばないと素直に感じる。
戦いを本職にしているものの凄みというか。昨日はボウヤ扱いしていた少年と今の姿は、どうも一致しない。
「…と、遊んでいる場合じゃないな」
脇からアルスを狙おうとしていた魔物に
ボウガンを撃つ。大した被害は与えられないが、一瞬だけ魔物は怯み、その瞬間アルスの剣が魔物を両断する。
「勇者、か。伊達じゃないね」
ずしゃ、と。ライアンのハンマーが最後のバルログを叩き潰し、第一陣は全滅した。
アルスとライアンはやや息を荒げながら、武器を収める。
二人に
ティナが駆け寄った。
「アルス君、ライアンさん、二人とも大丈夫?」
「僕は大丈夫。上手く不意をつけたし、援護もあったから」
「しかし、すぐに新手が来るでござるよ。次は油断してくれないでござる」
「………」
三人は黙った。今回は良かったが、消耗戦になれば時間が経つほどこちらが不利だ。
回復の暇も貰えないなら直にでもゾーマを倒さないといけない。
しかし、自分たちでゾーマを倒せるものか……
「場所を移動するぞ」
デスピサロたちがやってくる。
その考えはもっともだ。しかし、
「どこへ?ゾーマは僕たちを休ませるつもりは無いようだけど」
逃げ回れば逃げ回るほど、勝ち目は薄くなる。だから……どうするべきなのか。
重要な選択になる。それはデスピサロにもわかっていたから、即答は出来ない。
「考えるのは後だ。逃げて、逃げながら考える。そうするしかあるまい?」
その時、ライアンが言った。
「考えてみたが、やはりこのままではもたないでござる」
「そんな事は……」
わかっている、とデスピサロが言う前に、ライアンは続きを言った。
「我々以外の
参加者たちを引き込むというのはどうで
ござるか?こんな状況なれば、事情を話せばきっと協力してもらえるでござるよ」
「………」
全員が沈黙した。暫くして、サマンサは嘆息する。
「……ふぅ。そんな事が出来ればやっています。かの場所はゾーマの魔力で構成された
仮想空間ですよ? 干渉する手立てはありません」
「しかし、その仮想空間を抜けてここに来たのでござろう? ならばその逆をするまででござる」
「だから、どうやって――――!」
「まあ、落ち着け。確かに、行く方法もあるのは間違いない。しかしゾーマの力で移動を行っているのなら、結局はゾーマを倒さない限り、無理な話だ」
「いや、しかし、全てをゾーマ一人がやっているわけじゃないだろう?」
脇から口を挟んだのはエドガーだった。
「例えば、定時放送はゾーマの配下らしき奴が代わりにやっていた。つまり、少なくともゾーマ本人でなくとも、何らかの方法で放送を流すことはできるはずだ」
なるほど、と
デッシュは頷く。
「なら、その方法を探そう。俺は戦いはできないが、その手のシステムは自信あるぜ」
「連絡が取れるならあたしも賛成かな。まだ、仲間が残ってるし」
バーバラも賛成する。ただ逃げ回るよりも、とアルスとティナも賛成した。
そして、デスピサロも。
「可能性は低いが……この期に及んで選り好みはしていられんな。試せることは全てやる。サマンサ、それでいいな?」
「……御意」
一方、そんな一堂を脇から眺める視線が一つ。
「さてさて、どうなることやら」
ゼニスはどこまでも他人事のように呟いた。
【ゼニス 所持品:
アンブレラ 羽帽子?
基本行動方針:最後まで物見遊山?】
【現在位置:ゾーマの城】
最終更新:2011年07月17日 01:30