ちょうど、ミッドガルに
エドガーの放送が流れた頃――――
バラモスゾンビは、
ゾーマ城の廊下をゆっくり進んでいた。
気持ちは昂ぶっている、すぐにでも早く殺したい……そんな気持ちを押さえつけて。
一歩一歩、踏みしめるように歩を進める。
廊下のあちらこちらに散らばるのは配下の魔物たち。
そのいずれもが、斬られ、潰され、燃やされ、突かれ、砕かれ、焦げて絶命している。
廊下の壁を彩る多彩な色は、そんな魔物たちの体液が流出したものだ。
全て、これから向かう先にいる者によって成されたものである。
この殺戮は、一人の人間と、それが率いる存在によって成されたものである。
いや、人間と言うのは正確ではないだろう。その言い様はあまりにも『無礼』だ。
人間というのはしょうもない存在だ。その価値は虫ケラにも劣る。
あまりに微弱でありながら、知恵という度し難いものを有し、何より器用である。
力有るものが力無き者を食い物にする。それは良い。
だが人間の器用さはあまりにも中途半端だ。明確に誰が優れていると一概に言えない。
他のどんなものより優れた事が出来ながら、死ぬ時は呆気なく死ぬ。
それ故に人間は弱い。にも関らず時にその器用さで強者を倒すことがある。
原初の理から外れ、弱者の責務を果たさぬ人間は世界の無駄、そのものだ。
それ故に、人間が魔王に勝つことはない。魔王の絶対の前には平伏すしかない。
戦士であろうと僧侶であろうと魔法使いであろうと賢者であろうと国王であろうと。
だが、そんな人間の内に魔王に対抗できる存在が現われる。
戦いの恐怖にも、危険の香りのも、死の誘惑にも、安らぎの堕落にも、
けして怯まず顧みず、勇ましく困難に向かうものが現われる。
救世主。英雄。決戦存在。魔人。
……そして勇者、と呼ばれる、人をやめた者が。
廊下を曲がる。その先の向こうに……一つの影があった。
まだ少年である。一見、人間の街ならば、どこにでもいそうな容姿である。
しかし、それが秘めた眼光は桁外れの殺気を放っている。
近付くに連れ、少年の手に変わった意匠の剣が握られているのがわかった。
取り巻きは三人。面子こそ違うが、人数は以前相対した時と同じである。
そう――――あの時と同じ。
バラモスゾンビは咽喉を鳴らした。
まだ呪文も届かぬ間合いだ。もう少し近付かねば話も出来ない。
もっともバラモスゾンビは魔法を詠唱する口を失っている。近付かなくては話にならない。
しかし近付けば……あの時の雪辱を晴らす事ができる。
それは快感だった。だから、笑ったのだ。
「壮健そうで何よりだ勇者。だが、お前の旅はこれまでになる」
「………」
少年は答えない。目の前にいるのはただの敵、それだけだ。話す必要などない。
それはこちらも同じだった。座興にもならぬ事なら、手短に済ませよう。
「では、さらばだ!」
最終更新:2011年07月18日 08:30